孔子学院

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孔子学院
各種表記
繁体字 孔子學院
簡体字 孔子学院
拼音 Kŏngzi Xuéyuàn
発音: コンズ シュエユエン
英文 Confucius Institute
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カナダにある孔子学院

孔子学院(こうしがくいん)とは、中華人民共和国が海外の大学などの教育機関と提携し、中国語や中国文化の教育及び宣伝、中華人民共和国との友好関係醸成を目的に設立した公的機関である。

概要

孔子の名を冠しているが、儒学教育機関ではなく、中国語語学教育である。教育部が管轄する国家漢語国際推広領導小組弁公室(「漢弁」)が管轄し、本部は北京市にあり、国外の学院はその下部機構となる。なお、孔子77代目の嫡孫である孔徳成1949年台湾移住してから孔子の嫡流中華民国に居住しており(2009年9月以降は孔子79代目の嫡孫、孔垂長が世襲職大成至聖先師奉祀官となっている)、孔徳成と孔垂長は中国大陸では国務院が管轄する曲阜市中国孔子研究院の永久名誉院長になってるが[1][2][3][4]、孔子研究院は儒学研究機関であって孔子学院とは直接の関係はない。

大学レベルの「孔子学院」と、中学・高校レベルの「孔子学級」がそれぞれ設置されている[5]。「孔子学院」のほうは、ドイツのゲーテ・インスティテュートやフランスのアリアンス・フランセーズ、スペインのセルバンティス文化センター、そして部分的にブリティシュ・カウンシルを模して作られている[5]。2009年ごろには世界で推定4000万人が中国語を学んでおり、需要は高い[5]。孔子学院事業の先頭に立つ許琳「漢弁」(前述)主任によると、同年頃には76か国で400以上の機関が孔子学院か孔子学級の設置に興味を示したという[5]。2010年10月までに96の国と地域に332校が設置されると同時に、分校に相当する「孔子課室」が369校設置されている。

中国共産党政府は、2020年までに世界中の1000か所に孔子学院と孔子学級を設置しようとしており、そのために3000人分の奨学金を提供する方針である[5]。 孔子学院は2004年に設立され、同年11月大韓民国ソウル市に初めての海外学院が設置された[6]

孔子学院・孔子学級には主に5つの形がある[7]

  1. 中華人民共和国の大学と外国の大学が提携したもの
  2. 中華人民共和国の中学校と外国の中学校が提携したもの
  3. 中華人民共和国の大学と海外の地域機関が提携したもの
  4. 中華人民共和国の大学と海外の地域機関が提携したもの
  5. 中華人民共和国の大学と外国企業が提携したもの

である[7]。孔子学院・孔子学級の目的は主に、海外で中国語と中国文化を教えることである[7]。中国語を教えるほかに、漢方医学や中国史、文化、社会、武道、演劇、生け花、剪紙などをも教える[7]。現代の話題を取り上げることもある[7]

資金面では、漢弁が開設資金として10万ドルを提供して、さらに海外の提携相手に年間の助成金を払う[7]。同額の運営費を提携相手も払う[7]。年間10万ドルから25万ドル以上の助成を受けているところもある[7]。原則的には漢弁は、最初の3年間だけ初期費用を払い、それ以降は外国の提携先が運営費を払うというのが本来の形である[8]。しかし、後掲書によれば、同書著者の取材に対して北京の漢弁本部の許琳主任は、「運営費の全額負担ができない孔子学院もあるので、開校3年以降でも資金援助を続けることがある」と認めている[8]。漢弁は、助成金を払うほか、海外の孔子学院・孔子学級で教える中国人教師の給与および海外生活手当の全額または相当額を支払うのが通常である[8]

日本における孔子学院

孔子学院は設置認可上において大学別科専攻科)の扱いだが、特例として所定の単位を取得すれば、日本の大学及び中国の大学への編入も認められる。

タイにおける孔子学院の展開と中国語熱

タイにおける孔子学院の具体例として以下のものがある。

  1. ソンクラーナカリン大学孔子学院
  2. プーケットにある ソンクラーナカリン大学大学孔子学院
  3. Mae Fah Luang 大学孔子学院
  4. チェンマイ 大学孔子学院
  5. Suan Dusit Rajabhat大学孔子学院
  6. タイ国立マハサラカム大学孔子学院
  7. Khon Kaen大学孔子学院
  8. Betong 大学孔子学院
  9. 農業大学孔子学院
  10. Bansomdejchaopraya RaJabhat孔子学院
  11. チュラロンコン大学孔子学院
  12. Traimit Wittayalai高校孔子課堂.(http://www.confucius.psu.ac.th/En/en_CIinThailand.aspx)

タイにおいては、中国語熱の高まりにより、上記を含む14か所が設置されている[13]。この設置数は、東南アジア地域最大の設置数であり、東南アジア2位の設置数であるインドネシアの6か所を大きく上回る[13]。タイ北部チェンライ県にあるメーファルーアン大学は中国政府と提携し、2004年に中国言語文化センターを開設し、その施設の中に同学院も入る[13]。施設の建造は中国政府の全額出資である[13]。タイにおける中国語熱には2つの理由があるとされる[13]。1つ目はタイ中国関係の変化である[13]東西冷戦下で、西側陣営についたタイは徹底的な反共政策をとったため、中国語教育が禁止された時期があったが、中国の経済的な台頭で方針転換をした[13]。タイ政府は中国に詳しい専門家が不足していることに危機感を抱き、人材育成に力を入れ始めた[13]。2つ目はグローバル化の流れのなかで中国語が話せる人材を厚遇する企業が増え始めたことである[13]。「中国の友人」を増やそうと中国政府もソフトパワー戦略を強めている[13]。様々な奨学金制度を利用してタイ人留学生を中国に引き寄せており、その結果、中国で学ぶタイ人留学生の数は、韓国人、アメリカ人についで多い[13]。逆に中国は、中国語語学教師として毎年2000人近い中国人をタイに送り込んでいる[13]。タイ国内において中国語を学ぶ中学・高校生は約29万人におよぶという[13]

テレビ孔子学院

2008年12月17日、山西省太原市黄河電視台によりテレビ孔子学院が開設され、翌日よりアメリカ大陸向けの試験放送が開始された。現在アメリカのSCOLA衛星教育テレビネットで24時間体制で放送され、アメリカ400校の大学、7000校の高校および50を超える都市のケーブルテレビで配信され、視聴者は1500万人と推定されている。

批判

中国との関係

孔子学院の組織はブリティッシュ・カウンシルゲーテ・インスティトゥートアテネ・フランセのような自組織だけで、敷地も建物も組織も完結して運営されている他の文化交流・教育組織とは異なり、孔子学院が大学組織の中に一部局(たとえば別科や専修科)のような組織形態として設置され、かつ教学の実運用は、設置先の大学などからほぼ独立した自治形態を保持して活動している点に特色がある。

孔子学院は設置される教育機関に対して中国政府から資金や教員、教材が提供され、教育内容は「Hanban(漢弁)」という中国政府の監督機関から認可を得ることになっており、それ故に、実態を知らずに「設置先の大学などの教育機関の学問の自由が阻害される」、「中国共産党政府の宣伝組織だ」という意見を主張する人もいる。

さらに、アメリカの有力シンクタンクである外交問題評議会によると、学習計画作成にあたり最低年間約1100万円が提供されるなど、中国語教育に資金を回す余裕のない大学などに広く受け入れられている。

アメリカ

『フォーリン・ポリシー』誌に寄稿したアメリカ学識者協会のレイチェル・ピーターソンによると、孔子学院では政治・歴史・経済関連の議論は禁止されていると指摘する。講師は台湾チベットに関する話が出た場合は話題を別のものに変えるよう指導されており、できない場合は、中国の領土と答えるよう指示され、天安門広場の議論には「写真を見せて、美しい建築だと指摘する」よう用意されているという。さらに孔子学院の授業が大学の単位に認定される場合もあり、中国政府の意思がアメリカの大学教育に反映され、資金提供を受けているが故に大学側や教授陣が言いたいことが言えなくなることも問題だとしている[14]。レイチェル・ピーターソンは「アメリカの高等教育を破壊する『トロイの木馬』」と評している[14]

2010年アメリカ合衆国カリフォルニア州ハシエンダハイツ市の中学校に「孔子学院(「孔子学堂)」が開設される際、地域住民より、孔子学院を通じて「共産主義思想が詰まった教材で生徒を洗脳させるつもりだ」、「米国の利益を守るため黙って許すわけにはいかない」との反対意見があった。これに対し、在ロサンゼルス中国総領事館は「孔子学院はあくまでも中国語や中国文化を教えるためのもの。政治的な色合いは全くない。完全な誤解だ」と反論している[15][16]

2014年6月に、アメリカ合衆国大学教授協会English版は「孔子学院は中華人民共和国の中国国家の手足として機能しており、『学問の自由』が無視されている」と批判し、状況の改善が無ければ関係を絶つよう各大学に勧告した。アメリカのコロンビア大学スタンフォード大学などでは孔子学院が存続しているが、同年9月にシカゴ大学ペンシルベニア州立大学は孔子学院を廃止した。

2018年2月13日には、アメリカ連邦捜査局(FBI)のクリストファー・レイ長官が連邦議会上院の情報委員会の公聴会にて、孔子学院がアメリカ国内にて諜報活動やプロパガンダ活動など違法行為を行っている疑いがあり、捜査対象となっていることを証言した[17][18]

2018年2月にマルコ・ルビオアメリカ合衆国上院議員は、「国内外での中国の積極的な政治活動は、アメリカの教室に『潜入』し、探求の自由を抑圧し、表現の自由をむしばむものだ」として地元のフロリダ州の孔子学院の閉鎖を求め、同年3月には、セス・モールトンEnglish版アメリカ合衆国下院議員は地元のマサチューセッツ州の40の大学に孔子学院の閉鎖と新規開校を控えるよう求める書簡を送った[19]

2018年3月には外国影響力透明化法案がアメリカ下院で提出され、中国政府が出資している孔子学院は適用対象となる。法案を作成をしているジョー・ウィルソンアメリカ合衆国下院議員は、「父が第二次大戦で中国に駐留したので、私は中国びいきの家庭で育った」「初めは孔子学院が素晴らしくて、中国人と友好関係を結べると思った。だが、プロパガンダにかかっているのを知る権利がある」と述べている[19][20]

カナダ

カナダ安全情報局は2007年に、「孔子学院が世界の民心掌握のための中国政府の試みの一部である」とのコメントを表明している[21]。また、アメリカ合衆国大学教授協会の勧告を受けてカナダでも、2014年10月1日にトロントの教育委員会は、孔子学院との関係解消を決めた[22]

日本

2010年4月、孔子学院を開設する大阪産業大学では、大学の資産運用の失敗がもとで理事長が孔子学院の廃校を通知し、組合との団体交渉の中で事務局長が自らの孔子学院に対して「文化スパイ機関」などと批判した[23]。 阿古智子は同学院について、「中華料理や中華圏の伝統文化も広がっているが、たいていは、他の文化の邪魔をしすぎず、共存するような形をとっているのではないだろうか。中国政府が推進する孔子学院などの教育や文化事業は、国家主義的で、排他的であるように、筆者は感じてしまう」と述べている[24]

池上雅子は、特定の社会的価値観やイデオロギーの浸透が覇権安定に必要であり、国内的には情報操作・世論工作、対外的にはソフトパワーが重要であり、孔子学院は「海外における中国研究教育を北京政府がコントロールできる体制」として、「中国政府による孔子学院海外展開の手法は、1930年代ファシストイタリア政府が自国の宣伝と外国人教化を目的を狙って米国の学校に「イタリア語プログラム」を国費で大量に設けた『ムッソリーニ・モデル』に酷似している、という指摘がある」、「『世界革命』普及を図った旧ソ連のモスクワ・コミンテルンを彷彿とさせる一方、マス・メディアの取り込みや教育文化事業の活用など米国の洗練されたソフト・パワーの手法も取り入れている」と評している[25]

スウェーデン

スウェーデンでは、孔子学院が中国政府の組織であることにより、同国の国会は「孔子学院が国内の教壇を中国政府に提供することになる」という懸念を表明している[26]

脚注

  1. 最后一代衍圣公孔德成大事年表”. 東勝区人民政府 (2013年6月17日). . 2018閲覧.
  2. 孔子嫡孙孔德成应聘担任孔子研究院永久荣誉院长”. 中国新聞網 (2007年2月2日). . 2018閲覧.
  3. 孔子嫡孙孔德成应聘担任孔子研究院永久荣誉院长”. 中国網 (2007年2月2日). . 2018閲覧.
  4. 孔垂长受聘为中国孔子研究院永久荣誉院长”. 中国評論新聞 (2014年11月7日). . 2018閲覧.
  5. 5.0 5.1 5.2 5.3 5.4 シャンボー(2015年)319ページ
  6. 中国語学校「孔子学院」、海外で100校の開設目指す 人民網日本語版 2004年11月16日
  7. 7.0 7.1 7.2 7.3 7.4 7.5 7.6 7.7 シャンボー(2015年)320ページ
  8. 8.0 8.1 8.2 シャンボー(2015年)321ページ
  9. 立命館アジア太平洋大学孔子学院開設記念式典が行われました 立命館アジア太平洋大学 2007年4月10日
  10. 早稲田大学孔子学院設立協定書に調印 早稲田大学 2007年4月12日
  11. 新華網 早稲田大学に孔子学院が設立 新華通信ネットジャパン 2007年4月13日
  12. 「工学院大学孔子学院」調印式を挙行 工学院大学 2008年1月23日
  13. 13.00 13.01 13.02 13.03 13.04 13.05 13.06 13.07 13.08 13.09 13.10 13.11 13.12 朝日新聞2016年3月20日朝刊Globe第5面「増えるか「中国の友人」」
  14. 14.0 14.1 “世界に広がる中国の「孔子学院」はトロイの木馬? 米国で非難の声が上がる背景とは”. NewSphere. (2017年5月19日). オリジナルの2017年-5-20時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20170520070150/http://newsphere.jp/world-report/20170519-1/ . 2017閲覧. 
  15. 「共産主義思想に洗脳される!」孔子学院の開設に地元住民が猛反対-米国
  16. 孔子学院に 米市民が「ノー」
  17. “孔子学院が遂にFBI捜査の対象に”. ニューズウィーク. (2018年2月20日). https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/02/fbi-34.php . 2018閲覧. 
  18. FBI investigating Confucius Institutes”, The Washington Times, February 14, 2018  
  19. 19.0 19.1 “米大学で増える孔子学院に、議会の取り締まりの網が”. ニューズウィーク. (20188-03-24). オリジナル2018年3月25日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180325033620/https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/03/post-9812.php 
  20. House Proposal Targets Confucius Institutes as Foreign Agents” (英語). Foreign Policy. . 2018閲覧.
  21. "CSIS say: Confucius part of Chinese bid to win over western hearts", The Chronicle, May 27th 2007.
  22. 北米で相次ぐ「孔子学院」閉鎖 中国政府の価値観押しつけに「NO」 産経デジタルiza、2014年10月14日
  23. 朝日新聞』2010年6月2日
  24. “「中国は好き、アメリカは嫌い…」アジアで中華文化が浸透する理由”. 現代ビジネス. (2018年2月20日). オリジナル2018年2月22日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180222023232/http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54309?page=3 
  25. 池上雅子「北朝鮮・モンゴル・ミャンマーに見る中国が展開する擬似「満州国」政策」『中央公論』2010年4月号、pp.162-173
  26. Riksdagens snabbprotokoll 2007/08:46 (in Swedish)

参考文献

  • ディビッド・シャンボー著・加藤祐子訳『中国 グローバル化の深層「未完の大国」が世界を変える」(2015年)朝日新聞社

関連項目

外部リンク