場面緘黙症

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場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)、選択性緘黙(せんたくせいかんもく、: Selective MutismSM)とは、家庭などでは話すことが出来るのに、社会不安(社会的状況における不安)のために、ある特定の場面・状況では話すことができなくなる疾患である。 幼児期に発症するケースが多い。

定義

精神医学的障害の一種である。

症状

概要

場面緘黙症とは、ある特定の場面・状況でだけ話せなくなってしまう症状のことである。

子供が自宅では家族らと問題なく会話をしていても、学校や幼稚園など家の外では全く、あるいはそれほど話さず、誰とも話さないという例は多い。そして、その子供は非常に内気な様子に見え、グループでの活動に入りたがらなかったりする。

脳機能そのものに問題があるわけではなく、行動面や学習面などでも問題を持たない。

また、強い不安により体が思うように動かせなくなる緘動(かんどう)という症状が出る場合もある。

単なる人見知り恥ずかしがり屋との大きな違いは、症状が大変強く、何年たっても自然には症状が改善せずに長く続く場合があるという点である。

発症年齢

一般的に、2~5歳の間に発症する。しかし多くの場合、6~8歳になるまで診断や治療はほとんど行われていない。これは、疾患に対する理解度の不足などにより、単なる引っ込み思案といった性格的原因との区別がつけにくいためである。

発症率

現状ではあまり明確になっていない。

1998年の調査では小学校低学年では全体の2%がこの症状を持っているという報告がされた (Kumpulainen et al., 1998)。また、性別では女の子の方が男の子より1.5~2倍の割合となっている (Steinhausen and Juzi, 1996)。

アメリカの精神医学誌The Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatryの2002年の調査では、その発生率は1000人中7人の割合とされた。

診断

場面緘黙症の判断基準について、2つの主流の分類を以下に示す。

ICD-10

選択性緘黙とは、話す際に著しい、感情的に断固とした選択性があるのが特徴であり、子供がある若干の状況で言語能力を示すが、別の(定義可能な)状況では話すことができないものである。この障害は、通常、社交不安障害引きこもり過敏症または治療に対する抵抗などを含む、際立った個性機能と関係している。

ただし以下は除外する:

DSM-IV

場面緘黙症(選択性緘黙)

  • 他の状況では話すことができるにもかかわらず、ある特定の状況(例えば学校のように、話すことが求められる状況)では、一貫して話すことができない。
  • この疾患によって、学業上、職業上の成績、または社会的な交流の機会を持つことを、著しく阻害されている。
  • このような状態が、少なくとも一ヶ月以上続いている。(これは、学校での最初の一ヶ月間に限定されない)
  • 話すことができないのは、その社会的状況において必要とされている話し言葉を知らなかったり、また、うまく話せない、という理由からではない。
  • コミュニケーション障害(例えば吃音症)では説明がつかず、また、広汎性発達障害統合失調症またはその他の精神病性障害の経過中経過中にのみ起こるものではない。

付随する問題

場面緘黙児のほとんどは、それ以外になんらかの不安に関連した病名を診断されている。多く見られるのが、社交不安障害分離不安障害、完全主義的傾向、強迫的傾向などである[1]。また、病名はないが、特徴的な問題も含めて以下に挙げる。

社交不安障害

社交不安障害の子供は、他人からの否定的な評価を恐れ、自分が何かみっともないことを言ったり、したりするのではないかと過度に気を遣う。具体的には、友達と遊ぶのを避けたり、人前で食べられなかったり、公衆トイレが使えなかったりする。

学校のトイレを使うのが怖い

これは、先生に許可をもらうこと、皆の注目を集めることなどが場面緘黙児にとって不安を感じるためである。

原因

場面緘黙症の子供の多くは、先天的に不安になりがちな傾向がある[2]。また、内向的な性格であることが多く、これは扁桃体と呼ばれる領域が過剰に刺激されることによると考えられている。この領域は、脅威の兆候を感知すると「戦うか逃げるか反応 (fight-or-flight response)」を引き起こす。 場面緘黙症の原因が虐待ネグレクト心的外傷によるものであるとは限らない。場面緘黙症の子供は、全く話すことができない状態に症状が進行するケースもあり得るが、ほとんどの場合、場面によっては話すことができる。一方、心的外傷による緘黙は、通常、突然あらゆる場面で話すことができなくなる。

両親の母語が異なる子供や、言語の異なる外国に暮らす子供、幼少期に外国語にさらされた子供は、話すことが要求された言語について自信を失ってしまうことがある。いずれの場合も子供は内向的な性格を示すが、このような言葉の問題によるストレスは、子供を緘黙にしてしまうのに十分な不安の原因となる。

治療

場面緘黙症は、必ずしも年齢とともに自然に改善されていくわけではない。そのため、低年齢のうちに治療を受けることがとても重要である。そのままにしておくと、周りの人はその子は話さない子と考えるため、緘黙症状そのものが強化されてしまい、話すことがますます難しくなってしまう。 治療法の例として段階的暴露療法(緘黙のある場面・状況で話してみることができるよう適切にサポートし、本人が「話してみたら実際は大丈夫であった・話してみたら楽しかった」「はじめは不安が強かったが、話してみると徐々に不安も収まっていった」という気付きを得られるよう支援する)などがある。

また、社交不安障害や分離不安障害が併存する場合の治療法については、「社交不安障害#治療」・「分離不安障害#治療」も参照。

歴史

1877年(明治10年)にドイツの医師であるアドルフ・クスマウルがDie Storungen der Sprache : Versuch einer Pathologie der Sprache において、“Aphrasia voluntaria”(随意性失語症)という症状を報告した。これが場面緘黙症に関する最も古い報告と見られる。

わたしの同僚がある日、十歳の児童を恐らく緘黙症であらうと廻してきた。成程、訊いても答へない。幾度か尋ねても、たまに単語を答へる程度である。家庭では口をきくし、両親の話によると、可成りに陽気であるらしい。学校でも友達とは口をきく、それもたった一人の友達とだけである。[3] — ジルベール・ロバン著、吉倉範光訳、『異常児ーその鑑別と保導

出典

  1. Viana AG, Beidel DC, Rabian B (2009). “Selective mutism: a review and integration of the last 15 years”. Clin Psychol Rev 29 (1): 57–67. doi:10.1016/j.cpr.2008.09.009. PMID 18986742. 
  2. わざと話さないわけじゃない。専門家に聞く、場面緘黙(かんもく)について知っておきたいこと”. . 2016閲覧.
  3. ジルベール・ロバン著、吉倉範光訳『異常児ーその鑑別と保導』、白水社、1940年、378頁

参考文献

関連項目

外部リンク