宗教法人
宗教法人(しゅうきょうほうじん)とは、宗教者と信者でつくる、法人格を取得した宗教団体の事である。
持分が全くなく、営利(剰余金配当、残余財産分配を出すこと)を目的としない非営利団体(収支相償)で、文部科学大臣もしくは知事が所轄庁である広義の公益法人の一つ。また、境内地などは公共施設でもあり、さらには社会的慣習、儀式及び祭礼行事を始めとして、口承による伝統及び表現や庭園、建築物、芸能、自然及び万物に関する知識及び慣習、伝統工芸技術などの分野においてユネスコの無形文化遺産や世界遺産、文化遺産などへ該当したり、加えて日本国の文化財保護法に示される数々の文化財や、その上に経済産業大臣指定伝統的工芸品等も数多く承継したり、宗教法人法18条では法規に反しない範囲で宗教上の規約、規律、慣習及び伝統を十分に考慮するよう求められている団体でもある。税法上の扱いは公益法人等。
Contents
概説
法人格の付与
宗教法人法(昭和26年4月3日法律第126号)(民法33条に基づく特別法)にもとづいて宗教団体に附与される。宗教団体に法人格を与える目的を、この法律では、「宗教団体が、礼拝の施設その他の財産を所有し、これを維持運用し、その他の目的達成のための業務及び事業を運営することに資するため、宗教団体に法律上の能力を与えること」(第1条第1項)と規定している。
なお、宗教法人となったからといって、宗教団体としての格が上がるというわけではなく、不動産等を所有する権利主体になれるだけである。また、法人格を取得していなくとも、宗教団体として宗教活動を行うことは自由である。
宗教法人は法人の定款に類する根本規則として「規則」を作成し、その規則について所轄庁の認証を受けなければならない(宗教法人法12条)。また、宗教法人は「規則」を当該法人の事務所に常に備え付けなければならない。
宗教法人法では宗教法人に対して名称に特定の文字を含めることを義務付ける規定を設けていない。そのため、正式名称に「宗教法人」の文字が入っていないケースもある。
所轄する官庁
宗教法人の所轄庁は、その主たる事務所を所管する都道府県知事とされるが、以下については文部科学大臣の所轄となる(宗教法人法第5条)。
- 他の都道府県内に境内建物を備える宗教法人
- 上記の宗教法人を包括する宗教法人
- 他の都道府県内にある宗教法人を包括する宗教法人
法人の役員
宗教法人には、「規則」で定めるところにより、3人以上の責任役員をおき、そのうち1人を代表役員とする。代表役員は規則に定めがないときは、責任役員の互選によって定める。代表役員は当該宗教法人を代表し、全事務を総理する。しかし、これらの役員の法人の事務に関する権限は、宗教上の機能に対するいかなる支配権その他の権限をも含むものではない(宗教法人法第18条)。
「未成年者は宗教法人の代表役員、責任役員、代務者、仮代表役員又は仮責任役員になれない(宗教法人法第22条)」とされており、現在は20歳以上しか代表役員、責任役員、代務者、仮代表役員又は仮責任役員になれない。しかし、国民投票法成立を受け、法改正に向け検討が開始された。
事業活動
ほとんどの場合、寺社や教会といった宗教施設を有する。宗教法人は、公益事業を行うことができ、法人によっては、淀川キリスト教病院(在日本南プレスビテリアンミッション)といった病院や神宮幼稚園(神宮)のような学校、鞍馬山鋼索鉄道(鞍馬寺)といった鉄道も運営している場合がある。
また、その目的に反しない限り、公益事業以外の事業をも行うことができる。もっとも、収益が生じたときは、自己又は関係のある宗教法人若しくは公益事業のために使用しなければならない(宗教法人法6条)。
統計上の分類
宗教法人は統計上、神道系・仏教系・キリスト教系・諸教に分類される。「諸教」とは、それ以外の3つに分類されないあらゆる宗教(例えば、イスラム教(宗教法人日本ムスリム協会)など)のことである。ただし、これらの分類は当該宗教法人からの届けに基づくものであり、いずれかの宗教の影響を強く受けているにもかかわらず「諸教」に分類されているものも少なくない。
単位宗教法人と包括宗教法人
宗教法人には単位宗教法人と包括宗教法人があり、単位宗教法人は被包括宗教法人と'単立宗教法人に分類される。
単位宗教法人とは神社、寺院、教会のような境内建物(宗教法人法3条)を有する宗教法人であり、宗教法人法2条(宗教団体の定義)の第1号に該当する団体である。包括宗教法人は単位宗教法人あるいは非法人の単位宗教団体を包括する宗教法人であり、宗教法人法第2条の第2号に該当する。例えば、仏教では宗派(宗団)が包括宗教法人に、本山や末寺が被包括宗教法人にあたる。
また、単位宗教法人のうち、包括宗教法人もしくは非法人の包括宗教団体の傘下にあるものを被包括宗教法人といい、そうではないものを単立宗教法人という。被包括宗教法人が包括宗教法人から独立して単立宗教法人となることもできる。
問題点
活動実態不明の宗教法人の急増
宗教法人とは宗教法人法2条に謳われているとおり、宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を強化育成することを主たる目的とする宗教団体へ法人格を与えたものであり、宗教、公益活動を団体として常時行っていることが鉄則である。さらには宗教法人法などのとおり、所轄庁等へ毎年活動実態などを報告する義務もあるが、ここ数年間、無報告や不活動な宗教法人が倍増している。(2004年以降)。中には、インターネット上で堂々と宗教法人の法人格の売買されるケースもある[1]。
そこで、宗教行政の主管である文部科学省や文化庁は、宗教法人法81条などに基づき「不活動宗教法人」の合併や解散を進めるよう都道府県や自治体、各宗教法人へ指導しているが、地域の長い伝統風習や人情、数々な諸事情により合併や解散へは多くの困難が伴って長丁場となっている[2]。
政教分離原則
政教分離原則は次の3項の禁止を定める。
- 特権付与の禁止 - 特定の宗教団体に特権を付与すること。宗教団体すべてに対し他の団体と区別して特権を与えること。
- 宗教団体の「政治的権力」行使の禁止
- 国の宗教的活動の禁止 - 宗教の布教、教化、宣伝の活動、宗教上の祝典、儀式、行事など。
しかし、公明党、幸福実現党、神道政治連盟、日本会議等、宗教団体を母体とする政治団体が多く存在する。
内閣法制局の見解は、以下である。
憲法の政教分離の原則とは、信教の自由の保障を実質的なものとするため、国およびその機関が国権行使の場面において宗教に介入し、または関与することを排除する趣旨である。それを超えて、宗教団体が政治的活動をすることをも排除している趣旨ではない。
以上の公式見解のように現在、政教分離原則に抵触するのは国や地方公共団体・公的機関が宗教活動をすることであり、靖国神社参拝も公務として参拝すると違法になる。宗教団体は私設団体であり、宗教団体が政治活動をしてはいけないというものではない。
宗教法人の課税の仕組み及び問題点
まず、法人税法がいう「儲け」とは「配当金」のことであり、法人税などは、その法人の株主などへ支払われる剰余金配当(配当金)と、残余財産分配(みなし配当)に対して課税されている。
また、日本は法人擬制説の立場で税法が運用されていて、法人税などは法人自体に課税されたものという見解は法人実在説に立ったもので誤りであり、実際は配当金を貰う個人に対して課税されているのである。
しかし、税法で公益法人等に分類される宗教法人は持分が全くないため[脚注 1]、公益事業(公益・宗教事業)以外の事業において「儲け」が出た場合には、法人税等が課税される[3]。
ただし、宗教法人の収益事業で「儲け」が出た場合は、その総てを公益事業(公益・宗教事業)へ使わなければならず(宗教法人法6条)、一般企業のように個人へ配当することは出来ないので、その点で軽減税率が適用されている。
そして、法人収益は公益事業(公益・宗教活動・文化財の保護・伝統と慣習の承継等の本来事業)に、法規どおり使わなければいけない。(宗教法人法18条)
ちなみに、公益法人である宗教法人の役職員は通常の場合給与を受けており、これは一般勤労者と同じく所得税や住民税などを課税されている[3]。さらに、僧侶・神官等の宗教者が個人資産として、不動産・自動車等の動産を所有している場合は、相続税を始め普通に課税される。また自動車関係の道路特定財源制度諸税については、宗教法人が公益・宗教事業用に自動車を所有する場合でも、自動車税や自動車重量税などの課税がなされる。
なお、宗教法人を含む公益法人へも、国税庁の税務調査は行われる[3]。そして、所轄官庁や税務署へ財産目録などの法定書類を毎年確定申告する必要もあり、税務申告に問題があれば指導もなされる。
但し、公益財団法人や公益社団法人等が運営する収益事業の税率と、宗教法人を含む広義の公益法人が運営する収益事業の税率との間に減額されていることなどから、宗教法人に対しても租税の公平性を確保するため、収益事業に対する税率の統一を求める声は多い。
宗教法人が公益法人として課税の優遇措置を受けていることを逆手に取り、宗教法人が運営する寺院の住職が宗教法人の収入を私的流用していたことが、税務調査で指摘された例がある[3]。
備考
銀行振込で使う略称は「シユウ」。
出典
脚注
関連項目
外部リンク
- 宗教法人と宗務行政 文化庁
- 概要 宗教法人とは 宗教法人数 文化庁