畳
畳(たたみ)は、日本で利用されている伝統的な床材。芯材になる板状の畳床(たたみどこ)の表面を、イグサを編み込んで出来た敷物状の畳表(たたみおもて)でくるんで作る。縁には畳表を止める為と装飾を兼ねて、畳縁(たたみべり)と呼ばれる帯状の布を縫い付けるが、一部には縁の無い畳もある。
畳には縦横比が2:1になっている長方形の一畳サイズと、これを横半分にした正方形の半畳サイズの2種類がある(以下の記述は特に断らない限り一畳サイズに関するもの)。大きさは3尺×6尺(910mm×1820mm、1.6562 m2)のものが基本となるが、部屋の寸法に合わせて注文生産される場合が一般的なのでサイズは一定していない。一般的な規格としては、京間(本間)、中京間(三六間)、江戸間(関東間、田舎間、五八間)、団地間(公団サイズ、五六間)の4種類が有名である。この他にも地域ごとに様々な規格が存在する。
歴史
畳は、世界に類がない日本固有の文化である。畳の原点は古代から存在する。古代の畳は、莚(むしろ)・茣蓙(ござ)・菰(こも)などの薄い敷物の総称であり、使用しないときは畳んで部屋の隅に置いたことから、動詞である「タタム」が名詞化して「タタミ」になったのが畳の語源とされる。
現代の畳に近づくのは平安時代に入ってからであり、厚みが加わるとともに部屋に据え置いて使うようになり、大きさの規格化が進められている。延喜式では、階級により大きさや縁の色が定められている。
平安時代までは板床に敷くクッションの一種のような感覚で使われていたが、室町時代に入ると、書院造の登場によって部屋全体に畳を敷く様式があらわれ、移動されることがなくなった畳はより分厚く重くなり、茶道の拡大に伴い、正座と共に普及していった。
江戸時代に入ると、畳そのものが重要な建築物の要素として見なされるようになり、城や屋敷の改修工事を司る役職として畳奉行が任命される例も見られた。
最近は生活の洋風化に伴い畳を敷き詰めるのではなく、平安時代のように薄い畳をクッションとして1枚から数枚程度板間に置く、という形が復活しつつある。
構造
畳床
乾燥させた稲藁を強く圧縮して縫い止め、厚さ5cm程度(標準的には5.5cm)の板状に加工するのが最も伝統的な製法であり、藁床(わらとこ)と呼ばれる。稲作の副産物として生じる稲藁を有効に活用したもので、適度な弾力性、高い保温性、室内の調湿作用や空気浄化作用など高い機能をもつ。
しかし、近年では材料の入手が困難であること、製造が難しいこと、重くて取り扱いが面倒であること、ダニ等の害虫が繁殖しやすいこと、カビが生えやすいこと、などの理由から新素材が利用される場合が多い。木材のチップを圧縮成形したインシュレーションボードや発泡スチロールを単板あるいは積層させたもので、建材畳床(けんざいたたみどこ)、または化学床(かがくとこ)と呼ばれる。踏み心地や通気性では藁床に及ばないと言われているが、安価で軽く、階下への防音性能に優れる。
畳表
藺草または七島藺(しちとうい)の茎を乾燥させて織ったござで、様々な織り方がある。藺草を緯糸(よこいと)、麻糸か綿糸を経糸(たていと)にして織り上げるが、ほとんどは一目の中に経糸を2本ずつ織り込んだ諸目表(もろめおもて)と言われる織り方である。縁無し畳には、一目に経糸を1本ずつ織り込んだ目積表(めせきおもて)という織り方のものが利用される。
年月が経つと擦り切れるため、業界団体などは3年から5年に1度を目安に畳からはがしてひっくり返したり(裏返し)、新たな物に張り替える(表替え)ことを勧めている。
飲食店ではタバコの焼け焦げや食べこぼしなどで傷が付いたりシミが出来ることがある。それを見込んで、近年は深夜に表替えを行う畳屋がある。
畳表は畳床と異なり現在でも天然素材が一般的だが、合成繊維を織った畳表や合成樹脂の表面に畳の目を型押ししたシート状の畳表もある。
古く日焼けした畳表を新品のように色鮮やかに見せるため、畳用塗料あるいは畳ワックスが塗られる場合もある。これらは安価かつ入手が容易で、専門知識が不要で誰でも簡単に処理ができるため、賃貸住宅や公共施設等を中心に広く利用されている。
畳縁
一般的に畳床を畳表で包むとき、長手方向には畳表を巻き付けて裏側で畳床に縫い付ける(この側面部を框(かまち)という)が、横方向は畳床の幅に合わせて畳表を切り揃えてしまう。切り放しのままでは畳表が固定されないので、畳縁で切り口を隠すと同時に畳床に縫い付けて止める。
畳床を畳表で包むときに、縦方向だけでなく横方向にも巻きつけて、折り込むように裏側で縫い付けると縁無し畳となる。ただし、一般的な畳表(諸目表)を横方向に巻き付けようとしても緯糸のい草が鋭角的に折れ曲がってしまい上手くいかない。縁無し畳の場合には織り目が詰んでいる目積表(めせきおもて)が一般的に利用される。
畳縁は目立つので、色や柄で部屋の雰囲気が大きく変わる。 昔は、身分等によって利用できる畳縁に制限があった。
- 繧繝縁(うんげんべり・うげんべり)…天皇・三宮(皇后・皇太后・太皇太后)・上皇、神仏像
- 高麗縁(こうらいべり)…親王・摂関・大臣(大紋高麗縁)、公卿(小紋高麗縁)
寸法
日本家屋では畳の枚数で部屋の大きさが示されるように、畳の寸法が重要で、基準寸法(モデュール)となっている。この畳の寸法にはいろいろなものがあり、差が生じる原因は2つある。
ひとつは、基準となる1間の寸法が異なることである。太閤検地の時は1間は6尺3寸であったが、江戸時代になると6尺が中心となった。
もうひとつの違いは、「畳を基準とする(畳割り)か、それとも柱を基準とする(柱割り)か」である。当初は畳割りであったが、江戸時代になると柱割りが主体となった。畳割りの場合、どの部屋でも畳の寸法は同じになる。一方、柱割りの場合は、部屋の大きさ(畳の枚数)や、柱・敷居の寸法により、畳の寸法が微妙に異なることとなる。
- 昔間(しゃくま)、本間(ほんま)
- 1間が京間より若干大きい6尺5寸の畳割りで、畳のサイズは3尺2寸5分×6尺5寸(985mm×1970mm、1.940 45 m2)である。南河内地方旧家の畳の多くがこのサイズで、京間とは区別されていた。
- 京間(きょうま)、本間(ほんま)、関西間(かんさいま)
- 1間が6尺3寸の畳割りで、畳のサイズは3尺1寸5分×6尺3寸(955mm×1910mm、1.824 05 m2)である。主に近畿・中国・四国・九州と西日本の大部分で使用されている。
- 中京間(ちゅうきょうま)、三六間(さぶろくま)
- 1間が6尺の畳割りで、畳のサイズは3尺×6尺(910mm×1820mm、1.6562 m2)のサイズである。主に愛知・岐阜県の中京地方や福島・山形・岩手の東北地方の一部、および北陸地方の一部と沖縄、奄美大島で使用されている。
- 江戸間(えどま)、関東間(かんとうま)、田舎間(いなかま)、五八間(ごはちま)
- 1間が6尺の柱割りであり、八畳間の場合、畳のサイズはほぼ2尺9寸×5尺8寸(880mm×1760mm、1.5488m 2)のサイズである。関東、東北地方の一部、北海道と三重県伊勢地方の地域で使用されている。
- 団地間(だんちま)、公団サイズ(こうだん-)、五六間(ごろくま)
- 様々なサイズがあるが、2尺8寸×5尺6寸(850mm×1700mm、1.445 m2)のサイズが中心である。公団住宅、アパート、マンション等、共同住宅や高層住宅のほとんどで使用されている。
- その他
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- 六二間
- 3尺1寸×6尺2寸(940mm×1880mm、1.7672 m2)。九州地方の一部で利用されている。
- 六一間
- 3尺5分×6尺1寸(925mm×1850mm、1.711 25 m2)。山陰と近畿地方の一部で利用されている。
- メートル間
- 1間を2mとし、柱割りにすると、畳のサイズがほぼ京間並みになる。一部のプレハブメーカーが、「広めのサイズ」として採用している。
- さらに小さいサイズや、縦横比が2:1になっていない変形サイズも存在する。これらは、部屋の寸法に合わせて注文で作られたものである。
畳の寸法の実態
上記のように、畳のサイズにはいろいろなものがある。
畳のサイズに違いが出たのは、もともと一間(いっけん)という、年貢米を明確にするための検地における寸法の違いの影響が大きい。秀吉の時代(太閤検地)には、これが6尺3寸であったが、江戸時代には6尺として、事実上の増税となった。当時は、この一間の検地竿(間竿)を基準にして建物を造ったと考えられ、殆どの造作物がこの竿の長さを一つの単位とすることになる。これによって、畳もおおよその平均が出来、○○間といわれるサイズが多くなった。なお、江戸時代に6尺と短くされた背景には、面積あたりの米の収穫量が高まったことがあるとも言われている。
もうひとつの違いが、家を生産するシステムの違いで、畳の寸法を基準とする「畳割り」か、それとも柱真(柱の中心のこと)間の距離を基準とする「柱割り」か、である。一般的に、「柱割り」の方が、大工による作業の能率が高い。その理由は、「畳割り」による設計で大小さまざまな部屋を並べていくと、柱真の筋が合わなくなるという問題が生じるからである。したがって、「柱割り」の方が、より近代的な生産システムに対応したものだと考えられる。
なお、家は工場で生産されるものではなく、現場で一品生産されるため、実際には各部屋のサイズにはどうしても僅かの差が生じ、「正確な長方形」とは言えない場合も少なくない。このため、現実には畳の寸法は1枚ずつ微妙に異なり、畳の表替えを行った場合、「もとの位置に置かなければぴったりとは合わない」ことが普通である。
最近では、住宅の広告等で部屋の広さをあらわす目安として「リビング12.3帖」「寝室6.7帖」(畳ではない)といった表記を目にすることがよくある。これは畳を部屋の広さの基準にすることは厳密には無理があるため、単純に畳の枚数を表す畳ではなく帖を用いることによって誤解を防ぎ、業界ルールとして1帖を1.62平方メートルと定めて広告などに別記してある場合も多い。
不動産公正取引協議会連合会では、1.62平方メートル以上の広さを1畳とすることとしている。この1.62 m2は、各室の壁心面積を畳数で除した数値である[1][2]。
敷き方
- 祝儀敷き
- 現在の家屋等では通常、この敷きかたをする。4枚の畳の角が一か所に集まらないようにする。
- 長方形でも縦横の長さによってはこの敷き方は不可能。7:10の35畳敷が不可能な最小の例。
- 不祝儀敷き
- 葬儀など縁起の悪いときに、祝儀敷きに対応する作法として敷き換えを行った。よって、お寺や大広間のような広い空間に、最初から並べる敷き方とは意味が違う。
その他の畳
- ユニット畳(置き畳)
- フローリングの部屋などに敷いて用いられる正方形の畳。
- 柔道畳
- 柔道で用いられる専用の畳。現代ではイグサを用いず、畳の目を模した凹凸の表面があるポリマー製の一枚シートを畳表とするものが一般的。そのため柔道における激しい使用においても、通常の畳のようにささくれたりホコリが発生したりはしない。畳表と畳床を密着させた密着型と、密着させないカバー型がある。密着型では畳表のたるみやしわが発生せず、カバー型では傷んだ畳表を交換することができる。畳縁はない。
- ポリマー製の畳表が普及する以前は、イグサの代わりにシチトウを材料とする比較的丈夫な畳表(琉球表/七島畳表/青表)がしばしば用いられた。
- 神事の畳
- 神社では、畳を帖(じょう)または、畳(じょう)と称する。平安時代の延喜式では、長帖、短帖、菅帖、狭帖等を挙げ「席(むしろ)を表、薦を裏とし両縁に布帛を施す」とある。他にも龍髭帖、八重帖、厚帖、薄帖等がある。縁には二方縁と四方縁がある。また白、青、黄、紅、緑、紫、などの色もある。なおこの色は身分による区別も存在した。なお、現在の神事では御霊代用には二方縁などを使用し、祭場座席には白二方縁薄帖半帖などを用い、畳目を縦に縁を前後にする[3]。
参考文献
- ↑ 不動産の表示に関する公正競争規約施行規則 第5章 表示基準 第1節 物件の内容・取引条件等に係る表示基準 (物件の内容・取引条件等に係る表示基準)第10条 (面積)第16号 「住宅の居室等の広さを畳数で表示する場合においては、畳1枚当たりの広さは1.62平方メートル(各室の壁心面積を畳数で除した数値)以上の広さがあるという意味で用いること。」、不動産公正取引協議会連合会
- ↑ DK・LDKの広さ(畳数)の目安となる指導基準 (PDF) DK又はLDKの最低必要な広さの目安、 「なお、一畳当たりの広さは、1.62平方メートル(各室の壁心面積を畳数で除した数値)以上をいう(表示規約施行規則第11条第16号)。」、不動産公正取引協議会連合会、2011年(平成23年)11月11日
- ↑ 『神社有職故実』全129頁43頁昭和26年7月15日神社本庁発行