台北経済文化代表処
台北経済文化代表処(タイペイけいざいぶんかだいひょうしょ、臺北經濟文化代表處、Taipei Economic and Cultural Representative Office, TECRO)は、台湾当局の在外代表部である。
台湾当局が標榜する「中華民国」を承認しない各国に駐在し、各国と台湾地域の非政府間関係かつ実務関係を処理する台湾側の対外窓口として機能している。
「台北」の名は「一つの中国」に抵触しないための擬態であり、台北市政府の機関ではない。
Contents
概説
形式上は「関係協会」などを名乗る非政府組織の外国駐在事務所であるが、台湾当局の対外関係を所掌する「政府機関」である「中華民国外交部」が所管しており、通常の二国間関係でいえば「代表処」は大使館、「弁事処」は総領事館、「分処」は領事館と符合する[1]。
ただし、相手国から国家承認を得られていないため、外交関係に関するウィーン条約や領事関係に関するウィーン条約に基づく外交特権や領事特権は認められていないとみられ、国際法上非公式な代表部でしかない。
アメリカ合衆国では台湾関係法により例外的に一定の権利が認められている。また、日本では日中国交正常化前の中華人民共和国の中日備忘録貿易弁事処東京連絡処と同様に日本では固定資産税等の税金を全額免除[2]したり、職員に対する一定の便宜を図っている。
2009年2月現在、世界各国122カ所に駐在し[3]、貿易・経済・文化関係や査証の取り扱いなど領事館のような業務を行っている。
名称問題
名称は国・地域によって異なるが、この記事では「代表処」と総称する。ほとんどの「代表処」は、「中華民国」(Republic of China)、「台湾」(Taiwan)ではなく、「台北」(Taipei)が付されている。相手国が中国(中華人民共和国)の「一つの中国」政策(台湾を一地方政府とみなし、中華民国の存在や「二つの中国」を否定する立場)に配慮しているためである。「経済」や「文化」といった用語が入るかどうかは国によって異なる(欧州は入っていない国が多い)。一部の国(ナイジェリア、ボリビア、エクアドルなど)では「中華民国」「台湾」が入っているが、その場合は「代表処」ではなく「商務代表団」「商務弁事処(辦事處)」といった名称になっている。
主要国の代表処
- アメリカ合衆国:駐美國台北經済文化代表處, the Taipei Economic and Cultural Representative Office in the United States
- イギリス:駐英國台北代表處, Taipei Representative Office in the U.K.
- 1963年9月設立(当初の名称はthe Free Chinese Centre)。1993年4月改称。カウンターパートはthe British Office Taipei。
- ロシア:臺北莫斯科經済文化協調委員會駐莫斯科代表處(台北モスクワ経済文化協調委員会駐モスクワ代表処)
- 1993年7月設立。
- ドイツ:駐徳國臺北代表處, Taipeh Vertretung in der BRD
- フランス:駐法國台北代表處, Bureau de Représentation de Taipei en France
- 1974年設立。1995年改称。
- イタリア:駐義大利台北代表處, Ufficio di Rapprenzentanza di Taipei in Italia
- 1990年設立。1996年改称。
- 欧州連合・ ベルギー:駐歐盟兼駐比利時代表處(駐EU兼ベルギー代表処), Taipei Representative Office in the European Union and Kingdom of Belgium
- 1971年10月設立(当初の名称は中山文化中心)。その後、台北経済文化弁事処、駐ベルギー台北代表処を経て、2001年、現在の名称に改称。
- カナダ:駐加拿大台北經済文化代表處, Taipei Economic and Culutral Office, Canada
- 1991年10月設立。他3都市に弁事処。
- オーストラリア:駐澳大利亞臺北經済文化辦事處, The Economic and Culutral Office in Australia
- 1991年11月設立。
- 韓国:駐韓國台北代表部, Taipei Mission in Korea
- 1992年断交。1994年1月設立。釜山に弁事処。
- 南アフリカ共和国:駐南非共和國台北聯絡代表處, Taipei Liaison Office in the RSA
- 1998年末断交。1999年1月設立。他2都市に弁事処。
各国の代表処組織
日本
1972年9月、日本国と中華人民共和国が日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明に調印し、日本と中華民国が国交を断絶。同年12月、亜東関係協会(現:台湾日本関係協会)と財団法人交流協会(現:日本台湾交流協会)との間の在外事務所相互設置に関する取り決めにより、翌1973年に設置された[4]。1992年、「亜東関係協会東京弁事処」から現在の名称に変更した。
日本における事実上の台湾大使館の役割を果たしており、中華民国総統により選任されている代表者の「駐日代表」は、事実上の駐日中華民国大使に相当する(ただし上述の通り、治外法権や外交特権はない)。台北駐日経済文化代表処のホームページにおいても、「民間の機構ではありますが、実質的には大使館や領事館の役割を果たしています。」と説明がなされている[5]。
所在地は、東京都港区白金台5丁目20番2号。台湾政府の法人格が認められていないため、不動産登記は購入当時の代表者個人名義のままになっているとされる[6]。査証部、経済部、文化部、広報部、僑務部、科学技術部、秘書部があり、広報部は、日本語広報・情報紙『台湾週報』を毎週刊行している。東京の「代表処」のほかに、大阪、福岡に「弁事処」、札幌、横浜、那覇に「分処」が設置されている。
日本側のカウンターパートは公益財団法人日本台湾交流協会。台北事務所は、台湾における事実上の日本大使館に近い機能を有している。
歴代駐日代表
- 馬樹礼[zh](初代、1973年-1985年2月)
- 中国国民党中央委員。退任後、国民党秘書長、総統府資政(上級顧問)、亜東関係協会会長を歴任。2006年死去。
- 毛松年(1985年3月-1985年12月)
- 元行政院僑務委員会委員長、総統府国策顧問。
- 馬紀壯[zh](1985年12月-1990年1月)
- 元国防部副部長、総統府秘書長。退任後、総統府資政。1998年死去。
- 蒋孝武[zh](1990年1月-1991年5月)
- 蒋経国の次男。1991年死去。
- 許水徳[zh](1991年6月-1993年4月)
- 林金莖(1993年4月-1996年5月)
- 日華断交時、在日大使館政務参事官。退任後、亜東関係協会会長。2003年死去。
- 荘銘耀[zh](1996年5月-2000年5月)
- 元海軍総司令(本省人初)、総統府国策顧問。退任後、国家安全会議秘書長、亜東関係協会会長を歴任。2002年死去。
- 羅福全[zh](2000年5月-2004年7月)
- 元国際連合大学高等研究所(UNU-IAS)副所長。退任後、亜東関係協会会長。
- 許世楷(2004年7月-2008年6月)
- 馮寄台(2008年9月-2012年5月)
- 元ドミニカ共和国大使。
- 沈斯淳(2012年5月-2016年6月)
- 元駐カナダ副代表、駐チェコ代表、外交部主任秘書、外交部常務次長。
- 謝長廷(2016年6月[7]-)
分処
那覇分処
沖縄が米国施政権下にあった1958年3月、中華民国で沖縄との交流促進を目的とする「中琉文化経済協会」が発足。1972年5月の沖縄返還と同年9月の日華国交断絶により「亜東関係協会」が設置された後も「中琉文化経済協会駐琉球弁事処」の名義を維持した。「琉球」の名称を用いてきたのは、中華民国政府が、琉球王国が中国の明朝及び清朝に朝貢していたことなどを根拠に、沖縄が中国(中華民国)の主権に属する、もしくは日本の主権に属しない独立国、との立場をとってきたことが背景にある。そのため、代表処や横浜、大阪、福岡の弁事処・分処が亜東関係協会の出先機関であるのと異なり、駐琉球弁事処だけが亜東関係協会から独立した外交部直轄組織として位置づけられていた。
2006年5月30日、外交部が名称を「台北駐日経済文化代表処駐琉球弁事処」に変更すると発表[8]。このとき、駐琉球弁事処の陳桎宏代表は、外交部出先機関の存在をもって琉球(沖縄)の日本帰属を否定していないことを示していると説明した。その後、改称後は「琉球」の名称を使用しないことに決定、2007年2月、現在の「台北駐日経済文化代表処那覇分処」に正式に変更された。この名称変更について、代表処の朱文清広報部長は「貿易や人の往来など台湾と沖縄の関係は密接になってきている。沖縄や日本との交流を強化するために変更した」と説明した[9]。
札幌分処
2009年12月1日に札幌分処が開設された[10]。北海道を訪れる台湾人観光客の増加や台湾の台日特別パートナーシップ政策によるもので、駐日代表処が新たな事務所を開設するのは30年ぶり。
駐日代表処の改称について
民進党の陳水扁政権下で「台湾正名運動」が広まったことに伴い、許世楷駐日代表が就任後まもなく、「台湾駐日経済文化代表処」に変更したい旨を表明していた。しかしその後も改称は実現せず、2013年3月現在も「台北駐日経済文化代表処」のままである。
脚注
- ↑ 木下郁夫『大使館国際関係史―在外公館の分布で読み解く世界情勢』社会評論社発行、2009年4月25日、273ページ
- ↑ 北野弘久『「朝鮮総聯」の固定資産税問題』立命館法学2005年2・3号(300・301号)
- ↑ http://japanese.rti.org.tw/Content/GetSingleNews.aspx?ContentID=73162
- ↑ http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/JPCH/19721226.O1J.html
- ↑ 駐日代表機関の紹介台北駐日経済文化代表処
- ↑ 内田勝久『大丈夫か、日華関係』産経新聞出版、2006年、84ページ
- ↑ 総統府:謝長廷・元行政院長を駐日代表に任命
- ↑ 『沖縄タイムス』2006年6月2日付夕刊
- ↑ 「名称から「琉球」消える 中琉文化経済協会」『琉球新報』2007年2月11日
- ↑ 台湾週報2009年12月2日産経新聞2009年12月2日
関連項目
- 国家の承認
- 中華民国の政治
- 中華民国在外機構
- 台湾日本関係協会
- 日本台湾交流協会
- チャイニーズタイペイ - 中華民国が国際スポーツ競技大会や国際組織等に参加する際の名義。代表処同様に「台北」が使われている。
- 日台関係史
- アルバニア決議
- 駐日外国公館の一覧