懲戒解雇
懲戒解雇(ちょうかいかいこ)とは、民間企業において、就業規則に基づく懲戒の一として行う解雇のことである。労働者にとって極めて重い処分である。懲戒解雇の法律上の定義はなく、習慣的な名称である。なお、公務員の場合は懲戒解雇ではなく、懲戒免職(ちょうかいめんしょく)と呼ばれる。
規則
懲戒解雇は罪刑法定主義に類似した諸原則の適用を受ける。使用者が懲戒を適正に行なうためには、就業規則に「その理由となる事由」と、これに対する「懲戒の種類・程度」「懲戒の手続き」が明記されて(労働基準法第89条)、さらに「当該就業規則が周知されている」必要がある(労働基準法第106条)。これらの手続きに瑕疵があると、たとえ労働者側に懲戒解雇に相当するような重大な落度があったとしても、懲戒解雇そのものが無効とされる可能性がある(労働契約法第16条)。また労働基準法第19条に定める解雇制限に該当する労働者については、制限期間中は懲戒解雇は行えない。
「労働者の責に帰すべき事由」による解雇である旨の、所轄労働基準監督署長の認定を受ければ、労働基準法第20条に定める解雇の手続き(事前の予告もしくは解雇予告手当の支払い)は適用されないので、即日解雇が可能となる。ただし、認定を受けられなかったとしても、民事的には就業規則所定の手続きを踏めば懲戒解雇は有効に行うことはできる。
就業規則の定めによっては、退職金は不支給もしくは大幅な減額となる。
今後の再就職も通常の解雇と比べて非常に困難となる。また労働者が会社に与えた損害についても厳しく追及される。使用者がリストラをスムーズに行うためや退職金の支払いを回避するため、退職強要の一手段として、労働者のミスや職務態度を理由に懲戒解雇をほのめかすことはしばしば行われる。会社側が内部告発を行った者への制裁として懲戒解雇を行うことがあり、会社都合退職を求める労働者側との争いになることがある。
理由
具体的にどのような行為が労働者にあれば懲戒解雇となるかは各会社の就業規則の定めによる。もっとも、懲戒解雇は会社の懲戒処分のうち最も重いものであるため、行為と処罰との均衡、社会通念上の相当性が認められなければならない。さらに実際の解雇に当たっては事前弁明の機会の付与等、手続きの適正が求められる。
労働基準法上の「労働者の責に帰すべき事由」の例としては以下のように示されているが、具体的には個別に判断される(昭和23年11月11日基発1637号、昭和31年3月1日基発111号)。実際の就業規則においても、これらに準じた構成となっていることが多い。
- 事業場における盗取、横領、傷害など刑法犯に該当する行為のあった場合
- 賭博、風紀紊乱等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合
- 雇い入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合
- 他の事業場へ転職した場合
- 原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
- 出勤不良または出欠常ならず、数回に渡って注意を受けても改めない場合