特異値

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行列 A特異値(とくいち、: Singular values)とは、A随伴行列 A* との積 AA*固有値の非負の平方根のことである[1]

定義

以下、

  • 行列 A随伴行列A*
  • 行列 A の固有値を λi(A)
  • 行列 A の特異値を σi(A)

と表記する。

冒頭部の定義を数学記号で書くと次のようになる。

[math] \sigma_i(A) = \sqrt{\lambda_i(AA^*)} \quad ( A \in M_{m,n}(\mathbb{R} ~~ \mathrm{or} ~~ \mathbb{C}) )[/math]

特異値は m × n の行列に対して定義される(固有値は n × n の正方行列でのみ定義される)。

行列 AA* の性質

[math]x^*AA^*x \ge 0.[/math]
  • 行列 A*An × n のエルミート行列(あるいは対称行列)であり、かつ半正定値行列である。つまり、任意の n 次元の零でないベクトル y について以下の条件を満たす。
[math]y^*A^*Ay \ge 0.[/math]

よって、

  • すべての固有値 λ(AA*) および λ(A*A) は非負の実数 λ ≥ 0 となる。
  • 半正定値平方根行列がただひとつだけ存在する。

特異値の性質

注意事項: 行列式トレースなどは正方行列に対して定義されるので m × n の行列 A に直接適用してはならない。

  • 特異値 σ(A) はすべて非負の実数 σ(A) ≥ 0
  • [math]\sigma_i(A) = \sigma_i(A^*)[/math][2]
  • [math]\sigma_i(A) = \sqrt{\lambda_i(AA^*)} = \sqrt{\lambda_i(A^*A)} [/math]
  • [math]\left( \sqrt{AA^*} \right)^2 x = AA^* x = \lambda_i(AA^*) x = \sigma_i^2(A) x [/math]
  • [math]\sigma_i(A) = \lambda_i(\sqrt{AA^*}) = \lambda_i(\sqrt{A^*A}) [/math]
  • [math] \det(AA^*) = \prod_i \lambda_i (AA^*) = \prod_{i=1}^{\min(m,n)} \sigma_{i}^2(A)[/math]
  • [math] \operatorname{tr}(AA^*) = \sum_{i} \lambda_i (AA^*) = \sum_{i=1}^{\min(m,n)} \sigma_i^2 (A) [/math] [3]
  • 行列 Am = n正方行列の場合には以下が成り立つ。
    • [math] |\det(A)| = \prod_i \sigma_{i}(A)[/math] [4]
    • ワイルの不等式
[math] \prod_{i=1}^k | \lambda(A) | \le \prod_{i=1}^k \sigma(A) \quad (1 \le k \le m = n)[/math]
  • 行列 Am = n正規行列の場合には以下が成り立つ。
    • 特異値は固有値の絶対値に等しい。 [math]\sigma_i(A) = |\lambda_i(A)|[/math]
  • 行列 Am = n の半正定値対称行列(エルミート行列)の場合には以下が成り立つ。
    • 特異値は固有値に等しい。 [math]\sigma_i(A) = \lambda_i(A)[/math]

脚注

  1. Grégoire Allaire, Sidi Mahmoud Kaber 2007, pp. 33-34.
  2. 特異値分解で M = UΣV*, M* = (UΣV*)* = *U*。特異値を対角成分に持つ Σ対角行列だから Σ = Σ*
  3. 行列ノルム#フロベニウスのノルム参照
  4. (証明) [math]\scriptstyle \det(AA^*) = \det(A) \overline{\det(A)} = |\det(A)|^2 = \prod_i \sigma_{i}^2(A)[/math].

参考文献

関連項目