地方公営企業
地方公営企業(ちほうこうえいきぎょう)は、日本の地方公共団体が経営する現業(官業)のうち、地方公営企業法の適用を受ける事業である。都道府県および市町村が経営し、法人格を持たないためいわゆる社内カンパニーにあたり[1]、一般会計(行政予算)とは切り離された特別会計での独立採算制を採る。地方公共団体が政令で指定された事業(給水事業・電気事業・交通事業・ガス事業など)を行う場合は、この経営形式を取らなければならない。
Contents
事業の種類
地方公営企業法が当然に適用される事業
地方公営企業法第2条に規定されている公営企業であり、地方財政法施行令第6条に定められている公営企業のうち、次の公営企業について、企業経営のための組織、財務、職員の身分取扱等に関する地方自治法などの特例を定めている地方公営企業法の規定の全部が当然に適用される。
- 水道事業(簡易水道事業は除く)
- 工業用水道事業
- 交通事業(交通局、公営交通)
- 電気事業 - 主にダムに併設された水力発電所で発電した電気を電力会社に販売している。
- ガス事業 - 仙台市など一部の都市で公営企業が都市ガスの供給を行っている。
なお、病院事業については地方公営企業法の財務規定等一部が当然に適用されるが、条例で定めるところにより、地方公営企業法のすべての規定を適用することができる(この場合は、公営事業形態であることは上述の地方公営企業と変わらないが、厳密には地方公営企業ではない。
地方自治体の条例で地方公営企業法を適用することができる事業
地方財政法(昭和23年法律第109号)第6条に基づき地方財政法施行令(昭和23年政令第267号)第46条で規定されている公営企業のうち、地方公営企業法の適用がない事業においても、地方自治体の条例の定めるところにより地方公営企業法の全部、または財務規定等を適用することができる。
- 交通事業
- 電気事業
- ごみ発電事業
- 風力発電事業
- 簡易水道事業
- 港湾整備事業(埋立事業並びに荷役機械、上屋、倉庫、貯木場及び船舶の離着岸を補助するための船舶を使用させる事業に限る。)
- 市場事業(中央卸売市場)
- と畜場事業
- 観光施設事業(ホテルや公営ユースホステル、スキーリフトなど)
- 宅地造成事業
- 公共下水道事業(農業集落排水事業等の集落排水事業や合併処理浄化槽事業などの下水道類似施設も含まれる)
また、地方財政法施行令第37条に規定されていないものの、地方自治体で公営企業として運営している事業もあり、これらも条例により地方公営企業法の全部、または財務規定等を適用することもできる。
組織
管理者
地方公営企業を経営する地方公共団体(都道府県、市町村、広域連合)には原則として管理者が置かれ、地方公営企業を管理する。管理者(「企業管理者」、「水道事業管理者」、「病院事業管理者」などと呼ばれる)は、地方公営企業の経営に関し識見を有する者のうちから、地方公共団体の長(都道府県知事、市町村長、広域連合長)が任命する。事業の種類や規模によっては、管理者を置かないことを条例で定めることができ、その場合は地方公共団体の長が管理する。
地方公営企業を共同処理する一部事務組合は企業団という。企業団には地方公営企業法上の管理者は置かれず、地方自治法上の一部事務組合の管理者(「企業長」と称する)が管理する。企業長は、地方公営企業の経営に関し識見を有する者のうちから、原則として企業団を組織する地方公共団体の長が共同で任命する。なお、地方公営企業を共同処理する広域連合は広域連合企業団という。
地方公営企業の管理者は、
を除き、法令に特別の規定がない限り、地方公営企業の業務を執行し、当該地方公共団体を代表する。
企業職員
企業管理者の権限に属する事務の執行を補助する公務員のことを、企業職員という。
企業出納員
地方公営企業を経営する地方公共団体に、地方公営企業の業務に係る出納その他の会計事務をつかさどらせるため、企業出納員を置き、企業職員のうちから、地方公営企業の管理者が命ずる。 地方公営企業の管理者の命を受けて、出納その他の会計事務をつかさどる。
会計方法
会計については、一般会計から切り離され企業会計原則に基づき、原則として独立採算方式で行われる。
- 地方公営企業法第20条(経理の方法)
- 第1項 地方公営企業においては、その経営成績を明らかにするため、すべての費用及び収益を、その発生の事実に基いて計上し、かつ、その発生した年度に正しく割り当てなければならない。
- 第2項 地方公営企業においては、その財政状態を明らかにするため、すべての資産、資本及び負債の増減及び異動を、その発生の事実に基き、かつ、適当な区分及び配列の基準並びに一定の評価基準に従つて、整理しなければならない。
- 第3項 前項の資産、資本及び負債については、政令で定めるところにより、その内容を明らかにしなければならない。
- 地方公営企業法施行令第9条(会計の原則)
- 第1項 地方公営企業は、その事業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供しなければならない。
- 第2項 地方公営企業は、その事業に関する取引について正規の簿記の原則に従つて正確な会計帳簿を作成しなければならない。
- 第3項 地方公営企業は、資本取引と損益取引とを明確に区分しなければならない。
- 第4項 地方公営企業は、その事業の財政状態及び経営成績に関する会計事実を決算書その他の会計に関する書類に明りように表示しなければならない。
- 第5項 地方公営企業は、その採用する会計処理の基準及び手続を毎事業年度継続して用い、みだりに変更してはならない。
- 第6項 地方公営企業は、その事業の財政に不利な影響を及ぼすおそれがある事態にそなえて健全な会計処理をしなければならない。
なお法人格を持たないため、地方債の発行主体となることはできない[1]。
財政健全化
資金不足比率が20%以上を超えた場合、財政健全化法に基づきその年度末までに「経営健全化計画」を定めなければならない。
日本の主な地方公営企業の一覧
ここでは、主な地方公営企業を記載する。
水道事業(上水道事業)
下水道事業
交通事業
- 軌道事業
- 自動車運送事業
- 都市高速鉄道事業(地下鉄)
電気事業
ガス事業
- 北海道
- 長万部町水道ガス課 - 水道事業も兼営
- 東北
- 関東
- 中部
- 近畿
- 大津市企業局 - 水道事業も兼営
- 中国
- 四国
なし
- 九州
なし
観光施設事業
- 宿泊施設
- 奥州市衣川区国民宿舎サンホテル衣川荘
- みどり市 国民宿舎サンレイク草木
- 四万温泉 国民宿舎四万ゆずりは荘
- 東吾妻町 国民宿舎「榛名吾妻荘」
- 公営国民宿舎片品村尾瀬ロッジ
- 片品村ロッジまきば
- 武尊牧場キャンプ場「スノーパル・オグナ武尊」
- 秩父市小鹿野町 温泉付国民宿舎 両神荘
- 旭市営国民宿舎「食彩の宿いいおか荘」
- 越前町国民宿舎 かれい崎荘
- 高浜町営 国民宿舎 城山荘
- 甲州市市営ぶどうの丘
- 松本市上高地アルペンホテル
- 松本市焼岳小屋
- 松本市徳沢ロッヂ
- 安曇野市有明荘
- 安曇野市大天荘
- 安曇野市しゃくなげ荘
- 浜松市奥浜名湖
- 沼津市伊豆戸田荘
- 松崎町町営宿泊施設伊豆まつざき荘
- 亀山市亀山市国民宿舎関ロッジ
- 南あわじ市国民宿舎慶野松原荘
- たつの市志んぐ荘
- たつの市新舞子荘
- たつの市赤とんぼ荘
- 宇陀市保養センター美榛苑
- 太地町国民宿舎 白鯨
- 串本町国民宿舎あらふね
- 東郷温泉「国民宿舎 水明荘」
- 三朝温泉 国民宿舎ブランナールみささ
- 廿日市市みやじま杜の宿
- 水俣市水天荘
- 索道その他
- 戸隠スキー場
- 野沢温泉スキー場・長坂ゴンドラ・日影ゴンドラ
- 立科町 白樺高原国際スキー場・蓼科牧場ゴンドラ
- 王滝村 おんたけ2240
- 氷ノ山国際スキー場
- 中の原スキー場(大山中の原スキーセンター)
- わかさ氷ノ山スキー場
- 眉山ロープウェイ
脚注
- ↑ 1.0 1.1 菅原敏夫「「地方公営企業法等の一部改正(通知)」(総財公第103号平成23年8月30日)について」、『自治総研』第397号、地方自治総合研究所、2011年11月、 94-113頁、 NAID 110008710117。
関連項目
外部リンク
- 地方公営企業等 - 総務省
- 総務省 地方公営企業会計制度等研究会