孤立した言語
孤立した言語(こりつしたげんご、language isolate、isolated language)とは、現存する他の言語と系統関係が立証されておらず、他の言語と共通する祖語を再建できない系統不明の言語である。孤立言語とも。
なお、古典的な言語類型論における形態論的な分類の一つである孤立語(こりつご、isolating language)とはまったく異なる概念である。
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概要
アイヌ語・朝鮮語・バスク語・ブルシャスキー語・ギリヤーク語、その他「古シベリア語」と呼ばれてきた諸語[1]などが事例として挙げられるが、それぞれ各語族との関係性が見いだされると主張する言語学者たちもいる。
系統関係の不明な孤立した言語の分布地域は世界的にみると比較的限定されており、それは新石器時代以降の文明の中心都市からすると周辺地域ないし孤立地域に属している[2]。人類の発祥地とされるアフリカや、ユーラシアの中心部やヨーロッパなどの地域における諸言語の分布は相対的に等質的であり、また系統関係もかなり詳細まで判明している。地理的な孤立地域における孤立した言語の例としては、ヨーロッパではピレネー山のバスク語のみであり、またインド亜大陸ではパキスタン北部山岳地帯のブルシャスキー語とインド中央部のニハリ語、ネパールのクスンダ語がある程度である。
孤立した言語は下位言語が1つだけの語族と捉えることもできる。従ってその言語の下位方言を個別の言語とみることによって、孤立した言語でなくなる場合がある。日本語も系統関係は不明で孤立した言語とも考えられるが、言語学的には琉球諸語を別言語と認定する見解が一般的になったため、現在は琉球諸語や八丈語とともに日本語族とされる。同じような例が朝鮮語と済州語、グルジア語とカルトヴェリ語族にもある。
孤立した言語の一覧
(英語でのアルファベット順)
アフリカ
言語 | 地域 | 備考 |
---|---|---|
Bangime | マリ | |
Birale (Ongota)? | エチオピア・南部諸民族州南オモ地域 | アフロ・アジア語族とされることもある。 |
ハヅァ語 | タンザニア | かつては「コイサン語族」に含まれていた。 |
Jalaa? | ナイジェリア・バウチ州 | 危機に瀕する言語 |
Laal? | チャド | ニジェール・コルドファン語族に挙げられる場合がある。 |
サンダウェ語 | タンザニア・ドドマ州 | クワディ・コエ語族とともに「コエ・サンダウェ語族」を成すとする説がある。 |
ユーラシア
言語 | 地域 | 備考 |
---|---|---|
アイヌ語 | 日本・北海道他 | 危機に瀕する言語。 |
バスク語 | スペイン、フランス・バスク地方 | 紀元前1世紀頃使われていたアクイタニア語が直接的な先祖に当ると考えられている(バスク語族)。またイベリア語との関係を主張する言語学者もいる。西ヨーロッパの基層言語と推定する説もある(バスコン語基層説)。ある言語学者はコーカサス諸語との関係を指摘するが反論がある。 |
ブルシャスキー語 | パキスタン北部 | 一部の言語学者はケット語との関係性を見出そうとしている。その場合、仮説上のデネ・エニセイ語族に含まれる可能性もあるが、2013年現在、研究は初歩段階。 |
エラム語 | 死語。古代:エラム帝国、ペルシア帝国 | ドラヴィダ語族と関連すると推測されることがある。 |
エトルリア語 | 死語。古代:エトルリア | おそらくティルセニア語族を成す。 |
Hruso? | インド・アルナーチャル・プラデーシュ州 | シナ・チベット語族とされてきたが、孤立した言語の可能性がある。(アルナーチャルの孤立した言語および独立語族を参照) |
朝鮮語 | 韓国、朝鮮民主主義人民共和国、中国・吉林省 | 孤立した言語の中では最も母語話者が多い。高句麗語(死語)との関連についてさまざまな議論があり、アルタイ諸語に含むとされる事がある。また日本語との関係を示唆する説もある。済州語を独立した言語とみなす場合は朝鮮語族となる。 |
クスンダ語 | ネパール | 危機に瀕する言語。 |
Miju? | インド・アルナーチャル・プラデーシュ州 | シナ・チベット語族とされてきたが、孤立した言語の可能性がある。(アルナーチャルの孤立した言語および独立語族を参照) |
ニハリ語 | インド・マディヤ・プラデーシュ州、ラージャスターン州 | 危機に瀕する言語 |
ニヴフ語 | ロシア・アムール河流域、樺太 | ギリヤーク語とも呼ばれる。文法的に日本語、朝鮮語との類似がみられるが系統は不明。 |
Puroik? | インド・アルナーチャル・プラデーシュ州 | シナ・チベット語族、オーストロアジア語族の可能性もあるが、孤立した言語の可能性がある。(アルナーチャルの孤立した言語および独立語族を参照) |
シュメール語 | 死語。古代:シュメール |
オセアニア
言語 | 地域 | 備考 |
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Abinoman | ニューギニア | |
Anem | ニューブリテン島 | |
Busa | ニューギニア | |
Enindhilyagwa | オーストラリア | |
Isirawa | ニューギニア | |
Kakadju | オーストラリア | |
Kol | ニューブリテン島 | |
kuot | ニューアイルランド | |
Laragiya | オーストラリア | |
Ngurmbur | オーストラリア | |
Pele-Ata | ニューブリテン島 | |
Pyu | ニューギニア | |
Sulka | ニューギニア | |
Taiap | ニューギニア | |
Tiwi | オーストラリア | |
Umbugarla | オーストラリア | |
Yalë | ニューギニア | |
Yawa | ニューギニア、ニューアイルランド | |
Yélî Dnye | en:Rossel Island |
北アメリカ
言語 | 地域 | 備考 |
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Atakapa | 米国・テキサス州、ルイジアナ州 | |
Chimariko | 米国・カリフォルニア州 | |
Chitimacha | 米国・ルイジアナ州 | |
Coahuilteco | 米国・テキサス州、メキシコ北東部 | |
Cotoname? | 米国テキサス州、メキシコ北東部 | |
Cuitlatec | メキシコ・ゲレーロ州 | |
エセレン語 | 米国・カリフォルニア州 | |
ハイダ語 | 米国・アラスカ州、カナダ・ブリティッシュコロンビア州 | ナ・デネ語族に含める場合がある。 |
Huave | メキシコ・オアハカ州 | |
Karuk | 米国・カリフォルニア州 | |
Kootenai | 米国・アイダホ州、モンタナ州、カナダ・ブリティッシュコロンビア州 | |
Natchez | 米国・ルイジアナ州、ミシシッピ州 | |
Quinigua | メキシコ北東部 | |
サリナ語 | 米国・カリフォルニア州 | |
セリ語 | メキシコ・ソノラ州 | |
Siuslaw | 米国・オレゴン州 | |
Takelma | 米国・オレゴン州 | |
タラスコ語 | メキシコ・ミチョアカン州 | |
Timucua | 米国・フロリダ州、ジョージア州 | |
Tonkawa | 米国・テキサス州 | |
Tunica | 米国・ミシシッピ州、ルイジアナ州、アーカンソー州 | |
Washo | 米国・カリフォルニア州、ネバダ州 | |
Yana | 米国・カリフォルニア州 | |
Yuchi | 米国・ジョージア州、オクラホマ州 | スー語族に含まれるとされる場合がある。 |
ズニ語 | 米国・ニューメキシコ州 | ペヌティ語に含まれるとされる場合がある。 |
南アメリカ
言語 | 地域 | 備考 |
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Aikaná | ブラジル・ロンドニア州 | |
Andoque? | コロンビア、ペルー | |
Betoi | コロンビア | |
Camsá | コロンビア | |
Canichana | ボリビア | |
Cayubaba | ボリビア | |
Cofán | コロンビア、エクアドル | |
Irantxe? | ブラジル・マトグロッソ州 | |
Itonama | ボリビア | |
マプチェ語 | チリ、アルゼンチン | |
Movima | ボリビア | |
Munichi | ペルー | |
ムーラ語 | ブラジル | ムーラ語の一つであるピダハン語は数を表す語がない、文法の再帰用法がない、音素数が世界最小の言語であるなど特徴ある言語として知られている。 |
Otí | ブラジル・サンパウロ州 | |
Sabela | エクアドル、ペルー | |
Ticuna | コロンビア、ペルー、ブラジル | |
Warao | ガイアナ、スリナム、ベネズエラ | |
Yámana | チリ | |
Yuracare | ボリビア | |
Yurumanguí | コロンビア |
未分類の言語
未分類言語は現状では他の言語との関係が証明されていないため、孤立した言語として扱われる場合があるが、厳密には別の概念である。
- 参照: 未分類言語
孤立した手話
風土病やろう学校の失敗例などの理由で聴覚障害者が常時一定以上の割合を占めるコミュニティでは、音声言語でなくリアルタイムで使用可能な視覚言語、すなわち手話が自然言語として発生する例がある。こうして生まれた手話は、現地の健聴者が並行して使う音声言語とも類縁関係がない。これもろう教育の輸出と無関係である点から、孤立した言語と見なしうる。このような手話には、マーサズ・ヴィニヤード手話、ニカラグア手話、アダモロベ手話、アル=サイード・ベドウィン手話などがある。