応用情報技術者試験
応用情報技術者試験(おうようじょうほうぎじゅつしゃしけん、Applied Information Technology Engineer Examination、略号AP)は、情報処理の促進に関する法律第29条第1項の規定に基づき経済産業大臣が行う国家試験である情報処理技術者試験の一区分。
対象者像は「高度 IT 人材となるために必要な応用的知識・技能をもち、高度IT 人材としての方向性を確立した者」。情報処理技術者試験制度のスキルレベル3(スキルレベルは1~4が設定されている。)に相当する。
第一種情報処理技術者認定試験(1969年)、第一種情報処理技術者試験(1970年-2000年)、ソフトウェア開発技術者試験(2001年-2008年)の後継区分にあたる[1]。
概要
対象者像は「高度IT人材となるために必要な応用的知識・技能をもち、高度IT人材としての方向性を確立した者」と規定しており、主に数年の経験を積んだシニアプログラマやシステムエンジニアを主対象としているが、現在ではシステム開発者側だけでなく、これまでシステムアドミニストレータ試験で対象としていた利用者側にもある程度対応した試験となっている(この点は基本情報技術者試験も同様である)。
一般的に基本情報技術者試験(スキルレベル2)に合格した者が次に目指す試験区分として認知されており、高度情報処理技術者試験(スキルレベル4)への登竜門的な試験区分でもある。基本情報技術者試験と同様に出題分野は多岐にわたるが、より深い知識と応用力を試され、午後試験では記述式の設問が大幅に増える。単純に知識をもとにした回答だけではなく、論理的な回答をアウトプットする能力が問われる。
高度情報処理技術者試験が各分野(情報セキュリティ、データベース、ネットワーク、エンベデッドシステムなど)のスペシャリスト試験的な側面を持つ一方、応用情報技術者試験はIT全般に関する幅広い知識が必要とされるゼネラリスト的な試験として認知されている。ただし午後問題は選択式のため、離散数学・応用数学・アルゴリズム・プログラミングなどといった数理科学的要素の強い問題を回避することも可能である。そのため、午後試験でアルゴリズムに関する問題が必修である基本情報技術者試験を受験せずに、いきなり応用情報技術者試験に挑戦する人も時々見られる(主にプログラミングが苦手で、逆に経営戦略やマネジメントが得意な経済学部・経営学部・商学部の大学生にこの傾向が見られる)。
データベースやネットワークなどのテクノロジの知識を問う範囲は、基本情報技術者試験では全問マークシート形式だったのに対し、応用情報技術者試験では午後試験が記述式であるという違いはあるものの、出題内容のレベル自体は基本情報技術者試験とそれほど大きな差はないと言われている。
一方、プロジェクトマネジメントやシステム監査などのマネジメントの知識を問う範囲と、簿記や経営分析などのストラテジの知識を問う範囲は、基本情報技術者試験よりもかなり上等であり、特にストラテジに関しては日商簿記検定1級や全経簿記能力検定上級に近いレベルの内容が出題されることも少なくない。
IPAの統計資料によれば、社会人の受験率が高いことも相まって試験の受験率自体が60~65%程度と低くなっており、その中での受験者の合格率も20%前後と比較的低い。また、受験者層はITエンジニアや情報系専攻出身者が中心である。
沿革
- 昭和44年(1969年)第一種情報処理技術者認定試験として実施。
- 試験的な意味を含めた開催であった。合格率は7.7%。
- 昭和45年(1970年)第一種情報処理技術者試験として実施。
- シニアプログラマーやシステムエンジニアが対象であり、プログラミングに関する問題が出題されていた。
- 昭和61年(1986年)情報処理技術者試験は年二回実施されることとなり、第一種情報処理技術者試験は秋期実施。
- 平成元年(1989年)春期実施に変更。
- 平成7年 (1995年)前年秋期実施の制度改正によりプログラミングに関する問題を出題範囲から除外、電卓が使用可能、一部免除制度導入、合格証書の寸法がB5からA4に変更、英語名称変更[2]。
- 平成12年(2000年)第一種情報処理技術者試験の一部免除制度はこの年をもって廃止。
- 経過措置により、最後の免除は平成15年度春期試験。
- 平成13年(2001年)ソフトウェア開発技術者試験と改称、前年に廃止されたプロダクションエンジニア試験の範囲を含むこととなった。
- より設計分野の出題が多くなり、情報科学分野やコンピュータシステムなどは基本情報技術者試験の範囲とされた。
- 平成15年(2003年)電卓が使用禁止となる。
- 平成17年(2005年)受験者数増加に伴い、春期と秋期の年二回実施されることとなった。
- 平成21年(2009年)制度改正により応用情報技術者試験と改称、出題範囲・形式を変更。
- ソフトウェア開発技術者試験がソフトウェア開発に重点を置いた出題範囲であったのに対し、応用情報技術者試験はこれまでシステムアドミニストレータ試験で対象としてきた利用者側にも対応した広い出題範囲となり、「プロジェクトマネジメント」「ITサービスマネジメント」「システム監査」「経営戦略」といった問題が午後で選択可能となった。
- 制度改正後の初回試験の合格率は26.1%[3]。
- 2014年(平成26年)春期試験より、情報セキュリティ分野からの出題が強化される。午前試験でセキュリティ分野からの出題問題数が増えた他、午後試験でセキュリティ分野が必須問題になった。
形式
- 午前
- 午後
- 試験時間150分。記述式で11問出題、うち1問(情報セキュリティ)が必修、10問(ストラテジ分野全般・プログラミング・システムアーキテクチャ・データベース・ネットワーク・組込みシステム開発・情報システム開発・プロジェクトマネジメント・サービスマネジメント・システム監査)中から4問を選択して解答。
- ※平成27年春期までは、1問(情報セキュリティ)が必修、2問中(ストラテジ分野全般・プログラミング)から1問、8問(システムアーキテクチャ・データベース・ネットワーク・組込みシステム開発・情報システム開発・プロジェクトマネジメント・サービスマネジメント・システム監査)中から4問をそれぞれ選択して解答するという形式だった。つまり、回答数が6問から5問に少なくなる。
- 試験時間150分。記述式で11問出題、うち1問(情報セキュリティ)が必修、10問(ストラテジ分野全般・プログラミング・システムアーキテクチャ・データベース・ネットワーク・組込みシステム開発・情報システム開発・プロジェクトマネジメント・サービスマネジメント・システム監査)中から4問を選択して解答。
午前、午後共に60%以上の得点で合格。なお、午前試験で不合格となった場合、午後の解答は採点されない。
ソフトウェア開発技術者試験
ソフトウェア開発技術者試験(ソフトウェアかいはつぎじゅつしゃしけん、Software Design & Development Engineer Examination、略称ソフ開、略号SW)は、かつて情報処理技術者試験にあった区分である。現行の応用情報技術者試験の前身にあたる試験である。
2000年(平成12年)まで実施された旧第一種情報処理技術者試験の後継の試験として、2001年(平成13年)に初回試験を実施。このときは、年1回春期のみの開催だった。受験者の増加に伴い、2005年(平成17年)以降は秋期にも行われるようになり、年2回の開催となった。2008年(平成20年)秋期まで実施され、2009年(平成21年)春期より応用情報技術者試験に移行した。
試験の難易度としては基本情報技術者試験よりも高く、高度情報処理技術者試験よりは低いという設定だが、合格率は10.7%~18.2%とかなり幅があるものであり、年によりバラツキがあった。
試験形式
現行の応用情報技術者試験では午前と午後の2部構成となっているが、旧制度では午前、午後I、午後IIの3科目に分かれていた。また、現在、午後試験は必須問題であるセキュリティ以外は選択問題となっているが、旧制度ではすべての問題が必須解答となっていた。
現行の応用情報技術者試験ではマネジメントやストラテジに関する問題も選択可能だが、旧制度ではマネジメントやストラテジに関する範囲は午後試験では出題されなかった(午前試験では出題されていた)。そのため、システム開発者向け試験という性格が現行の試験以上に強かった。
午前、午後I、午後IIのすべての科目で60%以上の得点率を獲得した場合のみ合格となる。
- 午前
試験時間150分。四肢選択式(マークシート使用)で80問出題され全問解答。出題範囲はコンピュータサイエンスに関する事項が多く、問題のレベルも高かった。
満点の60%を基準点とし、基準点以上で午前試験通過となる。基準点に達しなかった場合は不合格で、午後I・午後IIは採点されない。
- 午後I
試験時間120分。記述式で6問出題、全問解答。ソフトウェア開発技術に関する問題が中心だが、ネットワークやデータベースに関する問題も出題されていた。
満点の60%を基準点とし、基準点以上で午後I試験通過となる。基準点に達しなかった場合は不合格で、午後IIは採点されない。
- 午後II
試験時間60分。記述式で1問出題、全問解答。例年、SQLまたはアルゴリズムに関した複雑な問題が出題されていた。
満点の60%を基準点とし、基準点以上で最終的に合格となる。基準点に達しなかった場合は不合格。
その他
- ソフトウェア開発技術者試験の合格者は合格の日から2年間、システムアナリスト試験、プロジェクトマネージャ試験、アプリケーションエンジニア試験の午前試験の科目免除を受けることができた。
- 2009年(平成21年)以降は高度情報処理技術者試験の午前Iの科目免除を受けられた。
合格者の特典
- 合格の日から2年間、高度情報処理技術者試験の午前Iの科目免除が受けられる。
科目免除又は任用資格など。これには従前の第一種情報処理技術者およびソフトウェア開発技術者を含む。
- 弁理士試験の科目免除
- 中小企業診断士試験の科目免除
- 技術陸曹・海曹・空曹及び予備自衛官補(技能公募)の任用資格。ちなみに、自衛官採用試験での評価は実用英語技能検定(英検)1級よりも高い。
- 警視庁特別捜査官の3級職(巡査部長)のコンピュータ犯罪捜査官の任用資格
- 日本測量協会の空間情報総括監理技術者試験の受験資格(例示は、「第一種情報処理技術者及びこれに相当する情報処理技術者等」とされている。)
- 国家公務員および地方公務員の採用条件・階級評価となることがある[4]。
- 高等学校、大学、大学院、短期大学等では、入学試験での優遇[5]や、入学後の単位認定[6]の対象となることがある。
- 工業高等学校や高等専門学校などのジュニアマイスター顕彰制度において、応用情報技術者試験の合格者には30ポイントが付与される[7][8][9]。このポイントは、実用英語技能検定(英検)1級よりも高く、技術士補、測量士、第三種電気主任技術者(電験3種)、電気通信主任技術者、公害防止管理者(ダイオキシン、大気1種・3種、水質1種・3種)、計量士、第一級総合無線通信士などと同等の評価である。
その他
- IT人材育成センター国家資格・試験部の統計資料による累計値
区分 受験者数(人) 合格者数(人) 合格率(%) 第一種情報処理技術者 昭和44年度から平成5年度 680,438 92,183 13.5 平成6年度から平成12年度 988,080 133,600 13.4 ソフトウェア開発技術者 457,000 68,305 14.9
- 以降は応用情報技術者試験での数値
- 統計資料の応募者・受験者・合格者の推移表[3]において、上記の数値は本試験に計上されている。
関連項目
- 情報処理推進機構(IPA)
- IT人材育成センター国家資格・試験部(旧:情報処理技術者試験センター)
- 情報処理技術者試験
- 基本情報技術者試験
- 情報セキュリティマネジメント試験
- 高度情報処理技術者試験
- 日本の情報に関する資格一覧
脚注
- ↑ 試験制度の沿革 - 独立行政法人情報処理推進機構、2017年10月20日閲覧。
- ↑ 第一種情報処理技術者試験の英語名称は、当初“Senior Programmer Examination”であったが、平成7年(1995年)より“Class I Information Technology Engineer Examination”に変更された。
- ↑ 3.0 3.1 情報処理技術者試験 推移表 (PDF) (IT人材育成センター国家資格・試験部)
- ↑ 例えば、警視庁では、警察官採用試験の第1次試験の成績の一部に利用される。資格経歴等の評定(警察官)_採用情報_平成29年度警視庁採用サイト
- ↑ IPA_独立行政法人_情報処理推進機構:情報処理技術者試験:大学活用(入試優遇)
- ↑ IPA_独立行政法人_情報処理推進機構:情報処理技術者試験:大学活用(単位認定)
- ↑ 若狭東高等学校_ジュニアマイスター顕彰制度について
- ↑ 岡山県立笠岡工業高等学校_ジュニアマイスター顕彰に係わる区分表
- ↑ 高知工業高等学校HP ジュニアマイスター
外部リンク
- 情報処理推進機構 IT人材育成センター国家資格・試験部(旧:情報処理技術者試験センター)
- 平成21年度からの試験体系図(新着情報)
- 応用情報技術者試験(AP)(情報処理技術者試験制度 - 制度の概要)
- ソフトウェア開発技術者試験(SW) 平成13年度春期から平成20年度秋期まで(同上)
- 第一種情報処理技術者試験(一種) 平成6年度秋期から平成12年度秋期まで(同上)
- 第一種情報処理技術者試験 昭和45年から平成6年春期(同上)
- 第一種情報処理技術者認定試験 昭和44年度(同上)