契約神学
契約神学(けいやくしんがく、英: Covenant Theology, Covenantalism, Federal theology, Federalism)は、聖書の記述全体を神学概念のひとつである「契約」 (covenant) の概念によって把握し、説明しようとするキリスト教神学の立場である[1]。主に長老派や改革派の教会で支持され、聖書的契約(Biblical Covenant)の見解と対照的な立場をとる。[2]
概略
契約神学は、全歴史を通じた神と人間の交流、すなわち創造・堕落・救済・終末を、「贖いの契約」「行いの契約」「恵みの契約」と呼ばれる三種の契約の枠組みで捉える。
これらの契約は聖書に直接記述されたものではなく解釈を通じて了解されることから神学的契約と呼ばれ、その立場は契約神学と呼ばれる。契約神学は、改革派教会の伝統的思想体系において聖書の記述が従う構造と見なされ、教義上の一説あるいは中心的教義とは別種のものとなっている。
契約神学の聖書解釈の枠組みは、旧約聖書に記述されたイスラエルについての契約と、キリストを通じた新しい契約 (New Covenant) との関係についてディスペンセーション主義と対照的な立場をとる。現代的なユダヤ教徒の神学的立場を考慮した場合、契約神学はしばしば優越的置換主義 (supersessionism) あるいは置換神学 (replacement theology) と批判的に呼称される。これは、契約神学の教義が、神がユダヤ人に対する契約を破棄し、地上の選民として代わりにキリスト教徒を選択したという解釈であると見なされるためである。これに対し、契約神学の立場を取る者は、神はユダヤ人への契約を破棄したわけではなく、救世主ナザレのイエスの人物と業績がこれを完遂するものであるとする。すなわち、イエスはイスラエルと有機的に連携した形で教会の端緒を開いており、別個のものとして置換したものではないとする。
契約神学はプロテスタント神学の主要な特徴のひとつであり、カルヴァン主義の神学を支持する改革派、長老派などの教会に顕著である。またメソジスト教会の一部およびバプテスト教会の一部にも形式を変えたものが認められる。
神学的契約
(1) 行いの契約
神は最初の人アダムを代表者として人類と「行いの契約」を結ばれた。エデンの園におけるアダムは安定した永遠のいのちを持っていたのでなく、善行によって永遠のいのちを獲得すべき者とされていた。
- 神の義務(約束)
- アダムが神への服従を一定期間全うした場合、永遠のいのちを彼に与えること。
- 人への義務
- 神への服従を全うすること。
- 契約のしるし
- 善悪の知識の木の実。これを食べることは、契約への不服従を端的に著すものであった。
- 契約違反への刑罰
- 刑罰は死である。本来、創造者なる神は、人へのいかなる義務をも負っていないが、へりくだって人との契約関係に入れられ、このような義務を負わされたのである。
(2)贖いの契約
堕落した人を救うために、父と御子の間に立てられた契約を、贖いの契約という。この契約において、御子は、選びの民の、代表者になられて、アダムが失敗した「行いの契約」を全うされる。
- 御子の義務
- 選びの民を代表者として、アダムの罪の責任を担い、わざの契約の刑罰である死(十字架)を引き受けること。わざの契約における永遠のいのちの条件である完全な服従を成し遂げること。
- 父の義務
- 贖いのわざを全うした御子を万物の支配者とし、御子の体なる教会の頭とすること。この体なる教会に選びの民を加え、聖霊によって彼らがキリストを信じ、キリストに結びついた救いの完成にあずかるものとなるようにすること。
(3)恵みの契約
神は父と御子との間に立てられた贖いの契約を土台として、選びの民を救うために恵みの契約を結ばれる。
- 神の義務
- いのちと救いを選びの民に与えること。
- 人の義務
信仰によって恵みの契約の約束を受けること。新しいいのちを受けて、神に服従する生活をすること。ただし、この義務は、贖いの契約に基づいて、キリストが人に賜る恵みによって達成される。
- 契約の仲保者
- 以上の恵みの契約は、罪びとを救う唯一の契約であって、この契約の外に救いはない。罪人を救い得る名は、イエス・キリストを別にしては誰にも与えられていないからである。旧約時代の人々も新約時代の人々も同一の恵みの契約により、イエス・キリストの贖いのみわざに基づき救われる。イエス・キリストは旧約時代終了後に、受肉されて十字架にかかり、旧約時代の選びの民の罪も十字架で、贖われた。旧約の時代の、恵みの契約は、約束、預言、いけにえ、割礼、などの形によってなされた。それらは、イエス・キリストを指し示すもので、これらに信仰をもって応答する者を起こし、彼らをイエス・キリストに結び付けて、救いの恵みを与えるものある。
聖書における契約の種類
- アブラハム契約
- 神がブラハムを選んで、アブラハムとその子孫と結んだ契約
- シナイ契約
- 神と神の民イスラエルとの会い抱き結ばれた契約。
- ダビデ契約
- 神とダビデと間に結ばれた契約、ダビデ王朝の永続を約束された。
- 新しい契約
- 新約聖書の契約
- イエス・キリストにおいて成就した。主の聖餐における、表現は契約締結時のモーセの言葉を踏まえている。イエス・キリストの十字架は、シナイ契約のように神の民を作り出す契約を成就した。
- パウロも、古い契約に対する、新しい契約の卓越性を強調した。
参考文献
- 中山雄一郎「契約神学」『新キリスト教事典』いのちのことば社、1991年
脚注
- ↑ J. I. Packer, ON COVENANT THEOLOGY
- ↑ http://www.harvesttime.tv/webstore/cd/fruchtenbaum-seminars/show/22014 ARNOLD.FRUCHTENBAUM, 聖書の八つの契約 2002年フルクテンバウムセミナー