松本健一
松本 健一(まつもと けんいち、1946年1月22日 - 2014年11月27日)は、日本の評論家、思想家、作家、歴史家、思想史家。麗澤大学経済学部教授。
中国日本語研修センター教授、麗澤大学経済学部教授、麗澤大学比較文明文化研究センター所長、一般財団法人アジア総合研究機構評議員議長、東日本国際大学客員教授、内閣官房参与(東アジア外交問題担当)などを歴任した。
来歴
群馬県生まれ。埼玉県立熊谷高等学校を経て、1968年に東京大学経済学部を卒業し、旭硝子に入社する。翌1969年に退職し、法政大学大学院で近代日本文学を専攻。1971年、評伝『若き北一輝』で注目される。1974年、博士課程満期退学。在野の評論家、歴史家として執筆を続ける。1983年、中国・日本語研修センター教授に着任。1994年には麗澤大学経済学部教授、2009年には麗澤大比較文明文化研究センター所長に着任した。
菅内閣の内閣官房長官仙谷由人とは大学時代からの友人であり、2010年10月から2011年9月まで内閣官房参与(東アジア外交問題担当)を務める[1]。さらに、司馬遼太郎記念財団評議員、日本財団評議員、司馬遼太郎賞選考委員も務めた。
作風
近代日本精神史、アジア文化論を専門とするが、竹内好、橋川文三らの衣鉢を継ぎ、右翼・左翼といったカテゴリーにとらわれず、歴史・思想の襞を探っていった。多作で知られ、再刊を含めると毎年数冊を刊行した。主な著作には、ペリーが日本人の掲げるべき白旗を持参したという『白旗伝説』や、小林虎三郎の伝記などがある。こうした思想史を踏まえながら、日本人の「ナショナル・アイディンティティ」の再構築を目指し、穏健な保守派として現代政治や社会に対する時評も多く行った。
編集者・著述家の松岡正剛は松本の著書を高く評価し、「長らくぼくが信用して近現代史を読むときに座右にしてきた[3]」と述べたうえで、なかでも北一輝に関する著作については「絶対の信頼をおいて読んできた[3]」と語っている。さらに松岡は、松本との初めての対談について「『日本の襞に沿う交情』のようなものが互いを放電させていると感じた[3]」と述懐している。
受賞歴
- 1995年 - アジア太平洋賞(『近代アジア精神史の試み』)
- 1998年 - 吉田茂賞(『日本の近代 第1巻 開国・維新』)
- 2005年 - 司馬遼太郎賞(『評伝 北一輝』全5巻)
- 2005年 - 毎日出版文化賞(『評伝 北一輝』全5巻)
著書
昭和期
新編再刊は一部別表記
- 『若き北一輝 恋と詩歌と革命と』現代評論社 1971 ※
- 『北一輝論』現代評論社 1972、講談社学術文庫(改訂版) 1996 ※
- 『孤島コンミューン論』現代評論社 1972
- 『革命的ロマン主義の位相』伝統と現代社 1973
- 『風土からの黙示 伝統的アナキズム序説』大和書房 1974
- 『歴史という闇 近代日本思想史覚書』第三文明社 1975
- 『竹内好論 革命と沈黙』第三文明社 1975、岩波現代文庫(増補版) 2005
- 『ドストエフスキイと日本人』朝日新聞社〈朝日選書〉 1975、オンデマンド版2005
- 『思想としての右翼』第三文明社 1976、論創社 2000
- 『評伝 北一輝』大和書房 1976 ※
- 『時代の刻印』現代書館 1977
- 『中里介山』朝日新聞社〈朝日評伝選〉 1978
- 『中里介山 辺境を旅するひと』風人社 1993
- 『共同体の論理』第三文明社 1978
- 『在野の精神』現代書館 1979
- 『第二の維新』国文社 1979
- 『戦後世代の風景 1964年以後』第三文明社 1980
- 『滅亡過程の文学』冬樹社 1980
- 『私の同時代史』第三文明社 1981
- 『歴史の精神 大衆のエトスを基軸として』柏書房 1982
- 『太宰治とその時代 含羞のひと』第三文明社 1982、増補「伝説シリーズ7」辺境社 2009
- 『石川啄木 近代日本詩人選』筑摩書房 1982、増補「伝説シリーズ3」辺境社
- 『挾撃される現代史 原理主義という思想軸』筑摩書房 1983
- 『幻影の政府 曽根崎一八八八年』新人物往来社 1984
- 『不可能性の「日本」から可能性の「国家」へ』河出書房新社 1984
- 『死語の戯れ』筑摩書房 1985
- 『戦後の精神 その生と死』作品社 1985
- 『北一輝の昭和史』第三文明社 1985 ※
- 『論争の同時代史』新泉社 1986
- 『出口王仁三郎 屹立するカリスマ』リブロポート〈シリーズ民間日本学者〉 1986、 書籍工房早山(増補版) 2012
- 『北一輝伝説 その死の後に』河出書房新社 1986 ※
- 『大川周明 百年の日本とアジア』作品社 1986、岩波現代文庫(改訂版) 2004
- 『秩父コミューン伝説 山影に消えた困民党』河出書房新社 1986、「伝説シリーズ4」辺境社
- 『三島由紀夫亡命伝説』河出書房新社 1987、増補「伝説シリーズ2」辺境社
- 『秋月悌次郎 老日本の面影』作品社 1987、増補「伝説シリーズ5」辺境社、中公文庫(決定版) 2013
- 『眼の思考』学芸書林 1988
- 『昭和に死す 森崎湊と小沢開作』新潮社 1988
- 『現代日本の精神史』第三文明社 1988
- 『戦後政治家の文章』第三文明社 1988
平成改元〜20世紀
- 『エンジェル・ヘアー』文藝春秋 1989
- 『昭和最後の日々』リブロポート 1989
- 『神の罠 浅野和三郎、近代知性の悲劇』新潮社 1989
- 『「世界史のゲーム」を日本が超える』文藝春秋 1990。対談記事を併収
- 『仮説の物語り いかに事実を発見するか』新潮社 1990
- 『蓮田善明日本伝説』河出書房新社 1990
- 『地にかたちなく』河出書房新社 1991
- 『昭和天皇伝説 たった一人のたたかい』河出書房新社 1992、朝日文庫 2006
- 『われに万古の心あり 幕末藩士小林虎三郎』新潮社 1992、ちくま学芸文庫 1997
- 改題 『小林虎三郎 「米百俵」の思想』学研M文庫 2001
- 『日本がひらく「世界新秩序」』徳間書店 1992
- 『原理主義 フォンダメンタリズム』風人社 1992
- 『どぐら綺譚』作品社 1993 増補「伝説シリーズ8」辺境社 2009
- 『真贋 中居屋重兵衛のまぼろし』新潮社 1993、幻冬舎アウトロー文庫 1998
- 『隠岐島コミューン伝説』河出書房新社 1994、増補「伝説シリーズ1」辺境社 2007
- 『近代アジア精神史の試み』中央公論社〈中公叢書〉 1994、岩波現代文庫 2008
- 『まぼろしの華』風人社 1994
- 『開国のかたち』毎日新聞社 1994、岩波現代文庫 2008
- 『日本人が世界史を描く時代』PHP研究所 1994
- 『白旗伝説』新潮社 1995、講談社学術文庫 1998
- 『「第三の開国」の時代に』中央公論社 1995
- 『右翼・ナショナリズム伝説』河出書房新社 1995
- 『幕末畸人伝』文藝春秋 1996。雲井龍雄・松森胤保・山本覚馬の評伝
- 『山本覚馬-付・西周『百一新論』』 中央公論新社〈中公文庫〉 2013。抜粋版
- 『日本文化のゆくえ』第三文明社 1996
- 『幕末の三舟 海舟・鉄舟・泥舟の生きかた』講談社選書メチエ 1996
- 『雲に立つ 頭山満の「場所」』文藝春秋 1996
- 『司馬遼太郎 歴史は文学の華なり、と。』小沢書店 1996
- 増補改題 『司馬遼太郎の「場所」』学研M文庫 2001、ちくま文庫 2007
- 『犢を逐いて青山に入る 会津藩士・広沢安任』ベネッセコーポレーション(福武書店) 1997
- 『日本精神史への旅』河出書房新社 1997
- 『谷川雁革命伝説』河出書房新社 1997
- 『歴史の現場 幕末から近・現代まで』五柳書院〈五柳叢書〉 1998
- 『日本の失敗 「第二の開国」と大東亜戦争』東洋経済新報社 1998、岩波現代文庫 2006
- 『日本の近代〈1〉1853〜1871 --開国・維新』中央公論社 1998、中公文庫 2012
- 『「高級な日本人」の生き方』新潮選書 1999
- 『「日の丸・君が代」と日本』論創社 1999
- 『「日の丸・君が代」の話』PHP新書 1999
- 『竹内好「日本のアジア主義」精読』岩波現代文庫 2000
- 『評伝佐久間象山 (上下)』中央公論新社〈中公叢書〉 2000、中公文庫 2015
21世紀
- 『地の記憶をあるく 出雲・近江篇』中央公論新社 2001
- 『地の記憶をあるく 平戸・長崎篇』中央公論新社 2001
- 『地の記憶をあるく 盛岡・山陽道篇』中央公論新社 2002
- 『民族と国家 グローバル時代を見据えて』PHP新書 2002
- 『国を興すは教育にあり 小林虎三郎と「米百俵」』麗澤大学出版会 2002
- 『評伝斎藤隆夫 孤高のパトリオット』東洋経済新報社 2002、岩波現代文庫 2007
- 『丸山眞男 八・一五革命伝説』河出書房新社 2003、増補「伝説シリーズ6」辺境社 2008
- 『砂の文明・石の文明・泥の文明』PHP新書 2003、岩波現代文庫(増補版) 2012
- 『評伝北一輝』(全5巻) 岩波書店 2004、中公文庫 2014
- 若き北一輝。※の既刊著作+書下ろしを行った改訂増補版
- 明治国体論に抗して
- 中国ナショナリズムのただなかへ
- 二・二六事件へ
- 北一輝伝説
- 『第三の開国と日米関係』第三文明社 2004
- 『司馬遼太郎を読む』めるくまーる 2005、新潮文庫 2009
- 『三島由紀夫の二・二六事件』文春新書 2005
- 『日・中・韓のナショナリズム 東アジア共同体への道』第三文明社 2006
- 『泥の文明』新潮選書 2006
- 『司馬遼太郎が発見した日本 「街道をゆく」を読み解く』朝日新聞出版 2006、朝日文庫 2009
- 『藤沢周平が愛した静謐な日本』朝日新聞出版 2007、朝日文庫 2010
- 『昭和天皇 畏るべき「無私」』ビジネス社 2007、新版・選書判 2013
- 『畏るべき昭和天皇』毎日新聞社 2007、新潮文庫 2011
- 「松本健一伝説シリーズ」 辺境社、2007-2010
- 『ドストエフスキイと日本人 上 二葉亭四迷から芥川竜之介まで』
- 『ドストエフスキイと日本人 下 小林多喜二から村上春樹まで』 第三文明社(レグルス文庫) 2008
- 『海岸線の歴史』ミシマ社 2009
- 『村上春樹-都市小説から世界文学へ』第三文明社 2010
- 『日本のナショナリズム』ちくま新書 2010
- 『なぜ日本にアメリカ軍の基地があるのか』牧野出版 2010-インタビュー記事も収録
- 『明治天皇という人』毎日新聞社 2010、新潮文庫 2014
- 『三島由紀夫と司馬遼太郎』新潮選書 2010
- 「松本健一講演集」 人間と歴史社 2010-2011
- 維れ新たなり
- 日本近代の憧れと過ち
- 天国はいらない ふるさとがほしい
- 『海岸線は語る-東日本大震災のあとで』ミシマ社 2012
- 『昭和史を陰で動かした男 忘れられたアジテーター・五百木飄亭』新潮選書 2012
- 『遠望するまなざし 領土・復興問題の深層&真相』李白社 2012
- 「松本健一思想伝」 人間と歴史社 2013
- 思想の覚醒 思想の面影を追って
- 思想の展開 仮説の力を発条に
- 思想の挑戦 新たな地平を拓く
- 『原敬の大正』 毎日新聞社 2013
- 『官邸危機 内閣官房参与として見た民主党政権』ちくま新書 2014
- 『「孟子」の革命思想と日本 天皇家にはなぜ姓がないのか』昌平黌出版会 2014
編著・共著
- 『北一輝著作集 第三巻 論文・詩歌・書簡』みすず書房 1972
- 改訂版(1984、オンデマンド版2013ほか)。高橋正衛・澤地久枝と共編解説
- 『詳解現代論争事典』流動出版 1980
- 『対論 共同体のゆくえ』菅孝行 第三文明社 1985
- 『対論 ナショナリズムのゆくえ』菅孝行 第三文明社 1985
- 『「犯罪」の同時代史 何が始まっているのか』高崎通浩 平凡社 1986
- 『北一輝霊告日記』第三文明社 1987。校訂・詳細な補註と解説を行った
- 『民族体験としての戦争 松本健一対論集』五月書房 1995、吉本隆明・秦郁彦・毛利敏彦と連続討議
- 『対論 日本を解読する』石川好 五月書房 1996
- 『日本のアイデンティティ・ゲーム 対論×12』徳間文庫教養シリーズ 1998
- 『日本人よ、気概をとり戻せ!! 対論×14』徳間文庫教養シリーズ 1999
- 『憲法改正』中央公論新社 2000 (中西輝政編、小林節・櫻井よしこ・長谷川三千子・福田和也と共著)
- 『論争 教育とは何か』中曽根康弘・西部邁・松井孝典 文春新書 2002
- 『明治の文学 第18巻 徳富蘆花 木下尚江』筑摩書房 2002
- 『憲法改正大闘論』中曽根康弘・西部邁 ビジネス社 2004
- 『北一輝の革命-天皇の国家と対決し「日本改造」を謀った男』現代書館 2008(イラスト・ふなびきかずこ)
- 『アジアは変わるのか』ウェッジ選書 2009、松井孝典・筒井清忠と共編
- 『占領下日本』 筑摩書房 2009/ちくま文庫(上下) 2012 (半藤一利・保阪正康・竹内修司)
- 『未来をつくる君たちへ 司馬遼太郎作品からのメッセージ』日本放送出版協会 2009、立花隆・関川夏央と共編
- 『政治は文化に奉仕する これからの政治と日本』中曽根康弘 シアテレ新書 2010
- 『徹底検証 日清・日露戦争』文春新書 2011 (半藤一利・秦郁彦・原剛・戸高一成)
- 『いま〈アジア〉をどう語るか』弦書房 2011 (有馬学・中島岳志・劉傑・李成市)
- 『戦後日本の「独立」』筑摩書房 2013/ちくま文庫 2018 (半藤一利・竹内修司・保阪正康)
- 『匠の流儀 経済と技能のあいだ』春秋社 2015、編者代表松岡正剛
- 『辻井喬=堤清二 文化を創造する文学者』平凡社 2016、編者代表菅野昭正
出演番組
- 松本健一の思想旅行〜ライカ犬の夢〜(シアター・テレビジョン) - 出演・監修
- 定点観測(シアター・テレビジョン) - 元内閣総理大臣中曽根康弘の聞き手
脚注
- ↑ 官房長官記者発表 平成22年10月15日(金)午前、首相官邸ホームページ。
- ↑ “松本健一氏が死去 評論家、麗沢大教授”. 日本経済新聞. (2014年11月28日) . 2016閲覧.
- ↑ 3.0 3.1 3.2 松岡正剛「第千九十二夜」『松岡正剛の千夜千冊『日本の失敗』松本健一』2005年12月31日。
外部リンク
- 松本 健一:経済学部・国際経済研究科 教員紹介|麗澤大学 - 麗澤大学による教員紹介ページ
- 松本健一|新潮社 - 新潮社による作家紹介ページ