学習塾
学習塾(がくしゅうじゅく)は、主に小学校・中学校の放課の後に、有償で学力の補強や学習の補助などをする教育施設である。一般的には、単に塾(じゅく)と呼ぶことが多い。また特に受験対策を行う塾を進学塾(しんがくじゅく)ともいう。塾は大きく2つの形態に分けられ、1人の講師が1~3人の生徒を教える「個別指導塾」と学校のように1人の講師が黒板・ホワイトボードの前に立ち、同時に10人以上を担当する「集団塾」である。集団塾の方がプロの講師やスキルが高い講師が選ばれる傾向がある。近年は、個別指導型が増加傾向にある[1]。
平成21年経済センサス(2009年)によると、日本国内に5万1千箇所あまりの事業所があるとされる[2]。2016年の売上高は4358億8900万、受講生数は1294万人、講師の数は約8万9000人で、少子化傾向にもかかわらずそのどれもが年々増加している。専任講師の割合は16.5%であり、その他は非常勤講師である。講師の主戦力はアルバイターであり、塾によってはほとんどをアルバイターに頼っているところもある。塾は大学生の定番のアルバイト先となっている。リクルートジョブズの2017年6月の調査では、首都圏 (日本)・東海・関西の三大都市圏における塾講師の時給は1450円である。ただし、給与は授業単位で計算する塾が多く、その他の雑務や生徒への質問対応などは勤務時間として認められていないケースが多く、実労働時間の時給換算ではもっと低くなる。塾講師に求められる能力は、学力だけではなくコミュニケーション能力や、生徒が理解しやすい教え方ができるか、あるいは生徒に勉強をやる気を起こさせる能力などが求められる。塾講師は授業だけでなく面談やテストの作成、採点、営業なども行う[1][3]。
Contents
学習塾で教える教科
多くの塾は主要5教科(国語、社会、算数 / 数学、理科(物理、化学)、英語)の学習に特化しているが、保護者や生徒の希望が英語・数学(算数)・国語に集中することから、個人塾には英語のみ、英・数(算)・国のみなど科目を限定しているところも多い。学校が総合的な人格形成を目指しているのに対して、学習塾は主要教科に関しての弱点補強や高度な学習、入試対策などに力を入れている。保護者の要望に答え、通常の学習よりも中学入試、高校入試での合格を主な目的とする大手進学塾も多くその合格実績を競っている。また、ごく一部には定期テスト前に中学副教科(保健体育・音楽・技術家庭・美術)の記述学習に対応するところもあるほか、理科実験など実技的なものを学ばせ注目度をあげる塾も存在する。学習塾の数だけでいえば個人塾が圧倒的に多く、それぞれ個性的な指導で実績を上げているところも多い。大きな学習塾では(生徒の大半が市立中に通い、県立高を目指すものとする)、各中学の各学年各クラス・各教科の教科担任を知っており、調査書(内申書)を上げるため、教員ごとに効果的な発言・アピールの仕方やノートの取り方を指導する場合がある。また「家庭教師」になるが運動会を前に徒競走の指導や、授業の鉄棒・縄跳びなどの指導などの実技指導も珍しくなくなっている。
多くの塾は模擬試験を実施しており、個人の学力レベルをある程度正確に知ることもできる。大手の塾では塾生が多いため塾内模試を、中小の塾では模擬試験専門会社の模試や教材会社が主催する模試、塾団体が設立運営する模試を採用している。
学習塾の分類
学力別
難関校進学クラスを持つ塾と持たない塾に分かれるが、大手進学塾では学力に応じてクラス分けしていることが多い。中小の大半の塾では人数の都合上クラス分けをしていない。個別指導塾や自習式の塾は個人の実力に応じて対応できるためこのようなクラス分けがない。
- 難関校進学クラスを持つ塾
- 難関の学校に進学希望する生徒に、学校の授業より難しい内容を加え指導するクラスを持つ塾。入塾試験でクラス分けするところがほとんど。難関校を目指す生徒のみの塾はほとんどなく、ほとんどが学力別クラスを作った形を取っている。
- 一般の塾
- 学力別のクラスを持たない塾。中程度の学力レベルに合わせ、学校の授業より先行して授業を行ったり補習授業を行うもの。中小の学習塾の多くがこれに属する。
人数別
- 集団授業の塾
- 自習形式の塾
- 少人数制授業の塾
- 1クラス概ね5〜10名のクラス構成で個人経営の塾にこのタイプが多い。集団授業と違い個人指導もある程度できる。
- 個別指導の塾
- 1人の講師が概ね1〜4名の生徒を指導する。個人指導ができるが、講師1人に対する生徒が少ない分、授業料が高額。時間単価で比較すると、集団授業の塾の3〜6倍となる。苦手科目のフォローとして補修程度に使うのが無難だという声もある[4]。
学習塾の発展と弊害
昭和40年代より急激にその数を伸ばし、現在ではなくてはならない存在になっており、学校側も大手学習塾の指導法に注目している[5]。かつて文部省(現: 文部科学省)は学習塾を好ましくない存在としていたが、文部大臣の諮問機関である生涯学習審議会が1999年(平成11年)に行った提言以来、学校教育と学習塾を共存させる方針に転換した(学習塾は文部科学省の所管だと思われがちだが、学習塾は利潤を第一に運営されるサービス産業の一業種なので経済産業省の所管である)。
塾が流行っている一因に、公立学校のゆとり教育への不安感がある。。また、学習塾が「総合的な学習の時間」を提供する動きもある(詳細は、公立学校#日本の公立学校を巡る議論を参照)。ただし、「塾へ行っても学力低下は防ぎきれない」[6]、「難問ばかりを教え、逆に基礎学力が伸び悩む生徒もいる」[7]といった指摘がある。小中高生の多数が学校と塾・予備校を掛け持ちしており、心身に悪影響を与えるのではないかという指摘もある[8]。
海外でも海外在住日本人子女の間で学習塾に通う子供が増加している。背景には、現地での学習では、帰国後日本の学校への入学・編入に求められる学習内容やレベルに合わせられないことが問題として挙げられる。
1984年(昭和59年)、香山健一は、中曽根康弘内閣の臨時教育審議会で、学習塾を学校として認知するよう主張した。
近年の塾の傾向
学習塾を取り巻く環境として、少子化、中高一貫校の増加により対象となる生徒が減少しているが、一方で通塾者の低年齢化、家計から学習塾への出費額の上昇による市場の拡大傾向が見られる[4]。
企業の買収
大手塾の買収が増加していて、「中小規模の塾は生き残れないのではないか」とまで言われることもある。同業者同士の買収(例えば、東進ハイスクールによる四谷大塚の買収)もあるが、それ以上に異業種の参入が新しい動きとして出てきている。特に通信教育最大手のベネッセは、この会社の販売する進研ゼミが補習教材であるため、既存塾業者とは段違いの資本力で塾を買収し、受験勉強時期の学生を取り込もうとしている。事実、ベネッセは2007年(平成19年)6月に東京個別指導学院を連結子会社化し、2007年(平成19年)12月3日には鉄緑会の買収を発表した。参考書や学習雑誌を販売する学研は、学校授業の予習復習を行う学研教室を持っているが、この生徒が受験勉強時期に退会するのを防ぐため、塾ビジネスに乗り出している[4]。
少人数制授業へのシフト
少子化傾向に対応し、個別指導や概ね10人以下の少人数制授業の塾が多くなっている。集団授業の塾は大手塾で教室数を拡大する傾向にあるが、姉妹校として個別指導の塾を併設したり、塾内に個別指導ブースを併設する場合もある。もっとも、個別指導といっても家庭教師のように1対1で教えるとは限らない。1人の講師が学年や科目の違う生徒3〜4人程度に対し、同時に巡回指導するものも個別指導という。つまり「個別授業」ではなく「個別指導」なのである。当然1人の講師に対して生徒の人数が少ない分授業料はかなり高額になる。それでも学力が中程度かそれ以下の生徒には、従来の集団授業に比べると行き届いた指導ができる。
個別指導の場合、巡回しながら学年や科目の違う指導に同時に対応できる能力と要領が求められる。一人の講師が全ての学年や科目を担当すると思われがちだが、講師の指導できる科目や学年のみを担当するので、講師が不得意な科目を教えることはほとんどない。しかし、これらの塾では「学習内容」の指導だけでなく「勉強の方法」の指導も行うことが多く、全体の流れを熟知し担当する生徒に応じたペース配分ができるようになるまで、少人数に対する指導とはいえ講師にかかる負荷は大きい。
塾のフランチャイズ化
塾のフランチャイズ化というものは過去には少なかったが、最近では独自のノウハウを提供し全国に拡大している。塾のフランチャイズは、経営者自身が指導する必要がないため誰でも塾を開くことができるが、生徒の指導は生徒の増減に応じ採用できるアルバイト講師まかせになる。一部の大手フランチャイズ塾本部は、加盟金やロイヤルティーを集めることを目的として、加盟者に大きな利益が出るよう見せかけて教室数を拡大するケースがあり、加盟者はほとんど利益が出ず多額の加盟金等の資金がなかなか回収できないことから裁判沙汰になるケースもある。
不景気の長期化と学習塾の過当競争と問題点
学習塾に対しては賛否両論があるが、近年の少子化や、長引く不景気などにより,全国的には市場規模は縮小傾向にあるとも言われる。近年では大都市圏などの駅前に多くの塾が乱立して、過当競争により閉鎖に追い込まれている塾もある。また、教員免許を取得していない講師や大学生などによる指導、行き過ぎた偏差値教育、学校の先生を差し置いて塾の先生が進路指導をするといった様々な矛盾をはらんでいる。また、業界再編により、提携塾間で合格者を合算して、本当の合格者数よりも多く水増しして広告などに合格実績を載せる学習塾なども見られ、社会問題化している。2011年4月には大手進学塾が、水増し合格の表示をしたことに対して、消費者庁が行政処分を下した事件も起こった。また、一部の学習塾において、使用する教材を、出版社の許諾を得ないまま教科書から無断引用したり複製したりすることで作成し、著作権侵害を指摘される事例が散見される[9][10]。
統計
学習塾に関連する統計を、以下に記す。
- 通塾率[11]
学年 | 通塾率 |
---|---|
小学校5年生 | 35.6 |
中学校3年生 | 62.5 |
高校2年生 | 12.7 |
都市と地方では、都市の方が高い傾向にある[11]。
- 学習塾費用[12]
区分 | 学習塾へ費用を払っている 生徒の割合(%) |
支出者の年平均額(千円) | |
---|---|---|---|
幼稚園 | 公立 | 16.3 | 65 |
私立 | 19.9 | 101 | |
小学校 | 公立 | 43.3 | 142 |
私立 | 68.2 | 287 | |
中学校 | 公立 | 71.6 | 246 |
私立 | 53.6 | 221 | |
高校(全日制) | 公立 | 35.3 | 224 |
私立 | 42.9 | 337 |
関連項目
脚注
- ↑ 1.0 1.1 タウンワークマガジン - 塾講師になるには? 求められる能力・資質と採用試験の詳しい内容
- ↑ 総務省統計局『平成21年経済センサス』(基礎調査 > 事業所に関する集計 > 全国結果)、表番号33-2 「823 学習塾」より。2009年7月1日現在。
- ↑ Career Garden - 塾講師の正社員になるには
- ↑ 4.0 4.1 4.2 4.3 『週刊東洋経済』「激戦!塾ビジネス」2007年6月30日号
- ↑ 『朝日新聞』2006年3月1日付
- ↑ 苅谷剛彦・清水睦美・志水宏吉・諸田裕子『「学力低下」の実態』2002年、ISBN 978-4000092784
- ↑ 産経iza「私立人気の影で(2)塾頼みの学力格差是正」2008年(平成20年)1月17日付
- ↑ 『児童生徒の学習塾通いの問題』1992年、教育白書(文部省(現: 文部科学省))
- ↑ 塾教材で教科書無断使用 「著作権違反、認識なし」 産経新聞、2012年4月3日
- ↑ 進学塾「浜学園」、無許可で教科書コピー・使用 読売新聞、2012年4月7日
- ↑ 11.0 11.1 「完全学校週5日制の下での地域の教育力の充実に向けた実態・意識調査」文部科学省、2003年(平成15年)4月
- ↑ 「平成18年度 子どもの学習費調査」文部科学省