塩害
塩害(えんがい)は、塩分に起因する植物や各種建築物・構造物への害の総称である。
海沿いの地域では海水に含まれる塩分により種々の塩害が生じる。塩分を含んだ潮風が吹き付けることや、海水が沿岸の河川・土壌内に侵入することなどによる弊害がある。海沿いでなくても、土壌中の塩分による農作物への障害、コンクリート内に含まれる塩分による建築物・構造物への障害などが生じる。
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農作物に関わる塩害
一般的に農作物は塩分の多い環境では生きていくことができない(マングローブなどの塩生植物といった例外はある)。塩害が発生すると、農作物の育成が妨げられその土地の農業的な価値が低下する。
連作による塩害
連作障害のひとつ。肥料のうち、作物に利用されなかった成分が土中の金属イオンと結びついて塩分となるもの。
灌漑による塩害
乾燥地では、土壌に含まれた塩分が雨によって流出しにくく、蓄積しやすい。そのような環境で大規模な灌漑を続けると、地下深くに存在していた塩分が水に溶け、この水分が蒸発する過程で塩分が地表近くに集まってしまい、地表付近の塩分濃度が上昇して塩害が発生する。このことが砂漠緑化の足枷となっている。
海水の遡上による塩害
河川は河口付近において塩水くさびにより河川の底部に海水が遡上する。河口付近の川底には満潮時の海面より低い部分があり、そこまでは海水が遡上してくることがある。このため、海に近い河川は、海に面しているのと同じで塩害が発生しやすい。
さらに、灌漑用水を下流部などから取水している場合などは、河川流量の低下や、水害防止のための浚渫で川の底が掘り下げられた場合に、より海水が遡上しやすくなり、塩害が拡大することがある。日本では、昭和33年塩害などの例がある。
越波や津波による塩害
海岸部に近い農地では、海風が強い時、波飛沫が飛来し、塩水をかぶるため、農作物に被害が生じることがある。特に、沿岸の傾斜地に多いみかん園などで被害が発生しやすい。台風や大潮による越波や地震発生後の津波などで田畑が冠水した場合には、除塩するなどして土地を回復させることが多い。
1991年の台風19号では、瀬戸内沿岸で多数の被害が発生した。海岸工事により砂浜が消滅し、波除けのコンクリート構造物が多数設置されたために被害が拡大したと指摘されている。
また、津波のように大規模な災害時は内陸でも深刻な塩害が発生する場合がある。2004年のスマトラ島沖地震で発生した津波は、周囲の標高が低い地域に多大な被害を及ぼした。ただ、これらの地域は熱帯に属しているため、多量の降雨によって塩分が洗い流され、幾分被害は軽減しているとの報道もある。
2011年に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)で起こった津波にて被害を受けた沿岸部の水田約2000ヘクタールが、震災から10年以上作付けができない可能性があるとみられている[1]。
構造物に関わる塩害
塩分が付着することで、その物体が急速に劣化したり酸化する被害がある。
電線の塩害
塩水は雨水よりも遥かに電気を通しやすいため、絶縁している部分に塩水が付着すると、導電して漏電状態となってしまい、電気が供給できなくなる。
海岸沿いに設置された電柱や電線などの電力設備は、当然のことながら塩害対策を施し、付着した塩の除去などを行っているが、越波による塩害などでは、電線にも悪影響を与える。特に、低気圧と荒波・強風を伴う台風は、かなりの内陸部まで広範な影響を及ぼすことがあり、1991年の台風19号の際は吹き返しの風による塩害が中国地方で多数発生した。
鉄筋コンクリート構造物の塩害
鉄筋コンクリートにおける塩害とは、以下に示すメカニズムによって発生する。
コンクリートに侵入した塩分中の塩化物イオンが鉄筋を腐食させ、膨張が生じる。鉄筋の膨張に伴い、コンクリートに引っ張り力がはたらき、ひび割れを生じる。コンクリートのひびは、ますます腐食物質(水、酸素、二酸化炭素、塩化物イオンなど)の侵入を許し、鉄筋の劣化、コンクリートの剥落へと発展する。主に海水が原因とされているが、コンクリートの骨材である海砂や、近年では道路面の凍結を防止するために散布する凍結防止剤による塩害なども原因に挙げられている。 日本では、高度経済成長の時代に建築された建物や土木構造物(高架橋やトンネルなど)においてコンクリートの崩落が起きており、これらは充分に洗浄・脱塩が行われていない海砂や砂利が原因となっているのではないかと指摘されている。
塩害を防止する対策として、かぶりを十分大きくとること、コンクリート表面および鉄筋表面に合成樹脂などのコーティングを施すこと、材料に海砂などの塩化物イオンを含む骨材を使用しないこと、海砂を利用する場合は十分に洗浄したものを使用すること、などが挙げられる。
市営基町高層アパートで、1986年から4年間・約40億円を掛けて、日本初の塩害に伴う大改修が行われた[2]。
鉄道車両の塩害
鉄道車両を海岸沿いの路線で使用すると車体・機器が鋼鉄製である場合、急速に腐食劣化・酸化してしまう。古い国鉄型の車両は鋼鉄製で塩害に悩まされたが、最近の車両は車体がアルミニウム合金・ステンレス製となり塩害を克服してきている。しかし機器(特に電気機器)に関しては対策が未成熟の部分が多い。
JR北海道日高線運輸営業所所属のキハ130形気動車は1988年11月に導入されたものの塩害による腐食が著しく、1999年には早くも老朽廃車される車両が発生し2002年には全車廃車(形式消滅)となった。
JR東日本千葉支社所属の113系電車では腐食が進んでいるため、ステンレス製の211系電車および209系電車に置き換えを行い、2011年9月1日に全ての運用を211系電車と209系電車に置き換えを完了した。
瀬戸大橋線(本四備讃線)で使われていたマリンライナー用の213系電車は、普通車がステンレス製車体であるのに対しグリーン車は鋼鉄製で塩害のダメージを受けやすかった。さらに制御装置の塩害も多かったため、2003年10月のダイヤ改正で213系電車はマリンライナーとしての運用から外れ、現在はJR西日本の223系5000番台とJR四国の5000系がマリンライナーとして運行されている。
伊豆急行線では1961年の開業時から100系電車を運行、さらに1985年から2100系電車を運行していたが、相模湾・太平洋に路線が面していることからひどい塩害に悩まされた。その上100系電車の経年劣化もあって、その置き換えならびに8000系投入までのつなぎのため、2000年にJR東日本から113系電車・115系電車を購入・改造し、200系電車として運行を開始した。さらに2005年には200系電車や一部の2100系電車の置き換えのため東京急行電鉄からオールステンレス車体を持つ8000系電車を購入・改造の上(形式は引き続き8000系となる)投入した。
EF81形電気機関車をはじめ、交流電化区間を走る車両の一部では、屋上の機器を車内に設置する設計が成されており、さらに、絶縁劣化や絶縁破壊を防ぐため、屋根上のガイシに緑色のシリコンを塗布し、塩害対策としている。日本海縦貫線のEF81形は、塩害による車体傷みが激しい。
JR東日本所属のHB-E300系気動車では、2010年の新製当初の運用線区である五能線・大湊線・津軽線など、海岸部が多く含まれる路線を走行することから、塩害対策としてエンジン・VVVFインバータ制御装置・ラジエーター・蓄電池の冷却風を海側から取り込まないように機器を配置している。
建物等の塩害
住宅・ビル等の場合、海岸付近では鉄製の柵、テレビアンテナ等が塩害で腐食することがある。そのため塩害対策が必要となる。塩害対応の塗料を使用する場合もある。風向きによっては海岸から数キロ離れた場所でも塩害が起こることがある。
コンデンサーにアルミ製の薄いフィンを用いるエアコンの室外機には、耐塩仕様がある。
配管等の塩害
海岸付近で施工される配管や海水を通水する配管の施工では塩害による腐食対策で銅管が使用される。 銅管は耐食性が良く、海水や海岸付近での水に対して腐食や錆の発生はほとんどなく海岸付近のコンクリートや土壌に対する耐食性も良いことから空気管・冷媒などの配管などに使用され 水洗便所では床下給水式の和式大便器の給水管(便器接続部の地中埋め込み管で通常の一般地での上水では黄銅管が使用される)にも使用される。 軟質と硬質、なまし銅管、外部に保護用の被服を施したものなどがあり、状況に合わせ使い分けがされている。
融雪剤による塩害
融雪剤#融雪剤による塩害を参照のこと
脚注
- ↑ “「塩害で米作れない」宮城沿岸の2000ヘクタール、本格調査開始” (プレスリリース), 産経新聞, (2011年3月29日) . 2011閲覧.
- ↑ 『塩害でコンクリ劣化 基町高層団地 外壁を大修理 4年がかり 費用は39億』中国新聞 1986年8月30日 21ページ