尿素
尿素(にょうそ、英: urea)は、示性式 CO(NH2)2 と表される有機化合物。カルバミドともいう。無機化合物から初めて合成された有機化合物として、有機化学史上、重要な物質である。
性質
無色無臭の結晶で、哺乳類や両生類の尿に含まれる。水に容易に溶け、その溶解度は 208 g/100 mL (20 ℃)。非線形光学現象を示す。加熱すると分解し、アンモニア、ビウレット、シアヌル酸に変わる。
尿素の結晶の構造には、小分子が入るのにちょうど良い大きさの空孔がある。そのため尿素は、ヘキサンなど、さまざまな化合物と安定な包接化合物を作る。過酸化水素との包接化合物(尿素-過酸化水素付加体、略称 UHP)は、固体の形で取り扱える酸化剤として市販されている。
窒素の排泄
ヒトがタンパク質などから取り入れた窒素のうち、過剰分のほとんどが尿の中に尿素の形で排泄される(成人は尿素を 1日 30 g ほど排泄する)。生体内では、尿素回路によりアンモニアから尿素が産生される。
最も簡単な窒素化合物はアンモニアであるが、人体に有害なため、安全な尿素として蓄えられ水溶液として排泄される。ただし水溶性であるから水と共に捨てなければならず、濃縮にも一定のエネルギーを要する。水の確保が重要な問題となる生活ではこの点で尿酸にしたほうが有利である。
窒素の排泄は、硬骨魚類では主にアンモニア、哺乳類、両生類、軟骨魚類では主に尿素、鳥類や爬虫類の多くでは尿酸のかたちで行われる[1][2]。なお、軟骨魚類は、浸透圧調節のため、尿素やトリメチルアミンオキサイドをオスモライトとして体内に蓄積している[3]。
用途
尿素の用途として、保湿クリーム・肥料などとして広く使われており、ホルムアルデヒド (HCHO) と反応させることで尿素樹脂(ユリア樹脂)も得ることが出来る。高濃度の水溶液はタンパク質、核酸を変性させる作用がある。
窒素を多く含み、肥料としても使用される。
水と混ぜると吸熱効果が現れる。硝酸アンモニウムと尿素の混合物を水の入った袋と同封し、衝撃を加えて混合物を反応させ冷却効果を得る携帯用の冷却パックとしての用途もある。
またディーゼルエンジンでは、尿素を水に溶かした尿素水を使って窒素酸化物を分解している(尿素SCRシステム)[2]。具体的には、尿素をディーゼルエンジンの排熱で分解し、放出されるアンモニアと排気中に含まれる窒素酸化物を化学反応させ、水と窒素に還元させる。
航空機の機体や滑走路に散布する凍結防止剤として尿素を主成分とした防氷剤として使用される。
歴史
尿素は、人間の手によって初めて無機化合物のみから合成された有機化合物として、有機化学の歴史上非常に重要な化合物である。 フリードリヒ・ヴェーラーは1828年にその合成に成功した。彼は、シアン酸アンモニウムの水溶液を加熱して尿素が生成することを確認した。この合成法はヴェーラー合成と呼ばれている。
その当時の化学では、有機化合物は生物にしか作り出すことができないという考え(生気論)が正当とされてきたが、ヴェーラーの実験結果はそれをくつがえすもののひとつとなった(ただし、尿素は炭酸のアミドに相当し、炭酸は通常有機化合物に含まれない。このため尿素を真に有機化合物と呼んでよいかは議論がある)。
脚注
- ↑ にょうそ【尿素】の意味 - 国語辞書 goo辞書
- ↑ 有馬四郎「兩棲類の發生初期の代謝終産物について : I.蛙尿の化學成分について」 動物学雑誌 61(9), 1952-09-15, pp275-277 NAID 110003360889
- ↑ 石橋賢一「大学院特論講義:水電解質研究の進歩」『明治薬科大学研究紀要 』38号、2009年05月31日、pp21-28 [1] - J-GLOBAL