嫌がらせ
嫌がらせ(いやがらせ)とは、特定、不特定多数を問わず相手に対し、意図的に不快にさせることや、実質的な損害を与えるなど強く嫌がられる、道徳(モラル)のない行為の一般的総称。英語では harassment に相当し、日本でも、嫌がられる行為をすること(または何がしかの行為に不快感を示すこと)を指してハラスメント[1]と表現する場合もある。類似の概念に「いたずら」がある。
Contents
概要
日常生活の中で、他者に精神的苦痛や物質的損失を与える結果となる行為を指す。定量的かつ厳密な定義は存在せず、ある行為をある者が不快に感じれば、その者にとってその行為は嫌がらせとなる。従って、ある行為がAにとっては充分に嫌がらせであったとしても、Bにとっては何ともない場合がある。また、『嫌がらせをしている』という自覚を持たず無知または当人なりの善意に基づいて行為に及んでいるケースもあれば、それを受けた者の被害妄想に過ぎないケースも絶無ではない。
「嫌がらせ」は、時に事件として大きく取り沙汰されたり、誰かの幸福追求権を阻害したなどの理由によって人権問題に発展する場合もある。差別も「嫌がらせ」に含む場合がある[2]。
2018年6月8日国連の国際労働機関は、年次総会で職場でのセクハラを含むハラスメントをなくすため、条約を制定すべきとした委員会報告を採択、2019年総会でハラスメント対策として初の国際基準となる条約制定を目指す[3]。
いやがらせの種類
時代とともに「嫌がらせ」の類型は変化する。
- 「セクシャルハラスメント」 - 女性の社会的地位改善に伴って問題となった。
- 「パワーハラスメント」- 地位、職権などのパワーを背景に働く環境の悪化や雇用不安・解雇などで問題。
- 「モラルハラスメント」 - モラルによる精神的な暴力、嫌がらせで問題となった。
- 「スモークハラスメント」 - タバコ煙による健康被害が意識され、受動喫煙防止を怠ることや受動喫煙対策を求めた者に対する不当解雇や嫌がらせ等が問題となった。
- 「アルコールハラスメント」 - 飲酒に絡む迷惑行為も問題となった。
- 「ドクターハラスメント」 - インフォームド・コンセントのような医者と患者の関係が問い直される議論に関連して問題となった。
- 「ブラッドタイプ・ハラスメント」 - 血液型性格分類に科学的な根拠がないことが明らかになるにつれ問題となった。
- 「レリジャスハラスメント」 - 宗教や信仰を理由とすることから問題となっている。
ほかにもカラオケで強制的に歌わせる「カラオケハラスメント」、ならびに「就活終われハラスメント」の略で文字通り、就活生に対して企業の人事が「内定を出すから、就活を終わらせて、ウチにしぼれ」と嫌がらせをする「おわハラ」[4][5]、さらに出自や国籍を理由とする「レイシャルハラスメント」、IT関連の知識が高い人が、低い人に対して不遜な態度で接するなどして周囲に不快な思いをさせる「テクノロジー・ハラスメント」(テクハラ)[5]など、様々な新しい「嫌がらせ」の概念が提唱されている。
場所
学校
学校において、特に嫌がらせの相互関係になりやすいのは生徒(もしくは後輩)である。生徒間同士の嫌がらせでは「仲間はずれ(仲間はずし)」や、「無視(シカト)」などがあるが、もっとも多いのが「いじめ」である。殴る蹴るといった直接相手に危害を与える暴力行為や悪口だけでなく、直接危害を与えない陰湿な行為も嫌がらせに当たる。また近年では、学校裏サイトなどネット上での嫌がらせも問題となっている。そして、最近では学校でも嫌がらせを経験していながら、社会に出てからもこういった内容の嫌がらせが学校の延長で社会人となってもなお会社内でも長引いて続く場合も起こっている。この場合、人格障害などに突き当たるという問題もある。
生徒-教師間の嫌がらせでは、教員(モンスターティーチャー)から生徒へが多い。また、昨今では性的な嫌がらせにより、校長や教師から逮捕者や教育委員会などの処分を受ける者も出ており、日本の教育の抱える問題点でもある。
大学・大学院など教育研究機関では教員の立場や権利を悪用し、学生に対し、単位を認定しない、就職を不利にさせる、学位論文を受理しない、推薦状を書かない、などの嫌がらせもある。学生以外に、職員に、研究所や職場において、上司である教授から退職を強要されたり昇任差別を受けたり、授業研究の妨害されたりなどの嫌がらせを受けることがある。こうした教育現場における権力を濫用した嫌がらせを、しばしば「アカデミックハラスメント」と呼ばれる(性的な嫌がらせを伴う場合もあれば、そうで無い場合もある)。
職場
嫌がらせでよくメディアなどで取り上げられる性的な嫌がらせ「セクシャルハラスメント(セクハラ)」は有名である。職場などの男性上司による対女性部下のケースが多い。例えば、スキンシップとして女性の体に触れたり、「○○ちゃん」と呼んでみたり、いかにも興味のあるように扱うという行為もセクハラにあたるとされている。その一方、まったく興味のない素振りをみせることもセクハラと見なす女性もおり、男性側が混乱することも多い。
また、職場で社会問題になっている嫌がらせがもう一つある。それはパワーハラスメントである。上司・上位にある者が、その職務権限・権力を悪用し、部下を精神的に追い詰めることである。例えば、他の部下のいる前で大声で叱責したり、あからさまにある部下だけを無視したり、明らかに一人でこなせない量の仕事を押し付け、終わらせられなかったその部下を罵ったりという行為がそれに当たる。これには周囲から部下の側が悪いと認識され、そのために被害者を追いつめることがある。
職場を巡っては、宴会の席でアルコールハラスメント(アルハラ)も問題となる。飲めない酒を断ることができないのはパワーハラスメントとも関連する権力関係を巡る問題である一方、酒(アルコール)を飲めない体質は多くの場合遺伝性のものであり、飲酒を強要するのは嫌がらせを超えて人権侵害行為、あるいは傷害行為であるとの指摘もある。大学サークルや企業などでは、かつてのアルコールハラスメントは減少してきている。
インターネット
代表的な嫌がらせに「荒らし」がある。これは、あるウェブサイト内の掲示板に無意味かつ長大な文字の羅列を何度も貼り付けたり、掲示板の趣旨とはそぐわない内容の議論をいつまでも続けたり、管理人やその他の利用者を中傷するような書き込みなどを指す。2ちゃんねるに代表される匿名掲示板のように、ほとんどのユーザーがハンドルネームを持たない名無しさんであるというような場所でも、他者への誹謗中傷を繰り返す者(粘着)は存在する。
不特定多数のインターネット利用者の目に触れるような場所に、ある人物の不利益となるような情報を書き込む嫌がらせもある。個人情報を暴露するプライバシーの侵害や、名誉毀損などがそれに該当する。この嫌がらせは上記の「荒らし」と重なる部分もあるが、完全に同義というわけでもない(例えば、ある掲示板の管理人に対する名誉毀損は同時に荒らしでもあるが、他者のプライバシーの侵害を目的とするウェブサイトそのものを、荒らしとは呼ばない)。
また、実在の人物が直接的な被害を被るわけではないが、アニメなどの特定のキャラクターをターゲットにし、徹底的かつ執拗な誹謗中傷を、そのキャラクターのファン(もしくは、その作品のファン)が見ているであろうスレッド(主に2ちゃんねる)に張り付ける行為を行う者がおり、それだけならまだ良いが、悪質な者だと、そのキャラクターが残酷且つ猟奇的な方法で虐待されている様子を描いたアスキーアート(AA)やSS(Short story)などの二次創作物を張り付けることを繰り返す場合もあり、これらの行為は「虐待」、それを行う者は「虐待厨」(「~厨」は、好ましくないとされる人物を指すネットスラング)と呼ばれる。この結果、知らずにスレッドを開いたファンが、自分の好きなキャラクターが誹謗中傷や「虐待」を受けている様子を見てしまい精神的ショックを受けたり、キャラクターのイメージダウンにつながり企業が間接的に損害を被る可能性がある。
このような行為は最悪の場合でも掲示板の書き込み削除や投稿ブロックを受けるなどの処分で済むことがほとんどであるが、一方で、キャラクターのイメージダウンを恐れた著作権保有者から民事訴訟を起こされた例もあり、法的リスクが全くないとは言えない。
その他の嫌がらせとしては、不正なプログラムの散布が挙げられる。その効果は千差万別で、中にはコンピュータに深刻な不具合をもたらすものもある。詳しくはコンピュータウイルスを参照のこと。
メールボムという嫌がらせもある。この行為は、ターゲットのメールアドレスを無断で出会い系サイトやメールマガジンに登録したり、専用のソフトウェアを使ったりして、ターゲットに大量のメールを送りつける嫌がらせのことである。
これらの行為は、特定の人物への私怨や嫌悪感から行われることもあれば、相手を選ばず面白半分で行われることもある。
近隣
近隣関係では、相手の言動を不快な嫌がらせとして認識しやすい。
例えば、音である。騒音を出している住人の多くは意識せずその音を出していることが多い。そのため、苦情を指摘されてもかえってその人が憤るなど、近隣や自治会など深刻な問題に発展しやすい。
その他にも、地域のコミュニティに参加する意思のない者にとっては痛くも痒くもない話だが、「(近所の住民に)挨拶しても無視される」「仲間外れ」などの嫌がらせも存在し、「村八分」にあたるような行為は現在でも見られることがある。ただし、「挨拶の無視」に関しては、単に挨拶できないだけの者や、近隣住民に挨拶する必要性を感じていない者も現在では多く存在しているとみられ、必ずしも嫌がらせを目的としたものではないものと思われる。
家庭
家庭内での嫌がらせも存在する。
特に、親子の相互関係にある。子から親への場合、多くは自分を見て欲しいといった甘えたかったり、反抗期から来る自立心の芽生えによるものである場合が多い。
もっぱら問題となっているのが、児童虐待である。自身の子供に手を上げる、全く子供について興味がないネグレクト、性的虐待などがある。こういった行為は、子供の将来に重大な傷跡(トラウマ)を残す。最近では、法的な罰則を親に与えることができるようになったものの、法で裁かれる以上に罪は重い。児童虐待の派生として、兄弟姉妹の相互関係による嫌がらせ(兄弟姉妹間の虐待)がある。
配偶者同士で一方から他方への嫌がらせも存在する。物理的な暴行や傷害、無視やその他の言葉や態度での精神的な嫌がらせのどちらもがドメスティック・バイオレンス(DV)である。
組織・サークル
特定の組織・サークルで権力と実力を持つ人間(特に部外者)が首謀者として、運営を牛耳り(乗っ取りなどを含む)、特定の人間に対してパワーハラスメントを行い、掲示板などにさらし者にし、幹部を洗脳させ、特定の人間をいじめ、排除させるなどの嫌がらせ(怪文書作成、脅迫など)を行う。その行為は、人権侵害に当たり、立場の弱い幹部を洗脳をし、イエスマンにさせるなどの組織崩壊等の被害・被害者への精神的な苦痛をもたらすことが多い。また、その行為は、首謀者が他者を軽視し、利益と利己主義と自己愛を含んだ野心を持っている為に起こっている。
特定の企業および団体に対して
特定の企業や団体に対して、爆破予告等の嫌がらせ事件が起きる場合がある。たいていは警察が捜査しても爆弾は仕掛けられておらず愉快犯によるイタズラのままで終わる場合が多いが、イタズラではなく本当に起きてしまったケースもあったりするのでやはり注意が必要である。
その他
特定の場所で発生するとは言えない事例が、「ストーカー」である。意中の異性の学校や職場の帰りを付きまとったり、その異性の家宅に盗聴器をしかけたりなどの嫌がらせ行為を四六時中にわたって行う。このストーカー行為は、殺人や暴行など現実的な大きい被害をもたらすことが多い。桶川ストーカー殺人事件が最も代表的な事件である。ストーカー規制法(ストーカー行為等の規制等に関する法律)を参照。
しかし、大半のストーカーは警察の注意によってその嫌がらせを止めるので、もし被害にあった場合、警察に通報・相談するのが一番の最善の解決策である。
マスメディア
一部の放送局、新聞社、出版社(特に週刊誌)による事実の捏造、行き過ぎた団体または個人批判(バッシング)などが理路整然と行われており、問題となってきている。最悪、訴訟に発展する事態にもなったりする(テレビ離れやメディア・リンチを参照)。
脚注
- ↑ ハラスメントの定義
- ↑ 人権身の上相談(いじめ、差別、いやがらせなど人権問題) 武蔵野市
- ↑ 2018年6月9日中日新聞朝刊3面
- ↑ 内定者に就活終了求める「おわハラ」の最新手口を専門家解説 NEWS ポストセブン 3月22日(日)16時6分配信
- ↑ 5.0 5.1 “「テクハラ」「カラハラ」「ブラハラ」「オワハラ」…新種のハラスメントが大量発生中!あなたはいくつご存じですか?”. 講談社. . 2018閲覧.
関連項目
- 私怨目的
- 金銭目的
- その他