書店
書店(しょてん、英:bookstore, bookshop)とは、本の店、という意味で、より具体的には書籍や雑誌の小売店や卸業者や出版社である。本屋(ほんや)とも呼ばれる。(古い時代の呼称には「書肆(しょし)」というものもある)。
Contents
概説
書店とは、本の店、という意味で、より具体的には書籍や雑誌の小売店や卸業者や出版社である。
書籍を扱う業者と言っても、本を作る出版社、出版社から本を大量に仕入れ各地の小売店に卸売をする業者、本を実際に読むなどして使うことになる個人や組織に販売する業者がいるわけである。なお、出版・印刷業界では、出版社を「版元(はんもと)」、卸業者を「取次(とりつぎ)」、小売店を「小売書店」などと呼び分けている。このうち、一般消費者に特に馴染み深いのは、直接目にすることの多い小売書店、ということになる。
古代ローマ時代にはすでに書籍を扱う業者がいたことが知られている。→#歴史
以下、本稿では、小売書店を中心に概説する。
歴史
古代ローマで共和制の末期には、人々の間で本を自宅で多数持つことが流行したので、書籍を扱う商人も栄えた。
中世のヨーロッパにおいて書籍を大量に持っていたのは修道院であり、修道院内で写本の作成などが行われていた。この段階では書籍を扱う業者が出る幕はあまりなかったわけであるが、グーテンベルクの印刷技術が実現し、キリスト教関連の書籍である『聖書』、聖歌集等々が日常語で大量に印刷されて人々に大量に届けられる必要が出てきた段階で書店(書籍取り扱い業者)の役割が大きくなっていったと言ってよいだろう。(なお『聖書』は印刷技術登場時から現在にいたるまで、全ての書籍の中で特に突出したベストセラーである。)
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国では小売書店以外の販売ルートが数多くあったため、昔から小売書店の地位は日本ほど高くない。例えば1930年代、マスマーケット・ペーパーバックが登場したが、新聞スタンドが取り扱った。第二次世界大戦後もブック・クラブのような通信販売が人気を博した。書籍販売に占める小売書店の割合は歴史的に3割程度で、現在でも割合に変化はない。
漫画の販売が大きな比重を占めている日本の書店とは異なり、アメリカの一般書店で漫画(コミック・ブック)を取り扱うことは少ない。コミックの多くは、書店ではなく、もっぱらコミック専門店で販売される。
小売書店は1960年代まではハードカバーを取り扱う、個人書店が主流だった。1970年代、ビー・ドルトンやウォルデンブックスのような大型チェーン書店・郊外型書店が登場し、急速に発展した。両社はマス・ペーパーバックの販売に力を入れた。また新刊書や超ベストセラー(ブロックバスター)を重視し、回転率を至上命令とした。返本が問題となった。
1980年代、ビー・ドルトンやウォルデンブックスは更に発展した。マス・ペーパーバックだけでなく、雑誌販売にも力を入れた。副商品としてビデオソフトやコンピューターゲーム、カレンダーの販売も始まった。一方で書籍の大幅割引(1~3割)を行う、クラウン書店が一世を風靡した。また買取制が始まった。
1990年代、10万点以上の在庫を持つ、超大型書店(スーパーストア)が流行した。一方でコストコの親会社であるウェアハウス・クラブが食料品や雑貨などと共に、書籍の大幅割引(4~9割)を行った。業界再編が行われた[1]。ビー・ドルトンはバーンズ・アンド・ノーブルに、ウォルデンブックスはボーダーズ・グループに、クラウン書店もランダムハウスに買収された。
2011年現在、アメリカでは書店ビジネスそのものが消滅の危機に瀕している[2]。上述のボーダーズ・グループはアメリカで2位の書店チェーンだったが、連邦倒産法の適用を申請して倒産した[3]。背景にはインターネットでの書籍販売や電子書籍の普及が指摘されている[4]。
各国の書店および各国で主な書店
アメリカ合衆国
イギリス
フランス
ドイツ
香港
台湾
韓国
日本
日本
三省堂(三省堂書店)や岩波書店、東京堂出版(東京堂書店)のように、明治期、大正期から続く出版社は小売書店(古書店を含む)をその祖に持つものも多く、また、現在でも大規模小売書店や大手卸業者の多くが出版部門を持っていることから、厳密な分類は困難かつ無意味という面がある。
店舗数が多い。2006年で比較すると、日本の書店は約1万8000店あるのに対して、アメリカ合衆国の書店は約6000店である[5]。
書籍と雑誌を両方販売している。欧米では、雑誌は新聞スタンドやキヨスクで売られている。
再販制度による定価販売制と出版社からの委託販売制を取っている。
店舗数が急速に減少している。2000年から2010年の10年間で約3割、約6000店減少した[6]。
種類
新書店
商店街に店を構える小規模店や、駅前の百貨店や郊外の大型店の内部に店を構える店舗、都市の中心となる地場書店、広い駐車場を確保して車での利用者を狙うチェーン店、レンタルビデオやテレビゲーム(ハード・ソフト)などを同時に扱う店舗などがしのぎを削る。看板には店舗名より「本」の文字を大きく掲げている店舗が多い。雑誌を揃えて長時間営業を行うコンビニエンスストアも広い意味では競合相手である。また、一部の書店では、特定の領域に特化した品揃えを行うことによって差別化を図っている。
古書店
コンビニエンスストア
出版物の2割はコンビニルートで販売される。 その殆どが雑誌であり、コンビニエンスストアは、日本の雑誌の実に4割近くを販売している。大手数社で管理されるため、コンビニ本部へのキャッシュバックは書店の比では無い。 昔は週刊誌上でのキヨスクを擁する国鉄批判は無理と言われていたが、現在のコンビニ批判は、それを超えてタブー視されている。
オンライン書店
インターネット黎明期の1995年12月に、つるや書店が取次を経由してインターネットを利用したツルヤオンラインブックショップを開設。[7]
日本の主な書店
書店チェーンとしてはカルチュア・コンビニエンス・クラブ(書籍・雑誌の販売額1308億円[8])が紀伊国屋書店(2016年8月期売上高1059億円)を上回る国内最大手である[9]。
順位 | 会社名 | 本社所在地 | 設立(創業) | 売上高 |
---|---|---|---|---|
1 | 紀伊國屋書店 | 東京都新宿区 | 1946(1927) | 1086億3200万円 |
2 | 丸善ジュンク堂書店 | 東京都中央区 | 2010 | 759億 700万円 |
3 | 未来屋書店 | 千葉県千葉市 | 1985 | 548億4600万円 |
4 | 有隣堂 | 神奈川県横浜市 | 1953(1909) | 524億1500万円 |
5 | フタバ図書 | 広島県広島市 | 1951(1913) | 348億2100万円 |
6 | トップカルチャー | 新潟県新潟市 | 1986 | 323億5400万円 |
7 | 文教堂 | 神奈川県川崎市 | 2008(1949) | 304億7400万円 |
8 | 宮脇書店 | 香川県高松市 | 1947 | 245億 900万円 |
9 | 三省堂書店 | 東京都千代田区 | 1928(1881) | 216億2300万円 |
10 | くまざわ書店 | 東京都八王子市 | 1952(1890) | 211億9400万円 |
なお、国内書店チェーン最大手であるカルチュア・コンビニエンス・クラブ、新古書販売最大手のブックオフコーポレーション、雑貨を多数販売する複合型書店のヴィレッジヴァンガード、アニメグッズ専門店のアニメイト、三洋堂書店、個人出版物を中心に漫画・玩具などを販売する虎の穴は、当ランキングから除外されている。
日本での本の流通経路
書籍は出版社から取次を経て、書店に入荷する。書店への入荷を配本と言うが、配本される本の種類・部数などは、取次側が決定するのが基本である(パターン配本)。配本された本は書店で陳列され販売される。委託販売制を取っているので、一定期間を過ぎても売れ残った本は取次を経由して出版社に返却される(返本)。
このシステムのメリットは、
- 書店にとっては売れ残りのリスクを負わず、パターン配本により仕入れに頭を悩ませる必要がない。値付けの手間がかからない。
- 出版社にとっては返本可能にしたことで書店に販売を引き受けてもらいやすくなり、物流や書店からの代金回収を取次が代行してくれ身軽になれる。
という点にある。 しかし現実には各者それぞれの不満もある。
- 書店
- パターン配本により、いらない本まで送られてくる。いる本が来ない。
- 特に小規模な書店では、取次の配本が大型店やコンビニに重点的に行われているため、客を奪われてしまう。実際、昨今の版元の初版部数は全国の書店に1冊ずつも行き渡らない部数のため、小規模書店は初版時には配本されず、販売時期を逸することが慢性化してきている。
- 新刊が小規模な書店へと行き渡らないことで客足は遠のき、既刊や雑誌まで売れなくなる。
- 配本される書籍の原価が定価の80%と高く、粗利が低い(ただし、仕入れのリスクを負っていない以上、リターンが少ないのは当然とも言える)。
- 再販制度の元では値下げできないので、買い切りの本が売れ残ると損切りもできない。
- 出版社
- 売上の4割とも言われる多数の返本に苦しんでいる。ひどい場合にはベストセラーを出したにもかかわらず、返品多数で倒産してしまうことすらある(ベストセラー倒産)。これは書店がリスクを負わない仕組みのため、どうしても注文数が過剰になってしまうからである。これを防ぐため、出版社の中には岩波書店のように買い切りしか認めないところもある。
- 全国書店への配本を活性化させるはずの取次連動型POSシステムが、一部大型書店による更なるベストセラーの寡占を生み出し、結果的に全国での販売総冊数が落ち込み、その一方で返本が増大するという悪循環へと陥っている。そのため、出版社の一部には流通や書店を介さずインターネットなどで直接自社販売を行うところも出始めている。
こういった状況から、特に小規模な書店では経営が難しくなり廃業が相次いでいる。(こうした店は商店街に店を構えるケースも多く、中心市街地の衰退の影響も大きい)。そのような小さな書店で本を買える環境を守るために、再販価格制度の維持が叫ばれているという側面もある。
日本での書店業界の問題点
書店業界を取り巻く現状の問題点をここに挙げる。
- 古書店の出店拡大により、換金目的での万引きが増加。前述の通り書籍は単品当たりの利益幅が低いため、一冊あたりの損失を補填するためにその何倍もの売り上げが必要となる。
- 分冊百科や付録付き書籍などの大型商品の増加により、売り場スペースが占有され、取扱商品総数が減少してしまうという問題。一般的に書店の場合は店舗あたりの取扱商品総数が多ければ多いほど売り上げが増えるため、これが間接的に利益減少を招く要因のひとつとなっている。
- 年間あたりの新刊出版数が増加の一方を辿り、もはや従来の手書き手法では発注管理が不可能に。対策としてPOSシステムを導入しても、専任の担当者が必要となることで、更なるコストの増大と労働時間の増加を招いてしまうが、以前のように単純なレジシステムに戻すに戻せないというジレンマ。
- インターネットの普及による情報源の多元化と、雑誌発売時点での情報鮮度の低下。
- 不景気による嗜好品の購買抑制志向により、娯楽書籍が売れなくなるという問題。
- 電子書籍登場による書店利用者の減少。
日本での業界用語
- 客注(きゃくちゅう)
- 書籍を顧客が依頼して取り寄せる際、書店内や版元・取次に対して、特に客からの注文であるということを指す用語。一般には「客」と呼び捨てにしていることなどから注文された顧客に対しては使用しない。
※ただしこの用語は書店業界以外でも広く用いられている。
- 短冊(たんざく)
- 注文短冊とも。書店が出版社や取次などへ発注する際に利用される。ただし中規模以上の書店はPOSと連動した発注システムを構築し、短冊を用いた注文はしないようになってきている。
- 番線(ばんせん)
- 書籍の取次会社が取引関係のある個々の書店に対して割り当てるコード。中規模以上の書店は「普通番線」の他、「客注番線」を分けて持つ場合が多い。版元が書店に対し書籍を送付する際、番線を伝票に記入し取次に搬入すれば、その番線の書店に届けられる。また、書店が版元に対して注文を出す場合は番線印を注文書に押印することになる。
- 売れ筋(うれすじ)
- 回転率が良く、棚に置けば高確率で売れる商品のこと。ロングセラーとも。
- 死に筋(しにすじ)
- 回転率が悪く、長い間売れていない商品のこと。一般書店ではスペースの無駄と考えられているため順次撤去されるが、専門書店などではこれを希少価値と捉え、敢えてそのまま取り置かれている場合もある。
- 拡材(かくざい)
- いわゆる販促品。ポスターやPOP、場合によっては旗や専用棚などの大型の品物もある。
- ストック
- 店頭には並んでいないが、在庫としてバックヤードや本棚下の引き出しなどに保管されている商品のこと。客が勝手に取り出すとPOSシステムのエラー原因となる場合もあるので、店員に尋ねて出してもらうのがよい。
脚注
- ↑ 『アメリカの出版・書店』
- ↑ 2011年2月18日の朝日新聞朝刊12面
- ↑ 2011年2月18日の朝日新聞朝刊12面
- ↑ 2011年2月18日の朝日新聞朝刊12面
- ↑ 『出版メディア入門』
- ↑ 2011年2月18日の朝日新聞朝刊12面
- ↑ 出版文化論・書評家 永江朗 氏
- ↑ “TSUTAYA書籍・雑誌の年間販売総額が過去最高1,308億円を達成”. 株式会社TSUTAYA. . 2017閲覧.
- ↑ “【高論卓説】「リアル書店」が生き残る道 カフェ併設型が人気、カギは“体験””. 株式会社産経デジタル. . 2017閲覧.
- ↑ 東京商工リサーチ2015年度「全国書店1,128社の業績動向」調査「雑誌・書籍小売業」売上高ランキング
参考文献
関連項目