数論的関数
数論的関数(すうろんてきかんすう、英: arithmetic(al) function)とは、定義域が正整数である複素数を値に持つ関数のことである。
複素数の無限数列 [math]\{ a_n \}_{n\ge 1}[/math] は [math]n\mapsto a_n[/math] という対応で、数論的関数とみなすことができる。
Contents
素因数分解に関連する関数
正整数 n に対して
[math] n = \prod_{p;\operatorname{prime}} p^{\nu_p(n)}\ \ \ \ \ (\nu_p(n)\ge 1) [/math]
と素因数分解する。
この項では、[math]a(n)[/math] が [math]\scriptstyle\{ a(p^k) | k\ge 0,\ p;\operatorname{prime}\}[/math] によって得られる数論的関数について述べる。
加法的関数
互いに素である正整数 m と n に対して、[math]a(mn) = a(m)+a(n)[/math] が成立するとき、加法的関数 (additive function)という。
つまり、
[math] a(n) = \sum_{p;\operatorname{prime}} a(p^{\nu_p(n)}) [/math]
が成立する関数である。
特に、任意の正整数 m と n に対して、[math]f(mn) = f(m)+f(n)[/math] が成立するとき、完全加法的関数 (completely additive function)という。つまり、完全加法的関数とは
[math] a(n) = \sum_{p;\operatorname{prime}} \nu_p(n)a(p) [/math]
が成立する数論的関数である。
例
- 対数関数: [math]\log n[/math]
- n の相異なる素因数の個数を表す [math]\omega(n)[/math]
- [math]\omega(n) = \#\{ p| \nu_p(n)\ne 0 \}[/math]
- n の重複度を数えた素因数の個数を表す [math]\Omega(n)[/math]
- [math]\Omega(n) = \sum_{p;\operatorname{prime}}\nu_p(n)[/math]
- 素数 p に対して、n を割る最大指数を表す、[math]\nu_p(n)[/math]
乗法的関数
互いに素である正整数 m と n に対して、[math]f(mn) = f(m)f(n)[/math] が成立するとき、乗法的関数 (multiplicative function)という。
つまり、
[math] a(n) = \prod_{p;\operatorname{prime}} a(p^{\nu_p(n)}) [/math]
が成立する関数である。
特に、任意の正整数 m と n に対して、[math]f(mn) = f(m)f(n)[/math] が成立するとき、完全乗法的関数 (completely multiplicative function)という。つまり、完全乗法的関数とは
[math] a(n) = \prod_{p;\operatorname{prime}} a(p)^{\nu_p(n)} [/math]
が成立する数論的関数である。
q進展開に関連する関数
q を 2以上の正整数とする。
このとき、任意の正整数 n に対して
[math] n = \sum_{j\ge 0}b_j(n)q^j\ \ \ \ \ (b_j(n) = 0,\ 1,\ldots,\ q-1) [/math]
と q 進展開する。
この項では、[math]a(n)[/math] が [math]\scriptstyle\{ a(bq^j) | j\ge 0,\ b = 0,\ 1,\ldots,\ q-1\}[/math] によって得られる数論的関数について述べる。
q加法的関数
[math]\scriptstyle a(n)=\sum_{j\ge 0}a(b_j(n)q^j)[/math] を満たすとき、q加法的関数 (q-additive function)という。
特に、q加法的関数 [math]a(n)[/math] が [math]\scriptstyle a(bq^j)=a(b)[/math] [math]\scriptstyle(j\ge 0,\ b = 0,\ 1,\ldots,\ q-1)[/math] を満たすとき、強q加法的関数 (strongly q-additive function)という。
例
- sum of digits 関数 [math]\textstyle s_q(n) = \sum_{j\ge 0}b_j(n)[/math]
- digit counting 関数 [math]e_q(b;n) = \#\{ j | b_j(n) = b \}[/math] 但し、b は [math]\scriptstyle 1,2,\ldots,q-1[/math] のいずれか。
q乗法的関数
[math]\scriptstyle a(n)=\prod_{j\ge 0}a(b_j(n)q^j)[/math] を満たすとき、q乗法的関数 (q-multiplicative function)という。
特に、q乗法的関数 [math]a(n)[/math] が [math]\scriptstyle a(bq^j)=a(b)[/math] [math]\scriptstyle(j\ge 0,\ b = 0,\ 1,\ldots,\ q-1)[/math] を満たすとき、強q乗法的関数 (strongly q-multiplicative function)という。
例
- トゥエ=モース数列 [math]a(n) = (-1)^{e_2(1;n)}[/math]
- product of digits 関数 [math]\textstyle p_q(n) = \prod_{j=0}^rb_j(n)\ \ \ \ \ (b_r(n)\ne 0,\ b_j(n) = 0\ (j\gt r))[/math]
その他の数論的関数
(1) 素数に関係する関数
- n 以下の素数の個数を与える [math]\pi(n)[/math]
- フォン・マンゴルト関数: [math]\Lambda(n)[/math]
- [math]\Lambda(n) = \begin{cases}\log p & (n=p^m,\ m\ge 1,\ p;\operatorname{prime}) \\ 0 & (n\ne p^m) \end{cases}[/math]
- [math]\textstyle\vartheta(n) = \sum_{p\le n,\ p;\operatorname{prime}}\log p[/math]
- [math]\textstyle\psi(n) = \sum_{p^m\le n,\ p;\operatorname{prime}}\log p[/math]
(2) 数の表現・分割
- n を2つの平方数の和で表す表し方の数を与える [math]r_2(n)[/math]
- n を正整数の和で表す表し方の数を与える [math]p(n)[/math]
- ウェアリングの問題
- 全ての正整数が s 個の k 乗数の和で表される様な s の最小値 [math]g(k)[/math]
- 十分大きな全ての正整数が s 個の k 乗数の和で表される様な s の最小値 [math]G(k)[/math]
性質
代数的性質
数論的関数 [math]\scriptstyle f(n),\ g(n)[/math] に対して、ディリクレ積 [math]f*g[/math] を
[math] (f*g)(n) = \!\!\!\sum_{d\ge 1,\ d|n}\!\!\!f(d)g(n/d) [/math]
と定めると、[math]f*g[/math] は数論的関数となる。従って、数論的関数全体集合は多元環となる。
乗法的関数 [math]\scriptstyle f(n),\ g(n)[/math] に対して、ディリクレ積 [math]f*g[/math] で得られた数論的関数は乗法的関数となる。
数論的関数 [math]f(n)[/math] が、ある正数 C と、数論的関数 [math]g(n)[/math] が存在して、[math]\scriptstyle f(n)= C^{g(n)}[/math] と表されるとする。すると、[math]f(n)[/math] が(完全)乗法的関数である必要十分条件は、[math]g(n)[/math] は(完全)加法的関数である。
位数
(1) 最大位数
数論的関数 [math]a(n)[/math] に対して、ある単純な形をした n の関数 [math]\psi(n)[/math] が存在して
[math] \limsup_{n\to\infty}\frac{a(n)}{\psi(n)} = 1 [/math]
が成立するとき、[math]a(n)[/math] の最大位数は [math]\psi(n)[/math] であるという。
(2) 平均位数
数論的関数 [math]a(n)[/math] に対して、ある単純な形をした n の関数 [math]\psi(n)[/math] が存在して
[math] \lim_{n\to\infty}\frac{\sum_{k=1}^n a(k)}{\sum_{k=1}^n \psi(k)} = 1 [/math]
が成立するとき、[math]a(n)[/math] の平均位数は [math]\psi(n)[/math] であるという。
従って、[math]a(n)[/math] は、だいたい [math]\psi(n)[/math] であると思われるが、数論的関数の多くは、値の振る舞いが複雑であり、[math]a(n)[/math] がほぼ [math]\psi(n)[/math] である様な n は正整数のなかで少数であることも珍しいことではない。
(3) 正規位数
任意の正数 ϵ とほとんど全て[1]の正整数 n に対して
[math] (1-\varepsilon)\psi(n) \lt a(n) \lt (1+\varepsilon)\psi(n) \![/math]
が成立するとき、[math]a(n)[/math] の正規位数は [math]\psi(n)[/math] であるという。
平均位数と正規位数は、常に存在する訳ではない。
平均位数は持つが正規位数はもたない、その逆で、平均位数は持たないが正規位数を持つ数論的関数が存在する。
例
(1) 約数関数 [math]d(n)[/math]
最大位数は、
[math] 2^{\log n/\log\log n} \![/math]
であり、平均位数は [math]\log n[/math] である。 さらに [math]\log d(n)[/math] の正規位数は [math]log2\log\log n[/math] である。 従って、任意の正数 ε とほとんど全ての正整数 n に対して
[math] (\log n)^{(1-\epsilon)\log 2} \lt d(n) \lt (\log n)^{(1+\epsilon)\log 2} \![/math]
が成立する。
つまり、ほとんど全ての正整数に対して、[math]d(n)[/math] の値は、平均位数よりも小さい。
(2) 約数和関数 [math]\sigma(n)[/math]
最大位数は
[math] e^{\gamma}n\log\log n \![/math]
であり、平均位数は [math]\pi^2n/6[/math] である。
(3) オイラー関数 [math]\varphi(n)[/math]
最大位数は [math]n-1[/math] であり、平均位数は [math]6n/\pi^2[/math] である。
(4) n の相異なる素因数の個数を表す関数 [math]\omega(n)[/math]
平均位数および正規位数は共に [math]\log\log n[/math] である.
(5) n の重複を込めた素因数の個数を表す関数 [math]\Omega(n)[/math]
平均位数および正規位数は共に [math]\log\log n[/math] である.
(6) 素数の個数を表す [math]\pi(n)[/math]
正規位数は、[math]n/\log n[/math] である。
注釈
- ↑ 条件を満たさない n 以下の正整数の個数を n で割った値が 0 に収束するという意味。
参考文献
- ハーディ, G.H.・ライト, E.M. 『数論入門 I, II』 示野 信一・矢神 毅訳、シュプリンガー・フェアラーク東京、東京、2001年。
- Tattersall, J. J. 『初等整数論9章 [第2版]』 小松 尚夫訳、森北出版、東京、2008年。
- H. Delange (1972). “Sur les fonctions q-additive ou q-multiplicatives”. Acta. Arith. (21): 285-298.