感染症
感染症(かんせんしょう、英語:infectious disease)とは、寄生虫、細菌、真菌、ウイルス、異常プリオン等の病原体の感染により、「宿主」に生じる望まれざる反応(病気)の総称。
Contents
総論
感染症の歴史は生物の発生と共にあり、有史以前から近代までヒトの病気の大部分を占めてきた。医学の歴史は感染症の歴史に始まったと言っても過言ではない。1929年に初の抗生物質であるペニシリンが発明されるまで根本的な治療法はなく、伝染病は大きな災害と捉えられてきた。
その後の微生物学・免疫学・薬理学・内科学・外科学・公衆衛生学の進歩を背景として感染症の診断・治療・予防を扱う感染症学が発展しつつある今日でも、世界全体に目を向けると感染症は未だに死因の約1/4を占める。特にマラリア・結核・AIDS・腸管感染症は発展途上国で大きな問題であり、感染症学のみならず保健学・開発学など集学的な対策が緊急の課題である。
先進国においては新興感染症・再興感染症に加えて、多剤耐性菌の蔓延やバイオテロの脅威が公衆衛生上の大きな課題として注目を集める一方、高度医療の発達に伴って手術後の患者や免疫抑制状態の患者における日和見感染が増加するなど、日常的にもまだまだ解決に向かっているとは言えない。
分類
感染場所による分類
- 脳など中枢神経
- 髄膜炎、脳炎など
- 顔
- 鼻炎、副鼻腔炎、咽頭炎、喉頭炎、眼窩蜂窩織炎など
- 首
- 喉頭蓋炎、咽頭後壁膿瘍、亜急性甲状腺炎、レミエール症候群など
- 肺・気管支
- 肺炎、気管支炎、結核など
- 心臓・血管
- 感染性心内膜炎、心外膜炎、心筋炎、感染性大動脈炎、敗血症など
- 腹部・消化器
- 胆嚢炎、胆管炎、肝炎、肝膿瘍、膵炎、脾膿瘍、胃炎・胃潰瘍、腸炎、虫垂炎、腸腰筋膿瘍、クラミジア肝周囲炎など
- 泌尿器
- 腎盂腎炎、膀胱炎、前立腺炎、膣炎、骨盤内感染症など
- 皮膚
- 蜂窩織炎、脂肪織炎、ガス壊疽、せつ、よう、伝染性膿痂疹(とびひ)、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群、帯状疱疹、水痘、麻疹、風疹、皮膚白癬、疥癬など
- 関節、筋肉、骨
- 感染性関節炎、骨髄炎、筋膜炎、筋炎、脊椎カリエスなど
- リンパ節
- リンパ節炎
- 口腔
- 歯周炎、齲蝕、根尖性歯周炎、インプラント周囲炎など
病原体の種類による分類
- 真正細菌感染症
- レンサ球菌(A群β溶連菌、肺炎球菌など)、黄色ブドウ球菌(MSSA、MRSA)、表皮ブドウ球菌、腸球菌、リステリア、髄膜炎菌、淋菌、病原性大腸菌(O157:H7など)、クレブシエラ(肺炎桿菌)、プロテウス菌、百日咳菌、緑膿菌、セラチア菌、シトロバクター、アシネトバクター、エンテロバクター、マイコプラズマ、クロストリジウムなどによる各種感染症
- 結核・非結核性抗酸菌、コレラ、ペスト、ジフテリア、赤痢、猩紅熱、炭疽、梅毒、破傷風、ハンセン病、レジオネラ肺炎(在郷軍人病)、レプトスピラ症、ライム病、野兎病、Q熱など
- リケッチア感染症
- クラミジア感染症
- ウイルス感染症
- インフルエンザ、ウイルス性肝炎、ウイルス性髄膜炎、ウイルス性胃腸炎、ウイルス性結膜炎、後天性免疫不全症候群 (AIDS)、成人T細胞白血病、エボラ出血熱、黄熱、風邪症候群、狂犬病、サイトメガロウイルス感染症、重症急性呼吸器症候群 (SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、進行性多巣性白質脳症、水痘・帯状疱疹、単純疱疹、手足口病、デング熱、日本脳炎、伝染性紅斑、伝染性単核球症、天然痘、風疹、急性灰白髄炎(ポリオ)、麻疹、咽頭結膜熱(プール熱)、マールブルグ出血熱、腎症候性出血熱、ラッサ熱、流行性耳下腺炎、ウエストナイル熱、ヘルパンギーナ、チクングニア熱など
- プリオン病
- 牛海綿状脳症 (BSE)、クールー病、クロイツフェルト・ヤコブ病、致死性家族性不眠症 (FFI)、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群 (GSS) など
病態からの分類
- 一次感染と二次感染
- 最初の病原体による感染を一次感染、続いて別の病原体による感染を二次感染という。また、同一宿主に2種類以上の病原菌によって感染が起こることを混合感染という。二次感染の一例として、一次感染を抗生物質で排除してもその抗生物質抵抗性の常在菌が異常増殖を起こす菌交代現象がある。
- 持続感染と不顕性感染と潜伏感染
- 持続感染:病原体が生体から完全に排除されずに症状が治まっている状態。そういった状態の人を保菌者という。
- 不顕性感染:病原体に感染しても発症しない場合をいう。
- 潜伏感染:病原体に感染してもすぐ症状が出るわけではない。感染しても発症していない状態をいう。その期間を潜伏期間という。
公衆衛生学的な分類
- 新興感染症
- 輸入感染症のうち、継続的に国内での発症が見られるようになったもの。
- 例:後天性免疫不全症候群
- 伝染病
- 病気を起こした個体(ヒトや動物など)から病原体が別の個体へと到達し、連鎖的に感染者数が拡大するもの。
- 輸入感染症
- 旅行者や輸入食品を介して病原体が海外から持ち込まれ、国内では稀な感染症を生じるもの。
- 例:重症急性呼吸器症候群、デング熱、黄熱病
法的な分類
感染症法による。
- 一類感染症
- 感染力・重篤度・危険性が極めて高く、早急な届出が必要になる
- 感染力・重篤度・危険性が高く、早急な届出が必要になる
- 急性灰白髄炎、結核、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群(SARS、コロナウイルスに限る)
- 三類感染症
- 感染力・重篤度・危険性は高くは無いものの、集団発生を起こす可能性が高い為、早急な届出が必要になる
- 人同士の感染は無いが、動物・飲食物等を介して人に感染する為、早急な届出が必要になる
- 国家が感染症発生動向の調査を行い、国民・医療関係者・医療機関に必要な情報を提供・公開し、発生及び蔓延や伝染を防止する必要がある感染症
- 新たに人から人に伝染する様になったウイルスを病原体にするインフルエンザ
- 指定感染症
- 既知の感染症の中で、上記の1-3類に分類されない感染症で、1-3類に準じる対応が必要な感染症(新型インフルエンザ)
- 新感染症
- 感染した人から他の人に伝染すると認められる疾病で、既知の感染症・症状等が明らかにそれまでの物とは異なり、その感染力と罹患した時の重篤性から判ずるに、極めて危険性が高い感染症
診断
感染症は痛み・発熱などを契機に気付かれることが多いが、これらの症状はまた腫瘍やアレルギーなど感染以外によっても惹き起こされるため、診断学を踏まえた問診や身体診察により適切に鑑別を絞り込むことによって、必要十分な検査による診断が可能となる。
身体診察による診断の例として、蜂巣炎での皮膚発赤のように視診で気付かれるもの、気管支炎での呼吸器雑音など聴診で気付かれるもの、虫垂炎でのMcBurney圧痛点や腸腰菌膿瘍におけるPsoas signやObturator signなど触診で気付かれるものがある。
- 微生物学的検査の例: グラム染色、抗酸菌染色、直接鏡検、培養、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
- 化学反応を用いた検査の例: ピロリ菌のウレアーゼ活性試験、大腸菌の尿中亜硝酸検出
- 免疫学的検査の例:
- 画像診断の例:
治療
感染症の多くは安静・休養・栄養・水分補給による免疫力の回復、あるいは体位ドレナージによる排痰促進や利尿などの補助療法を通じて自然に治癒するが、先進諸国においては治癒を早めたり、徹底したり、後遺症を予防したりする目的でしばしば抗生物質/抗菌薬による化学療法 (細菌)や、抗ウイルス治療が併用される。また、局所感染においては切開排膿やドレナージといった外科的治療が併用される。敗血症・ショック・全身性炎症反応症候群(SIRS)などを合併する重症感染症においては、ときに抗体製剤や血漿交換を併用する。
予防
- 宿主の免疫力を保つためには、日常から適切な栄養と休養を要する。しかし、例えば南北格差による貧困は、時にこれらを困難にする。
- 特定の病原体に対する免疫の向上には、ワクチンの予防接種が有効である。感染・発症・伝染・重症化を防ぐことが期待できる。
- 伝染病において、病原体を体内に侵入させないためには感染経路の遮断が有効であり、感染管理や消毒・滅菌などの要する。
- 集団発生を早期発見・予防するために、医療機関・地域・国家・世界の様々なレベルで感染症サーベイランスが行われる。
消毒と滅菌
- 消毒
- 病原微生物を殺すこと、または病原微生物の能力を減退させ病原性をなくすことである。よって、すべての微生物を殺すことではない。一般に消毒に用いられる物質を消毒剤という。
- 滅菌
- 病原体と非病原体の有無に関わらず、すべての微生物を死滅させる、あるいは除去すること。手術における滅菌は無菌操作と呼ばれる。
法・制度
日本
感染症を予防するための法律には以下のようなものがある。
- 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(通称「感染症法」、1999年4月1日施行)
- 検疫法
- 予防接種法
- 学校保健法
非感染性疾患との関連
一部の感染症は非感染性疾患の発症に強い関連を持つことが、近年明らかになりつつある。
- ヒトパピローマウイルスによる子宮頚癌・外陰部癌
- B型肝炎・C型肝炎による肝細胞癌
- ヘリコバクター・ピロリ菌による胃癌
- エプスタイン・バール・ウイルスによるバーキットリンパ腫
- クラミジアによる動脈硬化
- 腸内細菌叢異常による炎症性腸疾患 (IBD)
ヒト以外の感染症
関連項目
- 微生物/病原体/感染/感染経路
- 伝染病/法定伝染病/学校伝染病
- 感染症学/感染管理/感染制御学/公衆衛生学/疫学/感染症サーベイランス/予防接種
- 医学/歯学/獣医学
- 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律/検疫法
- 感染症の歴史/
- 性感染症/性病
- SEIRモデル
外部リンク
- 国立感染症情報センター(IDSC)
- FORTH(海外感染症情報) - 厚生労働省検疫所
- アメリカ疾病管理予防センター(CDC)
- Disease Outbreak News - WHO
- 地球温暖化と感染症 いま、何がわかっているのか? (PDF) - 環境省地球環境局総務課研究調査室
- 感染性疾患: メルクマニュアル