橋
橋(はし)、橋梁(きょうりょう)とは、地面または水面よりも高い場所に設けられた道である。
Contents
歴史
有史以前の橋
橋の起源についてははっきりしたことは判らないが、偶然に谷間部分を跨いだ倒木や石だったと推測されている。その後人類が道具を使うようになってからは伐採した木で丸木橋が造られるようになった。また、木々に垂れ下がっている蔓を編んだ吊橋の原型とされる蔓橋(つるはし)や、より長い距離を渡るために川の中で飛び出た石の頂部に丸木を渡したり自然石を積み上げて橋脚を築いたり、杭を打ち込み橋脚にした事も考えられている。 なお、日本語の「橋」という言葉は、道のはしに架けるものから由来しているとされる[1]。
古代の橋
紀元前5世紀から6世紀ごろにはバビロンや中国で石造の桁橋が架けられていた。紀元前4000年ごろのメソポタミア文明では石造アーチ橋が架けられている。紀元前2200年ごろ、バビロンではユーフラテス川に長さ 200 m のレンガ橋が架けられた。アーチ橋の架橋技術は、古代メソポタミア地方で発祥した技術が、東西に伝播して西洋と東洋それぞれ独自に発展したとする研究が発表されている[2]。
ローマ時代に道路網の整備に伴い各地に橋が架けられ、架橋技術は大きく進歩した。現存する水道橋は驚異的な精度を持っている。ローマ教皇は英語で「ポープ」と呼ばれるが、この「Pope」の正式名称である「最高司教:Pontifex maximus」の前半部は「橋:Ponti」と「つくる:fex」から成り立っている。この名前が示すように、古代ローマ時代には橋を架けることは聖職者の仕事であった。中国や日本でも橋は仏教僧侶が架けることが多かった[3]。
日本での記録に残っている最古の橋は、『日本書紀』によると景行天皇の時代に現在の大牟田市にあった御木のさ小橋(みきのさおはし)である。巨大な倒木による丸木橋とされている。人工の橋では同じく『日本書紀』によると324年(仁徳天皇14年)に現在の大阪市に猪甘津橋(いかいつのはし)が架けられたのが最古とされている[4][5]。また、624年(推古天皇32年)に道昭が京都の宇治川に宇治橋を、726年(神亀3年)には行基が山崎橋を架けるなど、古くは僧侶が橋を架けたことが知られている[5]。これは僧侶が遣隋使や遣唐使として中国に渡り技術を学んできたことや、救済の一環として土木事業を指導したことによる。一方、当時の律令政府は勢多橋などの畿内の要所を例外とすれば、橋の築造には消極的であった。『日本紀略』の延暦20年(801年)5月甲戌条には、河川に橋がないことで庸の搬送が困難な場合には、そのたびに舟橋を架けるように命じている。
中世ヨーロッパの橋
ローマ帝国が滅んだ後、優れた土木技術は失われてしまった。このため、流失した橋には再建されず放棄されたものも多い。 依然石造りのアーチ橋は造られていたが、この時代に橋を架けたのは聖職者だった。
戦乱の続いた時代では橋は戦略上重要な拠点となるため、守備用の塔が付属して建てられたり、戦時に簡単に壊せるようになっていたものも多い。 ルネサンス期になると扁平アーチが開発され、軽快な石橋が建設されるようになった。
中世・近世日本の橋
律令制度の衰退とともに交通路も衰退し、橋の整備も資力や技術に乏しい現地にゆだねられたため、架橋技術は発達しなかった。更に治水技術の未熟からしばしば発生した雪解けや大雨に由来する増水にも弱く、船橋のような仮橋や渡し舟による代替で間に合わされるケースが多かった。こうした傾向は江戸時代末期まで続き、江戸時代に大河川に架橋がされなかったのも、実際には軍事的な理由とともに技術的要因による部分も大きかった。
そうした中でも特徴的な架橋の例はあり、鎌倉時代においては僧侶の勧進活動の1つとして、重源による瀬田橋や忍性による宇治橋の再建などが行われた。これは人々の労苦を救うとともに架橋を善行の1つとして挙げた福田思想の影響によるところが大きいとされている。安土桃山時代から江戸時代に入ると、都市部や街道においてようやく橋の整備が進められるようになった。江戸時代の大都市には幕府が管理した橋と町人が管理して一部においては渡橋賃を取った橋が存在し、江戸では「御入用橋」「町橋」、大坂では「公儀橋」「町人橋」と称した。また、江戸時代以前の日本では木造の橋がほとんどであったが、九州や琉球では大陸文化の影響を受け、明出身の僧侶如定による長崎の眼鏡橋の造営をはじめとする石造りの橋が多く作られるようになり、江戸時代末期に作られた肥後国の通潤橋は同地方の石工らによって様々な工夫がされたことで知られている[5]。また、石積みの橋桁と木製のアーチを組み合わせた周防国岩国の錦帯橋など、中小河川における架橋技術の発達を示す例が各地でみられるようになった。
この他、八橋と言って、川底が浅い場所に杭を打ち、その杭の間に板を渡すという方法で作られたために、川の途中で曲がりくねった構造をした木造の橋が作られたこともあった。なお、2016年現在の日本においても「八橋」と言う地名が残っている。
産業革命後の橋
18世紀末期から19世紀にかけて、産業革命によって生じた鉄を用いた橋が出現する[6]。鉄の出現により橋梁技術が飛躍的に向上し、橋脚と橋脚の間隔を示す支間長(スパン)が大幅に伸びて長大橋が建設されるようになる[6]。初めは銑鉄を用いた全長30 mの橋がイギリスで架けられたが、製鉄技術の改良により鋼を用いた橋が誕生する[7]。1873年には鉄筋コンクリートを用いた橋がフランスで初めて架けられ、その後全世界に普及する[7]。日本で最初の鉄橋は、1868年(慶応4年)に長崎の眼鏡橋が架かる中島川の下流にオランダ人技師の協力を得て架けられたくろがね橋である[6]。純日本国産の鉄橋第1号は、1876年(明治11年)に東京の楓川に架けられた弾正橋であり[6]、鋼橋としては、1888年(明治21年)に完成した東海道本線の天竜川橋梁が日本初である[6]。さらに鉄道網の進展、自動車の普及と交通量の変化に合わせて重い活荷重に耐えられる橋が要求されるようになって、1900年代に入ってから鉄筋コンクリート製の橋も造られるようになった[8]。また、経済の急速な発展に伴い、経済的で短い工期が重視された。
現代の橋
構造の強さだけでなく、需要に即した規模、気象条件、景観を含めた周辺環境への配慮、ライフサイクルコストの経済性を含めた設計が要求される。また、老朽化を迎える橋が増大している現状から維持管理の重要性が増している。
日本全国には約72万6千の橋がある[9]。橋に求められる要件は、橋に掛かる荷重を支えること及び荷重が掛かっても変形が大きくなり過ぎないことである。特に地震や台風の多い日本では、地震発生時及び台風通過時の安全性を確保することが重要になる。また、橋には実用性だけではなく、デザイン性も求められる。大きく目立つ橋はその地域のシンボルになりうるため、構造物自体のデザイン性や周囲と調和するデザインを有していることが望ましい。
さらに、橋の建設には大きな金額がかかること、高度経済成長期に大量に建設された橋が老朽化しつつあることから、長期的な視点での安全性、経済性の確保が重要となっている。かつては橋の定期点検が十分に行われていなかったため、老朽化を要因とする事故が相次いだ。2007年(平成19年)11月には吉野川水系の日開谷川の支流の1つである大影谷川にかかっていたトラス橋が、自動車通過中に落橋するという事故が起きた[10]。この事故後の調査で、この橋も定期的な管理がなされていなかったことが判明した[11]。
こうした事故を受け、2012年(平成24年)に道路法が改正され、道路管理者は管理する全ての橋梁について、5年に1度近接による目視で点検を行い、健全性を診断することになった。橋の定期点検は、橋の安全性の確保のほか、点検結果を元に橋梁長寿命化修善計画を策定することで、橋の計画的な長寿命化及び更新を図ることになり、公共事業費の増大を防ぐことにつながっている。
一般的な構造
上部構造
上部構造は、床構造と主構造から成り立つ[12]。床構造は床版(しょうばん)や床組(ゆかぐみ)によって形成され、通行する交通を支える役目を持つ[12]。主構造は主桁など、床構造を支えて荷重を下部構造に伝達する役割がある[12]。 吊り橋や斜張橋では主塔やケーブルも上部構造に含まれる。さらに、車両や人などが橋から落下するのを防ぐ高欄(こうらん、欄干・らんかん)や自動車防護柵、照明柱などの付加物、下部構造とをつなぐ支承(ししょう)や道路と橋梁の境にあたる伸縮継手も上部構造に含まれる。
下部構造
下部構造は上部構造を支え荷重を地盤に伝達する橋台(きょうだい)と橋脚(きょうきゃく)、それらを支える基礎(きそ)を指す[12]。橋の両端に設置されるものを橋台、中間に設置されるものを橋脚と呼ぶ。基礎には直接基礎、杭基礎、ケーソン基礎などの形式がある[12]。
橋の種類
橋には、用途や材料、橋床の位置、橋桁構造、可動するかどうか等により、様々に分類される[13]。用途別、材料別、構造形式別によって分類が行われる。
それぞれ長所と短所があり、橋の用途や長さに建設コストの要素が考慮されて決定される[13]。
形式別
橋の構造形式には以下のような種類がある。なお、主な部材に働く力については、構造力学、材料力学、力学などの項目を参照のこと。
- 桁橋 - 2つあるいは3つ以上の支点上に水平に桁を架け、その上あるいは内部を通行する橋。最も古くからある一般的な形式[13]。桁には曲げモーメントにより主桁内部の上側に圧縮応力が発生、下側に引張応力が発生する。材料には鋼、コンクリート、木材などが用いられ、I形、箱形、T形などの断面がある。一般に荷重を主として負担する主桁と通行路を造る床版は異なる部材だが、比較的小規模のコンクリート橋では床版が主桁としての役割も果たす床版橋(スラブ桁橋)もある。また、吊橋の桁は補剛桁と呼ばれる。建設費が比較的安価なことから、最も多く採用される形式[13]。
- トラス橋 - 棒状の部材を三角形に組み合わせ交点(格点と呼ぶ)をピンで結ぶトラス構造を用いた橋。鉄道橋に多い形式[13]。トラス部材には軸力(圧縮力または引張力)のみが作用する。ただし、実際にはピン結合ではなく剛結とすることが多く、この場合トラス部材には曲げモーメントも作用する。材料には鋼や木がよく用いられる。トラス構造は、使用部材を減ずる目的で断面2次モーメントを極大化させるため、桁構造と比して鉛直方向に構造が大きくなる。特に下路式の場合は、構造下面と路面や軌道面との間の高さを減ずることが可能であることから、桁下に余裕の無い箇所や取り付け部での縦断勾配の得づらい箇所での採用例も多い。トラス部材の配置によって以下のような分類がある。平行弦ワーレントラス、曲弦ワーレントラス、垂直材付きワーレントラス、プラットトラス、ハウトラス、Kトラス。
- アーチ橋 - 上向きの弧(アーチ)を用いた橋で、アーチ(アーチリブ)には大きな圧縮力と比較的小さな曲げモーメントが作用する。コンクリートや鋼あるいは木のほかに、近代以前では石がよく用いられていた。深い渓谷など、橋脚を造ることが困難な場所で採用されることが多い形式[13]。
- ラーメン橋 - 橋脚と主桁が剛に結合された骨組(ラーメン)構造を用いた橋。ラーメンはドイツ語 Rahmen (鋼節骨組)に由来する[13]。部材には軸力、せん断力と曲げモーメントが作用し、材料としてはコンクリートあるいは鋼が用いられる。構造力学の観点からは、ラーメン構造は力のつりあい方程式の数より未知反力の数の方が多い不静定構造である。これにより過大な荷重によってある部材が大きく変形しても落橋は免れたり、橋脚上に支承がなく上部構造がずれ落ちたりすることがないため耐震性の高い構造と考えられている。あまり一般的ではなく高速道路を跨ぐなど、ごく一部でみられる形式[13]。
- 吊り橋 - ケーブル、ロープなど曲がりやすいが引張強度が大きい部材から桁あるいは床版を吊り下げた橋を呼ぶ。近代以降の大規模な吊橋は、両岸に大きな質量を持つアンカーブロックやアンカレイジと呼ばれる橋台とその橋台の間に2本以上の主塔を設け、その間に張り渡したケーブルから通行路となる桁を吊り下げる形式を採る。このような吊橋では、桁および荷重の全ては、ケーブルおよびケーブルから下げられたハンガーが受け持つため、桁自体は通行路として橋の形状を保つ程度の剛性があれば十分なことから補剛桁と呼ばれる。ケーブルには引張力、主塔には圧縮力が作用する。アンカレイジはケーブルに生じる引張力に対してその質量および底面の摩擦力によって抵抗する。なお、主塔とケーブルが接触する主塔頂部のサドルの形状を固定式とする場合、荷重の偏在によっては主塔に曲げ応力が生じる場合があるので留意する。ケーブルには高強度の鋼、主塔には鋼やコンクリートが主に用いられる。橋台から床版を直接吊り下げる「吊床版橋」がある。アンカレイジを用いず桁の両端でケーブルを固定する「自碇式吊橋」「自定式吊橋」という形式もあるが、橋桁に大きな圧縮力が働くので設計が複雑になる。
- 斜張橋 - 吊り橋の一種で、支点となる主塔から斜めに張ったケーブルで橋桁を吊ったもの[13]。主塔上部から斜めに伸びた多数のケーブルが橋桁などの鉛直荷重を受け持つとともに、桁に対して圧縮力となる軸力を導入する。ケーブルには引張力が生じるため、鋼製。主塔には圧縮力がはたらき、桁には曲げモーメントと軸力が作用するため、コンクリートが用いられることが多いが、軟弱地盤の場合は主塔にも鋼構造が用いられる。また、多々羅大橋のように、主塔の設置箇所の制限から、中央径間と側径間との延長のバランスが悪い場合、主塔に曲げ応力が生じるのを回避するため、単位長さ重量の大きいコンクリートと小さい鋼とを組み合わせた複合構造を用いることもある。ケーブルの張り方によって、主塔側面の異なった高さから斜め平行に張られる「ハープ」と主塔上部の一点から放射線状に張られる「ファン」の2つの形式があるほか、張る面を桁中央(道路の場合は中央分離帯)に寄せる1面吊り、桁側端に分離する2面吊り、1面に2条近接させる形式等、さまざまなバリエーションがある。[3]。美観に優れることから、近年採用例が増えつつある[13]。
- エクストラドーズド橋 - 外ケーブルを用いたプレストレストコンクリート橋の一種。比較的高さの低い主塔から斜材(外ケーブル)により主桁を支持する構造。外ケーブルが構造断面の外側に飛び出していることから『大偏心外ケーブル構造』とも呼ばれる。外観は斜張橋に類似しているが、主桁の剛性が高く構造としては桁橋に近い。また、斜材ケーブルの角度が小さいことから、活荷重の影響によって斜材の張力変動が小さく疲労に対して有利であり、斜張橋に比べ斜材ケーブルの張力を高く取ることができる。さらに低い主塔と相まって、建設コストを低く抑えることができ、近年は鉄道、道路を問わず、採用例が増加している。
材料別
主要構成部材の材料により、以下のような種類がある。鋼橋やコンクリート橋などは、昭和30年代頃から「永久橋」と呼ばれた[14]。
- 鋼橋 - 上部構造に鋼を用いた橋。鋼は比強度が高く、弾力性に富む[15]。発錆を防止するため塗装が必要[15]。
- 鉄橋 - 上部構造に鉄を用いた橋。現在では厳密にいう鉄を用いた橋は少ないが、鋼橋を指していうことが多い。鉄道橋と混同されることもある。
- コンクリート橋 - 橋の上部構造がコンクリート製の橋。コンクリートは圧縮強度に比べて引張強度がおよそ 1/10 と低いため、引張応力を鋼材で負担する鉄筋コンクリートや、PC鋼材によりあらかじめ圧縮力を与え引張応力を打ち消すプレストレスト・コンクリート(PC)を用いる。近年のコンクリート橋はアーチ橋やごく小規模なものを除き、ほとんどがPC橋である。
- 鉄筋コンクリート橋(RC橋)
- PC (Prestressed Concrete) 橋
- PPC (Partialy Prestresssed Concrete) 橋 - PC橋のうち、ある程度の引張応力を許容する構造の橋。
- PRC(プレストレスト鉄筋コンクリート)橋 - PPC橋のうち、ある程度のひび割れの発生を許容する構造の橋。日本において用いられる区分である。
- 竹筋コンクリート橋(BRC橋) - 鉄筋の代わりに竹を用いた橋。竹材資源の豊富な東南アジア地域で見られるほか、鋼材が不足していた戦時中の日本でも架けられている。
- 木橋 - 木を用いた橋。橋の材料として古来から用いられており、現在でも人道橋など荷重強度が小さな橋を中心に架設例がある[15]。特に1990年代以降は、従来の無垢材に加えて集成材の利用が進み、以前の伝統的木橋と区別して「近代木橋」と呼ばれることもある。このほか、鉄筋コンクリートや鋼材、繊維強化プラスチックなどとの複合橋も架設されている。橋梁形式としては、桁橋、トラス橋、アーチ橋を中心に各種の形式がある。
- 土橋 - 木橋の橋面を丸太で作り、上を土でならした橋。簡素である。
- 氷橋 - 「すがばし」と読む。北海道開拓の初期から戦後にかけて見られた。凍結した川に丸太や枝などを敷いて雪を載せ、水をかけて凍らせる氷でできた橋。穂別町の例では、丸太を積載した馬橇が通行できる大型の橋も存在した[16]。
- 石橋 - 石材を用いた橋の総称[15]。石材は引張力に対して弱い一方で、圧縮力に対して強いため、主にアーチ橋で用いられる[17]。
- 複合橋 - 異種材料や異種部材による合成構造あるいは混合構造を用いた橋。一般には、鋼部材とコンクリート部材を組み合わせた上部形式を指す。
機能別
橋はその果たす機能により様々な名称が用いられる。大きな区分として通過交通による分類、すなわちその橋が何を渡すものであるかが挙げられる。人車の交通に限らず物体の輸送用として、専用・兼用で用いられる事も多い。
橋の下が水面でない物を、陸橋と呼ぶ。
通過交通 および総称 |
道路 | 歩道 | 鉄道 |
---|---|---|---|
道路橋 | 人道橋 (歩道橋) |
鉄道橋 | |
川・谷・海を渡る | 橋・橋梁 | 橋・人道橋 | 橋梁 |
道路を渡る | 跨道橋 | 横断歩道橋 | 架道橋 |
鉄道を渡る | 跨線橋 | 跨線橋 | 線路橋 |
陸上交通
一般的な橋として、道路交通(自動車)を渡す道路橋、人を渡す人道橋(歩道橋)、列車を渡す鉄道橋などがあり、さらに何を渡る橋であるかによって前記の表に示す呼称が使い分けられる。なお、鉄道橋は鉄橋と略される場合もあるが、鉄または鋼を用いた橋と混同されることがある。
道路と鉄道の双方を渡す橋もあり、鉄道道路併用橋(併用橋)と呼ばれる。
橋を用いなくても道が引ける場所に、あえて橋を設けている物を高架橋という。これは道への不要な侵入や接触を避けるためや、景観のために設けるものである。
水上交通
水路橋のうち、特に運河を立体交差させて河川舟運に用いる橋。ヨーロッパで多く見られる。
現在、世界最長とされるのはドイツのマクデブルクにあるマクデブルク水路橋(de:Wasserstraßenkreuz Magdeburg)で全長918m、エルベ川を跨いでハーフェル運河とミッテルラント運河を接続する。なお、ミッテルラント運河はミンデンでもヴェーザー川を渡っている。
輸送用
古代ローマの水道橋など、水利目的の水路橋が古くから建設、利用されてきた。現在は主に上水道用の水管橋[18]が用いられる。
その他、各種パイプライン輸送用の橋としてガス導管橋や石油パイプラインの橋が、港や工場でスクリュコンベアや気流輸送管による原材料・半製品の輸送が行われている。大規模な鉱山では鉱石運搬用ベルトコンベアが、道路や河川を横断する光景を目にする。 また、電線路専用橋として多摩川専用橋がある。
特殊な橋
- 可動橋 - 船舶の運航に支障がないよう上部構造を動かせる構造とした橋[19]。航路となっている海や河川に架ける橋で、前後の取付部の関係から十分に高い位置に架設できない場合に採用される[19]。可動橋はさらに跳開橋、旋開橋、昇開橋などに分類される[19]。
- 運搬橋 - 可動橋と同様、航路を確保するために考えられた形式。非常に高い位置に橋をかけ、そこからワイヤーで吊したゴンドラを行き来させることで人や荷物を対岸まで輸送する。現存数は非常に少ない。
- 浮橋 - 舟橋、浮体橋とも。鎖やロープで繋いだ舟を並べ、その上に橋桁を設置する。現在の日本ではあまり見られない形式だがアメリカ合衆国やノルウェイで大規模な施工例がある。速やかに架橋・撤去が可能なため軍事目的での利用も多い(92式浮橋)。
- クローバー橋 - 中央部は通常の橋と同じく一本になっているが両端は二方向に分離し、上から見ると「 X 」のような形状の橋。釧路市にある旭跨線橋(4車線路)、仙台市にある宮城野橋(X橋。現在はy字型)、東京都・隅田川に架かる桜橋が代表例。
- 家屋付きの橋 - 旧ロンドン橋、ポンテ・ヴェッキオ(ベッキオ橋)
- 屋根付きの橋 - 橋の構造材の劣化速度を遅くする目的で覆いをかけたもの。
- 橋上駅 - 鉄道駅の一種で、プラットホームの上に駅舎があり、跨線橋と一体化しているもの。
- 二層通路橋(Double-decker bridge) - 上下層で方向を別にしたり(ジョージ・ワシントン・ブリッジなど)、道路と鉄道の併用にしたりするもの(鉄道道路併用橋)。
- 鉄道道路併用橋 - 鉄道と道路が一つの橋を共用するもの。
- 橋上店舗 - 川に架かる橋の上が店舗になっているもの。日本に現存するものでは渋谷川の上にある東急百貨店東横店東館がその代表例である。
- 橋上市場 - 岩手県釜石市の鈴木東民市長の主導により、河川法の特例許可を受けて甲子川(地元では大渡川と呼ばれた)に架かる大渡橋に並行する形で1958年(昭和33年)に完成した全長 110 m 、全幅 13 m の市場。1965年(昭和40年)の河川法改正により営利目的の河川占有が認められなくなり、市場内店舗は2003年(平成15年)1月5日に全店閉店、代替施設として建設された「駅前橋上市場 サン・フィッシュ釜石」へ移転し、その後解体された[20][21]。
- ループ橋
- 門橋 - 陸軍が河を渡る際に使用。
- 流れ橋 - 洪水の際に、橋桁が流される構造の橋。上津屋橋など。
- 八つ橋 - 公園施設などで池の上に折れ曲がる形(あるいは四方八方に延びる形)で設置される木製の橋。
- 架橋機材 - 分解・折りたたみ式の橋桁と必要な物品をトラックなどで運搬できるようにした機材。災害などで橋が破損し通行できない場合に臨時で架設する。軍事目的での利用も多い(07式機動支援橋)。
橋の長さ
工学的に橋の長さを議論する場合、橋全体の長さを表す「橋長」ではなく2つの「支承」間の距離である支間(しかん、span、スパン)を用い、特に最も長くなる事が多い中央支間の長さが問題とされる。高架橋のように支間長の短い橋を連続させれば橋長の長い橋は容易に造れるが、長い支間の橋を建設するには高度な技術が必要となるからである。
記録を持った橋
世界最長の橋
- ポンチャートレイン湖コーズウェイ(アメリカ合衆国ルイジアナ州ニューオリンズ/ポンチャートレイン湖) - 全長 38.4 km 。
- 杭州湾海上大橋(中華人民共和国浙江省東部/杭州湾) - 海上橋として世界最長。海上区間は全長 36 km 。上海と寧波を結ぶ高速道路のうち、杭州湾に建設。杭州湾跨海大橋ともいう。2007年6月26日に架設完了した。
- 明石海峡大橋(兵庫県) - 吊り橋として世界最長。全長 3,911 m[22](中央支間長は 1,991 m で世界最長)
- 関西国際空港連絡橋(大阪府) - 鉄道車道併用トラス橋として世界最長[22]。全長 3,750 m 。
- ルースキー島連絡橋 (ロシア連邦・東ボスフォル海峡) - 斜張橋として世界最長。 支間長1104m
- 蓬莱橋(静岡県島田市/大井川) - 木橋として世界最長。896 m 。ギネスブックに認定されている[23]。
- 夢吊橋(広島県) - 吊床版橋として世界最長。支間長 147.6 m 。
- 瀬戸大橋(岡山県・香川県) - 全長12.3 kmで、ギネスブックに「世界一長い道路鉄道併用橋」として認定されている。ただし、瀬戸大橋は南備讃瀬戸大橋や北備讃瀬戸大橋など6本の橋から成るものであり、ギネスではこれを1本の橋として認定している[22]。
日本最長の橋
- アクアブリッジ(千葉県) - 自動車の橋としては日本最長。4,384 m 。
- 明石海峡大橋(兵庫県) - (世界最長の橋を参照)
- 多々羅大橋(広島県・愛媛県) - 斜張橋として日本最長(中央支間長 890 m)。本州四国連絡橋尾道・今治ルートに掛かる橋。
- 広島空港大橋(広島県三原市) - 最大支間長380.0 mの日本最長のアーチ橋[24]。
- 関西国際空港連絡橋(大阪府) - (世界最長の橋を参照)
- 蓬莱橋(静岡県) - (世界最長の橋を参照)
- 第一北上川橋梁(岩手県) - 東北新幹線の橋梁で、鉄道橋として日本最長[22]。3,868 m。
- 長流川橋(北海道) - 高速道路の橋で日本最長。1,773 m 。
- 伊良部大橋(沖縄県)- 通行料無料の橋としては日本最長。3,540 m 。
- 九重"夢"大吊橋(大分県) - 歩行者専用の吊り橋として日本一の高さと長さ。高さ 173 m 、長さ 390 m 。
世界の著名な橋
世界の主な橋
- 天然橋 - 天然の橋。雄橋(日本・広島県、天然記念物に指定)、プレヒシュ(スイス)、ロックブリッジ(アメリカ合衆国)が世界三大天然橋として有名。
- ポン・デュ・ガール(フランス/ガルドン川) - ローマの水道橋。石造アーチ橋(紀元前19年頃)。世界遺産。
- ソコルル・メフメト・パシャ橋(ボスニア・ヘルツェゴビナ/ドリナ川)- ミマール・スィナンの橋(16世紀)。『ドリナの橋』の舞台。世界遺産。
- スタリ・モスト(ボスニア・ヘルツェゴビナ/ネレトヴァ川)- ミマール・スィナンの門下生が手がけたとされる橋(1566年)。世界遺産。
- 来遠橋(ベトナム・クアンナム省ホイアン/トゥボン川水路) - 日本人商人がかけたとされる橋(1593年)。世界遺産の一部。
- アイアンブリッジ(コールブルックデール橋)(イギリス・アイアンブリッジ峡谷) - 世界初の鉄橋。アーチ橋(1779年。世界遺産。
- フォース橋(イギリス/フォース湾) - トラス橋(1890年)。世界遺産。
- ビスカヤ橋(スペイン/ネルビオン川)- 世界最古の運搬橋(1893年)。世界遺産。
- タワーブリッジ(ロンドン/テムズ川) - 近代吊り橋の原点。吊り橋(1894年)
- ハーバーブリッジ(シドニー) - 完成当時世界最長のシングルアーチ橋(1932年)
- ゴールデン・ゲート・ブリッジ(サンフランシスコ) - サンフランシスコのランドマークとなっている吊り橋(1937年)
- ノルマンディー橋(フランス/セーヌ川) - 完成当時世界最長の斜張橋(1995年)
- ミヨー橋(フランス/タルン川) - 世界一高い橋。斜張橋(2004年)
日本の主な橋
- 日本橋(東京都中央区) - 東海道の起点とした経緯から重要文化財に指定されている。
- 通潤橋(熊本県山都町) - 日本では珍しい巨大な石造アーチ水道橋。重要文化財に指定されている。
- かずら橋(徳島県の山間部各地) - 植物(サルナシ)のつるで架けられた吊り橋。祖谷のかずら橋は重要有形民俗文化財に指定されている。
- 萬代橋(新潟県新潟市/信濃川) - 花崗岩による重厚なアーチ橋で、意匠・記述性を評価され重要文化財に指定されている[25]。
- 生地中橋(いくじなかばし) - 黒部市生地の黒部漁港に架かる可動橋。昭和期に黒部漁港拡張のために動力昇降式可動橋となり、後に現在の旋回式可動橋に架け替えられた。これは日本では最初であり、世界でも珍しい。
脚注
- ↑ 石井一郎 1987, p. 85.
- ↑ 武部健一 2015, p. 9.
- ↑ 3.0 3.1 大野春雄監修『橋 HASHI なぜなぜ読本』山海堂 2000年5月20日 第1版第3刷発行
- ↑ 武部健一 2015, p. 25.
- ↑ 5.0 5.1 5.2 浅井建爾 2001, p. 212.
- ↑ 6.0 6.1 6.2 6.3 6.4 浅井建爾 2001, p. 221.
- ↑ 7.0 7.1 石井一郎 1987, p. 86.
- ↑ 浅井建爾 2001, pp. 212,221.
- ↑ 国土交通省、道路メンテナンス年報
- ↑ トラス橋が車の通過中に崩落、香川と徳島の県境で
- ↑ 誰も管理しない橋、コンクリ落下で「発見」相次ぐ
- ↑ 12.0 12.1 12.2 12.3 12.4 藤原稔 2010, p. 3.
- ↑ 13.0 13.1 13.2 13.3 13.4 13.5 13.6 13.7 13.8 13.9 浅井建爾 2001, pp. 214-215.
- ↑ Ⅱ.道路の老朽化対策の本格実施に向けて (PDF) (国土交通省)
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- ↑ サンデー毎日(2003年3月2日号)「消えゆく光景・釜石橋上市場」
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- ↑ “重要文化財萬代橋 重要文化財の経緯”. 国土交通省北陸地方整備局新潟国道事務所. . 2018閲覧.
参考文献
- 石井一郎 『土木工学概論』 鹿島出版会〈土木教程選書〉、1987-10-30。
- 浅井建爾 『道と路がわかる辞典』 日本実業出版社、2001-11-10、初版。ISBN 4-534-03315-X。
- 藤原稔 『写真で見る橋の構造形式 -道路橋の保全のために-』 技報堂、2010-07-20。
- 武部健一 『道路の日本史』 中央公論新社〈中公新書〉、2015-05-25。ISBN 978-4-12-102321-6。
関連項目
- 橋の画像一覧
- 土木工学 - 橋梁工学
- 応用力学 - 構造力学
- 橋の一覧
- 橋の一覧 (長さ順)
- 吊り橋の一覧 (長さ順)
- 洗い越し
- 橋名板