ダイコン
ダイコン(大根、学名:Raphanus sativus var. longipinnatus)はアブラナ科ダイコン属の越年草で、野菜として広く栽培される。主に肥大した根を食用とするほか、種子から油を採ることもある。緑黄色野菜でもあり、淡色野菜でもある。名前の由来は、大きな根を意味する大根(おおね)から。
多くの品種があり、根の長さ・太さなどの形状が多様。また皮の色も白以外に赤、緑、紫、黄、黒などがあり、地域によっては白よりも普通である。日本ではほとんどが白い品種で、スズシロ(清白)の別名もこれに基づく。
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概要
原産地は確定されていないが、地中海地方や中東と考えられている[1]。紀元前2200年の古代エジプトで、今のハツカダイコンに近いものがピラミッド建設労働者の食料とされていたのが最古の栽培記録とされ、その後ユーラシアの各地へ伝わる。
日本には弥生時代には伝わっており、平安時代中期の『和名類聚抄』巻17菜蔬部には、園菜類として於保禰(おほね)が挙げられている。ちなみにハマダイコンまたはノダイコンと見られる古保禰(こほね)も栽培され、現在のカイワレダイコンとして用いられていた。江戸時代には関東の江戸近郊である板橋、練馬、浦和、三浦半島辺りが特産地となり、その中で練馬大根は特に有名であった。
ダイコンは日本においては品種・調理法とも豊富である。世界一大きくて重い桜島大根、世界一長い守口ダイコンなどの種類があり、日本人の食卓(鍋料理・おでん等)には欠かすことのできない野菜となっている。葉はビタミンAを多く含み、青汁の原料として使われる。汁はビタミンCやジアスターゼを多く含む[2]。
野菜としての位置づけにおいては、春の七草の一つ「すずしろ」であり、薬味や煮込み料理にも使われるなど、利用の幅は広い。薬草であり、消化酵素を持ち、血栓防止作用や解毒作用がある。
特徴
根出葉は羽状複葉で、頂小葉は大きい。太い主根は主軸が肥大して食用となる。収穫せず春を迎えれば、アブラナ属と似た淡紅色を帯びた白花をややまばらに付ける。果実の種子数はアブラナ属より少ない。
茎は、葉の付け根の低い三角錐部分で、食用にされない。また、一般的に根と呼ばれる食用部分のうち地上部分は、発生学的には根ではなく、胚軸に由来する中間的な性質を持っている。青首大根では特に目立ち、ジャガイモ同様、光に応じて葉緑体を発達させる茎の性質を示している。
茎、胚軸、根の区別は道管の位置で区別できるが、ひげ根(二次根)でも見分けられる。根の部分は両側一列ずつ二次根が発生し、店先のダイコンではその痕跡がくぼんだ点の列として観察できる。
アブラナ属のカブ(蕪)では、丸く肥大する食用部分が胚軸で、根はヒゲ根となって食用にされない[3]。
変種
栽培種も変種 R. sativus var. longipinnatus として扱われるが、原種ははっきりしていない。染色体はn=9で、アブラナ属の多くの野菜と同様自家不和合性を持ち、交雑しやすい。
遺伝的研究から、日本のダイコンはヨーロッパ系統、ネパール系統とは差が大きく、中国南方系統に近い[4]事が確認されている。
- ハツカダイコン (R. sativus var. sativus)
- ハマダイコン (R. sativus var. hortensis f. raphanistroides)
- 日当りのよい砂浜などに自生的に生育する。野草として食用にされるほか、食用選抜も行われている。普及した栽培種と比較してかなり硬く、辛味も強い。
- 栽培種が野生化した種と考えられていた[1]が、遺伝的研究では日本の栽培種とは差が大きく[4]、栽培種とは全く別の系統に属す可能性が高い。比較検討の結果としては、古い時代にもともとの原産地である地中海沿岸から中国を経由して人間の移動と共に入ってきた野生ダイコンが起源であるとする説が唱えられている。
- ノダイコン
- 黒大根 (R. sativus var. niger)
- 根の表面が黒く内側は白。根が長くなる品種と蕪の様に丸い品種がある。丸い品種は肉質が硬くデンプンが多い。花の色は白や紫。
なお、アカザ科のテンサイ(甜菜)を形状と用途から「サトウダイコン」(砂糖大根)と呼ぶが、ダイコンとは目レベルで異なる縁遠い種である。
主な品種
品種として有名なもの以外に、各地で地ダイコン(地野菜)が栽培利用されていた。1980年の文献[6]には、全国で110品種が記録されている[7]。特に九州南部は独自性が強いとされている。
- 青首大根 現在の主流品種で、作付面積の98%を占めるともいう。青首宮重(あうくびみやしげ)群。辛みが少なく甘みが強いこと、地上に伸びる性質が強く収穫作業が楽である事などから昭和50年代に急速に普及した。:他の品種はこれに押されて廃れ、郡大根(こおりダイコン)のように「絶滅」してしまった品種もある。現在他の品種は、品種保存や町おこしなどを志す一部の農家が少量栽培している。
- 宮重 現在主流の青首大根の片親。
- 白首大根 胚軸が発達しないため、緑色の部分が無い。沢庵漬け用など。
- 辛味大根 汁気が少なく辛味が非常に強いため、主に蕎麦などの薬味に用いられる。見かけはミニサイズのダイコンで、形状から「ねずみ大根」とも呼ぶ。
- 青皮紅心 中国産で、心里美(しんりび)とも。白い皮で中が紅色のダイコン。甘く水気が多いため果実のようにカービングにも利用される。
- 葉だいこん 葉を蔬菜とするための品種で、家庭園芸向け。
その他の地方品種・伝統野菜
- 亀戸大根[8] 小型で肉質が緻密。
- 源助(源助だいこん) 加賀野菜の一つ。短く太く、甘味が強く煮崩れしにくいことから、おでんに使われる。
- 聖護院大根 京野菜の一つで、カブのような球形。
- 守口大根 ゴボウのように細長く、世界最長。守口漬に使われる。
- 大阪四十日 小型種で、根が屈曲して独自の形状になる。現在は主に、貝割れ大根の種子として利用されている。
- 祝だいこん 雑煮の具などに使われる奈良県の伝統野菜(大和野菜)。
- 紅大根(長崎県原産)、紅しぐれ(群馬県原産) 外見は紫系の赤いダイコン。摩り下ろすと紫色の大根おろしになる。千枚漬のような漬物や大根おろしなどに使われる。
- 桜島大根 胴回りが巨大。
生産
栽培、統計上は春だいこん、夏だいこん、秋冬だいこんに区分され、秋冬が全体の7割を占め、春と夏が残りを分け合う。
収穫量順(農林水産省平成22年)では千葉県、北海道、青森県、宮崎県、鹿児島県、神奈川県で全国生産量の半分を占める。平成22年度生産量は全国で117万t。日本のダイコン生産量は作付面積、収穫量とも減少傾向にある。
年度 | 作付面積 (ha) | 収穫量(千t) |
---|---|---|
1998年(平成10年) | 48 500 | 1 902 |
1999年(平成11年) | 47 700 | 1 948 |
2000年(平成12年) | 45 700 | 1 876 |
2001年(平成13年) | 44 100 | 1 868 |
2002年(平成14年) | 42 500 | 1 780 |
2003年(平成15年) | 41 500 | 1 752 |
2004年(平成16年) | 40 000 | 1 620 |
2005年(平成17年) | 39 100 | 1 627 |
2006年(平成18年) | 38 300 | 1 650 |
2007年(平成19年) | 37 200 | 1 626 |
2008年(平成20年) | 36 600 | 1 603 |
2009年(平成21年) | 36 400 | 1 593 |
- 政府統計 平成21年産野菜生産出荷統計 より
食材
根
主に生食または加熱調理される。保存用に漬け物、乾物とされるほか、辛みを生かして香辛料ともなる。
ダイコンはクビ(葉に近い部分)は汁が多くて甘く、サキ(地に深い先端部分)は汁が少なく辛い。このため、クビの部分は生でサラダに、サキは大根おろしなど薬味に向く。タコやイカの煮込み料理に用いられるのは、ダイコンの酵素がこれらを軟らかくするため。
- 大根を繊切りにすることを「千六本」(せんろっぽん)という。これは中国語で大根を表す羅葡に繊切りの繊がついた「繊羅葡」(シエンルオポ)が、音訛したものである。
- 漬け物 浅漬け、たくあん、べったら漬け、福神漬け、さくら漬け、いぶりがっこなど。かつては秋に収穫される越冬野菜の典型として、冬季間の食卓に供される重要な保存食だった。
- 乾物 切って干したものは切り干し大根、立て四つに割って干したものは割り干し大根、茹でて干したものはゆで干し大根などと呼ぶ。戻して煮物にしたり、漬物、酢の物などに用いる。
- 加工品 広東料理の一種で、台湾などでは大根を刻んで他の材料を混ぜて焼いた「蘿蔔糕(大根餅)」として食されている。
- 香辛料 辛味の強い辛味大根は、ざるそば、うどんなどの薬味、付け汁(おしぼり)として用いる。蕎麦処の信州戸隠のものは小ぶりの大根に長い尻尾がついていることからねずみ大根などと呼ばれる。
- 茨城県水戸市には、0.2ミリメートル程の薄さで剥いた大根を、立体的な花(牡丹・菊・アヤメ)のように見せる「大根むき花」という民芸が、江戸時代の水戸藩以来伝わっている[11]。
葉
栄養価が高く、春の七草のスズシロ(清白)でもある。おひたし、みそ汁の具、漬物として用いられる。
炒め物にして食べると栄養の吸収が良いといわれる。また、カブの葉同様、刻んで飯に炊き込んだものは菜飯となる。
- 間引き菜(まびきな) 発芽から数週間で間引きした苗
- 大根菜(だいこんな) 一ヶ月ほど経ち10〜20cm程度に根が発達した幼植物。これを野菜として利用するための品種もある。
- 大根葉(だいこんば) 収穫期の葉でかつては広く利用されたが、現在は流通の都合や消費者の嗜好により原則として捨てられ、まれに葉付きダイコンと称して販売されている。成長した葉柄には棘状の突起があるので、生食には適さず加熱調理する。
- 干葉(ひば) 根と同様に干して保存性を高めたもの。緑黄色野菜の少ない季節の貴重な保存食とされた。
種子
栄養価
食材としての大根はビタミンC以外に目立った栄養はない。カロリーは少なく、ジアスターゼを多く含み[12]消化を助ける効能も有るため、ダイエット・フードとしても注目されている。
葉付き大根はそのまま置くと栄養価が下がるので、葉を切り落として二等分にし、切断面を密封して立てて保存するとよい。
文化
祭礼・信仰
- 真宗大谷派の了徳寺(京都市)は毎年12月9、10日の報恩講で大根焚を行う。食べると中風除けのご利益があるとされている[13]。
- 東京・浅草にある本龍院待乳山聖天(まつちやましょうでん)では1974年以来、1月7日に「大根まつり」が行われている。「聖天さま」(大聖歓喜天)へ供えた大根のお下がりを、ふろふき大根にして参拝者2000人に振る舞う[14]。
文学
成句
大根は、生でも煮ても焼いても消化が良く、食当たりしないので、何をやっても当たらない役者を「大根役者」と呼ぶ[15]。同じ理由で、なかなか当たりを打てない野球の打者を「大根バッター」とも呼ぶ。
脚注
- ↑ 1.0 1.1 西貞夫、野菜あれこれ(2) 調理科学 15巻 (1982) 1号 p.24-32 , doi:10.11402/cookeryscience1968.13.2_111
- ↑ 伊沢凡人・会沢民雄「カラー版 薬草図鑑」(家の光協会 ISBN 4-259-53653-2) 157ページ
- ↑ “植物の観察〜根”. 10min.ボックス. NHK. 2012年1月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。. 2011閲覧.
- ↑ 4.0 4.1 4.2 新倉聡、松浦誠司、http://ci.nii.ac.jp/naid/110001812534 「日本の栽培ダイコンにおける自家不和合性遺伝子と自家不和合性程度の遺伝的変異」育種学研究 1(4), 211-220, 1999-12-01, NAID 110001812534
- ↑ 辛味大根レシピ大百科|旬菜百科 味の素
- ↑ 農林水産省 野菜試験場育種部 (1980) 「野菜の地方品種」野菜試験場
- ↑ 石田正彦、吉秋斎、畠山勝徳 ほか、 南九州におけるアブラナ科野菜在来種の調査と収集 (PDF) 植物遺伝資源探索導入調査報告書 22, 37-45, 2005, NAID 40015430387
- ↑ 故郷に残したい食材 農山漁村文化協会
- ↑ 広辞苑第5版
- ↑ 『旬の食材 秋・冬の野菜』講談社 ISBN 4-06-270136-7
- ↑ 皆川守「大根むき花 水戸に咲く◇包丁1本で作る伝統民芸 7代続く保存会で後進導く◇」『日本経済新聞』朝刊2017年12月14日(文化面)
- ↑ “だいこん”. 福岡教育大学保健管理センター. 2010年3月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。. 2012閲覧.
- ↑ 報恩講-大根焚-について了徳寺ホームページ(2018年3月21日閲覧)
- ↑ 大根まつり本龍院待乳山ホームページ(2018年1月14日閲覧)
- ↑ 大根役者 - 語源由来辞典
参考文献
関連項目
外部リンク
- ダイコン(大根)(草花写真館)
- ダイコン多様性研究コンソーシアム
- だいこんホームガーデン百科 アタリヤ農園