油揚げ
油揚げ(あぶらあげ、あぶらげ[1])は、薄切りにした豆腐を油で揚げた食品[2]。厚揚げ(生揚げ)とは異なり、薄切りをした豆腐を使用するので内部まで揚がっている。「あげ」(または女房詞が付いて「おあげ」とも)と略されることもある。別称は「稲荷揚げ」・「狐揚げ」・「寿司あげ」。厚揚げに対して「薄揚げ」と呼ぶ地域もある。
概要
薄い豆乳で作った硬い豆腐を薄く切り、水切りをしたあと110℃から120℃の低温の油で揚げ、さらに180℃から200℃の高温の油で二度揚げ(もしくは三度揚げ)して作る。揚げ油には菜種油がよく使われる。出汁などを吸い込みやすく、袋状なので他の食材を包み込めるなどの特徴があり、さまざまな料理に利用される。
地域ごとの油揚げの種類
油揚げの大きさ、形状、厚みは、豆腐と同様で地域によって差がある。
- 宮城県の定義山(じょうぎさん)の三角油揚げ(三角定義あぶらあげ)は、比較的厚い。
- 山形県鶴岡市(庄内地方)では、一般に油揚げといえば厚揚げを指し、油揚げのことは「薄揚げ」または「皮揚げ」という。
- 新潟県長岡市栃尾地域で作られる豆腐の油揚げは、地元では「あぶらげ」と呼ばれており、標準的なものよりも厚手で生揚げとほぼ変わらない厚みがある。また、料理の材料とするほか、あぶったものをそのまま軽食として食べることもある。
- 岐阜県飛騨地方では、醤油や味噌などのたれにつけた「味付けあげ」「あげづけ」が製造・販売されている。下呂市で昔、売れ残った油揚げを無駄にしないために始まったという[3]。
- 福井県坂井市丸岡町地区では、大正時代より現在まで、油揚げがよく食べられている。かつて、永平寺にも納めていたこともあった。特に、現在も竹田地区で作られる油揚げは、1枚の大きさや厚みが標準的なものよりもかなり大きい。
- 奈良県の「大和あげ」は、専用に作った直方体の豆腐を斜めに切り、五面体にして揚げたものである。厚い部分は中に豆腐が残り、薄い部分は揚げになる。豆腐と油揚げが一度に味わえ、煮たり焼いたりして好みの調理法で食べられる[4]。
- 愛媛県松山市には、水分を極力抜いて保存性を上げた油揚げ「松山あげ」がある。また、熊本県玉名郡南関町にも同様の「南関あげ」がある。いずれも常温で3か月の長期保存が可能[5][6]。
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料理
油揚げは、調理前に熱湯をかけるなど「油抜き」してから料理に用いられることが多い。
種類
- きつねそば、きつねうどん
- きつね丼
- 味噌汁
- 煮物
- 炊き込みご飯
- 稲荷寿司
- おでん
- 信田巻き(信太巻き、しのだまき)油揚げの中に肉や野菜を入れて巻いた料理。
- はさみ焼き - 具をはさんだ油揚げを焼いた料理。納豆や挽肉、チーズなどをはさむ。居酒屋などで出される。
油揚げそのままで、コンロの火でさっと炙って湿気を抜き、醤油を付けてパリパリとした食感を楽しむ場合もある。
巾着
油揚げの内部に具材を詰め、口を爪楊枝で閉じるかカンピョウで縛ったものを、その形状が似ていることから巾着(きんちゃく)と呼ぶ。おでんや煮物の具として使用されることが多い。
おでんの具としては餅を中に詰めることが多く、これを餅巾着と呼ぶ。稀にすり身やしんじょ(真薯、真蒸)が用いられる場合もある。
煮物としてはさまざまな季節の食材を中に入れる。鶏肉、ニンジン、タケノコ、インゲン、高野豆腐、キクラゲ、レンコン、シイタケ、ギンナンなどがおもな具であり、これらを詰めたものを五目巾着と呼ぶ。
東京・本郷の「呑喜」で開発されたといわれる。本来は季節の数品目を入れ、袋からつまみつつ日本酒をゆっくり飲めるように考案されたが、腹が減ってたちまち平らげる学生客のため、牛肉やしらたきなどの具入りに移行した、と「呑喜」の主人は語っている[7]。
備考
- 突然大事な物をさらわれることを例えて「トンビに油揚げをさらわれる」と称する。
- 俗に「キツネの好物」とされ、故に稲荷神には、油揚げを供える。キツネの好物とされた由来には諸説あるが、昔話などではキツネの好物はネズミの油揚げとされており、殺生を禁じた仏教の影響もあってかわりに豆腐の油揚げを供えたものという。
- 油揚げを用いた食べ物について「しのだ」と呼称されることがある[8]。漢字では「信太[9]」のほか「信田[10]」あるいは「志乃田[10]」とも表記される。これは信太の森の伝説にちなんだものである[9][10](葛の葉を参照)。
- 通常の冷蔵では案外、保存が利かないので、安売りなどで大量に購入した場合は冷凍庫で冷凍すると長期間もつ。
脚注
- ↑ 新明解国語辞典第6版(三省堂)
- ↑ 全国豆腐油揚商工組合連合会 豆腐加工食品「油揚げ」
- ↑ 日本経済新聞夕刊2017年1月31日『食ナビ/飛騨「味付けあげ」人気アゲアゲ ふんわりニュー油揚げ』
- ↑ クボタ食品 奈良の伝統食「大和揚げ」とは
- ↑ 程野商店 松山あげの特徴
- ↑ 塩山食品株式会社 南関あげとは?
- ↑ 菊地武顕(2013)p.43
- ↑ 岡田哲(2003)p.212
- ↑ 9.0 9.1 大谷晃一(1994)p.52
- ↑ 10.0 10.1 10.2 岡田哲(2003)p.126
参考文献
- 大谷晃一 『大阪学』 新潮社〈新潮文庫〉、1994年12月。ISBN 4101382212。
- 岡田哲 『たべもの起源事典』 東京堂出版、2003年2月。ISBN 4490106165。
- 菊地武顕 『あのメニューが生まれた店』 平凡社〈コロナ・ブックス〉、2013年11月。ISBN 4582634869。