慣用句

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慣用句(かんようく)とは、習慣として長い間広く使われてきた、ひとまとまりの言葉・文句や言い回しのことで、類語に成句成語がある。

概要

慣用句とは、二語以上の単語が固く結びつき、全く異なる意味を持つものを指し、言語学的にはイディオムと呼ばれる。慣用句は、会話や文章上で定型句として用いられる。

慣用句と(ことわざ)は混同されやすく、分類も困難であるため、諺と慣用句双方を掲載した辞典が多い。厳密には、諺は一つの文で独立語として成立し、格言、教訓や皮肉、物事の法則を含ませているものである(例『弘法も筆の誤り』『負けるが勝ち』『三日坊主』など)。そして品詞では名詞に区分される。

対して、慣用句とは独立した単語の複合により、異なった意味を持つようになった定型句であり、それらは通常、独立語、すなわち名詞として扱わない。たとえば、「舌の根の乾かぬうちに」という慣用句は、「舌(名詞)」+「の(助詞)」+「根(名詞)」+「の(助詞)」+「乾か(動詞の未然形)」+「ぬ(助動詞)」+「うち(名詞)」+「に(助詞)」で構成され、それぞれ異なる意味を持つ。それに対し、「舌の根の乾かぬうちに」で“先ほど口にした直後に”という意味を持つ慣用表現となり、この言葉の後には決まって前の文脈を否定する表現が来る。「足が出る」など動詞、形容詞、形容動詞を述語とする場合は会話や文章の状況に応じて活用することがある(ただし、『足下から鳥が発つ』などのように動詞で終わっても諺として分類されるものがある)。また、慣用句は諺のように教訓や格言として機能するものではなく、あくまで日常の行動や物事の状態などを面白おかしく表現したりしたものである。

すなわち、慣用句は一種の比喩暗喩)表現でもあり、それらの意味は固定化している。したがって、正しく意味を理解しないと、頓珍漢な使用をしてしまったり、使用した相手に対して間違った応答をしてしまったりすることがある。

成句は、慣用句の定義とほぼ重なるが、「無くて七癖」のように古くから慣習的に用いられている文句も含み、諺にも近いニュアンスをもつこともある[1]

成語も、成句・慣用句と混同して用いられることが多いが、故事成語の略として使われることもある。また、中国語圏では、日本における四字熟語とほぼ同義に用いられる。

慣用句の例

体の一部分を用いた表現は非常に多い。

  • 毛 (毛ほどもない。〜に毛が生えた程度(のもの)。身の毛がよだつ。など)
  • 肌 (肌が合う。肌を脱ぐ。肌で感じる。など)

恵みによくす

  • 頭 (頭に来る。頭を丸める。頭でっかち。など)
  • 顔 (顔をつぶす。顔が立つ。顔が広い。顔から火が出る。など)
  • 眉 (眉をひそめる。眉を吊り上げる。眉唾。など)
  • 目 (目がない。目が高い。目を光らせる。目を三角にする。など)
  • 涙 (涙を飲む。涙を誘う。涙に暮れる。など)
  • 耳 (耳が痛い。初耳。聞く耳を持たぬ。など)
  • 鼻 (鼻が曲がる。鼻が高い。鼻であしらう。など)
  • 口 (口を利く。口から先に生まれる。口を揃える。大口をたたく。など)
  • 歯 (歯が立たない。歯に衣着せぬ。歯の浮くような。など)
  • 舌 (舌を巻く。舌がもつれる。舌の根の乾かぬうち。など)
  • 頬 (頬を染める。頬がゆるむ。など)
  • 顎 (顎を出す。顎をなでる。顎で使う。など)
  • 首 (首を長くして待つ。首が回らない。首の皮一枚で繋がる。など)
  • 肩 (肩を落とす。肩を持つ。肩の荷がおりる。肩を並べる。など)
  • 手 (手がかかる。手を付ける。手が込む。手が空く。手のひらを返す。など)
  • 指 (指をくわえて待つ。後ろ指をさす。五指に入る。など)
  • 爪 (爪に火をともす。爪を隠す。爪に爪なく瓜に爪あり。など)
  • 腕 (腕が鳴る。腕が立つ。腕を上げる。など)
  • 骨 (骨身にしみる。骨が折れる。骨を休める。など)
  • 腹 (腹が立つ。腹に据えかねる。腹を割る。腹を決める。など)
  • 心臓 (心臓が強い。心臓に毛の生えたような。など)
  • 肝 (肝を冷やす。肝に銘ずる。肝を潰す。など)
  • 血 (血の気が多い。血で血を洗う。血に飢えた。など)
  • 臍 (お臍で茶を沸かす。臍を曲げる。など)
  • 腰 (腰がひける。腰が低い。弱腰。など)
  • 尻 (尻をぬぐう。尻が軽い。尻が長い。など)
  • 足 (足が出る。足が棒になる。揚げ足を取る。足並みを揃える。など)
  • 膝 (膝を打つ。膝を交える。膝が笑う。など)
  • 臑(すね) (臑に傷がある。臑齧り。臑から火を取る。など)
  • 踵 (踵を返す。踵を接する。踵を廻らす。など)
  • その他 (肘鉄砲を食わせる。爪の垢を煎じて飲む。など)
  • 身に付ける物(襟を正す。袖を濡らす。下駄を預ける。褌を締め直す  など)

身近な動物に准えて様々な状況を説明する際にも利用される。身近な動物、とりわけ猫に関するものが多い。

  • 猫(猫の額。猫の手も借りたい。猫なで声。猫糞。猫かわいがり。借りてきた猫。など)
  • 犬(犬死に。咬ませ犬 など)
  • その他 (鰻の寝床。ミミズが這った様。鵜の目鷹の目。蚊の泣くような。など)

食品を用いた例も見られる。

  • (ぬかみそが腐る。鯖を読む。など)
  • 水 (湯水の如く など。)
    • 但し、日本語で「金を湯水の如く使う」と言えば「無駄遣いをする」という事のたとえであるが、ペルシャ語で「金を水の如く使う」と言えば「無駄のない金の使い方をする」事のたとえであるという。

その他、道具や部品、自然を用いる例も見られ、このような慣用句では外来語に由来するものもある。

  • 道具の例(楯を突く。財布の紐が固い。梯子を外す など)
  • 自然の例(峠を越す。立つ瀬がない)
  • 外来語の例(メスを入れる。ピリオドを打つ。レッテルを貼る など)

言語学における慣用句

言語学における慣用句、すなわちイディオム(idiom)は、慣習的に意味と用例が固定的な連語表現と定義されており、語彙的慣用句(lexical idiom)、句慣用句(phrasal idiom)、枠組み慣用句(formal idiom)などの類型がある。

脚注

  1. 『使い方の分かる類語例解辞典』小学館(1994年)

参考文献

関連項目