埼玉高速鉄道

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埼玉高速鉄道株式会社(さいたまこうそくてつどう、: Saitama Railway Corporation)は、埼玉高速鉄道線(埼玉スタジアム線)を運営する第三セクター方式の鉄道会社。通称はSR[1]。本社は浦和美園駅構内に設置。

「高速鉄道」とあるが、新幹線のような高速鉄道ではなく「都市高速鉄道」を意味する[2]

概要

埼玉県と帝都高速度交通営団(現・東京地下鉄)、および沿線の路線バスを運行する国際興業東武鉄道、そして西武鉄道協和埼玉銀行(現・埼玉りそな銀行)、沿線自治体川口市浦和市(現・さいたま市)・鳩ヶ谷市(現在は川口市に編入)が出資して1992年3月に設立された、第三セクターの会社である。軌道・駅舎の大部分が地下にあり、日本地下鉄協会では民営・準公営(第3セクター)の地下鉄事業者の一つとしている[3]

当初は2006年の開業を予定していたが、当時浦和美園駅付近に建設されていた埼玉スタジアム20022002 FIFAワールドカップの開催会場の一つに決定したことを受けて工期が短縮された。

開業当初より、東京メトロ南北線を経て、東急目黒線と相互直通運転を行っている。また、臨時列車では、一時期日吉駅から先の東急東横線を介し、横浜高速鉄道みなとみらい線元町・中華街駅まで直通運転を行っていた(みなとみらい号を参照)。2006年9月25日より直通相手先の東急目黒線で急行列車の運行が開始されたが、その後も埼玉高速鉄道線内では全列車が各駅停車での運転となっている。ただし埼玉高速鉄道線の活性化の一環として、優等列車の運転が埼玉高速鉄道延伸検討委員会などで検討されている[4]

東急東横線複々線化事業に伴い、2008年6月22日に東急目黒線が延伸され、直通運転区間も日吉駅まで延長された。東急目黒線は神奈川東部方面線の建設完了時に新横浜駅に延長する形となり、同駅で相模鉄道の新路線と相互直通運転を実施する予定であるが、埼玉高速鉄道との直通も検討している段階である。ただし、相模鉄道の車両は1編成の最低両数が8両編成であることから、8両編成の対応が必要となるが、2018年7月の時点では、埼玉高速鉄道の8両編成化の計画は東京メトロ南北線と同様にまだなされていない。

埼玉高速鉄道線は、かつての武州鉄道をなぞるように岩槻駅を経由し蓮田駅までの延伸も予定されており、この区間については2000年運輸政策審議会答申第18号において「2015年までに開業することが適当な路線」として示されているが、採算性の問題が解消されず、2018年現在でも延伸区間は未着工である。2012年10月1日、さいたま市の清水勇人市長は「(2012年から見て)おおむね5年後の事業着手」を発表し、これを報じた日本経済新聞の記事は延伸区間の開業が2025年頃になるという見通しを伝えた[5]

開業後は当初の見込みを大きく下回る輸送人員に留まった[注釈 1]。このため建設費の償還にも支障が出る恐れが生じ、埼玉県庁や沿線各市による協議が続けられていたが、沿線での宅地開発進行による乗客の増加[注釈 2]上田清司埼玉県知事が立ち上げた埼玉高速鉄道延伸検討委員会の成果により、2003年度には借入金への支払利息と減価償却費を除く基礎的収支が開業後初の黒字となった。

さらに経営再建を進めるため、2004年しなの鉄道の経営で辣腕を振るった杉野正を上田自ら社長に招聘し、旅行業への進出やギフト販売(2007年1月末日をもって終了)など副業にも乗り出した。しかし、杉野は自民党神奈川県連の推薦を受け、2007年の神奈川県知事選挙に立候補するため2006年11月16日の臨時取締役会を最後に退任した[注釈 3]。その後加藤吉泰副社長が代表取締役も兼ねてとしてつなぎを務めてきたが、2007年1月17日の株主総会で近藤彰男[注釈 4] が代表取締役社長に就任した。その後、2014年6月には東日本旅客鉄道(JR東日本)出身の荻野洋が社長に就任している[注釈 5][6][7]

2009年度以降は償却前純損益が黒字で推移していたが、総建設費2587億円、うち有利子負債額1575億円[注釈 6]という巨額の負担に対する償還のため、償却後の営業損益は2014年度まで15年連続赤字であった。これを見て同社の大株主である埼玉県は抜本的な経営再建に着手し、金融機関の債権総額440億円の9割以上に当たる417億円に対し川口市やさいたま市と協調した第三セクター等改革推進債発行による損失補填、および埼玉県自体が持つ債権244億円の半額を超える139億円のデットエクイティスワップ (DES) による株式化により、埼玉高速鉄道の債務額を2014年3月末時点の1183億円から578億円減の605億円へと2015年3月末時点でほぼ半減させ、残る債務の返済についても最大債権者の鉄道建設・運輸施設整備支援機構の分を含めた返済繰り延べを実施する事業再生ADR(裁判外紛争解決)の実施を2014年9月に発表した[8][9]。これにより埼玉高速鉄道の経営は改善し、2015年度に初めて償却後純損益が黒字となった[10]

経営状況
営業収益 営業利益 経常利益 純利益 繰越利益剰余金 有利子負債残高 純資産
2000年度 1億1000万円
2001年度 51億4000万円 △51億8000万円 △88億2000万円
2002年度 58億1000万円 △53億3000万円 △90億4000万円
2003年度 62億4000万円 △42億3000万円 △70億円
2004年度 66億7000万円 △35億7000万円 △62億8000万円
2005年度 69億円 △29億8000万円 △52億8000万円
2006年度 74億9000万円 △21億4000万円 △45億円
2007年度 79億3000万円 △18億5000万円 △39億8000万円
2008年度 81億5000万円 △18億8000万円 △38億8000万円 1455億円 313億9032万5000円
2009年度 80億6000万円 △18億8359万1000円 △44億4801万3000円 △36億6812万1000円 1374億円 288億3710万4000円
2010年度 81億3000万円 △18億3588万7000円 △41億1677万7000円 △41億3465万7000円 1275億円 287億8140万2000円
2011年度 80億5400万円 △18億7000万円 △39億3600万円 △39億4300万円 △631億1457万7000円 1248億7100万円 288億4607万4000円
2012年度 83億7823万2000円 △16億4930万9000円 △35億9531万7000円 △36億0616万4000円 △667億2074万2000円 1210億7300万円 292億8692万8000円
2013年度 87億0800万円 △10億6000万円 △28億6769万7000円 △29億1499万5000円 △696億3573万8000円 1161億8500万円 303億1390万4000円
2014年度 89億3931万3000円 △5億0459万2000円 △21億6455万4000円 △443億1935万8000円 0円 584億6000万円 56億7352万3000円
2015年度 94億3806万2000円 22億4382万2000円 15億1603万1000円 20億5636万2000円 20億5636万2000円 572億2400万円 58億3770万6000円
2016年度 98億0802万6000円 30億8909万2000円 24億6514万8000円 26億6992万4000円 47億2628万7000円 559億4800万円 85億763万1000円
2017年度 102億4054万2000円 34億7625万8000円 29億6720万6000円 32億2982万4000円 79億5611万1000円 513億余り 117億3745万6000円

歴史

路線

ファイル:Saitama Railway Linemap.svg
路線図(クリックで拡大)

ワンマン運転実施のために各駅にはホームドア(扶桑電機工業製)が設けられている。中間駅には待避線がないが、利用者の増加を図るために、埼玉高速鉄道延伸検討委員会において優等列車の運転の検討も行われており、鳩ヶ谷駅に待避線を設置する計画がある[4]

車両

自社車両

直通先所有車両

東京地下鉄

東京急行電鉄

運賃・乗車券

大人普通旅客運賃(小児半額・10円未満切り上げ)。2014年4月1日改定。

開業時から初乗り運賃は210円であった。これは日本の地下鉄として京都市営地下鉄と並ぶ最高額であり、全体的にも日本の普通鉄道としては高額の部類に入る。開業時では5年毎の運賃値上げも計画されていたが、2003年度に借入金への支払利息と減価償却費を除く基礎的収支が黒字となったことから、5周年にあたる2006年3月や、10周年にあたる2011年3月も値上げは実施されていなかった。

初めて運賃を値上げしたのは、消費税の税率が5%から8%へ引き上げられた2014年4月1日であるが、1円単位の運賃は導入されず、初乗り運賃も据え置かれた[12]

キロ程 運賃(円)
初乗り3km 210
4 - 5 270
6 - 7 310
8 - 9 350
10 - 11 390
12 - 13 430
14 - 15 470

なお、東急全線・東京都交通局・横浜高速・京王・小田急等・東京メトロ以外、連絡普通乗車券や往復乗車券は発売されていないため、PASMOSuicaといったIC乗車カードでの乗車でない場合は、下車駅で精算が必要である。

2007年から、PASMOおよびSuicaが利用可能になっているが、2013年3月23日より、交通系ICカード全国相互利用サービス開始で、TOICAICOCAなども利用可能になった。

IC定期券

埼玉高速鉄道では、2002年3月28日よりIC定期券を発売していた。そのため、各駅の自動改札機にはIC定期券をかざすため、カードリーダ/ライタ (R/W) が取り付けられていた。システムはJR東日本のSuicaと同様、FeliCaを採用した交通サイバネ規格に準じたものであり、改札機のR/WもSuicaと同仕様のものが設置されていた。カード裏面のID番号の頭2文字のアルファベットはSR。

これは同社の利用活性化運動の一環として、また2002年には浦和美園駅が最寄りの埼玉スタジアム2002が開催会場の一つとなったFIFAワールドカップの観客輸送のため、東川口駅でのJR武蔵野線との乗り換えの利便を図る目的で、Suicaとの相互乗り入れを目論んで導入された。しかし、JR東日本側は「料金処理システム準備中」を理由に時期尚早と判断した。そのため、PASMOとSuicaの相互利用開始までの5年間は、まったく互換性のない鉄道IC定期券として運用されていた。またその間のIC定期券は、東京メトロ南北線など他の鉄道事業者との連絡定期券としての利用もできないため、連絡定期券を利用する場合は、磁気定期券を利用せざるを得ないという制限を強いられていた。このほか、ストアードフェア(チャージ)の機能も有していなかったため、乗り越しの際の自動精算や、定期券以外のプリペイド式ICカードの発売も行われなかった。

このIC定期券は、2007年3月18日に運用が開始されたPASMO導入準備のため、2006年9月10日で新規の定期券の発売を終了した。さらに、2006年11月20日以降は自動改札機での使用、自動発売機での継続定期券の発売が停止されたが、有人通路での使用は引き続き可能としていたほか、窓口で申し込みをすれば継続定期券の発行も可能であった。しかし、PASMO導入後は、PASMO用に新たに設置し直された自動改札機のR/Wでの使用はできず、利用者は一旦IC定期券を返却(または磁気定期券に交換)したうえ、新たにPASMO定期券を購入する必要が生じた。

2018年3月17日発売分より通学定期券が約2割値下げされた。

割引乗車券

SR東京メトロパス

2008年4月1日から発売を開始。発売額は埼玉高速鉄道の各駅から赤羽岩淵駅までの片道普通運賃を2割引きして2倍した額に、東京地下鉄の一日乗車券発売額(大人710円、小児360円)を合算した額とされている。

私鉄+東京メトロの組み合わせでのメトロパスの発売は小田急電鉄東武鉄道、東京急行電鉄に続き4社目(東葉高速鉄道も同日に東葉東京メトロパスを発売開始)。

SRシネマきっぷ

2014年5月1日から発売を開始。埼玉高速鉄道の各駅から浦和美園駅までの片道普通運賃を3割引き(学生、シニアは5割引き)して2倍した額に、イオンシネマ浦和美園の映画鑑賞券を合算した額とされており、特典としてミニポップコーン券も付与されている。

当初は9月30日までの期間限定発売とされたが、10月1日よりイオンモール浦和美園の指定店舗で利用できるソフトドリンクサービス券を特典として付与した上で、通年販売とされた。

東京メトロ管轄の赤羽岩淵駅では販売されていないが、浦和美園駅の改札口で本乗車券に交換することができる。

SR一日乗車券

土休日と年末年始と埼玉県民の日に発売される。浦和美園 - 赤羽岩淵間の全線が乗り降り自由で、販売額は680円(小児340円)。

SR往復割引乗車券

特定日に販売される。

埼玉県民の日一日乗車券

11月14日埼玉県民の日に発売される。2011年度以降はSR一日乗車券と同一の割引乗車券として販売されている。

2010年度以前のフリー区間は埼玉県内の浦和美園 - 川口元郷間であり、発売額は450円(学生350円、小児230円)であった。

その他

2001年の開業時から2008年までパスネットを導入していた。カードに印字される符丁はSRだった。同社パスネットの中には浦和レッドダイヤモンズ大宮アルディージャの選手集合写真を使った特製カードもあった。

臨時列車「みなとみらい号」運転時に限り埼玉みなとみらい往復フリー切符を発売している。

パーク&ライド社会実験

2006年9月19日から11月30日にかけての平日に、国土交通省関東地方整備局などが埼玉高速鉄道の4駅(浦和美園駅・戸塚安行駅鳩ヶ谷駅川口元郷駅)周辺の商業施設の駐車場を活用したパーク&ライド社会実験が実施された。インターネットを使って携帯電話カーナビゲーションなどに駐車場の空車情報や都心への道路の混雑状況などの情報を送り、実験参加者に駐車場に車を停めて電車を利用するかどうかを判断してもらい、自家用車と電車の利用状況の関係を検証する目的のものであった。

杉野正の経営改革

2004年7月1日に代表取締役社長に就任した杉野正は、「信濃のカルロス・ゴーン」とも呼ばれたほどコスト削減の手腕に評価が高く、その実力に期待が集まった。杉野はさっそく、契約関係の見直しなどによって3割のコスト削減を目指し、実現した場合にはそのうち1割分を社員に還元するなどの独特の案を発表した。

収入増にも力を入れ、それまで在籍していた旅行代理店エイチ・アイ・エスとのパイプを活かして旅行業に進出したり、ギフト販売を行うなど副業に乗り出した。また、浦和美園駅の北方にある車両基地の東側社有地に整備された埼玉スタジアム2002への歩行者専用道路で飲食物を販売したり、駅構内の空きスペースに喫茶店や健康施設などをテナントとして誘致するなど、資産の有効活用などで成果をあげた。車内および駅構内への液晶テレビ(一部はプロジェクター)設置による動画(デジタルサイネージ)広告として2006年に開始した「SaiNet Vision」も、しなの鉄道時代に杉野が発案し成功したものの流用である[注釈 7]

一方で、自社線内の減便を中心とするダイヤ改正を、就任わずか3か月後の2004年10月1日に行うと発表(その後撤回)したり、東京地下鉄からの出向社員に対する大幅な給与削減案で東京地下鉄側を刺激するなどの手法は東京地下鉄側の態度を硬化させ、両者の関係を悪化させる事態となった。この給与削減案は、該当する社員らの強い反発で白紙撤回、杉野が謝罪するという異例の事態で収束をみた。このような展開となった理由は、当該社員らが運行の中枢を担う職務を行っており、案に反発した複数の社員が辞職を申し出たことで、列車の運行が不可能になる可能性があったためである。この結果、杉野は若手を育成する方針に転換した。

最終的に杉野は2007年の神奈川県知事選挙への出馬を決意し、杉野を招聘した埼玉県知事の上田清司が慰留するも、7月の再任からわずか4か月後の11月に退任した。杉野の退任後、旅行業については漸次縮小され、ギフト販売は2007年1月に終了している。埼玉高速鉄道に関する社内・社外での対立が大きく報じられる事はなくなったが、埼玉高速鉄道の経営再建は巨額の有利子債務のために難航し、2014年の事業再生ADRに至った。一方、2012年に「Saiho Railway Vision」(SRV)と改称されたデジタルサイネージ広告の提供、浦和レッズ戦やサッカー日本代表戦などでの歩行者道路飲食販売など、杉野時代に開始されたサービスの一部はその後も継続されている。

注釈

  1. 開業直後の時点で、乗車人員は目標の1日10万5000人に対して実数は3分の1に満たない3万4000人であった。
  2. 2012年2月2日に開催された「地下鉄7号線延伸検討委員会」第5回会議の参考資料-a、「埼玉高速鉄道線沿線の人口推移 (PDF) 」によると、駅から半径1.5km圏内の人口は2001年度からの10年間で21万9410人から25万2394人へと3万2984人(15.0%)増加し、埼玉高速鉄道の1日当たり乗車人員は2001年度の4万7000人から2011年度4-9月には8万5600人、3万8600人(82.1%)増となった。ただし、これでも埼玉県などによる予測値よりは低い。
  3. 同選挙で杉野は現職知事の松沢成文に敗れた。
  4. 近藤は1947年2月26日生まれ、上智大学外国語学部卒業後にソニーへ入社し、その後に日本テレコム(現在のソフトバンクテレコムの前身)へ転じた後、埼玉高速鉄道に移る前は日本ジェムプラスの代表取締役社長を務めていた。
  5. 荻野は1945年、埼玉県生まれ。東京大学卒業後に日本国有鉄道(国鉄)へ入社し、国鉄分割民営化後のJR東日本で本社広報部長、盛岡ターミナルビル社長、盛岡支社支社長(同社取締役)となり、その後は日本レストランエンタプライズ社長や日本ホテル会長などJR東日本のグループ企業で代表取締役を務めた。
  6. 建設費の内訳では工事費が2370億円で9割以上を占め、残りは車両費等127億円、建設利息70億円となっていた。出典:埼玉県、2017。
  7. 駅や車両などの鉄道施設へのデジタルサイネージは2002年にJR東日本がトレインチャンネルで導入していたが、東京地下鉄のTokyo Metro ビジョンはまだ始まっていなかった。「SaiNet Vision」は南北線や東急目黒線の区間内でも見られたため、東京地下鉄では自社サービスに先駆けて埼玉高速鉄道の車両でデジタルサイネージサービスの提供がなされた

出典

関連項目

外部リンク