無線従事者
無線従事者(むせんじゅうじしゃ)とは、電波法に定める無線設備の操作又はその監督を行う者であって、総務大臣の免許を受けたものをいう。業務独占資格[1][2]であり、総務省令で定める簡易な操作[3]以外の操作を要する無線局に対する必置資格としての性格も有する[4]。
Contents
定義
電波法第2条では、次のとおり定義されている。
- 「無線設備」とは、無線電信、無線電話その他電波を送り、又は受けるための電気的設備をいう[5]。
- 「無線局」とは、無線設備及び無線設備の操作を行う者の総体をいう。但し、受信のみを目的とするものを含まない[6]。
- 「無線従事者」とは、無線設備の操作又はその監督を行う者であつて、総務大臣の免許を受けたものをいう[7]。
ここでいう「無線局」は、電波法第4条ただし書にあるものを除き、総務大臣の免許を受けなければならない。また、無線局の無線設備の操作を行う者は、電波法第40条に定める無線従事者の免許を受けた者(あるいは主任無線従事者の監督下にある者)でなければならない[1][8]。
無線従事者は、電波法第40条の区分に従い、政令電波法施行令第3条に操作範囲が定められ、その技能の程度は無線従事者規則に規定されている。 これは、電波法の目的が「電波の公平且つ能率的な利用を確保することによって、公共の福祉を増進すること」[9]であり、これを達成するために、無線設備の操作又はその監督を行う者に、資格ごとにその最低限の技能・規範を証明し免許することとしているからである。
主任無線従事者
1990年(平成2年)より施行された制度であり、無線従事者免許証の資格を持たない者であっても、無線局に選任された主任無線従事者の指揮監督のもと、その主任無線従事者の免許の操作範囲内に限り無線設備の操作を行うことができる[1][10]。
主任無線従事者になるためには、一定の業務経歴を有すると共に、主任無線従事者講習を受講しなければならない。
この制度は、無線従事者の確保が難しい免許人であっても、無線局の運用を維持することが出来るよう、無線従事者でないものについても主任無線従事者の指揮監督下で無線局の運用ができるようにするための措置である。
ただし、モールス符号による無線電信操作・その他総務省令で定める無線設備の操作には適用されない[11]。また、アマチュア無線局の無線設備の操作に関しても、適用されない[12]。アマチュア無線におけるスクールコンタクトなどの特例は、電波法第39条の13に基づく電波法施行規則第34条の10[13]により許容されたものであり、主任無線従事者の制度によるものではない[14]。
種別
無線従事者は、1950年(昭和25年)6月の電波法制定時に定義されたもので、次の四種類に大別されていた。
この内、無線通信士は無線電信法下におけるそれを、無線技術士は同法下における電気通信技術者を継承したものである。また、アマチュア無線技士と特殊無線技士は、電波法において制定されたものである。 変遷を含め、詳細は各項目を参照。
1990年(平成2年)5月の改正電波法令の施行により、資格が海上、航空、陸上の利用分野別に再編 [15] され、次の八種類に大別された。
詳細は各項目を参照。
操作範囲
2001年(平成13年)12月21日[16]現在の電波法施行令第3条の操作範囲を掲げる。
※色区分は各級アマチュア無線技士資格に対応。
分野 | 資格 | 操作範囲 |
---|---|---|
総合 | 第一級総合無線通信士 | |
第二級総合無線通信士 |
| |
第三級総合無線通信士 | ||
海上 | 第一級海上無線通信士 | |
第二級海上無線通信士 |
| |
第三級海上無線通信士 |
| |
第四級海上無線通信士 | ||
第一級海上特殊無線技士 |
| |
第二級海上特殊無線技士 | ||
第三級海上特殊無線技士 | ||
レーダー級海上特殊無線技士 | 海岸局、船舶局及び船舶のための無線航行局のレーダーの外部の転換装置で電波の質に影響を及ぼさないものの技術操作 | |
航空 | 航空無線通信士 |
|
航空特殊無線技士 | 航空機[44]に施設する無線設備及び航空局[45]の無線設備で次に掲げるものの国内通信のための通信操作[27]並びにこれらの無線設備[38]の外部の転換装置で電波の質に影響を及ぼさないものの技術操作
| |
陸上 | 第一級陸上無線技術士 | |
第二級陸上無線技術士 |
| |
第一級陸上特殊無線技士 | ||
第二級陸上特殊無線技士 |
| |
第三級陸上特殊無線技士 | 陸上の無線局の無線設備[48]で次に掲げるものの外部の転換装置で電波の質に影響を及ぼさないものの技術操作
| |
国内電信級陸上特殊無線技士 | 陸上に開設する無線局[49]の無線電信の国内通信のための通信操作 | |
アマチュア | 第一級アマチュア無線技士 | アマチュア無線局の無線設備 |
第二級アマチュア無線技士 | アマチュア無線局の空中線電力200W以下の無線設備 | |
第三級アマチュア無線技士 | アマチュア無線局の空中線電力50W以下の無線設備で18MHz以上または8MHz以下の周波数の電波を使用するもの | |
第四級アマチュア無線技士 | アマチュア無線局の無線設備で次に掲げるもの[27]
|
操作範囲の変遷、種別ごとの需要などについては、各種別を参照。
取得
無線従事者の免許を受けようとする者は、電波法第41条第2項各号に基づき、総務大臣の免許を受けなければならない[50]。取得にあたり年齢・経歴・国籍などの制限は無い。 ただし、国家試験、養成課程・認定講習課程修了試験の設問は日本語のみである。
国家試験
全ての資格について日本無線協会により実施される。次に挙げる者は科目が免除される。
- 無線通信士、陸上無線技術士の科目合格者は、合格の翌月から原則として3年間、その科目を免除される[51]。
- 無線通信士の電気通信術の科目合格者は、合格の翌月から原則として3年間、同等またはそれ以下の能力の無線通信士の電気通信術の科目を免除される[52]。
- 総務大臣が告示する学校等の卒業者は、卒業の日から原則として3年間、無線工学の基礎、電気通信術及び英語の一部または全部を免除される[53]。
- 一定の無線従事者、またはその資格による一定の業務経歴を有する者は、一部の科目が免除される[54]。
- 電気通信主任技術者、工事担任者[55]は、一部の科目が免除される[56]。
最近[57]の国家試験問題及び合格速報[58]は日本無線協会の公式サイトで公開される。但し、統一日程で実施しない第三級・第四級アマチュア無線技士は除く。
養成課程
第三級・第四級海上無線通信士、航空無線通信士、海上・航空・陸上特殊無線技士、第二級・第三級・第四級アマチュア無線技士については、養成課程を修了することによって、無線従事者の免許を受けることが出来る[60]。
長期型養成課程
第三級・第四級海上無線通信士、航空無線通信士、海上・航空・陸上特殊無線技士については総務大臣認定の学校等が開設する教育課程を修了することによって、無線従事者の免許を受けることが出来る[61]。
学校卒業
次の学校[62]で、無線通信に関する所定の科目を履修して卒業すれば、無線従事者の免許を受けることが出来る[63]。
- 大学[64]
- 第一級陸上特殊無線技士、第二級海上特殊無線技士、第三級海上特殊無線技士
- 短期大学、高等専門学校
- 第二級陸上特殊無線技士、第二級海上特殊無線技士、第三級海上特殊無線技士
- 高等学校、中等教育学校
- 第三級陸上特殊無線技士、第二級海上特殊無線技士
認定講習課程
第一級・第二級総合無線通信士、海上無線通信士、陸上無線技術士は、所定の資格により業務経歴を有する者が認定講習課程を修了することにより与えられる[65]。
資格、業務経歴等
第一級総合無線通信士、第二級海上無線通信士、第二級陸上特殊無線技士は、所定の資格により業務経歴を有する者に与えられる[66]。
欠格事由
下記の者には、無線従事者の免許を与えないことがある[67]。
- 電波法に規定する罪を犯し罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者
- 無線従事者の免許を取り消され、取消しの日から2年を経過しない者
- 著しく心身に欠陥があつて無線従事者たるに適しない者
3.の事例として無線従事者規則第45条により精神病者、耳の聞こえない者、口の利けない者又は目の見えない者は、与えられないとしている。ただし、
耳の聞こえる者で口の利ける者 | 第一級・第二級・第三級・第四級アマチュア無線技士、第三級陸上特殊無線技士 |
目の見える者 | 第一級・第二級・第三級・第四級アマチュア無線技士 |
上に掲げる以外の者 | 第一級・第二級・第三級アマチュア無線技士 |
には、免許が与えられる。
無線従事者免許証
無線従事者の免許が与えられたときには、総務大臣または総合通信局長が免許証を交付する[69]。
詳細は無線従事者免許証を参照。
無線従事者原簿
総務大臣は、無線従事者原簿を備え付け、免許に関する事項を記載する[70]。
無線従事者原簿に記載される免許に関する事項は次のとおり[71]。
- 無線従事者の資格別
- 免許年月日及び免許証の番号
- 氏名及び生年月日
- 免許証を訂正され、又は再交付された者であるときは、その年月日
- 免許を取り消され若しくは業務に従事することを停止された者又は電波法上の罪を犯し刑に処せられた者であるときはその旨並びに理由及び年月日
- その他総務大臣が必要と認める事項
取得者数
年度 | 取得者数(人) |
---|---|
平成8年度末 | 4,975,415 |
平成9年度末 | 5,072,454 |
平成10年度末 | 5,152,653 |
平成11年度末 | 5,229,415 |
平成12年度末 | 5,294,559 |
平成13年度末 | 5,356,118 |
平成14年度末 | 5,418,082 |
平成15年度末 | 5,482,735 |
平成16年度末 | 5,543,428 |
平成17年度末 | 5,611,965 |
平成18年度末 | 5,692,945 |
平成19年度末 | 5,774,831 |
平成20年度末 | 5,849,881 |
平成21年度末 | 5,935,438 |
平成22年度末 | 6,023,125 |
平成23年度末 | 6,105,198 |
平成24年度末 | 6,189,131 |
平成25年度末 | 6,272,802 |
平成26年度末 | 6,356,463 |
平成27年度末 | 6,441,792 |
平成28年度末 | 6,525,305 |
資格・試験[72]による。 |
無線従事者の免許は一人で複数の種別が取得可能であり、取得者数は各種別を集計したのべ人数である。実数については公表されていない。
その他
下記の資格などに、何れかの無線従事者が任用の要件、受験・受講資格の取得、試験科目の免除、業務経歴による取得とされるものがある。年齢その他の制限があるものも含まれており、詳細は下記の各項目または各資格の無線従事者を参照のこと。
- 登録検査等事業者等の点検員または判定員
- 技術基準適合証明の登録証明機関の証明員
- 無線従事者国家試験一部免除認定校の教員
- 無線従事者養成課程の講師
- 無線従事者認定講習課程の講師
- 指定無線従事者国家試験機関の試験員
- 主任無線従事者
- 船舶局無線従事者証明
- 遭難通信責任者
- 登録周波数終了対策機関の給付金の交付決定者
- 指定較正機関の較正員
- 電気通信主任技術者
- 工事担任者
- 消防設備士
- 教育職員
- 社会保険労務士
- 職業訓練指導員
- 海技士
- 航空通信士
- 陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊の技術陸曹・海曹・空曹
- 予備自衛官補[73]
無線機器型式検定の申請
- 無線機器型式検定規則による申請において、受検機器[74]の所定の試験を所定の無線従事者が行えば受検機器および一部書類の提出が免除される。
脚注
- ↑ 1.0 1.1 1.2 電波法第39条
- ↑ 主任無線従事者を選任する場合やアマチュア無線における「スクールコンタクト」(アマチュア無線の操作に必要な無線従事者資格を有しない小中学生(義務教育就学年齢の者)でも一定の条件の下で、国際宇宙ステーションのアマチュア局と無線電話による通信を行えること)などの特例を利用する場合、無線従事者でなくても無線設備の操作が認められることがあるが、それらの場合でも無線従事者でない者の監督又は指揮の業務は無線従事者の独占である。
- ↑ 電波法施行規則第33条
- ↑ 免許人が主任無線従事者制度を利用する場合
- ↑ 第4号
- ↑ 第5号
- ↑ 第6号
- ↑ ただし、電波法施行規則(第33条)に定める簡易な操作を除く
- ↑ 法第1条
- ↑ 平成元年法律第67号による電波法改正
- ↑ 法第39条第2項
- ↑ 法第39条第1項及び第39条の13
- ↑ 「法第39条の13ただし書の総務省令で定める場合は、臨時に開設するアマチュア局の無線設備の操作をその操作ができる資格を有する無線従事者の指揮の下に行う場合であつて、総務大臣が別に告示する条件に適合するときとする」と規定されている
- ↑ アマチュア無線で小中学生に科学技術への興味を 総務省報道資料 平成14年3月14日の国立国会図書館アーカイブ(2007年8月8日収集))
- ↑ 無線従事者制度の改革 平成2年版通信白書 第1章平成元年通信の現況 第4節通信政策の動向 5電波利用の促進(4)(総務省情報通信統計データベース)
- ↑ 平成13年政令第422号による電波法施行令改正
- ↑ 上に規定するものを除く。
- ↑ 電気通信業務の通信のための通信操作を除く。
- ↑ 19.0 19.1 船舶地球局の無線設備を除く
- ↑ 漁船を除く。
- ↑ 放送局の無線設備を除く。
- ↑ 専ら水産動植物の採捕に従事する漁船以外の漁船で国際航海に従事する総トン数300トン以上のものを除く。以下同じ
- ↑ 無線電話及びレーダーを除く。
- ↑ 国際電気通信業務の通信のための通信操作及び多重無線設備の技術操作を除く。
- ↑ 国際通信のための通信操作及び多重無線設備の技術操作を除く。
- ↑ 船舶地球局及び航空局の無線設備並びにレーダーを除く。
- ↑ 27.0 27.1 27.2 27.3 27.4 27.5 27.6 27.7 モールス符号による通信操作を除く。
- ↑ 28.0 28.1 レーダーを除く。
- ↑ 漁業用の海岸局以外の海岸局のモールス符号による通信操作を除く。
- ↑ 航空局、航空地球局、航空機局、航空機地球局及び航空機のための無線航行局の無線設備の通信操作を除く。
- ↑ 国際通信のための通信操作を除く。
- ↑ 32.0 32.1 32.2 32.3 32.4 32.5 航空局の無線設備を除く。
- ↑ 33.0 33.1 33.2 上に掲げるものを除く。
- ↑ モールス符号による通信操作及び国際通信のための通信操作並びに多重無線設備の技術操作を除く。
- ↑ 船舶地球局及び航空局の無線設備並びにレーダーを除く。
- ↑ 船舶地球局及び航空局の無線設備を除く。
- ↑ 国際電気通信業務の通信のための通信操作を除く。
- ↑ 38.0 38.1 38.2 多重無線設備を除く。
- ↑ これに準ずる区域として総務大臣が告示で定めるものを含む。以下この表において同じ。
- ↑ 船舶地球局及び航空局の無線設備を除く。
- ↑ レーダー及び多重無線設備を除く。
- ↑ 船舶地球局及び航空局の無線電話であるものを除く。
- ↑ 多重無線設備であるものを除く。
- ↑ 航空運送事業の用に供する航空機を除く。
- ↑ 航空交通管制の用に供するものを除く。
- ↑ テレビジョン基幹放送局の無線設備を除く。
- ↑ 多重通信を行う事ができる無線設備でテレビジョンとして使用するものを含む。
- ↑ レーダー及び人工衛星局の中継により無線通信を行う無線局の多重無線設備を除く。
- ↑ 海岸局、海岸地球局、航空局及び航空地球局を除く。
- ↑ 同条第1項
- ↑ 無線従事者規則第6条第1項
- ↑ 同条第2項
- ↑ 同7条
- ↑ 同8条第1項・第2項
- ↑ AI第3種およびDD第3種を除く。
- ↑ 同条第3項
- ↑ 区分により過去二回又は三回
- ↑ 合格日から約二週間
- ↑ 平成23年度以降
- ↑ 無線従事者規則第20条
- ↑ 無線従事者規則第20条ただし書き
- ↑ 同等の教育水準であると認められた教育機関を含む。
- ↑ 無線従事者規則第30条
- ↑ 短期大学を除く
- ↑ 無線従事者規則第33条
- ↑ 無線従事者規則第33条第2項に基づく平成8年郵政省告示第150号
- ↑ 電波法第42条
- ↑ 沖縄総合通信事務所長を含む。以下同じ。
- ↑ 無線従事者規則第47条
- ↑ 電波法第43条
- ↑ 無線従事者規則第52条
- ↑ 資格・試験(総務省 総務省情報通信統計データベース)
- ↑ 技能公募
- ↑ 航空機用を除く。
関連項目
- 無線従事者免許証
- 無線従事者 (琉球政府)
- (職種としての)通信士
外部リンク
- 無線従事者 情報通信法令wiki(情報通信振興会)
- 無線従事者原簿 同上
- 日本無線協会 国家試験、無線通信士・特殊無線技士養成課程、主任無線従事者講習、認定講習、船舶局無線従事者証明の訓練の実施団体
- 日本アマチュア無線振興協会 アマチュア無線技士養成課程の実施団体
- 無線従事者制度 総務省電波利用ホームページ
- 無線従事者制度の概要 関東総合通信局
- 無線従事者国家試験過去問閲覧サイト kema's Web
- 無線従事者資格の歴史と操作範囲の謎 電気通信主任技術者総合情報(戦前からの変遷を詳述)