双子素数

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双子素数(ふたごそすう、twin prime)とは、差が 2 である2つの素数の組のことである。組 (2, 3) を除くと、双子素数は最も近い素数の組である。双子素数を小さい順に並べた列は

(3, 5), (5, 7), (11, 13), (17, 19), (29, 31), …(真ん中の偶数はオンライン整数列大辞典の数列 A014574を参照)

である。

双子素数の予想

素数が無数に存在することは古代ギリシアで既に分かっており、ユークリッドの『原論』に証明がある。これに対し、双子素数は無数に存在するかという問題、いわゆる「双子素数の予想」や「双子素数の問題」は、いまだに数学上の未解決問題である。無数に存在するだろう、とは、多くの数論学者が予想している。

双子素数問題そのものについては、古代ギリシア時代から知られていたとの記述あるいは示唆が多く見られるが、何らの確証も存在しない。文献の上で確認できるものは、A. de Polignac (1849) の言明である。彼は双子素数予想を一般化して任意の偶数を与え、それを差とする素数の組が無数にあるか、という問題を提出している。

上からの評価式など部分的な結果があるが、その中でも漸近公式の予想は注目に値する。双子素数の組の数の漸近公式はハーディ・リトルウッド予想の一部であり、これは素数定理と似通った次のような双子素数の漸近的な分布公式を予想している。

x 以下の双子素数の組の数は、漸近的に

[math]2C\frac{x}{(\log x)^2}[/math]、あるいは [math]2C\int_2^x \frac{dx}{(\log x)^2}[/math] で与えられる。後者の積分による表示式の方が良い近似を与える。ここで、定数 C は次のような無限積で定義される。
[math]C=\prod_{p\gt 2} \left\{ 1-\frac{1}{(p-1)^2} \right\} =0.6601\cdots[/math]

この定数 C は「ハーディ・リトルウッド定数」の一つである。

この問題は、特に2素数の場合のゴールドバッハの予想に密接に関係しており、篩法などの研究者によって双方の研究が同時に進められてきた。

2004年5月に、「双子素数が無数に存在することの証明」と題された論文が Richard Arenstorf によって提出され[1]、上記のハーディ・リトルウッドの予想は正しいと主張したが、内容に重大な誤りがあるとして著者自身によって撤回された。

最初の20組の双子素数

(3, 5), (5, 7), (11, 13), (17, 19), (29, 31), (41, 43), (59, 61), (71, 73), (101, 103), (107, 109), (137, 139), (149, 151), (179, 181), (191, 193), (197, 199), (227, 229), (239, 241), (269,271), (281, 283), (311, 313), …

OEIS
小さい方の数 オンライン整数列大辞典の数列 A001359
大きい方の数 オンライン整数列大辞典の数列 A006512
中央の偶数 オンライン整数列大辞典の数列 A014574
オンライン整数列大辞典の数列 A054735
オンライン整数列大辞典の数列 A037074

知られている最大の双子素数

2024年11月現在で知られている最大の双子素数は、388,342 桁の 2996863034895 × 21290000 ± 1 である。これは、2016年9月分散コンピューティングプロジェクトの一つである PrimeGrid により発見された[2]

双子素数に関する諸結果

  • (3, 5) を除く全ての双子素数は (6n − 1, 6n + 1)n自然数)の形である。
  • 最初の2組を除き、双子素数の一の位は(十進法で)(1, 3), (7, 9), (9, 1) のいずれかである。
  • x より小さな双子素数の個数は高々 [math]O\left( \frac{x}{( \log x)^2} \right)[/math] である。したがって、pp + 2 が共に素数の場合、
    [math]B_2 =\sum_p \left( \frac{1}{p} +\frac{1}{p+2} \right)[/math]

(双子素数の逆数)は収束する (Brun, 1919)。この値 (およそ1.9強) をブルン定数と呼ぶ。素数の逆数和は発散するので、素数の中で双子素数は、さほど多くはないといえる。また、すべての偶数は、高々9個の素数の積で現される2つの整数の差として無限通りに表すことができることもヴィーゴ・ブルンは示している (Brun, 1920)。これらの結果は篩法によるもので、篩法の最初の本格的な成果であると同時に、双子素数に関する最初の理論的な結果であり、双子素数に関する研究の出発点となった。

  • ブルン定数 B2 の2005年時点での最も正確な値は、B2 = 1.902160583104… である。この値は、1016 までに現れる双子素数を使用して求められた (Sebah, 2002)。なお、1994年にブルン定数を計算する過程で P54C Pentium浮動小数点演算命令にバグが存在することが発見され、話題となった。詳しくは Pentium の項を参照。
  • 陳景潤 (Chen Jing Run) は、p + 2高々2個の素数の積となるような素数 p が無数に存在することを示している (Chen, 1966)。
  • p + 2 が高々2個の素数の積となるような素数 p陳素数と定義したとき、無限個の陳素数の3項等差数列が存在する(Ben Green, テレンス・タオ, 2005)。
  • (n, n + 2) が双子素数であるための必要十分条件は、4{(n − 1)! + 1} + n ≡ 0 (mod n(n + 2)) である (Clement, 1949)。
  • 2005年、D. Goldston-J. Pintz-C. Yildirim により次のことが証明された。[math]\liminf_{n\to \infty} \frac{p_{n+1} -p_n}{\log p_n} =0[/math]
  • 2013年4月17日に、ニューハンプシャー大学English版張益唐中文版 (Zhang Yitang) は、「隣り合った素数の隔たりが、7千万以下のものが無数組存在する」ことを証明した論文「Bounded Gaps Between Primes」を発表し、Annals of Mathematicsアクセプトされた[3]。つまり、[math]\liminf_{n\to\infty} (p_{n+1} -p_n )\lt 7\times 10^7[/math]。なお,張益唐の定理に先行する主要な研究結果の詳細解説がテレンス・タオらによって与えられている[4]
  • 2013年、ジェームズ・メイナードとテレンス・タオが、連続した整数を 600 ごとに区切ると素数が2個含まれる場合が無数にあり[5]、3個では区間の幅は39万5122であり、個数と区間の幅との関係を証明した。これは張益唐の「7000万ごと」を大幅に小さくする成果である[6][7][8]
  • 2014年12月現在、張益唐が与えた7千万という間隔は 246 まで狭められている。すなわち、間隔が 246 以内である素数の組は無数に存在する[9]

脚注

参考文献

  • A. de Polignac, Six propositions arithmetiques deduites de crible d'Eratosthenes, Nouv. Ann. Math., 8 (1849), 423-429.
  • V. Brun, Le crible d'Erathostene et la theoreme de Goldbach, Videnskapsselskapets Skrifter Kristiania, Mat.-nat. K1. 1920, No. 3, 36 pages.
  • J. R. Chen, On the representation of a large even integer as the sum of a prime and the product of at most two primes, I, Sci. Sinica, 16(1973), 157-176 and II, ibid. 21(1978), 421-430.
  • 本橋洋一,解析的整数論 I -- 素数分布論 --,朝倉書店,東京 2009 (第2刷 2012:加筆含む)ISBN 978-4-254-11821-6
  • 本橋洋一,篩法概観,日本数学会「数学」57 (2005), 138-163.
  • 日本数学会市民講演 “素数の翼に乗って” (PDF) 本橋洋一(日本大学理工学部)
  • H. Davenport, Multiplicative Number Theory, 3rd edition, Springer-Verlag, 2002.
  • H. Halberstam and H. E. Richert, Sieve Methods, Academic Press, 1974.
  • M. B. Nathanson, Additive Number Theory: The Classical Bases, Springer-Verlag, 1996.
  • P. Sebar, Counting twin primes and Brun's constant new computation, NMBRTHRY@listserv.nodak.edu mailing list, 2002

関連項目

外部リンク