山伏
山伏(やまぶし)とは、山中で修行をする修験道の行者。「修験者」(しゅげんじゃ)とも言う。
概要
山伏は、奈良吉野山地の大峯山(金峯山寺)を代表に、大山(鳥取県)や羽黒山(山形県)など日本各地の霊山と呼ばれる山々を踏破(抖擻)し、懺悔などの厳しい艱難苦行を行なって、山岳が持つ自然の霊力を身に付ける事を目的とする。
山岳信仰の対象となる山岳のほとんどは、一般の人々の日常生活からはかけ離れた「他界」に属するものであり、山伏たちは山岳という他界に住んで山の霊力を体に吸収し、他界や現界をつなぐ者としての自己を引き上げて、それらの霊力を人々に授ける存在とされていた。
富士講や熊野詣が盛んな時代には、先達と呼ばれる山伏たちが地方の信者をバックアップするために全国の霞場(講)を組織的に巡回し、ガイドとして参拝に同行した[1]。
山伏は、頭に頭巾(ときん)と呼ばれる多角形の小さな帽子のような物を付け、手には錫杖(しゃくじょう)と呼ばれる金属製の杖を持つ。袈裟と、篠懸(すずかけ)という麻の法衣を身に纏う。また、山中での互いの連絡や合図のために、ほら貝を加工した楽器を持つ。
修験十六道具
山伏独特の修験十六道具は、それぞれ不二の世界、十界、不動明王、母胎などを象徴する。これらを身にまとい行を修めることにより、修験者はその力を身につけることができるのである。
1.頭襟 - 2.鈴懸(篠懸) - 3.結袈裟(不動袈裟) - 4.最多角念珠 - 5.法螺 - 6.斑蓋(檜笠) - 7.錫杖(菩薩錫杖) - 8.笈(箱笈) - 9.肩箱 - 10.金剛杖 - 11.引敷 - 12.脚半 - 13.八目の草鞋 - 14.檜扇 - 15.柴打 - 16.走縄(螺緒) - 17.簠簋扇 - (カンマン着)
上がその一覧であるが、1.から12.を山伏十二道具、1.から16.までを山伏十六道具という。 胸に付けられたぼんぼりは結袈裟の梵天という。
修行体験
山伏は神仏習合の影響が強く残る神社仏閣に所属する僧侶や神職がなることが多いほか、普段は社会人として働く在家の信者が、「講」を組織して修行の時だけ山伏となることも多い。山伏の講の多くは真言宗系当山派の醍醐寺か天台宗系本山派の聖護院のどちらかに所属する(他に吉野の、教派神道や単立寺院の山伏などどちらにも属さない場合もある)。羽黒山では毎年9月、希望者が白装束を着て入峰し、断食、滝打ち、火渡り、床堅(座禅)、忍苦の行(南蛮いぶし)などの活動を通して山伏修行を体験できる。
脚注
参考文献
- 和歌森太郎著『山伏:入峰・修行・呪法』(中公新書、中央公論新社) ISBN 4121700481
- 宮家準著『修験道:その歴史と修行』(講談社学術文庫、講談社) ISBN 4-06-159483-4
- 宮家準編『山岳修験への招待-霊山と修行体験-』(新人物往来社) ISBN 9784404039897