昭和二十二年法律第七十二号日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律の一部を改正する法律
昭和二十二年法律第七十二号日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律の一部を改正する法律 | |
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日本の法令 | |
通称・略称 | なし |
法令番号 | 昭和22年12月29日法律第244号 |
効力 | 被改正法に溶け込む |
種類 | 一部改正法 |
主な内容 | 日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律の一部改正 |
条文リンク | 衆議院 制定法律の一覧 |
昭和二十二年法律第七十二号日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律の一部を改正する法律(しょうわ22ねんほうりつだい72ごうにほんこくけんぽうしこうのさいげんにこうりょくをゆうするめいれいのきていのこうりょくとうにかんするほうりつのいちぶをかいせいするほうりつ)は第1回国会で制定された日本の法律。この法律は、件名通り、日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律を改正することを主たる旨としている。
Contents
制定
立法主旨
日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律は、大日本帝国憲法下で出された命令の日本国憲法施行後における効力等について規定したものである。本法では、当該被改正法に対して、大まかにわけて4点について改正を行うこととした。
ポツダム命令について
第一点は、被改正法に第1条の2を加えることである。本条は、第1条の「旧憲法下で現に効力がありかつ法律で規定すべき事項を含む命令の失効規定」について、いわゆるポツダム命令の効力には関係がない、ということを明記したものである。
第1条の規定がポツダム命令の効力に影響を及ぼさないことは、当該被改正法が制定された当時でも当然であると政府は解釈していたが、第1条の規定がポツダム命令に影響を及ぼすと解釈される危険性を回避するため、今回第1条で規定された命令の効力が切れるのを期に、本条を加えるに至った。
延命措置について
第二点は、第1条の4を加えることである。第1条は、1947年12月31日を過ぎた場合、同条で規定された命令は失効するという規定である。そのため政府は、同条で規定された命令のうち法律化する必要があるものを、今期国会で成立させる予定であった。
しかし、いくつかの事案が、1947年12月31日までの法律化に間に合わないおそれがでてきたため、1948年5月2日までの間、第1条の4第1項に列記された命令に関しては、暫定的に法律として扱うこととした。これにより、第1条の4第1項に列記された命令は、法律として扱われるため、第1条に規定された命令に該当せず、1947年12月31日で失効にならずにすむ。
第2条の解釈について
第三点は、第2条に第2項を加えることである。第2条は、これまで存在した勅令という形式が日本国憲法施行後になくなるため、他の法律中に「勅令」とあるものを「政令」と読み替えるという、法文上の調整に過ぎない規定である。
しかし、これが、内閣その他行政機関に対し、日本国憲法が認めていない場合に、法律に基づかないで命令を発する権限を付与したものと解されるおそれがある。従来の法律に「勅令をもって之(法律事項)を規定する」とあったものは、この第2条により「政令をもって之(法律事項)を規定する」と読み替えられるが、そうなると今まであった独立命令の様にこの規定により政令で法律事項を規定できる、という様に読める可能性がでてくる。
そのため政府は、そのような解釈をしないよう、第2項を加えて第2条の趣旨を明確化した。
行政官庁の命令について
第四点は、第1条の3を加えることである。従来、経済安定本部など一部の行政官庁は勅令で定められていた。この点について行政官庁法は、これら行政官庁を規定した命令中法律事項を含む命令について、1948年5月2日までの間その効力を認めていた。
これに対して本法では、法律事項を含む命令は、第1条により1947年12月31日までしか効力を認めておらず、行政官庁法と本法の関係が不明確であったため、本法第1条の2に行政官庁法と同じ年月日まで法律と同一の効力を有することとした。
議会及びその後の進行
衆議院
政府提出案(第1回国会閣法第134号)として国会に付託され当法案は、1947年12月2日に衆議院本会議から司法委員会に付託されるに至った。12月5日に司法委員会で審議が行われ、いくつか質疑が行われた。
当初の法案では、上記4つ立法主旨のうち行政官庁の命令についての事項は提起されていなかった。同日の審議後、各会派が懇談会を行った結果、各会派共同提出という形で、12月6日に当法案の修正案が提出された。修正案では、上記行政官庁の命令についての事項と、第1条の3にある命令の一部削除が盛り込まれた。第1条の3にある命令のうち、17件の命令は既に別の法律として制定されており、その法律により失効したため、載せる必要がなくなったためである。また当修正案では、当初第1条第2項に規定する予定であったポツダム命令に関する事項が第1条の2に格上げされ、その影響で、政府提出案で第1条の2及び第1条の3とされた事項がそれぞれ第1条の3、第1条の4に繰り下げられた。
衆議院司法委員会で提出された修正案は、質疑及び討論を省略するかたちで採決を行い、起立総員で当修正案が可決され、原案の部分についても、全会一致で可決するに至った。12月8日に本会議に戻ってきた当法案は、直ちに採決が実施され、委員長報告のとおり修正議決するに至った。
参議院
参議院でも同様に1947年12月2日に参議院本会議から司法委員会に付託されるに至った。12月4日から審議が開始し、いくつか質疑が行われた。12月9日、衆議院で修正議決された法案が本案となり、質疑討論を省略し、起立総員で可決された。同日参議院本会議に回された当法案は、直ちに採決が実施され、委員長報告どおり可決するに至った。
質疑
衆参両議院において、主な論点として2点についての質疑が行われた。
第1条の2及び第2条第2項について
第一に、第1条の2及び第2条第2項に関する事項である。両条文は、被改正法に対する政府解釈を明確化し、無用な争いを避けることを主旨として置かれたが、両条文を、わざわざ条文として明記する必要性があるのか、追加することこそ無用な誤解を生じさせるのではないか、という問題が提起された。
第1条の2(当時(修正以前)の法案では第1条第2項)について質問者は、立法技術の問題と根本的な問題と2つに分け、当条文を載せる必要性を政府委員に質問を行った。立法技術の問題として、質問者は、1947年12月31日に達することで第1条の規定がなくなり同時に第1条の2の規定もなくなると捉え、翌年1月1日からどのようになるか問題が生じると説き、また根本的問題として、質問者は、ポツダム命令を、日本国憲法を超越したものと捉え、わざわざ規定する必要はないと説いた。また第2条第2項について質問者は、当条文を追加することで、追加する以前と以後では解釈が変化する場合はともかく、政府は一貫した解釈をもって国政を行っており、追加以後も解釈に変化はない場合には、とかく親切に当条文を追加する意義がないのではないか、と説いた。
これに対し政府は、上記質問で問われた根本的問題は別として、ポツダム命令と本法第1条とは何ら無関係であることを主旨とし、万一の誤解を避けることを第一とし、実質においては、初めから第1条に括弧書きで規定があったという風に読み替えれば何ら弊害はないと説いた。また第2条第2項について、原条文だけでは勅令と政令が同じ性質ものと誤解を招く虞れがあるため、万一の誤解を避けるため規定したと説いた。
第1条及び第1条の4について
第二に、第1条の「法律と同一の効力を有する」と第1条の4第1項の「国会の議決により法律に改められたものとする」の語句に関する事項である。本法第1条では以上のように規定しているのに対し、本案で追加する第1条の4では、違う文言を使用していることについて、質問者は、両文言の相違点とわざわざ文言を変える必要性があるかを質問し、第1条の文言に改めるべきと説いた。
これに対し政府は、第1条の4第1項で「法律と同一の効力を有する」を使用しなかった理由を、ニュアンスの問題だと説いた。第1条で規定した1947年12月31日までに間に合わなかったので単純に1948年5月2日まで延長したというものではなく、第1条の4第1項は、どうしても必要な措置を5月2日までに行い、今後は延ばすような態度は取らないという決心を示したものであると説いた。
その後
これにより当法案は、12月29日に法律第244号として公布され、同日施行された。
制定以降
沿革
一部改正法たる本法は、その改正先である日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律に溶け込み、附則のみを残すに至った。ただし附則は施行日に関する規定であり、事実上本法の役割は終了した。
その後、本法により追加された被改正法の第1条の2は、(国会採決時の議案原稿では誤っていなかったものの)官報での公布に際して「前条の」とあるべきところが「前項の」と誤って記されていたことが発覚し、昭和27年2月22日付け官報本紙第7536号467頁をもって当該部分は正誤された(既に条文が溶け込んでいる被改正法の第1条の2そのものに対してでなく同条追加の根拠である本法の当該追加規定部分を訂正)。
判例
本法で追加された第1条の2の解釈及び有効性について、以下の二つの最高裁判所判例が存在する。
昭和22年(れ)279号、昭和23年6月23日最高裁判所大法廷判決、刑集第2巻7号722頁では、ポツダム命令である銃砲等所持禁止令(昭和21年内務省令第28号)が現憲法下でも有効であるかを争われた裁判である。被告人側は、被改正法第1条により銃砲等所持禁止令は失効したと主張したが、最高裁判所は、ポツダム命令の効力について「新憲法の施行後においてもその効力を持続する」と判示し、本法によって「第一条に第二項として追加された規定は、当然のことをただ注意的に規定したものである」とし、上記立法主旨や質疑の答弁と同様の見解を示している。よって最高裁判所は、銃砲等所持禁止令は上記の理由に基づいて失効を主張することはできないとした。
昭和25年(れ)第1298号、昭和25年11月21日最高裁判所第三小法廷判決、刑集第4巻11号2364頁では、昭和二十年勅令第五百四十二号ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く麻薬取締規則(昭和21年厚生省令第25号)が当時でも有効であるかが論点とされた。この件について最高裁判所は『「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律」一条の二は右の当然の法理を念のために明らかにしただけであつて、この法律によつて初めて麻薬取締規則が有効とされたのではない』とした。結果、上記規則の有効性は肯定された。