大学通信教育

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大学通信教育(だいがくつうしんきょういく、: university correspondence education, distance learning)は、大学(本項では短期大学大学院も含む)が行う、学位を取得するために設けられた通信教育のことである。

本項では、主に日本における制度について述べる。

概要

日本においては、大学通信教育は、学校教育法に定められた正規の大学である。

大学通信教育は、主に「印刷教材等による授業」(自己学習)と「面接授業」(スクーリング)によって行なわれることが多く、単位修得試験などの審査に合格することで単位を修得する。単位修得試験は、同じ大学の通学課程に比べて難易度が高いことが多い。長い歴史を持つ郵送手段を用いた大学通信教育課程は、社会人の場合は仕事との折り合いをつけスクーリングに出向く必要があるなどハードルが高く、時間の自由度の高い学生の場合でも卒業後の就職サポートが存在しないなどの点があったが、通信教育課程の学生に対しても就職サポートを行う大学が現われ、2010年代に入り高速インターネットインフラが日本全国で整備されたことにより、スクーリングをインターネットを通じた講義で代替できる大学が出現するなどの変化が起きている。大学独自のSNSを開設し、通信教育の課題であった「友人を創ることの難しさに伴う孤独」による学習意欲の低下の緩和を図っている大学もある。

学べる分野は、主に文科系の領域であるが、文科系以外の領域も徐々に学べるようになってきている。また大学によっては、一定の単位を取得し通学課程へ編入するための試験を受けることができる。

入学者選抜については、学部(学部以外の教育研究上の基本となる組織を含む)の課程では出願時の書類による審査(入学資格があるかどうかなど)が主であり入学試験が行われることが少ない。但し、出願段階で「小論文」・「志望理由書」等の提出を要求する大学もある。
また大学院の課程では、専門科目の筆記試験・実技試験を始め、研究計画書の提出を通じた選考及び面接試験が行われることがほとんどである。

規定の単位数を全て修得し、卒業にあたり卒業論文、卒業制作が受領され、また、卒業試験に合格すると、教授会の選考を経て卒業が決定される。卒業が決定されると当該大学の卒業生として学位を取得できる。 卒業率・修了率は、各大学の各学部・学科・課程ごとに異なっており、かなりの開きがあるといわれる。


歴史

日本において大学通信教育の嚆矢と見なされているのは、明治期に各学校によって刊行されていた講義録である。

その最初期の代表例として、法律系では1885年(明治18年)に東京法学校(現法政大学)と英吉利法律学校(現中央大学)がそれぞれ刊行したもの、文科系では1888年(明治21年)に哲学館(現東洋大学)が刊行したものが挙げられる。

ただし、講義録とは実際に行われた講義の内容を編纂して刊行するというものであり、今日の大学通信教育課程のようにスクーリングや試験によって単位や卒業が認定されるものではなく、その意味で双方向的ではなくいわば「知識の伝授」という一方的な性格のものであった[1]

現在のような形態の大学通信教育は、1946年(昭和21年)3月学校教育法によって制度化されたものである。1947年(昭和22年)10月には法政大学で初めて大学通信教育課程が開講した。1948年(昭和23年)には法政大学・慶應義塾大学において初めて大学通信教育課程のスクーリングがおこなわれている。当初はまだ社会通信教育的な性格のものであったが、1950年(昭和25年)3月に正規の大学教育課程として認可された(この時認可されたのは法政大学・慶應義塾大学の他、中央大学日本女子大学日本大学玉川大学の各課程)。1952年(昭和27年)には、法政大学・慶應義塾大学から初めて通信教育課程による卒業生が輩出された。

以降、1960年代1970年代と通信教育を開講している大学は関東地区の大学が多く、関西圏および首都圏以外では一部の大学が実施している他はあまりなかった。1981年(昭和56年)にはテレビ・ラジオ放送による教育をおこなう放送大学が設立され、各地に学習センターが設置されたものの、それ以外にはあらたに通信教育をおこなう大学の数は伸び悩んだ。

しかし1990年代に入り、少子化による学校経営への影響や生涯学習への意欲の高まりからか、少しずつ日本全国の大学で通信教育を開講する大学が増加した。また2000年代になってからは、ブロードバンドインターネット接続が広範囲な地域で利用できるようになったことに伴い、新たな試みとしてインターネットを活用し、動画・音声配信にて講義を視聴させたり、各種プログラムを演習させたりというe-ラーニングによる通信教育を提供する大学が現出してきている。

大学院の通信教育課程については長らく認定されていなかったが、1998年(平成10年)3月大学院設置基準が改正され、通信制大学院の開設が可能となった。1999年(平成11年)4月修士の学位を授与する課程が設置された(最初に設置したのは日本大学佛教大学明星大学聖徳大学)。次いで2003年(平成15年)には博士の学位を授与する課程も設置された。

専攻分野

現在、日本における大学通信教育の専攻分野は、教養学経済学経営学商学法学文学教育学(主に教員養成)、臨床心理学など、人文科学系・社会科学系などの文科系の分野が中心になっている。

ただし、通信添削により学修成果の評価が可能な芸術系の学部において大阪芸術大学京都造形芸術大学武蔵野美術大学等が、またインターネットの普及など通信技術の進歩により旧来の郵便による通信では困難であった学問領域について、倉敷芸術科学大学北海道情報大学帝京大学などでは情報科学関係の科目、愛知産業大学では建築学関係の科目、放送大学倉敷芸術科学大学大学院では自然科学関係の科目、星槎大学では環境学関係の科目、日本女子大学では食物学・栄養学・調理学関係の科目などが学べるようになっている。

さらに近年は、健康福祉学、社会福祉学などの専攻も増えてきている。

授業の方法

授業の方法には次のものがあり、大学通信教育設置基準短期大学通信教育設置基準に定めがある。大学は、次の授業を日本国内または日本以外の国において履修させることができる。ただし、単位認定試験やスクーリングなどは日本国内のみで実施する大学も多い。

印刷教材等による授業(印刷授業・通信授業)
「印刷教材等による授業」とは、印刷教材その他これに準ずる教材を送付もしくは指定し、主としてこの教材により学修させる授業のことである。「印刷教材等による授業」の実施にあたっては、教員から提示された課題に対するレポートを作成・提出し、添削等による指導をあわせおこなうものとされている。レポートが合格すれば単位認定試験の受験資格が与えられ、この試験に合格すれば当該科目の単位が認定される。なお、芸術系の大学では、レポートや単位認定試験の代わりに作品を提出する科目もある。
また当該通信教育の教材等は第四種郵便物として通常の郵便物に比べ安い郵便料金が適用される。最近は、ワープロ書きによるレポートをプリントアウトして提出することや、インターネットによるレポート提出を認めている大学もある。
放送授業
「放送授業」とは、主として放送その他これに準ずるものの視聴により学修させる授業のことである。
放送大学によるテレビラジオ放送での講義を視聴させる授業(テレビ授業・ラジオ授業)が該当[2]する。「放送授業」の実施にあたっては、添削等による指導をあわせおこなうものとされている。
会場での実施であるものの、講師が直接その場で講義するのではなく、あらかじめ録画された講義を会場で放映する形式で行う「ビデオスクーリング」も、ここに含まれる。ここで得られるスクーリング単位は、法令上は10単位までが卒業要件にすることができ、後述の面接授業で必要な30単位のうちの10単位までをこれに代えることができる。
面接授業スクーリング
「面接授業」とは、講義、演習、実験、実習、もしくは実技のいずれかにより、またはこれらの併用によりおこなう授業のことである。面接授業は、教室等における授業のことであり、「印刷教材等による授業」と並んで大学における伝統的な授業形態である。「スクーリング」と呼ばれている授業の大半は、面接授業に該当する。大学通信教育のスクーリングでは原則として全ての時間に出席することを条件に、実施科目の最終授業時間に単位認定試験が行われ、この試験に合格すれば当該科目の単位が認定される。4年制大学では卒業までに30単位以上[3]、短期大学では卒業までに15単位以上履修する必要がある(放送授業・メディア授業を履修する場合を除く)。スクーリングの実施時期や会場は、従来は大学が夏休みになる夏季に実施する大学が多かったが、最近は多様化する傾向にある(詳細はスクーリングを参照)。大学や科目により、科目の単位数としては2単位科目であっても、レポート学習との併用により、スクーリング授業時間を、単位数分相当まで行わないケースもあり、この場合は、スクーリングで習得した単位としては、2単位中1単位分あるいは0.5単位分としてカウントする(おもに、各大学では、SR科目等と称しているものが相当)。
メディアを利用しておこなう授業(メディア授業)
「メディアを利用しておこなう授業」とは、文部科学大臣が定めるところにより、講義、演習、実験、実習もしくは実技のいずれかによる授業またはこれらの併用による授業を、多様なメディアを高度に利用して、当該授業をおこなう教室等以外の場所で履修させる授業のことである。これは現状、インターネットを活用し、動画配信[4]にて講義を視聴させたり、各種プログラムを演習させたりというe-ラーニングによる授業(インターネット授業 )が該当する。
法令上「メディアを利用しておこなう授業」は、面接授業(スクーリング)と同等に位置付けられ、卒業の要件とされている。つまり当該授業をおこなう教室に出席をしなくても、卒業の要件として修得すべき単位数(30単位以上)をメディアを利用しておこなう授業により修得することで、卒業することができる(メディア授業を実施しているものの、面接授業を必修としている大学もある)。「オンライン授業」はネットで小テストやレポートの提出、ディスカッションが行われ、「面接授業」扱いとなる。
なお、放送大学でネット配信を行っている放送科目は、あくまでも「放送授業」の扱いであり、「面接授業」にはならない。
実習
教員免許状を取得する場合は原則として教育実習が必修なので、教職課程を設置している大学では通学課程と同じように実施している。また、社会福祉士などの国家試験受験資格を取得する場合も社会福祉施設における実習が必修である。それらの事前事後指導の設定がある場合は、ほとんどがスクーリング必修となる(勤務経験等の条件を満たせば、スクーリング免除となる場合があるが、科目自体の履修が必須の場合はスクーリング受講者と同等のレポート提出となる場合もある)。なお、事前事後指導の科目は、スクーリング受講として認定されるが、一般的に、実習本体の単位は、スクーリング受講による単位としては看做されない。
卒業論文・修士論文
大学・大学院で学習した成果を論文にまとめるものである(芸術系の大学では卒業制作を課す学科・専攻もある。一般的に、卒業研究を進めるにあたり、規定回数以上の面接指導が必要だが、スクーリング単位にカウントされない)。ただし、最近は卒業論文を必修科目としない大学・学部も増加している。代わりに、何らかの卒業試験を課すケースも存在する。

学費

学費は、各大学によってまちまちであるが、一般的な私立大学の通学課程に比べると格段に低くなっている[5]。但し、早稲田大学eスクールは4年間の学費モデルとして460万円弱と案内しており、通学課程と同等の学費が必要な大学もある。(2016年8月現在)。

通信教育を運営している大学

以下のリストは便宜上、財団法人私立大学通信教育協会(“通信教育課程を設置する私立大学相互の協力によって、大学通信教育の振興を図ることを目的とする”団体)の加盟校・非加盟校に分けているが、加盟か非加盟かを問わず、全て文部科学省に認可された正規の教育課程であることに注意されたい。

私立大学通信教育協会では、通信教育を希望する人を対象に加盟校による合同入学説明会を各地で行なっている。説明会では各校の職員による相談を受けられるほか、案内資料を入手することができる。実施予定については同協会のサイトを参照されたい。

なお、私立大学通信教育協会への加盟にあたっては、学部の課程・大学院・短期大学というように、それぞれ別個に扱われている。

私立大学通信教育協会加盟校

私立大学通信教育協会非加盟校

かつて通信教育課程が設置されていた大学

(学生の在籍はあるものの、新規募集を停止したものを含む)

通信教育課程の設置が構想されていた大学

(文部科学省へ通信教育課程の設置認可申請を行なったものの、不認可あるいは申請取り下げで設置に至らなかったもの)

  • 近畿医療福祉大学 - 2006年度開設を目指して設置認可申請を行なったが、その後申請を取り下げた。
  • 旭インターネット大学院大学 - 2006年度開設を目指して設置認可申請を行なったが、結局不認可となった。
  • 映画専門大学院大学 - 2006年度開設を目指して通学課程と同時に設置認可申請を行なったが、その後通信教育課程のみ申請を取り下げた。

大学の提供するその他の通信教育

以上の記述は学校教育法に基づく正規の大学教育課程を行う通信教育であるが、この他にも生涯学習のニーズに応え、大学の知的成果を社会に還元する目的などから、社会教育法に基づく社会通信教育などの各種通信教育を大学あるいは大学設置法人の事業として実施しているものがある。

これらの通信教育は、大学の実施する通信教育ではあるが、学校教育法に基づく大学通信教育(学校通信教育)とは別のものであり、注意が必要である。

その他の通信教育を実施している大学・大学設置法人

社会通信教育を実施している大学・大学設置法人

大学・大学設置法人が実施する通信教育による社会福祉士養成施設精神保健福祉士養成施設正看護師養成施設

(学校教育法に基づく大学通信教育として設置されているものを除く)

通信教育課程を経て学位を取得した著名人

この他に、放送大学卒業者は放送大学の人物一覧を参照

通信教育課程を設置する日本国外の大学

日本国内で学修可能な大学

これらの大学は実際に現地に渡航しなくても卒業は可能だが、勉学を進めるためにはそれぞれの国の言語を読み書きができる程度にまでマスターしている必要がある。

特にアメリカ国内にあるアメリカン・パブリック大学とウォルデン大学は、外国人学生の入学はTOEFLもしくはIELTSで一定以上の点数を取る必要がある。

文章でのやり取りがほとんどのため、理解できない単語や文法は辞書や文法書を引けばよい。会話が可能なまでのレベルにまでマスターしている必要は無いであろう。ただ、何らかの要件で大学から自分に電話がかかってきた場合にどうするか、と言う問題などはある。その際は、英語、もしくは大学のある国の言語で「私は話せないのでメールをください」と伝えるなどの方法が考えられる。

関連項目

脚注

  1. 例外としては、東京法学校の通信教育機関「中央法学会」が挙げられる。
  2. 従来は慶応義塾大学の通信教育部でもラジオNIKKEIでの放送授業を実施していた。
  3. 放送大学の場合は、各学習センター単位で行われる「面接授業」の最低要件を20単位以上としているが、これは、残りの10単位分を、一般の「放送授業・印刷授業」で充当可能であると看做しているため。
  4. 動画はパソコンでの視聴が欠かせなかったが、2018年度開校予定の東京通信大学ではスマートフォンによる視聴を可能にする計画である。
  5. 1年次入学における卒業までの諸費用を含めた学費の最低費用は、放送大学は706,000円、私立大学においても東洋大学は430,000円、産業能率大学は776,000円と案内している(共に2016年8月現在)。

参考文献

外部リンク