求積法
求積法(きゅうせきほう、quadrature)とは、定積分を求める方法のこと[1]。特に、平面上の領域や曲面の面積を求める方法を意味することもある。
微分方程式論においては、有限回の不定積分を用いて常微分方程式の解を表す方法を意味する[2]。求積法で解くことができる常微分方程式は限られているが、例えば一階線型常微分方程式やクレローの方程式は求積法で解ける。この他にも求積法で解ける常微分方程式は数多く知られている[3][4]。
微分方程式の解法例
a を任意定数とし、x を変数、y を未知関数とする常微分方程式
[math]\frac{dy}{dx}=x+a[/math]
は、両辺の積分をとると
[math]\int\frac{dy}{dx}\,dx=\int(x+a)\,dx=\int x\,dx+\int a\,dx=\frac{x^2}{2}+ax+C[/math]
と計算できるので、結局
[math]y=\frac{x^2}{2}+ax+C[/math]
を得る。ここに、C は積分定数である。このような解法が求積法である。
求積法で解ける主な常微分方程式
1階常微分方程式[2]
[math]\bullet[/math] 1階線形常微分方程式
[math] \frac{\,dy\,}{dx}+p(x)y+q(x)=0.[/math]
一般解は,C を積分定数として,
[math] y=\exp \left(-\int p(x)\,dx\right) \left[\, C-\int \left\{ q(x)\exp \left(\int p(x)\,dx\right) \right\} dx \right][/math]
で与えられる。
[math]\bullet[/math] 同次常微分方程式
[math] \frac{\,dy\,}{dx}=f\left(\frac{\,y\,}{x}\right).[/math]
この同次常微分方程式 dy/dx=f(y/x) に対して,y=ux とおけば,同次常微分方程式が
- [math] \frac{\,du\,}{dx}=\frac{\,f(u)-u\,}{x}[/math]
となり,変数分離形になる。この積分を計算すると,同次常微分方程式の一般解は,
[math]x=C\exp\left[\int \frac{du}{\;f(u)-u\;}\, \right], \; \; \; \; \; \left( u=\frac{\,y\,}{x} \right)[/math]
で与えられる。C は積分定数である。
[math]\bullet[/math] Bernoulli 型の常微分方程式(ベルヌーイ型)
[math] \frac{\,dy\,}{dx}+p(x)y+q(x)y^n=0, \; \; \; \; \; (n \ne{} 0, \; 1).[/math]
この式に対して,z = y1 − n とおくと,
- [math] \frac{\,dz\,}{dx}+(1-n)p(x)z+(1-n)q(x)=0[/math]
となり,z に関する1階線形常微分方程式に帰着する。
[math]\bullet[/math] Clairaut型の常微分方程式(クレロー型)
[math]y=xp+f(p), \; \; \; \; \Bigl(p \equiv \frac{\,dy\,}{dx}\Bigr).[/math]
一般解は y=Cx+f(C) という直線族。 特異解はその直線族の包絡線であって,もとの方程式 y = xp + f(p) と x + df(p)dp = 0 から p を消去して得られる。
[math]\bullet[/math] Lagrange型の常微分方程式(ラグランジュ型)
[math]y=x\varphi(p)+\psi(p), \; \; \; \; \Bigl(p \equiv \frac{\,dy\,}{dx}\Bigr).[/math]
この式の両辺を x で微分すると,x, p に関する 1 階線形常微分方程式,
- [math][\varphi(p)-p]\frac{\,dx\,}{dp}+ \frac{\,d\varphi(p)\,}{dp}x + \frac{\,d\psi(p)\,}{dp} =0[/math]
となり,この解と,もとの方程式 y=xφ(p)+ψ(p) から p を消去すれば一般解が得られる。または p を媒介変数と考えてもよい。なお,この方程式は、ダランベール(d'Alembert)の微分方程式とも呼ばれる。
[math]\bullet[/math] Riccati型の常微分方程式(リッカチ型)
[math] \frac{\,dy\,}{dx}+ay^2 = bx^m.[/math]
この常微分方程式は,m = −2,m = 4k1 − 2k の場合に求積法で解ける。ただし,k は整数。
[math]\bullet[/math] 完全微分方程式
[math] P(x,\; y)dx+Q(x,\; y)dy=0. [/math]
上記の微分方程式において, P(x, y)dx+Q(x, y)dy=0 の左辺が完全微分式(完全微分形式)の場合,解ける条件は,
- [math] \frac{\;\partial{P}\;}{\partial{y}} = \frac{\;\partial{Q}\;}{\partial{x}} [/math]
である。一般解は,
- [math] \int P \, dx + \int \left(Q - \frac{\partial}{\partial{y}} \int P \, dx \right)\,dy =C[/math]
と表示できる。C は積分定数である。
[math]\bullet[/math] 1階非線形常微分方程式
求積法で解ける1階非線形常微分方程式の例を挙げる。
例1. [math]y=xp+x^n f(p)[/math], [math]\left(\, p=\frac{{d}y}{{d}x}\,\right) [/math]. n は実数,f は既知関数。
例2. [math]y=xp+y^n f(p)[/math], [math]\left(\, p=\frac{{d}y}{{d}x}\,\right) [/math]. n は実数,f は既知関数。
例3. [math]\frac{{d}y}{{d}x}=\frac{\, y^{1-m}\,}{x^{1-n}}f\!\left(\frac{y^{m}}{x^{n}}\right)[/math]. m, n は実数,ただし,m ≠ 0,f は既知関数。
2階常微分方程式
[math]\bullet[/math] 2階線形常微分方程式
求積法で解ける2階線形常微分方程式の例を示す[3]。
[math] P(x)\frac{\;d^2 y\;}{dx^2}+ (a+bx) \frac{\;dy\;}{dx} -by =0.[/math]
一般解は,
- [math] y = C_1 \int \Bigl[ \int \Bigl\{ \frac{1}{\,P(x)\,} \exp \Bigl( -\int \frac{\,a+bx\,}{P(x)} \,dx \Bigr) \Bigr\} dx \Bigr]dx + C_2 \left( x + \frac{\,a\,}{b} \right).[/math]
ここに,C1, C2 は積分定数である。 また,P(x) は任意の既知関数とし,a, b は任意の実数とする。ただし,P(x) ≠ 0, b ≠ 0 である。 この微分方程式以外にも,任意の既知関数を含む2階線形常微分方程式が,求積法で解ける実例は数多く知られている[4][3]。
[math]\bullet[/math] 2階非線形常微分方程式
2階非線形常微分方程式,
[math] \frac{d^2 y}{dx^2}+ P(x,\,y) \left( \frac{\,dy\,}{dx} \right)^{\!\! 2} + Q(x,\,y) \frac{\,dy\,}{dx} +R(x,\,y)=0[/math]
は,下記の二つの式を同時に満たす時, 求積法で解ける[5]。
- [math]\frac{\;\partial{P}\;}{\partial{x}}=\frac{1}{\;2\;}\frac{\;\partial{Q}\;}{\partial{y}},[/math]
- [math]\frac{\;\partial{R}\;}{\partial{y}}+PR=\frac{1}{\;2\;}\frac{\;\partial{Q}\;}{\partial{x}}+\frac{\;Q^{2}\,}{4}.[/math]
ただし,上式において,P = P(x, y), Q = Q(x, y), R = R(x, y) である。 求積法で解ける他の例も挙げておく[3]。
例1. [math]x\frac{{d}^2y}{{d}x^2}+(\alpha + \gamma{}y^n)\frac{{d}y}{{d}x}=0[/math]. α, γ, n は実数.ただし,n ≠ −1 。
例2. [math]x\frac{{d}^2y}{{d}x^2}+\Bigl(\alpha + \frac{\,\gamma\,}{y}\Bigr)\frac{{d}y}{{d}x}=0[/math]. α, γ は実数。
例3. [math]\frac{{d}^2y}{{d}x^2}+\frac{d}{{d}y}(\mbox{ln}[f(y)])\left(\frac{{d}y}{{d}x}\right)^{\!\!2} +P(x)\frac{{d}y}{{d}x}=\frac{Q(x)}{f(y)}[/math]. P(x), Q(x), f(y) は既知関数,[math]\mbox{ln}[/math] は自然対数。
例4. [math]y=x\frac{{d}y}{{d}x}+f(x)\left(\frac{{d}^2y}{{d}x^2}\right)^{\!\!n}[/math]. nは実数, f(x) は既知関数。
例5. [math]y=x\frac{{d}y}{{d}x}+f\!\left(\frac{{d}^2y}{{d}x^2}\right)[/math]. f は既知関数。
例6. [math]x\frac{{d}^2y}{{d}x^2}+(1+f(y))\frac{{d}y}{{d}x}=0[/math]. f(y) は既知関数。
例7. [math]\frac{{d}^2y}{{d}x^2}=f\!\left(\frac{\alpha +\beta{x}+\gamma{y}}{k+\ell{x}+my}\right)[/math]. α, β, γ, k, l, m は実数, f は既知関数。
関連項目
参考文献
- ↑ マグローヒル数学用語辞典編集委員会編集『マグローヒル数学用語辞典』日刊工業新聞社、2001年 ISBN 978-4526048395
- ↑ 2.0 2.1 日本数学会編『岩波数学辞典』第4版、岩波書店、2007年 ISBN 978-4000803090
- ↑ 3.0 3.1 3.2 3.3 長島 隆廣 『常微分方程式80余例とその厳密解』 近代文芸社、2005年 ISBN 4-7733-7282-6. 国立国会図書館蔵書, 請求記号:MA117-H55(東京 本館書庫)。
- ↑ 4.0 4.1 長島 隆廣[常微分方程式134例とその解]丸善出版サービスセンター,1982年5月発行,国立国会図書館・請求記号 MA117-111,全国書誌番号 82049441.
- ↑ 長島 隆廣 『数学セミナー』 1987年7月発行,第26巻,第7号,通巻308号,p.91,日本評論社。