狭心症
狭心症(きょうしんしょう、angina pectoris)とは、虚血性心疾患の1つである。心臓の筋肉(心筋)に酸素を供給している冠動脈の異常(動脈硬化、攣縮など)による一過性の心筋の虚血のための胸痛・胸部圧迫感などの主症状である。なお、完全に冠動脈が閉塞、または著しい狭窄が起こり、心筋が壊死してしまった場合には心筋梗塞という。
Contents
分類
発症の誘因による分類
- 労作性狭心症 (angina of effort)
- 体を動かした時に症状が出る狭心症。階段を上がったり、急いで歩いた時などに自覚症状が出やすい。
- 安静時狭心症 (angina at rest)
- 安静時に症状が出る狭心症。運動やストレスなどに関わらずに起こる。
発症機序による分類
- 器質性狭心症(organic angina)
- 冠動脈の狭窄による虚血。
- 微小血管狭心症(microvascular angina)
- 心臓内の微小血管の狭窄及び攣縮による虚血。患者の男女比が大き中でも更年期の女性に多く見られる症状で女性の場合は閉経により血管拡張作用を持つエストロゲンが減少することにより引き起こされる[1]。1980年代になってようやく発見された。
- 冠攣縮性狭心症 (vasospastic angina)
- 冠動脈の攣縮 (spasm) が原因の虚血。
- 異型狭心症(ariant angina)
- 冠攣縮性狭心症のうち心電図でST波が上昇している場合。
臨床経過による分類[2]
- 安定狭心症(stable angina)
- 最近3週間の症状や発作が安定化している狭心症。
- 不安定狭心症 (unstable angina)
- 症状が最近3週間以内に発症した場合や発作が増悪している狭心症。薬の効き方が悪くなった場合も含まれる。心筋梗塞に移行しやすく注意が必要である。近年では急性冠症候群 (Acute coronary syndrome) という概念がこれに近い。
原因
一般的に狭心症は心臓の冠動脈にプラークというコレステロールなどによる固まりができ、血液の通り道を狭くすることによって起こるもの[3]。誘因としては高血圧、高脂血症、肥満、高尿酸血症、ストレス、性格などが考えられる。 冠攣縮型(異型)狭心症は、心臓の血管そのものが異常収縮をきたし、極度に狭くなってしまうために起こる。 微小血管狭心症は、心臓内の微小血管の狭窄及び攣縮によって起こるもの。誘因としては閉経、喫煙などが考えられる。
症状
狭心痛(締め付けられるような痛み、絞扼感や圧迫感)が主症状である。痛みは前胸部が最も多いが他の部位にも生じる事がある(心窩部から、頸部や左肩へ向かう放散痛など)。発作は大体15分以内には消失する。他に動悸・不整脈、呼吸困難、頭痛、嘔吐など。症状を放置した場合、心筋梗塞、心室細動などを引き起こす場合がある。
検査
- 一般的には発作時にST部の、上に向かい凸状の上昇または下降が見られる。典型的な場合、貫壁性虚血ではST部の上昇が、非貫壁性ではST部の下降が見られる[4]が、対側性変化(ミラーイメージ)やSTに変化がみられないこともある。
- ホルター心電図
- 小型の心電図記録装置を24時間携帯し、検査を行う
- 運動負荷心電図
- 労作性狭心症では運動負荷で心電図に変化がみられる。
- 心筋血流シンチグラフィ
- 人工的に作られた放射性同位体(RI)を使用する。血流があるところでは信号が検出され、虚血部では信号が欠損する。冠動脈狭窄があっても、血流が維持されているかどうかが判定できる。使用されるのは、201Tlや99mTcである。特定の施設でしか施行できない。
- 冠動脈造影 (coronary angiography:CAG)
- 冠動脈造影CT
- 造影剤により冠動脈の形態を描出できる。64列マルチスライスCTによる冠動脈病変の描出は、感度 88%、特異度 96%、陽性的中率 79%、陰性的中率 98% との報告がある[5]。特異度が高く、スクリーニングにおける除外診断に有用と考えられている[6]。非定型的な狭心症疑いの患者を対象にしたランダム化対照試験を行い、最初に冠動脈CT検査を行うと、カテーテル冠動脈造影の施行が減る上、入院期間も短縮できると報告されている[7]。
- 血液検査
- ペントラキシン(PTX3)
- 炎症性蛋白であるが血管内皮で産生されており、血栓症と強い相関がある。心筋梗塞へ移行しつつある不安定狭心症の診断に有用と考えられている。
など
治療
- 共通してアスピリンなどの抗血小板剤の投与が検討される。高血圧や喫煙などの危険因子のコントロールも重要である。
- 血管拡張薬である、カルシウム拮抗薬・硝酸薬などが投与される。
- 心負荷を軽減させるβブロッカーも用いられる。
予防
どの狭心症にも生活習慣の改善として、禁煙、バランスの良い食事をとること、ストレスを解消すること、適度な運動をすること、ぬるめの風呂に浸かることなどが挙げられる[8]。
労作性狭心症
異型狭心症
異型狭心症(variant angina), 冠攣縮性狭心症(vasospastic angina; VSA)とも言う[9]。また、夜間や早朝、朝方などの安静時に発作が起こることが多いため、安静狭心症(angina inversa)とも呼ばれる。日本人は欧米人に比べて多いとされている[10]。原因となる誘発因子として、心身の疲労・ストレス、喫煙、怒責、寒冷な環境、過換気、女性ホルモン欠乏(更年期など)、アルコールなどが挙げられる。 副交感神経優位となったときに、冠動脈が攣縮・狭窄するために発生しやすく、副交感神経が優位となる早朝(4時~6時)にとりわけ発作が多い。
- 検査
- 薬物療法
- 器質的狭窄病変が見られないことが多く、原則として薬物治療となる。
- 硝酸薬:発作時頓服薬としてしばしば処方される。また、持続製剤や貼付製剤は発作予防に使用される。
- カルシウム拮抗剤(calcium channel blocker):ヘルベッサーRカプセルやアダラートCR、コニールなどのカルシウム拮抗薬が処方される。同じカルシウム拮抗薬のアムロジピンは血中半減期が長い反面、有効血中濃度到達まで1週間程度要し注意が必要である。
- スタチン(Statin):本来、高コレステロール血症の治療薬であるが、継続投与(半年程度)することで冠スパズム予防に有効との報告がある。カルシウム拮抗薬との併用されることがある。[12]。
- 歴史
微小血管狭心症
(びしょうけっかんきょうしんしょう microvascular angina)
- 薬物療法
- カルシウム拮抗剤(calcium channel blocker)などで行う。
脚注
- ↑ 天野恵子. “3.なぜ、更年期の女性に起きやすいのか?”. Yakult Co.,Ltd.. . 2016-1-15閲覧.
- ↑ (AHA分類、1975年)
- ↑ http://cmedicalcenter.net/survey/%E7%8B%AD%E5%BF%83%E7%97%87/
- ↑ 小菅雅美, 心筋虚血によるST,T波の変化とその特徴, レジデント, 2014;7(3)40
- ↑ Hamon, Michele, et al. (2007). “Coronary Arteries: Diagnostic Performance of 16-versus 64-Section Spiral CT Compared with Invasive Coronary Angiography—Meta-Analysis 1”. Radiology 245 (3): 720-731. doi:10.1148/radiol.2453061899.
- ↑ 山科章ら (2009). “循環器病の診断と治療に関するガイドライン (2007-2008 年度合同研究班報告) 冠動脈病変の非侵襲的診断法に関するガイドライン” (PDF). Circ J 73 (Suppl III): 1040-1043 . 2016-1-15閲覧..
- ↑ Dewey M, et al. Evaluation of computed tomography in patients with atypical angina or chest pain clinically referred for invasive coronary angiography: randomised controlled trial. BMJ 2016;355:i5441
- ↑ http://cmedicalcenter.net/survey/%E7%8B%AD%E5%BF%83%E7%97%87/
- ↑ 小川久雄ら (2008). “冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン” (PDF). Circulation journal: official journal of the Japanese Circulation Society 72: 1195-1252 . 2016-1-15閲覧..
- ↑ Pristipino, Christian, et al. (2000). “Major racial differences in coronary constrictor response between Japanese and Caucasians with recent myocardial infarction”. Circulation 101 (10): 1102-1108. doi:10.1161/01.CIR.101.10.1102.
- ↑ http://plaza.umin.ac.jp/~utok-card/consultation/diseases/variant-angina
- ↑ 泰江弘文, 山科章「Meet the History 冠攣縮性狭心症の診断と治療 (PDF) 」 、『心臓』第37巻第11号、2005年、 955-966頁、. 2016-1-15閲覧.
- ↑ Wada T. Basic and Advanced Visual Cardiology: Illustrated case report multi-media approach. Lea&Febiger, Philadelphia and London, 1991, p436.
- ↑ Prinzmetal M, et al. Angina pectoris. I. A variant form of angina pectoris. Am J Med 27:375-388, 1959
参考文献
- 冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン[1]