女子大学
女子大学(じょしだいがく)とは、原則として女性を対象とした(原則として女性のみが入学することのできる)大学である。ただし、大学院や大学の夜間学部・通信教育部などは男性も女子大学に所属して学ぶことが可能である場合がある。
概要
。アメリカ合衆国の代表的な大学として知られるハーバード大学は、創立以来長きにわたって男子のみが入学できる大学であった。そのため、ハーバード大学に関連する女子の入学できる大学としてラドクリフ女子大学がハーバード大学の教員によって設立されていた。
日本においても旧学制時代に女子が大学(旧制大学)へ入学できるのは例外的にしか認められなかったため、事実上女子に門戸が閉ざされていた。そのため、多くの女子は東京女子高等師範学校(現在のお茶の水女子大学)や旧制女子専門学校のような女子を専門とした教育機関へ進学していた。
男女雇用均等法の1999年改正による禁止規定から多くの大学が男女共学となっているが、女子専門教育を尊重する考えも根強く残っており、世界中に女子大学が存在している。日本でも昔は女子大学と言えば 花嫁修業の為に行くと言った認識が強かったが、今では多くの女子大学が、社会に出てもリーダーシップを発揮できる女性を育てる、女子大学ならではの教育を目指す方向にシフトした。女子大学の意義も時代と共に変化している。
アメリカの女子大学の歴史
アメリカでは、最初、ほとんどの大学が男子学生しか受け入れていなかったため、女子の高等教育の場として女子大学が作られた(初の共学大学であるオベリン大学 (Oberlin College) の創立は1833年。1860年までに共学となった大学は5つに過ぎなかった)。特に1837年から1889年にかけて創立された東部の7つの女子大学は「セブン・シスターズ」として知られている(しかし、この中で女子のみ受け入れ、なおかつ他の大学に従属していないものは4大学のみである)。当初は良家の娘が入学し、教養を磨くといった「良妻賢母」を育成するような意味合いが強かった。ウェルズリー大学にはマナー講座があり、実際に1950年代には在学中に結婚する女子学生が多かった。男女共学の四年制大学が増えたことに加え女性の社会進出が活発化すると徐々に人気が下がり始め、1960年代に250校あった女子大学は徐々に共学化に踏み切り、現在では60校未満を残すのみとなった。 しかし、近年は女性実業家に代表される「自主性」を育成することを中心にした大学や、マイノリティの受け入れなどに踏み切り、急激な学生の減少はなくなっている。 女子大学出身で有名なのは、ウェルズリー大学を卒業しイェール大学ロースクール(イェール大学法科大学院)に進んだヒラリー・クリントンであろう。このように現在の女子大学は、共学の四年制大学と変わらない性格をもつ。学部中心の教育を行っているために有名大学の大学院に合格する確率が高い大学もある。また、女子大学の中には、学部課程プログラムの一部や大学院課程に若干の男子学生を受け入れているものもある。
日本の女子大学
女子大学の一覧については日本の男女別学校一覧#私立の大学以降を参照。
日本の女子大学の特色として、大きく次の二点が挙げられる。
第一に、学部・学科構成として、英文学などの語学系や日本文学(国文学)系、教育学、栄養学等を中心とした家政学の学部が多いことである。他には音楽系の学科なども女子大学に設置されている例が多く[1]、また近年では、福祉や看護学、薬学系の学科を設置する女子大学も増えている。日本女子大学、大妻女子大学、共立女子大学、実践女子大学や椙山女学園大学のような良妻賢母を目指す学校を起源とする大学では家政系が中心である。
第二に、日本の多くの女子大学は私立大学であるが、キリスト教系の学校が目立つことがあげられる。戦前、女子教育に消極的だった日本政府に対して、女子教育の先鞭をとったのがキリスト教各派の宣教師だったのが所以であるといえる。[2]具体例として、北から順に、カトリック校では、藤女子大学(札幌)、聖心女子大学(東京)、清泉女子大学(東京)、白百合女子大学(東京)、ノートルダム清心女子大学(岡山)など、一方、プロテスタント校としては、宮城学院女子大学(仙台)、東京女子大学、フェリス女学院大学(横浜)、東洋英和女学院大学(横浜)、金城学院大学(名古屋)、同志社女子大学(京都)、神戸女学院大学、広島女学院大学、活水女子大学(長崎)などが代表的な女子大学として挙げられ、北から南まで全国に点在している。これらはいずれも伝統のある女子大学であるが、一般的にカトリック系の女子大学よりもプロテスタント系の女子大学の方が歴史が古い。カトリック、プロテスタントを問わず、これらキリスト教系の女子大学の多くは、英文学系を中心に古くから教養(リベラル・アーツ)系の学科が中心であり、大学の規模も概して小規模で、良家の子女用の教養型大学として機能してきた。この点は、韓国にあるアメリカのメソジスト系プロテスタントミッションスクールである梨花女子大学が、リベラルアーツ系の学部学科だけでなく、社会科学系、自然科学系など12の学部を持ち、良家の子女用の教養型大学としてだけではなく、女子大学としては世界最大規模であり、世界的な総合大学として機能しているのとは大きく異なっている。
このほか、女医育成のために設立された東京女子医科大学、看護系専門の聖路加看護大学、体育専門の日本女子体育大学、東京女子体育大学もある。また、近年は日本の女子大学も、語学・文学系に家政系という組合せの学部学科構成を改編し、社会科学系[3]や資格専門職(栄養士、看護師、医師、薬剤師)が取得できる実学系の学部学科(栄養学科、看護学科、医学部、薬学部)[4]の充実を図るようになっている。
ただし、日本では少子化による大学受験人口の減少や男女共同参画などの影響を受け、女子大学が共学の大学へ改組する事例が相次いでいる。概ね名称から「女子」の文字を取って新校名とする(武蔵野女子大学→武蔵野大学、京都橘女子大学→京都橘大学、天使女子短期大学→四年制に改組して天使大学等)か、部分的な校名変更を行う(文京女子大学→文京学院大学等)場合が多いが、既に存在する大学名と重複してしまう場合には全く新しい名称を付けることもある(鹿児島女子大学→志學館大学等)。また中京女子大学(2010年度から至学館大学へ校名変更)や愛知淑徳大学はその名称のまま共学化している。また、大阪女子大学、広島女子大学、高知女子大学などのように、かつての公立女子大学の多くは、近隣の公立大学に吸収合併または統合・再編され、すでに共学に移行している。近年では、学習院女子大学、大妻女子大学、群馬県立女子大学、女子栄養大学、聖徳大学、昭和女子大学、藤女子大学、東洋英和女学院大学などのように、大学院については男女共学となっている女子大学も存在している。このほかに、日本女子大学、フェリス女学院大学、学習院女子大学、白百合女子大学、東洋英和女学院大学、女子栄養大学、聖徳大学、神戸親和女子大学などでは一部の大学院研究科、大学の夜間部や通信教育課程を男女共学としたり、お茶の水女子大学のように論文博士の対象を男性にも拡大するなど、女子大学の名称のまま部分的な共学化を行っている大学は多い。しかし、近年メディアにより女子大学の就職率の良さが紹介され、その影響もあり女子大学の受験者が増加傾向にある。これは女子大学の多くが共学の大学とは違い、小規模の大学であり、就職支援スタッフが学生一人一人を手厚くサポートするので、きめ細かな就職支援が行いやすいという特徴がある。それに共学に来る求人は、男女全員に門戸を開いているように見せかけて、実は男性を主な対象にしている企業もあり、女子学生にとっては見分けがつきにくいが、女子大学なら最初からその女子大学の学生に求人を出しているのでその心配もない。女子大学の中でもとりわけ都内の有名女子大学の就職率は軒並み良く、共学の有名私大よりも有名企業への就職率が高い女子大学もある。
日本では、男女雇用機会均等法によって女性の社会進出が促進されたが、概ねバブル期までは民間企業では男性は総合職、女性は一般職として採用し、一定年齢で結婚した場合退職する寿退社を前提にしていた。そのため、とりわけ短期大学は一般職として大企業に就職しやすかったこともあり、当時の女性のライフコースに合った女子の進学先として、社会的にも女子受験生当事者やその家族にも好まれる傾向にあった。しかし、1990年代に入ると、バブル崩壊に伴う日本型雇用慣行の変化や経済のグローバル化への対応から、金融、商社、損保、航空など女子学生に人気の高い大手企業を中心に、一般職の採用を手控える傾向が出始めた。これに伴って一般職という職域が縮小または消滅するようになったが、このことは「女子学生の就職難」としてメディアでも大きく取り上げられ、女子学生にも資格志向、実学志向の傾向が出始めるようになった。女子の四年制大学への進学率は1990年代半ばを境に短期大学への進学率を上回るようになるが、これは日本の企業の採用システムが変化し始めた時期とほぼ重なっている。
このような時代背景の変化等も関係し、かつては女子大学に併設されている付属の女子高から系列の女子大学にエスカレーター式で進学するのが良家の子女の定番であったが、女子大学の付属高校でも系列の女子大学への進学を希望せずに共学の有名大学への進学を希望する生徒が増えている。
存在意義
前述の通り、女子大学の当初の創設理由は、太平洋戦争前には女性は正式な大学に入学できなかった[5]。 女子大学であり続けることを選択した大学の多くは、「女性エリート・リーダーの育成」としての存在意義を押し出している。 (「男性の役割を女性が果たすので決断力がつく」(飯野正子 津田塾大学)「18~22歳の時期に男性が近くにいると依存してしまう」(湊晶子 東京女子大学)など)[6]また男女雇用機会均等法の中にも、同性間の事象に関する事柄が記載され[7]、LGBTなどの概念が重要になってくるなか、単に性別の枠では語れない部分も多くなっている。「ジェンダー研究」や「女性学」に力を入れている大学が多い。[8]
関連項目
脚注
- ↑ 例として、宮城学院女子大学、フェリス女学院大学、同志社女子大学、神戸女学院大学、活水女子大学などに音楽学部または音楽(学)科が設けられている。
- ↑ プレジデント オンライン2015.4.19「日本で「名門女子校」が生まれた理由」
- ↑ 2011年には京都女子大学で女子大学初の法学部が新設された。
- ↑ 一方で工学部を設置している日本の女子大学は未だ存在しない。
- ↑ プレジデント オンライン2015.4.19「日本で名門女子校が生まれた理由」
- ↑ 朝日新聞digital 2008.9.16「存在意義 探る女子大学」
- ↑ 東洋経済online 2014.4.2「LGBT最前線 変わり行く世界の性」
- ↑ お茶の水女子大学「ジェンダー研究所」など