忠実加群
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環 A 上の(左または右)加群 M は、その零化イデアル AnnA (M) が {0} であるときに、忠実(英: faithful)であるという。言い換えると、各 [math]\alpha \in A \setminus \{0\}[/math] の作用が自明でない(ある x ∈ M に対して α・x ≠ 0)ということである。別の言い方をすれば、対応する表現 [math]\psi\colon A \to \operatorname{End}(M)[/math] が単射である。
任意の加群に対して、次のようにして忠実加群を対応させることができる。環準同型 [math]\psi\colon A \to \operatorname{End}(M)[/math] は、単射準同型 [math]\tilde\psi\colon A/\ker\psi \to \operatorname{End}(M)[/math] によって分解する。ker ψ は AnnA (M) に他ならないので、[math]\tilde\psi[/math] によって M に A / AnnA (M)-加群としての構造が入り、このとき [math]\tilde\psi[/math] は単射なので M は忠実である。
性質
A-加群 M の任意の元 x に対して Mx = M とおくと、写像
- [math]\phi\colon A \to \prod_{x\in M} M_x,\quad a\mapsto (ax)_{x\in M}[/math]
は A-準同型である。このとき ker φ = AnnA (M) なので、準同型定理より
- [math]A/\operatorname{Ann}_A(M)\cong\phi(A)\subseteq\prod_{x\in M}M_x[/math]
を得る。したがって M が忠実加群であれば、A は(自然にA-加群と見て)[math]\prod_{x\in M} M_x[/math] の部分加群に同型である。
参考文献
- 岩永恭雄・佐藤眞久 『環と加群のホモロジー代数的理論』 日本評論社、2002年、第1版。ISBN 4-535-78367-5。