日本の教育
テンプレート:Infobox education 日本の教育(にほんのきょういく)として、この項目では日本における教育を解説する。
日本における「教育」は、単に学校教育という狭義に留まらず、家庭教育や社会教育(生涯学習)などもその意味に含まれる。
英語の「education」、日本語の「教育」の語源である「教」は「励まし模倣させること」、「育」は「こどもが生まれること」または「こどもを養うこと」を意味している。この語が日本で使用されるようになったのは江戸時代からと言われており、それ以前の日本や中国では「教化」という語が用いられていた。現在の日本語では、「教化」の概念を英語の「indoctrination」の訳語に用いている。
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概要
日本の教育は文部科学省が所管しており教育基本法に則っている。日本は、欧米に次いで世界的には比較的早い明治期から、大正・昭和~平成期と、明治維新以降近代的な学校教育の施設・制度を整備し、公教育・一般教育・義務教育を実施した。欧米以外で母語による高等教育を実現している数少ない国でもある。
教育政策においては、科学技術創造立国(科学技術立国とも)、教育立国として国家戦略として教育の重要性を位置づけ、生涯学習や高度専門教育の拡大、構造改革における教育特区の認定、専門職大学院の設置、高等教育の国際的な研究力の向上、海外留学生の受け入れ拡大、などの諸施政が採られている。
歴史
日本で初めて教育制度が作られたのは、701年(大宝元年)の大宝律令とされる。その後も貴族や武士を教育する場が存在し、江戸時代に入ると一般庶民の学ぶ寺子屋が設けられるようになった。初等教育から中等教育・高等教育までの近代的な学校制度が確立するのは明治時代である(学制)。第二次世界大戦後の教育は学制改革に端を発し、日本国憲法と教育基本法・学校教育法に基づいている。
日本の教育政策においては、文章で教育の根本理念を明示したものとして戦前(明治・大正・昭和初期)は教育勅語(1948年(昭和23年)に排除・失効確認)が、現在では教育基本法(平成18年法律第120号、現行法・新法)がある。学校教育制度としては戦後(昭和中後期~平成期)、小学校・中学校・高等学校・大学の六・三・三・四制が採られてきたが、近年では飛び級や中等教育学校の認可によって若干変化しつつある。
教育段階
国際標準教育分類(ISCED)においては、日本の教育段階を以下に分類している[1]。
初等教育・中等教育における就学率は高い[2]。2012年(平成24年)時点で、日本の25-64歳人口の53%は、中等教育レベル以上を修了している[2]。
中等教育まで
男 | 女 | 計 | |
---|---|---|---|
一条校の全日制へ | 93.7% | 94.7% | 94.2% |
一条校の定時制・通信制へ | 4.3% | 3.8% | 4.1% |
専修学校高等課程へ | 0.3% | 0.2% | 0.3% |
専修学校一般課程へ | 0.2% | 0.1% | 0.2% |
就職 | 0.6% | 0.2% | 0.4% |
その他 | 1.0% | 0.9% | 0.9% |
不詳・死亡 | 0.0% | 0.0% | 0.0% |
男 | 女 | 計 | |
---|---|---|---|
大学・短期大学等へ | 51.6% | 55.6% | 53.6% |
専修学校専門課程へ | 13.5% | 20.2% | 16.8% |
専修学校一般課程へ | 8.9% | 4.6% | 6.7% |
就職 | 19.9% | 13.4% | 16.7% |
その他 | 6.1% | 6.3% | 6.2% |
不詳・死亡 | 0.0% | 0.0% | 0.0 % |
日本では、子どもに対し9年間の普通教育を受けさせる義務を負う(義務教育)[5]。これは一般的には、 小学校6年間および中学校3年間にて行われる[6]。例外としては就学猶予と就学免除規定がある。
年齢主義の考え方が強固であるため、飛び級は一部を除いて存在せず、就学猶予や原級留置もかなり少ない。また学年内の同年齢率が非常に高い。
前期中等教育までの公立学校では、全児童に平等な教育を施すことを重視している。反面、個々の能力や学習の習熟度に応じた教育があまり行われてこなかったが、一部では習熟度別教育も行われている。進学競争の面では、国立・私立の小学校・中学校、高等学校や大学への入学試験の競争が激しく、「受験戦争」(小学校受験・中学受験・高校受験・大学受験)と呼ばれる。一方、入学してしまえば学校卒業までのハードルは、欧米の教育機関に比較して少ないと指摘されている。
日本では塾や予備校といった学校外の教育機関が発達していることが、その教育の特徴として挙げられることがある。かつては、これらが受験戦争の一因であるとして批判されることも多かったが、現在では、学力向上に果す役割が再認識されている。近年では、NGOなどを中心に、学校外で広く社会や生活に関わる学びの場を拡充する動きも見られる。
高等学校は学力による学校同士の階層化が著しい。学校が家庭生活の現場への介入をする傾向が強い。近年では前期中等教育修了段階での就職が想定されない教育内容になってきている。人材評価においては、学力試験の成績はあまり用いられず、入学校や卒業校のブランドによって測られる場合が多い。類例のない制度として論文博士制度がある。社会全体で学校教育の比重が高く、家庭教育や社会教育が注目されにくい。
教育内容
現在の日本の学校教育において必修の科目とされているものに、以下のものがある。
小学校、中学校、中等教育学校、高等学校においては、文部科学大臣の検定を経た教科用図書を使用しなければならない[7]。
日本における教育の内容は、知識偏重(いわゆる詰め込み教育)と批判されることがある。そのため、批判的思考力・創造力・コミュニケーション / 交渉能力などの育成に立ち遅れているとの見方がある。一方、そうした状況を反省して「生きる力」を重視した「ゆとり教育」に対しても現在では批判が強い。
日本の教育では、しつけを含め、幼少期は自由奔放に育て、年齢が上昇すると規律を教え込む傾向があり、この傾向は欧米とは反対であると言われている。その反面、日本の教育は画一的で、児童・生徒を個人としてよりも集団として扱う傾向が強く、また子どもの批判的思考力を養成する機能が弱いと批判されることがあるが、それに対する反論もある。
日本では、儒教の伝統を引き継いで、個人の学びや教育それ自体に高い価値を置く傾向がある。その意味で、いわゆる「教育熱心」であるとされてきた。それとともに、生活全般において社会の道徳規範を身につけることを重視することから、社会秩序の維持も教育目的の一つとして認識されることが多い。
教職スタッフ
年間の講義時間(hour)[8] | 年間の労働時間(hour)[9] | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
初等 | 前期中等 | 後期中等 | 初等 | 前期中等 | 後期中等 | |
日本 | 736 | 608 | 513 | 1899 | 1899 | 1899 |
英国 ( イングランド) |
722 | 745 | 745 | 1265 | 1265 | 1265 |
フランス | 924 | 648 | 648 | 1607 | 1607 | 1607 |
ドイツ | 800 | 752 | 715 | 1768 | 1768 | 1768 |
25px OECD平均 | 771 | 694 | 643 | 1588 | 1600 | 1603 |
EU平均 | 671 | 619 | 598 | 1549 | 1588 | 1573 |
初等・中等教育レベルまでの一条校教員に就くには、教育職員免許法で規定される教育職員免許状(教員免許)が求められる。
日本の教員は、授業以外の業務に多く時間を割かざるを得ない状況である[10]。小中学校教員らは、その年間授業時間は先進国平均以下であるが[8]、一方で年間労働時間は先進国平均を上回っている[9]。要因として、学校における教員以外のスタッフが、英米よりも少なめであることも挙げられる[10]。
学習時間
日米中韓の各国の比較においては日本の中高校生の学校、自宅および塾で勉強する時間は1日当たり平均8時間であり、これは中国の約14時間、韓国の約10時間よりも少ない。1997年(平成9年)の調査に比べても高校生で1時間、中学生では2時間短くなっている[11]。
高等教育
男 | 女 | 計 | |
---|---|---|---|
人文・芸術 | 10.1% | 25.9% | 17.2% |
法律・経済経営等 | 38.8% | 24.2% | 32.2% |
理学 | 4.0% | 1.7% | 3.0% |
工学 | 24.5% | 4.0% | 15.3% |
農学 | 2.9% | 2.7% | 2.8% |
医・歯・薬・看・保健 | 8.0% | 14.4% | 10.9% |
教育・教員養成 | 5.1% | 12.3% | 8.4% |
家政 | 0.5% | 7.2% | 3.5% |
その他 | 6.0% | 7.6% | 6.7% |
日本の25-64歳人口のうち46%が高等教育レベル(ISCED-5以上)を修了しており、これは先進国でトップグループである[2]。しかし進学においては、若いうちに進学することが多い反面、30代以降で在学する例が少ない。さらに外国に留学する者は、生徒の1%ほどである(OECD平均は2%)[13]。 高等教育の学費を漸進的に無償化することを定めた国際人権規約のA規約(社会権規約)第13条を保留しているのは、加盟160か国中、日本を含んだ2か国だけである[14][15]。
多くの先進国では、給付型の奨学金(英; scholarship)が一般的に広く利用されているが、日本においては返済が必要な貸与型の奨学金が一般的であるがゆえ、昨今の経済事情の反映により滞納者が増加し、奨学金制度の見直しの必要性が認められつつある[16][17]。
教育への公的支出
テンプレート:日本の一般政府歳出 日本の対GDP比における教育機関に対する公的支出は3.6%で、データの存在するOECD加盟国(28か国)中最も低く、EU平均の5.5%、OECD平均5.4%と比較される(2010年)[18]。 一般的に日本の教育費は私費負担により支えられていると言われるが、個人による支出を含んだ教育支出の総額においても、日本はGDP比で5.1%と、OECD加盟国の平均6.3%を下回る(2010年)[18]。
2013年度の統計では、日本政府の教育への支出(奨学金や学生への生活費援助も含まれる)は対GDP比率で3.5%とOECDの平均4.8%を下回っている[19]。上位はノルウェー(7.3%)やデンマーク(7.2%)、アイスランド(6.0%)等の北欧諸国が占めている[19]。
- 教育への政府支出対GDP比[19](2013年度)
日本の教育費への歳出を占める割合が低いことは、経済的に困難な家庭の教育環境の問題に直結し、教育格差が世代を超えて固定化していく恐れが懸念されている[20][21][22][23]。
清家篤慶応大教授は他の税と異なり、高齢者も含む全世代が負担する消費税は全世代型の社会保障の財源として適切であり、従来の高齢者への医療費など社会保障が歳出を占める現状から子育て世代の支援強化に舵を切るために消費増税は必ず実行すべきだと毎日新聞のインタビューで述べている[24]。
学力
経済協力開発機構の調査によると、日本の成人は読解力・数的思考力において、フィンランドやスウェーデンなどと並んで世界のトップレベルにある。日本の25歳 - 34歳の中卒者は、スペインやイタリアの大卒者をはるかに超える読解力を持っていると評価されている[25]。一時期、トップクラスから転落した日本の成績が6年で復調した成果に、経済協力開発機構も注目している[26]。
イギリスのHSBCが海外駐在員を対象に実施した「働くのに最も望ましい国」の調査によると、日本は全体で18位、子供に提供できる教育の質などの項目ではトップとなっている[27]。
親の学歴と子供の学歴との関連性は、日本では比較的弱いとされ、成人の4割は自分の親よりも高い教育段階を修了している[28]。カナダのオタワ大学の、子の世代が親の世代の階層から抜け出せずに同じ階層に留まる確率の調査では、日本はアメリカ合衆国やフランスよりは低かったが、カナダやデンマークよりは高かった[29]。
課題
- 教育の目的
- 日本においては教育の目的を個人より社会の側に置く傾向が強いことを懸念する声がある。第二次世界大戦後の教育では日本社会の民主化が、高度経済成長期には産業振興が、昨今では新自由主義に基づく国際経済競争や愛国心などが政策において重視されてきたため、個人がより良く生きるための教育という理念が軽視されがちであった。
- 教育の内容
- これまでの日本の教育では知識偏重であったとの認識から、思考力・コミュニケーション能力・創造力などを重視する立場が現在では優勢である。また、個別の領域では、歴史教科書問題、愛国心や道徳教育、また日本社会ではタブーとされている性教育などが政治的な焦点となっている。
- 教育の方法
- 日本の学校教育では、終戦直後に経験主義的な問題解決学習が導入されたが、学力低下への批判から系統学習に基づく詰め込み教育へ移行した。1970年代には少年少女による非行や校内暴力 の激化から管理教育が強化されたが、1970年代(昭和45年-昭和59年)後半以降は、受験競争の過熱を受け、再び段階的に学習内容が削減されていった。近年では、学力低下への危機感から、再度、現在のゆとり教育の見直しを迫る声がある(=脱ゆとり教育)。
- 教育の行われる場
- 生涯学習・社会教育に関連して、学校外での学びの場をいかに作り出していくか、特に退職後の高齢者の学習支援が日本の教育における課題の一つになっている。また、かつての家庭や地域は教育・しつけに重要な機能を果していたが、その機能が低下していることも問題視されることがある。
- 学校教育
- 近年、モラルに欠ける教師や保護者の存在が問題視されている。また、少子化や国の予算削減から、学校、特に大学・短期大学の一部が廃校や経営危機に陥っている。このことが、一部学校において、学力の不十分な学生を数多く入学させたり、海外からの留学生に頼る不健全な状態をもたらしている。さらに、教員免許の更新制や教職専門大学院の導入などで、教員養成のあり方も変革期を迎えている。
- 子どもや若者のあり方
- いじめ、不登校、学級崩壊、児童・生徒による教師への嫌がらせ、児童・生徒が被害者・加害者となった凶悪事件などが多く報道され、子どもの安全と少年犯罪の双方に社会的関心が高まっている。また、若者のフリーターやニートの増加が教育政策上の課題となりつつあり、学力低下への対策や若者の学習意欲向上の方途が模索されている。しかし、これらの問題を教育的な問題というよりは、社会的な問題と認識するべきと唱える学者もいる。また、少年犯罪は統計上、近年になって急激に増えているわけでもなく、過剰な報道を行うマスメディアを問題視する見方もある。
- 外国人
- 歴史的に外国人の大規模な流入が少なかった日本では、外国人児童・生徒に対しての教育体制は万全とは言えない状態にある。
- 近年、在日外国人の日本国内の定住化が進み、公立の学校では彼らの母国と違う習慣などという点で教育現場で大きな問題になっている。また外国人の中には日本語をあまり話せない子どもも少なからずいる。さらに彼らの母国と違う習慣などを嫌がり、日本の学校へ通わず、さりとて外国人学校の学費が高いからと不就学児になってしまう子どももいる。
脚注
- ↑ UNESCO (2008年). “Japan ISCED mapping”. . 2015閲覧.
- ↑ 2.0 2.1 2.2 OECD 2015, p. 42.
- ↑ 文部科学省 2013, p. 3.
- ↑ 文部科学省 2013, p. 11.
- ↑ 教育基本法5条, 学校教育法16条
- ↑ 学校教育法29条、45条
- ↑ 学校教育法34条, 49条, 62条, 70条
- ↑ 8.0 8.1 OECD 2015, p. 459.
- ↑ 9.0 9.1 OECD 2015, p. 458.
- ↑ 10.0 10.1 財政制度分科会(平成27年10月26日開催)資料2-文教・科学技術 (Report). 財務省. (2015-10-26) .
- ↑ 勉強時間 中国の半分なのに日本の高校生8割「きつい」1日8時間 産経新聞 2009年2月24日
- ↑ 文部科学省 2013, pp. 28-29.
- ↑ OECD 2015, p. 369.
- ↑ 国際人権規約 高校・大学の学費無償化条項 留保 日本など2国だけ しんぶん赤旗 2009年6月8日
- ↑ 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約) 外務省
- ↑ 奨学金の滞納者が増加 今後は「貸与型」から「給付型」にシフトか (MONEYzine) livedoorニュース 2010年08月29日
- ↑ 奨学金制度の政策評価 ISFJ政策フォーラム2010発表論文
- ↑ 18.0 18.1 OECD 2015, p. 193.
- ↑ 19.0 19.1 19.2 OECD, Government at a Glance (2016)
- ↑ 文部科学白書:閣議報告「教育水準と教育費」を特集 毎日新聞(2010年6月18日)
- ↑ 高校受験:中3の6割塾通い 保護者の85%「教育費が負担」 第一生命研究所(2010年2月20日)
- ↑ 新教育の森:貧困ゆえに低学力、意欲向上どう導く 毎日新聞(2010年2月6日)
- ↑ 教育再生懇 所得格差を埋める教育投資を 読売新聞(2009年5月29日)
- ↑ 消費増税と社会保障 毎日新聞 2017年10月13日
- ↑ Charlotte HILL (2013年10月10日). “日本の成人、読解力・数的思考力でトップ EU下位で危機感”. AFPBB News . 2013閲覧.
- ↑ “日本発の新教育モデル、OECDと開発へ”. 読売新聞. (2014年5月6日) . 2014-5-6閲覧.
- ↑ FRANCESCA DONNER; DEMETRIA GALLEGOS (2014年12月25日). “海外駐在先、もっとも魅力的な国は? 日本は18位”. ウォール・ストリート・ジャーナル . 2014閲覧.
- ↑ OECD (2014). Education at a Glance 2014: Country Notes - Japan (Report) .
- ↑ “アメリカンドリームの実現、日本よりも難しい? 国際調査”. CNN. (2013年12月10日) . 2013閲覧.
参考文献
- OECD (2015). Education at a Glance 2015 (Report). doi:10.1787/eag-2015-en.
- 文部科学省 (2015). 平成27年版 文部科学白書 (Report) .
- 平成25年版 教育指標の国際比較(2013年) (Report). 文部科学省. (2013) .