千と千尋の神隠し
千と千尋の神隠し | |
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Spirited Away | |
監督 | 宮崎駿 |
脚本 | 宮崎駿 |
原案 | 宮崎駿 |
原作 | 宮崎駿 |
製作 | 鈴木敏夫 |
製作総指揮 | 徳間康快 |
出演者 |
柊瑠美 入野自由 夏木マリ 中村彰男 玉井夕海 内藤剛志 沢口靖子 神木隆之介 我修院達也 大泉洋 小野武彦 上條恒彦 菅原文太 |
音楽 | 久石譲 |
主題歌 | 木村弓「いつも何度でも」 |
撮影 | 奥井敦 |
編集 | 瀬山武司 |
制作会社 | スタジオジブリ |
製作会社 | 「千と千尋の神隠し」製作委員会 |
配給 |
東宝/スタジオジブリ |
公開 |
2001年7月20日[2] |
上映時間 | 124分[2] |
製作国 | 日本 |
言語 | 日本語 |
興行収入 | 308億円[6] |
『千と千尋の神隠し』(せんとちひろのかみかくし)は、スタジオジブリ制作の長編アニメーション映画。監督は宮崎駿。日本歴代興行収入第1位。
千尋という名の10歳の少女が、引っ越し先へ向かう途中に立ち入ったトンネルから、神々の世界へ迷い込んでしまう物語。千尋の両親は掟を破ったことで魔女の湯婆婆によって豚に変えられてしまう。千尋は、湯婆婆の経営する銭湯で働きながら、両親とともに人間の世界へ帰るために奮闘する。
声の出演は、柊瑠美・入野自由・夏木マリ・内藤剛志・沢口靖子・上條恒彦・小野武彦・菅原文太など[7]。
制作のきっかけは、宮崎駿の個人的な友人である10歳の少女を喜ばせたいというものだった。この少女は日本テレビの映画プロデューサー、奥田誠治の娘であり、主人公千尋のモデルになった[8]。企画当時宮崎は、信州に持っている山小屋にジブリ関係者たちの娘を集め、年に一度合宿を開いていた。宮崎はまだ10歳前後の年齢の女子に向けた映画を作ったことがなく、そのため彼女たちに映画を送り届けたいと思うようになった[9]。
2001年7月20日に日本公開。興行収入は300億円を超え、日本歴代興行収入第1位[10]を達成した。この記録は2018年現在も塗り替えられていない[6]。第52回ベルリン国際映画祭では『ブラディ・サンデー』と同時に金熊賞を受賞した[11]。宮崎の友人である映画監督ジョン・ラセターの尽力によって北米で公開され、第75回アカデミー賞ではアカデミー長編アニメ映画賞を受賞した[12][注釈 1]。
2016年のイギリスBBC主催の投票では、世界の177人の批評家が「21世紀の偉大な映画ベスト100」の第4位に選出した[13]。
2017年に行われたスタジオジブリ総選挙で見事1位に輝き、2017年9月10日(土)〜9月16日(金)の6日間、全国5カ所の映画館にて再上映された。
Contents
あらすじ
10歳の少女・千尋(ちひろ)は、両親と共に引越し先へと向かう途中、森の中の奇妙なトンネルから通じる無人の街へ迷い込む。そこは、怪物のような姿の八百万の神々が住む世界で、人間が来てはならないところだった。千尋の両親は飲食店で神々に出す食べ物に勝手に手を付けたため、罰として豚にされてしまう。千尋も帰り道を失って消滅しそうになるが、この世界に住む少年ハクに助けられる。
ハクは、八百万の神々が客として集う「油屋」という名の湯屋で働いていた。油屋の主人は、相手の名を奪って支配する、恐ろしい魔女の湯婆婆(ゆばーば)である。仕事を持たない者は動物に変えられてしまうとハクは千尋に教える。千尋は、雇ってくれるよう湯婆婆に頼み込み、名を奪われて「千(せん)」と新たに名付けられ、油屋で働くことになる。ハクは、本当の名前を忘れると元の世界に戻れなくなると忠告する。ハクもまた名を奪われ、自分が何者であったのかを思い出せずにいた。しかし、彼はなぜか千尋を知っており、千尋のことを覚えているのだという。一方、千尋には、ハクの正体に心当たりがない。
豚にされた両親を助けるため、油屋で働き始めた千尋だったが、彼女は人間であるために油屋の者たちから疎まれ、強烈な異臭を放つ客の相手まで押し付けられる。しかし彼女の実直な働きにより、客から大量の砂金が店にもたらされると、千尋は皆から一目置かれる存在になる。千尋はその客から不思議な団子を受け取る。
翌日、ハクは湯婆婆の言いつけにより、彼女と対立している双子の姉の銭婆(ぜにーば)から、魔女の契約印を盗みだす。しかし、銭婆はハクを追ってきて魔法で重傷を負わせ、湯婆婆の息子である坊(ぼう)もネズミに変えてしまう。千尋はハクに不思議な団子を飲ませて助けるが、ハクは衰弱してしまう。千尋はハクを助けたい一心で、危険を顧みず銭婆のところへ謝りに行くことを決意する。
そのころ油屋では、カオナシという化け物が従業員を飲み込んで暴れていた。カオナシは千尋から親切にされたことがあり、金や食べ物で千尋の気を引こうとするが、彼女が興味を示さないので激怒する。千尋は不思議な団子をカオナシに飲ませて従業員を吐き出させ、感謝される。千尋は、カオナシとネズミになった坊を伴って銭婆の家を訪れる。銭婆は千尋を穏やかに受け入れる。
一方、意識を取り戻したハクは、坊が銭婆のところへ行ってしまうことを湯婆婆に伝える。ハクは、坊を連れ戻してくることを条件に、千尋と両親を解放するよう約束を迫り、帰る手段のなかった千尋を迎えに行く。ハクは銭婆から許され、千尋と共に油屋へ帰る。その途中で、千尋は自分が幼いころに落ちた「川」がハクの正体であることに気づく。幼いころハクの中で溺れそうになったとき、ハクは千尋を浅瀬に運び、助けあげた。千尋がハクの名前に気づくと、ハクも自分の名前を取り戻す。
油屋に帰ったハクは、千尋と両親を解放するよう湯婆婆に要求する。従業員たちも、今度は千尋の味方である。湯婆婆は、油屋の前に集めた豚の中から両親を言い当てろと難題を課すが、千尋はこの中に両親はいないと正解を言い当てて自由となり、従業員たちに祝福されながら油屋を去る。
ハクは千尋を途中まで見送り、自分も湯婆婆に暇を告げて元の世界に戻るつもりであると伝え、再会を期して別れる。人間に戻った両親は、最初のトンネルの前で、なにごともなかったかのように待っていた。もとの世界に戻った千尋が振り返ると、トンネルは来たときとは違う姿に変わっていた。
登場人物
主要人物
- 荻野 千尋(おぎの ちひろ) / 千(せん)
- 声 - 柊瑠美
- 本作の主人公。荻野家の一人娘。すぐ卑屈になって我侭を言ったり両親に頼ろうとする典型的な都会育ちの一人っ子、現代っ子気質。10歳の少女。髪は焦げ茶色のポニーテール。私服はクリーム色と黄緑色のTシャツに半ズボンを穿いている。両親と共に異界に迷い込む。罰を受けて豚にされてしまった両親を人間に戻し、元の世界に帰るために湯屋「油屋」の経営者である湯婆婆と契約を交わし、名前を奪われ「千」となって湯屋で働くことになる。初めは仕事の手際も悪かったが、湯屋での経験を通じて適応力や忍耐力を発揮していく。物語の中盤ではこれからどうしたらいいのか分からずいじけていく中、ハクが差し出した『千尋の元気が出るようにまじないをかけて作った』おにぎりを食べ、ずっと自分を心配してくれていたハクの優しさと思いやりに触れた事で、声を上げて泣きじゃくるほど感情を露わにする。オクサレ様を接客した際には、体から廃棄物を引っ張り出して救い出す。映画終盤では暴れるカオナシを鎮め、坊の親離れに一役買い、傷ついたハクを救うなど活躍する。龍の姿のハクにニガダンゴ[14][15]を食べさせたときには、力づくでハクの口をこじ開けている。
- 契約書に自分の名前を書くシーンでは、「荻」ではなく「获」(「獲」の簡体字)と書いている[16][15]。
- 千尋役のオーデションには女優の本仮屋ユイカも参加していた[17]。
- ハク
- 声 - 入野自由
- 油屋で働いている謎の少年。外見年齢は12歳[18][15]。魔法使いの見習いで、湯婆婆の弟子であり、また番頭として湯屋の帳場を預かってもいる。作中で初めて千尋と会ったときから彼女の力になる。
- 釜爺によれば、千尋同様忽然と湯屋に現れ、湯婆婆の弟子になることを懇願したという。釜爺は反対していたが止め切れず、その後は湯婆婆の手足として利用されるようになった。
- 中盤以降、白龍の姿でも登場する。その正体は、千尋が以前住んでいた家の近くを流れていた「コハク川」という川の神だった。本名は「ニギハヤミコハクヌシ」(英語版では Kohaku River とされている)[注釈 2]。
- 最終的に千尋の尽力で湯婆婆の支配と銭婆の呪詛から救われる。千尋が解放された後は湯婆婆の弟子を辞めると語り、いつか千尋に会いに行くと約束した。
千尋の家族
- 荻野 明夫(おぎの あきお)
- 声 - 内藤剛志
- 千尋の父親。建築会社に勤める[19]サラリーマン。愛車はアウディ・A4クアトロ[2]。体育会系で[19]、引っ越しのときには道をよく確認しないままどんどん進んでしまい、いつの間にか不思議の町に迷い込むが、面白がって進み続ける。町の飲食店に迷い込んだ際、勝手に食事に手をつけてしまい、豚の姿に変えられてしまった。最終的に元の姿に戻ったが、豚になっていたときの記憶は残っていない。
- モデルは日本テレビの奥田誠治で、千尋のモデルとなった奥田千晶の父[2]。車の運転や食事シーンに奥田の個性が反映されている[19]。
- 荻野 悠子(おぎの ゆうこ)
- 声 - 沢口靖子
- 千尋の母親。不思議の町に迷い込んだ際、夫につられて勝手に食事に手をつけてしまい、夫と一緒に豚の姿に変えられてしまった。作中で名前は明らかになってはいない。さり気なく夫に寄り添う仕草を見せる一方で、娘の千尋に対してはドライに振る舞う。夫同様、最終的に元の姿に戻った。
- モデルはジブリ出版部に勤務する女性[2]。
湯婆婆とその関係者
- 湯婆婆(ゆばーば)
- 声 - 夏木マリ
- 湯屋「油屋」の経営者で正体不明の老魔女。二頭身という人間離れした体格で顔も大きい。強欲で口うるさく、老獪な人物として描かれている。その一方で息子の坊を溺愛しており、ハクに指摘されて坊が行方不明になったことに気付き、激しく取り乱していた[注釈 3]。
- 人間の世界から迷い込んできた千尋を雇い、名前を奪って「千」と呼ぶ。油屋が閉まる明け方になると黒いマントに身を包み、コウモリのような姿になって湯バードと共に彼方へ飛び去っていく。弟子のハクを魔法で操り、銭婆の持つ契約印を盗ませる[注釈 4]などの悪行に加担させている。悪事も辞さない横柄な性格だが経営者としての度量と心意気も持ち合わせており、河の神の穢れを清めて砂金の儲けをもたらした千尋を褒め称え、怖気付いた従業員達に千尋を見習うようたしなめている。他にも、横暴な態度の客の撃退を試みたり、経営者として腐れ神やカオナシなどの客への対応を自ら行うなど、全てを従業員に任せっ放しというわけでもない。
- 坊(ぼう)/ネズミ
- 声 - 神木隆之介
- 湯婆婆の息子。赤い腹掛けをした巨大な赤ん坊で、銭婆に「太りすぎ」と評される肥満体型。怪力の上、甘やかされて育てられている為、性格はかなり我儘。癇癪を起こすと暴れ泣き喚き、部屋を破壊する。物語の中盤で、銭婆の魔法によって小太りのネズミに姿を変えられる。湯婆婆の過保護のもと部屋から出ずに暮らしていたが、千尋と出会って初めて外界を冒険し、精神的に成長する。ネズミの姿の際の移動は、同じく銭婆に小さなハエドリに姿を変えられた湯バードに運んで貰っているが、ハエドリが飛び過ぎて疲れ果てた際は、彼を乗せて自ら歩行を行う事もある。途中で、銭婆の魔法の効力は無くなっていたため、自らの意思で元に戻れるようになっていたが、湯屋に戻って千尋と湯婆婆が対峙する時までネズミの姿で行動している。ネズミの姿をしていた際に湯婆婆と会っているが、自分だと気付くどころか、汚いものを見るような態度や言動をされた事に対して、悲しげな表情を見せたあと、怒りを露にした表情を見せている。湯婆婆の息子だが「お母さん」や「ママ」とは呼ばず、何故か「ばーば」と呼ぶ。
- 頭(かしら)
- 湯婆婆に仕える、緑色の頭だけの怪物。中年男性のような容貌で、跳ねたり転がりながら移動する。「オイ」としか話すことができず、作中では銭婆の魔法によって坊の姿に変えられる。いつも三つ一緒に行動している。
- 湯バード(ゆバード)/ハエドリ
- 首から上は湯婆婆と同じ顔(ただし、顔色は黒い)、体はカラスという不気味な姿の鳥。常に湯婆婆につき従っている。言葉は話せず、カラスのような鳴き声を発する。中盤で銭婆の魔法でハエのように小さい鳥(ハエドリ[19])にされ、以降は終始この姿で行動する。ネズミに変えられた坊を足で掴んで飛ぶこともできる。湯婆婆がネズミとなった坊と会った際、気付かずに邪険な態度と言動を見て、坊と共に批判的な表情を見せている。ネズミになった坊とは違い、元の姿に戻りたくないようで[19]、最後までハエドリの姿だった。「湯バード」という名前は劇中では呼称されない。
- 銭婆(ぜにーば)
- 声 - 夏木マリ
- 湯婆婆の双子の姉で坊の伯母。声や容姿、服装、髪型などは湯婆婆と瓜二つで、甥の坊が湯婆婆と間違えてしまう程。彼女と同様に強力な魔力を持つ魔法使いである。カンテラなど無生物に魔力を吹き込んで使役しながら「沼の底」という寂れた田舎に住んでいる。本人曰く「私たちは二人で一人前」だが姉妹仲はお世辞にも良好とは言えず、妹からは性悪女呼ばわりされている。
- 口調は湯婆婆と同じで、釜爺にも「あの魔女は怖い」と評されている[注釈 5]。自身に害を及ぼす者には容赦はせず、湯婆婆の差し金で魔女の契約に用いる判子を盗み出したハクに紙の式神を差し向けて痛めつけ評判通り恐ろしい人物であるような印象を見せたが、実際は穏やかな心優しい性格で、強欲な妹よりも物解かりのよい気質である。ハクに代わって謝罪しにきた千尋を快く家に迎え入れて、カオナシやネズミ、ハエドリ達も同様にもてなした上で優しく接し、カオナシとネズミ・ハエドリとともに紡いだ手製の髪留め[20][21][15]を贈り、湯屋へ送り出す。その際に迎えにやってきたハクのことも快く許した。また、行くあての無いカオナシを引き取るなど、面倒見もよい。
油屋の従業員
従業員の大半はカエル(男衆)[2]とナメクジ(女衆)[15]であり[22]、ヘビ[注釈 6]と合わせて三すくみの関係にある。
- 釜爺(かまじい)
- 声 - 菅原文太
- 油屋のボイラー室を取り仕切っている老人。蜘蛛のような姿で、伸縮可能な6本の腕・手を自在に操り[注釈 7]、油屋で使われる湯を沸かし、薬湯の生薬を調合する仕事をしている。突如として現れた千尋に対し、厳しめの態度を取りながらも、彼女を気遣い、リンに湯婆婆のところへ連れてくように頼む。その後も傷付いたハクを介抱したりするなど、千尋をサポートする。部下に石炭を運ぶススワタリがいる。
- 仕事には厳しいが、千尋には優しい一面も見せる。
- 湯婆婆と直接絡むシーンは無くお互いの関係は不明だが、かなり昔から湯屋に勤めている人物である。
- リン
- 声 - 玉井夕海
- 油屋で働いている娘。外見年齢は14歳[23][15]。口調は荒っぽいが性格はサッパリとしており、人間である千尋を初めて見た時は驚いて当惑していたが、彼女の雇用が決まると湯屋の先輩として千尋に色々と仕事を教えて面倒を見る[24]。出自は不詳で[注釈 8]、不本意ながら湯屋で働く自分の運命を呪っており、いつか湯屋を出て海の向こうの街に行く事を夢見ている。そのため、雇い主である湯婆婆に対する敬愛の念などは無く、上司であるはずのハク・父役・兄役らに対してもタメ口で話す。彼女の他にも人間の娘と全く変わらぬ外見をした湯屋で働く下働きの娘が何人かいる。他の従業員は人間である千尋を差別的に嫌っているが、彼女にはそういった偏見は無く、千尋に対しても他の従業員と同等に接している。好物はイモリの黒焼き(油屋では貴重な品で、従業員はみなイモリの黒焼きに目がない)[15]。
- 父役(ちちやく)、兄役(あにやく)、番台蛙(ばんだいかえる)
- 声 - 上條恒彦(父役)、小野武彦(兄役)、大泉洋(番台蛙)
- それぞれ油屋の従業員たちと湯婆婆との間の中間管理職的役割を担っており、父役はハク以外の従業員の中で最も地位が高く、兄役はその下という位置づけ[注釈 9]。いずれも蛙の化身[22][15]。それぞれ、上には諂い下には威張るような態度を取るキャラクターとして描かれている。下の者を見下す傾向にあり、特に人間である千尋を毛嫌いしている。兄役は、カオナシが客として振舞っていたときに幇間もしていた[19]。父役と兄役は千尋がカオナシを追い払ってからは、青蛙とともに湯婆婆から千尋を庇うなど変化が見られる。
- 青蛙(あおがえる)
- 声 - 我修院達也
- 湯屋で下働きをしている蛙。金に目がない。最初にカオナシに飲み込まれる。
- ススワタリ
- イガ栗のような形をした黒い実体。魔法の力で煤から生まれたらしく、常に働いていないと消えてしまうが、煤に戻ってもいつのまにか煤から生まれてくるらしい。釜爺の指示で石炭を抱えて運び、ボイラー室の炉に放り込むのが仕事。金平糖を食事として与えられている。千尋の服と靴を預かる等、釜爺と共に千尋を手助けする。『となりのトトロ』にも同名の生物が登場するが、本作に登場するススワタリと違って手足が無い。
その他
- カオナシ
- 声 - 中村彰男
- 黒い影のような物体にお面をつけたような存在。言葉は話せず「ア」または「エ」といったか細い声を搾り出すだけで、表情も無い。コミュニケーションが取れないため、他人を呑み込んで声を借りる。その際はお面の下にある口腔から話す。普段は直立歩行だが、湯屋の従業員の青蛙を取り込んで巨大化した後は4足歩行に変わった。相手が欲しい物を手から出す力を持ち、それを手にした瞬間にその人を飲み込んでしまう。ただし、それは土くれが変化したものに過ぎない。橋の欄干で千尋を見かけたときから彼女を求めるようになり、喜んでもらいたい一心で番台から薬湯の札を盗み、千尋に差し出した。オクサレ様の一件の翌日に油屋に現れ、砂金を餌に従業員達を丸め込み、大量に料理を作らせて暴飲暴食し巨大化した。千尋にも砂金を差し出したが断られ、兄役がやってきて説明すると逆上し次々と湯屋の従業員の兄役と蛞蝓女を飲み込んでいきさらに肥大化していく。その後千尋を呼び出し、対面するが彼女に拒絶され、更にニガダンゴを食べさせられ嘔吐すると同時に怒りで暴走し、千尋を追いかけている途中に飲み込んだ3人を全て吐き出し、元の姿に戻る。戻った後は大人しくなり、千尋について銭婆のところへ行き、そのままそこに留まることになる。英語版での名前は"No-Face"。
- 鈴木敏夫によって米林宏昌がモデルであるとされていたが[26]、のちに米林本人が後づけであると否定している[27]。
- 神々
- 疲れを癒しに油屋へ来る八百万の神々。姿形はバリエーションに富み、様々な形体をしている。
- おしらさま[15][28]
- 声 - 安田顕
- 大根の神様。千尋と会っても別段物怖じも驚きもせず、リンに代わって千尋が湯婆婆のところへ行くのに付き添う。その後は扇子を持って舞を踊ったり、正装らしき衣装を着て帰る千尋を見送っていた。作中にはおしら様が二人映るシーンがあるため、複数いると思われる。
- 春日様
- 春日大社の神の面を顔につけた神様。硫黄の上の湯に入っている。
- 牛鬼
- 鹿のような角を生やした鬼。
- オオトリ様
- 卵のまま生まれてこられなかったひよこの神様。大所帯で風呂に入る。
- おなま様
- 木の葉の服を着て包丁を持っている。
- オクサレ様(おくされさま)[15][29] / 河の神(かわのかみ)
- 声 - はやし・こば
- ヘドロを固めたような姿で、凄まじい悪臭を放つ。その悪臭はリンが調達してきたメシを一瞬で腐らせるほど。千尋が浴槽に転落した際、底にこびりついたヘドロに頭から埋まり、もがく千尋を引き抜いて助けだした。その正体は翁のような面を付けた半透明の体を持つ名のある川の主。千尋の尽力によって体中のゴミが取り除かれて本来の姿を取り戻し、歓喜しながら湯屋から飛び去っていった。去り際には自身を救ってくれた千尋にニガダンゴを授け、湯屋には大量の砂金を残している。
- 一言主
- 名称のみ登場。
- 理砂
- 名前のみ登場。千尋が引っ越す前の友達。千尋が引っ越す時、「元気でね また会おうね」と書かれたお別れの手紙を添えた花束をプレゼントした。千尋が名前を奪われ千となってしまった後、お別れの手紙に書かれていた「ちひろ」の名前を見て自分が千尋であることを思い出すきっかけとなる。
舞台
湯婆婆が経営する、八百万の神が体を休める「油屋」(あぶらや)という屋号の湯屋が舞台[30][31][15]。油屋は一見和風建築であるが、土台部分はコンクリートであったり、ボイラーやエレベーターといった近代的な設備が備わっている。和様に装っているのは表面部分だけであり、宮崎はこうした作りを「俗悪」と言い表す[15]。最下層にボイラー機械室、その上に従業員用のスペースがあり、湯婆婆とハク、釜爺以外の従業員達はそこで寝泊りする。従業員の生活空間は崖側に配置されており、神々の出入りする正面側からは見えない。油屋正面とその上階が営業スペースとなっている。中に大きな吹き抜けがあり、下には様々な種類の風呂が配置され、その上を取り囲むように宴会場や客室が配置されている。さらに、その上には湯婆婆の個人宅があり、その部分は洋風の建築様式となっている[15]。
千尋たちは最初に、時計台のような建物に迷い込む。そこから先は、廃墟が点々とするなだらかな草原がしばらく続く。その後小川を渡ると、食堂街に出る。丘と街を区切る川は、昼は小川であるが、夜になり神々が訪れる時間になると草原全体を占める大河に変わり、そこを船が行き交う。食堂街を抜けると大灯籠のある広場に出、そこから延びる橋が湯屋の正面入り口に繋がる。食堂街の周りには、両親の収容されている畜舎や冷凍室、花園などが配置されている(花園では季節の異なる花々が同時に咲き乱れている[15])[15]。湯屋の方から見ると、畜舎は突き出た絶壁の上に建っていることがわかる。町と湯屋をつなぐ橋の下は巨大な平原になっており、雨が降ると海になる。橋の下には海原電鉄(架線はない)[注釈 10]が走っている[15]。単線の一方通行で、専ら行きっぱなしである(釜爺によれば、昔は帰りの電車も通っていたという)。途中には千尋が降りる「沼の底」駅があり、ほかに乗客の降りる沼原駅なども出てくる[15]。
声の出演
英語版はピクサーのジョン・ラセターが製作総指揮を手掛け、4人の翻訳家が英語版台本を作成し、カーク・ワイズが演出を手がけた[32]。
キャラクター | 日本語版 | 英語版 |
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荻野千尋 | 柊瑠美 | デイヴィ・チェイス |
ハク | 入野自由 | ジェイソン・マースデン |
湯婆婆 | 夏木マリ | スザンヌ・プレシェット |
銭婆 | ||
釜爺 | 菅原文太 | デヴィッド・オグデン・スティアーズ |
カオナシ | 中村彰男 | ボブ・バーゲン |
リン | 玉井夕海 | スーザン・イーガン |
坊 | 神木隆之介 | タラ・ストロング |
荻野明夫 | 内藤剛志 | マイケル・チクリス |
荻野悠子 | 沢口靖子 | ローレン・ホリー |
父役 | 上條恒彦 | ポール・エイディング |
兄役 | 小野武彦 | ジョン・ラッツェンバーガー |
青蛙 | 我修院達也 | ボブ・バーゲン |
番台蛙 | 大泉洋 | ロジャー・バンパス |
河の神 | はやし・こば | ? |
おしら様 | 安田顕 | ジャック・エンジェル |
スタッフ
- 製作総指揮:徳間康快
- 製作:「千と千尋の神隠し」製作委員会:徳間書店、日本テレビ放送網、電通、ディズニー、東北新社、三菱商事、スタジオジブリ[2]
- 原作・脚本・監督:宮崎駿
- 音楽・指揮・ピアノ演奏:久石譲
- 作画監督:安藤雅司・高坂希太郎・賀川愛
- 原画 : 稲村武志・山田憲一・松瀬勝・芳尾英明・山森英司・中村勝利・小野田和由・鈴木麻紀子・松尾真理子・田村篤・米林宏昌・藤井香織・山田珠美・二木真希子・百瀬義行・山下明彦・武内宣之・古屋勝悟・倉田美鈴・山形厚史・君島繁・山川浩臣・大杉宣弘・田中雄一・金子志津枝・浜洲英喜・古川尚哉・小西賢一・大城勝・大平晋也・橋本晋治・中山久司・高野登・篠原征子・石井邦幸・山内昇寿郎
- 動画チェック:舘野仁美・鈴木まり子・斎藤昌哉・大橋実
- 動画協力:アニメトロトロ、オープロダクション、スタジオコクピット、スタジオたくらんけ、グループどんぐり、中村プロダクション、GAINAX、動画工房、スタジオ九魔、Production I.G、スタジオムサシ、スタジオ・ブーメラン、Studio DEEN、スタジオ雲雀、ラジカル・パーティー、キリュウ、夢弦館、AIC、SHAFT、LIBERTY SHIP、MADHOUSE
- 美術監督:武重洋二
- 美術監督補佐:吉田昇
- 背景:男鹿和雄・平原さやか・福留嘉一・田中直哉・春日井直美・伊奈涼子・長田昌子・石原智恵・矢野きくよ・糸川敬子・増山修・斎藤久恵・菊地正典・長縄恭子・佐々木洋明・山本二三
- 色彩設計:保田道世
- 色指定補佐:山田和子・野村雪絵
- デジタル作画監督:片塰満則
- 映像演出:奥井敦
- 録音演出:林和弘
- 整音:井上秀司
- 編集:瀬山武司
- 編集助手:水田経子・内田恵・武宮むつみ
- 制作担当:高橋望
- プロデューサー補:石井朋彦
- 特別協力:読売新聞社・ローソン
- 宣伝プロデューサー:市川南
- 製作担当:奥田誠治・福山亮一
- 制作:スタジオジブリ
- プロデューサー:鈴木敏夫
- 配給:東宝[2]
(以上、特に注記のないものはロマンアルバム 2001, pp. 102-103より抜粋)
製作
企画
企画書脱稿までの経緯
宮崎駿は信州に山小屋を持っており、毎年夏になるとジブリ関係者の娘たちを招いて合宿を行っていた。宮崎は子どもたちを赤ん坊のころから知っており、「幼いガールフレンド」という言い方もしている[2]。少女たちは宮崎を「お山のおじさん」と呼んでおり、その頃はまだ映画監督とは思っていなかった[33]。『もののけ姫』公開直後の1997年8月、制作に疲れ果てた宮崎は山小屋で静養し、「幼いガールフレンド」たちの訪問を楽しみにしていた。同年9月ごろ、宮崎に次回作への意欲が灯りはじめる[2]。山小屋には『りぼん』や『なかよし』といった少女漫画雑誌が残されていた。宮崎は過去にも、山小屋に置かれていた少女漫画誌から映画の原作を見つけ出している(『耳をすませば』や『コクリコ坂から』)。しかし今回は、漫画の内容が恋愛ものばかりであることに不満を抱いた。山小屋に集まる子どもたちと同じ年齢の、10歳の少女たちが心に抱えているものや、本当に必要としているものは、別にあるのではないか。美しく聡明なヒロインではなく、どこにでもいるような10歳の少女を主人公に据え、しかも安易な成長物語に流れないような映画を作ることができるのではないか。少女が世間の荒波に揉まれたときに、もともと隠し持っていた能力が溢れ出てくるというような、そんな物語が作れるのではないか。このように考えた[9]。当時宮崎は、思春期前後の少女向け映画を作ったことがなかったので、「幼いガールフレンド」たちに向けて映画をプレゼントすることが目標になった[7]。宮崎は『パンダコパンダ』(1972年)のとき、自分の子供を楽しませようという動機でアニメーションを制作した。顔の浮かぶ特定の個人に向けて映画を作るという経験はそれ以来のことだった[9]。しかし宮崎駿は、『もののけ姫』の製作中からしきりに監督引退をほのめかしており、1997年6月の完成披露試写会以降、「引退」発言はマスメディアを賑わせていた[2]。当時はまだ引退の心づもりは変わらず、次回作ではシナリオと絵コンテは担当しても、監督は別人を立てるつもりでいた[2]。
1998年3月26日、スタジオジブリの企画検討会議で、柏葉幸子『霧のむこうのふしぎな町』(1975年、講談社)が案に挙がる[7]。小学6年生の少女が「霧の谷」を訪れ、魔法使いの末裔たちが営む不思議な商店街で働きはじめるという筋のファンタジー小説だった。この原作は以前から企画検討にかけられており、1995年の『耳をすませば』では天沢聖司が『霧のむこうのふしぎな町』を読む場面が組み込まれている。宮崎は、柏葉の原作をもとに『ゴチャガチャ通りのリナ』というタイトルで企画に取り組む。しかし、これは早々に断念された[2]。
次に、新企画『煙突描きのリン』がはじまった。1998年6月、小金井市梶野町のスタジオジブリ付近に事務所「豚屋」が完成、宮崎の個人事務所二馬力のアトリエとして使われることになった。宮崎はここで新企画に取り組みはじめた。『煙突描きのリン』は、大地震に見まわれた東京を舞台にした映画で、銭湯の煙突に絵を描く18歳の画学生、リンが、東京を影で支配する集団と戦うという物語であった。作品の背景には、現代美術家荒川修作の影響があり、荒川をモデルにした登場人物も用意されていた。宮崎は1998年に養老天命反転地を訪れて気に入り、荒川とも対談して意気投合している[2]。プロデューサーの鈴木敏夫によれば、リンと敵対する集団のボスは宮崎自身が投影された60歳の老人であり、しかもこの老人と18歳の主人公のリンが恋に落ちる展開が用意されていたという[7]。
1998年6月から約1年間進められた『煙突描きのリン』の企画は、1999年8月、突如廃案になった[2][注釈 11]。鈴木敏夫によれば、次のような出来事があったという。鈴木は、1998年に公開されヒットしていた映画『踊る大捜査線 THE MOVIE』(本広克行監督)を遅れて鑑賞する。若手の監督によって同時代の若者の気分がリアルに表現されていることに衝撃を受け、同時に、宮崎の描く若い女性が現代の若者像として説得力を持ちえるのかどうか疑問を抱く。鈴木は映画を観たその足で宮崎のアトリエに赴いた。すでに『煙突描きのリン』の企画はかなり進んでおり、アトリエの壁面には数多くのイメージボードが貼りつけられていた。イメージボードとは、作品のおおまかなイメージをスタッフと共有するために、アニメの代表的なシーンをラフに描き起こしたスケッチである。しかし鈴木はそれには触れず、『踊る大捜査線』の話をしはじめた[7]。
宮さんは僕の話を聞きながら、すっと立ち上がり、壁に貼ってあったイメージボードを一枚一枚はがし始めました。そして、全部まとめて、僕の目の前でゴミ箱の中にバサッと捨てたんです。あの光景はいまでも忘れられません。「この企画はだめだってことだろう、鈴木さん」
— 鈴木敏夫、ジブリの教科書 2016, p. 56
宮崎はその場ですぐ、「千晶の映画をやろうか」[7]と提案した。「千晶」とは、本作の製作担当である奥田誠治の娘、奥田千晶のことである。奥田誠治は日本テレビの社員で、宮崎の友人のひとりだった。奥田千晶は毎年夏に宮崎の山小屋に滞在する「幼いガールフレンド」のひとりであり、鈴木とも親しかった。さらに宮崎は、作品の舞台を江戸東京たてもの園にすることを提案した。江戸東京たてもの園はスタジオジブリにほど近い場所にあり、宮崎・鈴木・高畑勲らの日常的な散歩コースになっていた[2]。身近な場所を舞台に、親しい子供のための映画を作るという宮崎の提案に、鈴木は首を縦に振らざるをえなかった[15]。
ある夏、宮崎らが山小屋の近くの川に沿って散歩をしていると、千晶がピンク色の運動靴を川に落としてしまった。千晶の父と宮崎・鈴木は必死で靴を追いかけ、川から拾い上げた[33]。このエピソードは宮崎の印象に残り、『千と千尋の神隠し』のクライマックスの場面で直接的に使われている。幼いころの千尋はハク(コハク川)から靴を拾おうとして川に落ちたが、そのときの運動靴はピンク色である。また、この靴は、エンドクレジット後の「おわり」のカットでも作画されている[7]。企画は当初、「千の神隠し」という仮題でスタートし、主人公の名前もそのまま「千晶」になっていた。しかし、「教育上よくない」という理由で、「千尋」と改められた[34]。
1999年11月2日、企画書[35]が書き上げられた。宮崎は企画書の中で大きく分けて次の3点の意図を掲げている[2]。
- 現代の困難な世の中で危機に直面することで、少女が生きる力を取り戻す姿を描く
- 言葉の力が軽んじられている現代において、「言葉は意志であり、自分であり、力」であることを描く(千尋は湯婆婆に名前を奪われ、支配されてしまう)
- 日本の昔話の「直系の子孫」として、日本を舞台にするファンタジーをつくる
「千尋が主人公である資格は、実は喰い尽くされない力にあるといえる。決して、美少女であったり、類まれな心の持ち主だから主人公になるのではない」とし、その上で、本作を「10歳の女の子達のための映画」と位置づけている。
『千と千尋の神隠し』は、『霧のむこうのふしぎな町』、『ゴチャガチャ通りのリナ』、『煙突描きのリン』の影響を部分的に受けてはいるが、キャラクターやストーリー展開の面では完全なオリジナルになった[2]。
本作の制作は、12月13日に東宝が公開した配給作品ラインナップで公にされた[2]。
制作過程
1999年11月8日、宮崎駿はメインスタッフに向けて説明会を行う[7]。11月12日にはジブリ全社員を集めて作品についてレクチャー[15]。翌週から監督は絵コンテ作業に入り、メインスタッフたちも本格的な制作準備に入った[15]。
2000年2月1日、宮崎は社内に打ち入りを宣言、作画打ち合わせがスタートした[2]。
作画班の体制
作画監督には安藤雅司が起用された。安藤は『もののけ姫』で26歳にして作画監督に抜擢された。しかし、鈴木敏夫の回想によれば、『もののけ姫』の制作終了後、安藤は一度辞意を示しており、鈴木に慰留されていた。宮崎のアニメーションがキャラクターを理想化・デフォルメする傾向が強いのに対して、安藤はリアリズムを希求し、映像的な快楽を優先して正確さを犠牲にすることを許さなかった。両者の志向は対立していた[7]。
通常のアニメ作品では、原画修正は作画監督が行い、監督は直接関与しない。しかし、宮崎駿監督作品の場合、宮崎がアニメーターの長として全体の作画作業を統括し、原画のデッサン・動き・コマ数などを先に描き直す。このため、作画監督の仕事は宮崎のラフな線を拾い直す作業が主となる。安藤は『もののけ姫』公開後のインタビューで、宮崎の作品では作画監督という肩書で仕事をしたくないと心情を語っている[36]。そこで鈴木は、次回作では「芝居」についても安藤のやり方で制作していいと認めることにした[7]。宮崎自身も、『もののけ姫』の制作で加齢による体力の低下を痛感し、すでに細かな作画修正作業を担いきれない段階にあると考え、作画の裁量を安藤に委ねる方針を取った[37]。それだけでなく、演出を安藤に任せる案もあった。宮崎が絵コンテを描いた『耳をすませば』で近藤喜文が監督を担当した前例もあり、同様の制作体制が取られる可能性もあった。少なくとも『ゴチャガチャ通りのリナ』の段階では、演出を安藤に任せるつもりでいたという[9]。しかし、当の安藤は宮崎の絵コンテで演出をするつもりはなく[9]、結局は宮崎が監督することになった[2]。
原画は過去最大規模の37人体制になった[2]。しかし、当時ジブリ社内の原画陣は過去に例がないほど脆弱で[2]、特に中堅のアニメーターの層が薄かった[15]。これに加えて、フリーで活躍しているアニメーターを積極的に受け入れ、宮崎駿の中になかった表現を取り入れたいという安藤の意向もあり[15]、大平晋也や山下明彦といった実力派のフリーアニメーターが参加した[7]。
動画チェックチーフは舘野仁美。舘野は『となりのトトロ』から『風立ちぬ』までのすべての宮崎監督作で動画チェックを務めている。動画班は最終的に、国内スタッフが99人、韓国の外注スタッフが27人、計126人が動員された[2]。
カオナシがメインキャラクターに
宮崎駿は、長編映画制作の際、事前にシナリオを用意しない。絵コンテを描きながらストーリーを構想し、各スタッフは絵コンテがすべて完成する前から作業を進めていく。その間は監督自身でさえも作品の全容を知らない[15]。本作では、絵コンテが40分ほど完成したところで転機が訪れた。2000年のゴールデンウィーク中のある日[7]、その日は休日だったため、多くのスタッフは出勤していなかったが、プロデューサーの鈴木敏夫、作画監督の安藤雅司、美術監督の武重洋二、加えて制作担当者がたまたま居合わせた[7]。宮崎はホワイトボードに図を描きながら、映画後半のストーリーを説明しはじめた[7]。千尋は湯屋で働きながら湯婆婆を打倒する。ところが、湯婆婆の背後には銭婆というさらに強力な黒幕がいたことが判明する。ハクの力を借りて銭婆も倒し、名前を取り返して両親を人間に戻す。このような流れである[2][7]。
しかし、この案では上映時間が3時間を超えてしまうという意見が出た。鈴木は公開を一年延期しようと提案したが、宮崎と安藤はこれを否定[2][注釈 12]。上記のプロットは破棄されることになった。宮崎はそこでとっさに、千尋が初めて湯屋に入るシーンで欄干のそばに立っていたキャラクターを話題にした。当初カオナシは、「何の予定もなくてただ立たせていただけ」[7]だったが、映像にしたときに奇妙な存在感があり、宮崎にとって気になるキャラクターになっていた。宮崎は即席で、湯屋でカオナシが大暴れするストーリーを語った。これが採用されることになり、絵コンテ執筆は大きく転換した。湯婆婆を退治するという展開は立ち消え、代わりに千尋とカオナシの関係にスポットライトが当たることになった[2][7]。
安藤と宮崎の緊張関係
当初は予定通り安藤雅司が作画工程を統括し[2]、原画修正を任されていた[2]。鈴木敏夫の約束通り、宮崎駿はタイミングのみをチェックした[15]。しかし、日を追うにつれ、宮崎と安藤の間の溝は次第に深まっていった[7]。宮崎は「どこにでもいる10歳の少女を描く」というコンセプトを掲げた。安藤はこの方針に可能性を感じ、今までの宮崎駿監督作にはなかったような現実的な空間を作り上げることで、ジブリアニメに新しい風を吹きこもうとした[15]。そのような試みのひとつが「子供を生々しく描く」ということだった[15][注釈 13]。安藤が用意した千尋のキャラクター設定は、背中が曲がり、無駄の多い緩慢な動作に満ち、表情はぶうたれていて喜怒哀楽が不鮮明だった。これは従来宮崎が描いてきた少女像からかけ離れたもので、とりわけ、目の描き方が一線を画していた[2]。序盤の絵コンテは、千尋の不機嫌なキャラクター性を反映してゆっくりとした展開となった。しかしながら宮崎は、千尋がグズであるがゆえに先行きの見えてこない物語に苛立った。絵コンテでは、千尋が湯屋で働きはじめるまでの段階で、すでに40分が経っていた[2]。そこで、中盤以降は一気にスペクタルに満ちた展開に舵を切った。千尋も序盤とは打って変わってデフォルメされた豊かな表情を見せ、きびきびと行動するようになった。そこには、旧来通りの、宮崎らしい、理想化されたヒロインがいた。安藤はこの方向転換に「違和感と失望」[2]を抱いたが、それでもなお緻密な修正を続け[2]、作画監督の通常の仕事範囲を超えて動画段階でもチェックを行い、場合によっては動画枚数を足すなど[7]、身を削って作業を進めた。カットの増加・作画作業の遅延によって補助的に作画監督(賀川愛・高坂希太郎)が増員されたが[2]、最終チェックはすべて安藤が担った[15]。結局は宮崎も、当初の予定に反して、レイアウト修正・原画修正を担うようになった[2]。宮崎の提示する演出意図と安藤の指示の食い違いに戸惑うスタッフは多かったという[2]。
安藤は制作終了後のインタビューで、最終的には作品と距離をおいた関わり方になってしまったこと、全体としては宮崎の作品の枠を出ることができなかったこと、当初自分で思い描いていた作品はどうしても実現できなかったことを振り返っている[15]。しかし、宮崎は「安藤の努力と才能がいい形で映画を新鮮にしている」と評価しており[9]、鈴木は宮崎と安藤の緊張関係によって画面に迫力がみなぎるようになったと語る[7]。安藤は本作を最後にジブリを退職したが[2][7]、『かぐや姫の物語』(2013年)にはメインアニメーターとして、『思い出のマーニー』(2014年)には脚本(連名)および作画監督としてジブリ作品に再び参加している。
作業の遅延
2000年9月20日、スタジオジブリ社長、徳間康快が死去。10月16日、新高輪プリンスホテルにてお別れ会。宮崎は会の委員長を務めた[2]。葬儀に出席する喪服の男たちがみなカエルのように見えたと語っており、作中に登場するカエル男たちとの関係をほのめかしている[2]。徳間は作品の完成を見ずにこの世を去ったが、「製作総指揮」としてクレジットされている。
同時期、作画作業の遅延は深刻化していた。前述の通り作画監督が増員されたのはこのころだった。経験の浅い新人アニメーターに対しては「遅くとも1人1週間で1カットあげる」という目標を設定したが、それだけではとても公開に間に合わない計算になり、鈴木は頭を悩ませた。社内で上げたカットは全体の半分程度にとどまり、残りは外注で仕上げた。アニメーターの小西賢一に依頼して実力のあるフリーアニメーターをリストアップしてもらい、支援を要請した[2]。
動画・彩色は、国内の外注スタジオに委託しただけでは間に合わないということが明らかになった[7]。そこで、ジブリ創設以来はじめて、海外スタジオに動画と仕上を外注することを決断[2]。スタジオから4人を韓国に派遣した[7]。韓国のD.R DIGITALは動画・彩色を、JEMは彩色を担当した[2]。両社の仕事は高品質で、納期も遵守された[2]。
美術
美術監督は武重洋二、美術監督補佐は吉田昇。美術班も作画部門と同様新人スタッフが多かったため、武重はほぼすべてのカットの美術ボード[注釈 14]を描いた。しかも、用途別に各カットごと3枚の美術ボードを描くほど念入りだった[2]。『となりのトトロ』の作画監督であるベテランの男鹿和雄は、主に不思議の町に入り込む前の世界、冒頭とラストシーンの自然環境の背景を一任され[2]、該当場面のモデルとなった四方津駅周辺を独自に取材した[2]。湯屋の中の巨大な鬼の襖絵は吉田昇が担当した[2]。
宮崎からは「どこか懐かしい風景」「目黒雅叙園のような擬洋風、古伊万里の大きな壺」などの指示があった[15]。色については「とにかく派手に」[15]「下品なほどの赤」[2]という指定があり、随所にちりばめられた赤色と湯屋内部の金色がキーカラーになっている[2]。
2000年3月17日には、江戸東京たてもの園でロケハンが行われた[2]。江戸東京たてもの園は、企画当初から作品の舞台とされていた場所である。油屋のデザインについて、モデルとなった特定の温泉宿などは存在しない[7]。ただし、江戸東京たてもの園の子宝湯は宮崎お気に入りの建物で、特に千鳥破風の屋根に加えて玄関の上に唐破風(別の屋根の形式)を重ねる趣向、および内部の格天井に描かれた富士山のタイル絵などの「無駄な装飾性」に魅了されたという[2]。また、ジブリの社員旅行で訪れたことのある道後温泉本館も参考にされた[2]。油屋の内装は目黒雅叙園が原形になっており[7][注釈 15]、他に二条城の天井画、日光東照宮の壁面彫刻、広島の遊郭の赤い壁などが参考にされた[2]。釜爺の仕事場にあった薬草箱は江戸東京たてもの園の武居三省堂(文具屋)内部の引出しがモデルになっている[15]。油屋周辺の飲食店街は、新橋の烏森口や有楽町ガード下の歓楽街をイメージして描かれている[2][38]。従業員の部屋は、1950年代の劣悪な労働環境だった近江紡糸工場の女工たちの部屋や、多磨全生園隣接の国立ハンセン病資料館内に再現された雑居部屋がモデルとなっている[2]。湯婆婆の部屋は、和洋の混じった鹿鳴館や目黒雅叙園がモデルである[39]。
台湾の台北近郊の町九份の一部商店主は宮崎駿が訪れスケッチをしたと主張しているが[40]、宮崎は台湾メディアのインタビューに対して九份を作品の参考にしたことはないと否定している[41]。
CG・彩色・撮影
スタジオジブリでは『ホーホケキョ となりの山田くん』(1999年)よりデジタル彩色が導入されており、本作は宮崎駿監督作品としては初めて、仕上・撮影の工程がデジタル化された。これに伴って宮崎は一部の役職を新しく命名し、CG部チーフだった片塰満則は「デジタル作画監督」に、撮影監督だった奥井敦は「映像演出」になった[2]。『となりの山田くん』では水彩画調の実験的な彩色が行われたため、長編映画でデジタル彩色を用いて従来のセルアニメーションを再現していく作業は、ジブリにおいては実質的に初めての経験といってよかった[7]。この状況を踏まえて、作画・美術・デジタル作画・映像演出の各チーフによって「処理打ち合わせ」という会議が持たれ、各部署間での密接な連携が模索された。たとえば、雨が降ったあとにできた海の描写はデジタル部門や撮影班の上げた成果である[2]。
デジタル作画部門はほぼすべての背景動画[注釈 16]を担当した。それ以外に、浮き上がる「荻野千尋」の文字や、川の神のヘドロ、海原電鉄から見た黒い人物の様子などを担当した[2]。
映像演出部門では、現像を手掛けるイマジカと協力して、独自のカラーマネジメントシステムを導入し、デジタルデータをフィルムに変換する際に色調が変化しないよう努めた[7]。また、本作は初期のDLP上映作品であり、本来であればフィルム特有の画面の揺れは抑えられる環境にあったが、映像演出の奥井はあくまでフィルム上映を基本と考え、完成画面の上下左右に1センチの余裕を残して、シーンに応じてデジタルデータにわざとブレを加える工夫をした[2]。
色彩設計は保田道世。宮崎駿・高畑勲とは東映動画に在籍していた1960年代からの知己であり、『風の谷のナウシカ』から『風立ちぬ』に至るまで、すべての宮崎駿監督長編作品で色彩設計部門のチーフを務めている。本作ではデジタル化により扱える色の量が飛躍的に増加した[2]。
音楽
音楽は久石譲が担当した。久石は『風の谷のナウシカ』からすべての宮崎長編作品を作曲しており、『千と千尋の神隠し』で7作目。公開に先駆け2001年4月にイメージアルバムが発売され、5曲のボーカル曲のすべてで宮崎が作詞した。宮崎はイメージアルバムに収録されたピアノ曲「海」を気に入っており、久石は、この曲が海上を走る電車のシーンにうまく「はまった」ことを喜んだ[2][7]。
主題歌
覚和歌子作詞、作曲・歌はソプラノ歌手の木村弓による「いつも何度でも」が主題歌となった。しかし、この曲はもともと『千と千尋』のために書かれたものではない。木村弓と宮崎の交流は、1998年夏ごろに木村が宮崎に書いた手紙に端を発する。木村は前作『もののけ姫』を鑑賞して感銘を受け、自らのCDを添えて手紙を送った。宮崎は木村に好感を持った。当時宮崎は『煙突描きのリン』の企画中だったので、そのあらすじを書き添えたうえで[15]「作品が形になったら連絡するかもしれない」と返事した。木村は『リン』の世界から刺激を受けてメロディを着想。作詞家の覚に持ちかけて曲の制作に入った。こうして、「いつも何度でも」は1999年5月に完成した。しかし宮崎から連絡があり、『リン』の企画自体が没になったので、主題歌には使うことができないと伝えられる。「いつも何度でも」はお蔵入りになりかけた。『千と千尋の神隠し』の主題歌は、宮崎作詞・久石作曲の「あの日の川へ」になる予定だった。イメージアルバムの1曲目には同名のボーカル曲が収録されている。しかし、宮崎の作詞作業が暗礁に乗り上げ、不採用になった。2001年2月、「いつも何度でも」を聞き直した宮崎は、「ゼロになるからだ」などの歌詞と映画の内容が合致することに驚き、急遽主題歌としての再起用を決める。『千と千尋』を制作するにあたって「いつも何度でも」が潜在的な影響を与えたのかもしれない、と振り返っている[2][7]。
シングル「いつも何度でも」の売上は50万枚以上を記録した[42]。
着想の源
企画書にある「あいまいになってしまった世の中」、「あいまいなくせに、侵食し喰い尽くそうとする世の中」の縮図として設定されたのが、湯屋という舞台である[7]。湯屋の勤務形態は夜型だが、スタジオジブリもまた夜型の企業であり、企業組織としての湯屋はスタジオジブリそのものがモデルになっている[2]。宮崎もスタッフに「湯屋はジブリと同じだ」[7]と説明し、ジブリ社内は「10歳の少女には魑魅魍魎の世界に見える」[2]と語った。たとえば、湯婆婆はときどき湯屋から外出してどこか知れぬところへ飛んで行くが、この行動には、会議・出張などで頻繁にジブリからいなくなる鈴木敏夫のイメージが重ねられている[2]。インタビューによれば、宮崎はペルーの少年労働を扱ったドキュメンタリー番組を見たことがあり、子供が労働することが当然である世界の現状を忘れたくなかったので、過酷な環境下で少女が労働を強いられるストーリーを執筆したと説明している[15]。
町山智浩・柳下毅一郎は「湯屋は遊郭である」と指摘し[43]、作品スタッフの舘野仁美(動画チェック)も同様の発言をしている[注釈 17]。宮崎自身は、千尋が迷いこむ不思議な世界のイメージを伝える文脈で、学生時代に新宿の赤線地帯付近を通りかかったときに見た「赤いライトの光景」についてスタッフに説明したという[15]。また、雑誌「プレミア日本版」2001年9月号のインタビューでも同様の発言があり、子供のころにはまだ残っていた新宿の「赤いランタン」に触れたうえで、「日本はすべて風俗営業みたいな社会になっている」「いまの世界として描くには何がふさわしいかといえば、それは風俗営業だと思う」[44]と語っている。湯屋に大浴場がなく、個室に区切られていることについて質問されたときには、「いがかわしいこと」をするためであろうと答えている[15]。かつての日本の湯屋では、湯女による垢すりや性的行為が一般的に行われていた[45]。
そして、鈴木の述懐によれば、企画の原点には鈴木と宮崎の間で交わされた「キャバクラ」についての会話があった。その内容はこうである。鈴木にキャバクラ好きの知人がいた。この知人から聞いた話では、キャバクラで働く女性には、もともとコミュニケーションがうまくできないひとも多い。客としてくる男性も同じようなものである。つまりキャバクラは、コミュニケーションを学ぶ場なのである。異性と会話せざるを得ない環境に放り込まれて働いているうちに、元気を取り戻していく(という従業員もいる)。鈴木によれば、宮崎はこの談話をヒントにして湯屋の物語を構想した。すなわち、千尋が湯屋で神々に接待していくうちに、生きる力を取り戻していくというストーリーである[46][7]。
「神仏混淆の湯治場」という発想は、「霜月祭」がもとになっている。この祭りは「十二月に神々を招いて湯を浴びさせる」というもので、様々な仮面を被った人々が多種多様な神々を演じて舞う神事である[2]。鈴木と宮崎はNHKドキュメンタリー『ふるさとの伝承』[注釈 18]でこの祭りを知り、着想を得た[7]。霜月祭は、長野県下伊那郡天龍村に伝わる「天龍村の霜月神楽」や長野県飯田市の遠山郷(旧南信濃村、旧上村)に伝わる「遠山の霜月祭」など、長野・愛知・静岡の県境にまたがる地域の各地で行われている[15]。また、静岡県静岡市の「清沢神楽」や静岡県御殿場市の「湯立神楽」、愛知県北設楽郡の「花祭り」など「釜で湯を沸かして掛け踊る」という湯立神楽の祭事は、日本各地で行われている。
1994年春頃、宮崎は自宅付近を流れるドブ川を観察する。川の中では、ユスリカの幼虫が大量発生して、汚濁した水の中で懸命に生きていた。宮崎はその様子を見て「今後の人間の運命」を感じる経験をした。後に宮崎は地元有志とドブ川を掃除し、そのときの経験が汚れた河の神の内部から自転車などを引き出すシーンとして活かされた[15][2]。その後も川掃除は宮崎の習慣になっており、2016年に一般市民が制作したドキュメンタリー作品では、宮崎が川掃除などの地域の清掃活動に取り組む様子が収められている[48]。
封切り
宣伝
鈴木敏夫は、宣伝の量と上映館のキャパシティの両方を『もののけ姫』の倍にする計画を立てたと語っている[7]。鈴木を奮起させたのは、宮崎駿の息子、吾朗と、博報堂の藤巻直哉の言葉だった。鈴木は、前作に続いて今作でも大ヒットが続けば、宮崎がおかしくなってしまうのではないかと心配していた。しかし、宮崎吾朗は、当時デザインに取り組んでいた三鷹の森ジブリ美術館の成功を望み、『千と千尋の神隠し』を前作の倍ヒットさせてほしいと言った。のちに『崖の上のポニョ』の主題歌を歌うことになる藤巻直哉は、2000年の秋頃に赤坂でばったり鈴木と出くわした[49]。当時、電通と博報堂は1作ごとに交代で製作委員会に入っていたため、博報堂の担当者である藤巻は関わっていなかった。藤巻はそこで次のようなことを漏らした。次の作品は、『もののけ姫』の半分は行くだろうとみんな言っている。電通がうらやましい、と。鈴木はこの言葉にいきり立ち、必ずや『千と千尋』を大ヒットさせると決意する[49][7]。
2001年3月26日、江戸東京たてもの園で製作報告会[2]。宮崎は、「幼いガールフレンド」たちが本当に楽める映画を作りたいと制作の動機を語った[7]。徳間書店・スタジオジブリ・日本テレビ・電通・ディズニー・東北新社・三菱商事が製作委員会を組んだ。本作から新たに加わった出資企業は2社。ディズニーは『ホーホケキョ となりの山田くん』から参加していたが、東北新社と三菱商事は初参加だった。電通経由で特別協賛に入ったネスレ日本と、三菱商事系列企業のローソンはタイアップで活躍した[7]。ネスレは本編映像を使用したテレビCMの放映などでキャンペーンを展開した。
コンビニエンスストアとのタイアップはジブリにとって初めての経験だった。それまで鈴木はコンビニを敬遠していたが[7]、ローソンは全国約7000店の店舗で『千尋』を大々的に告知、独自にフィギュアつき前売り券などを用意し、映画館窓口の販売実績を超える32万枚の前売り券を売り上げた。この機にジブリとローソンのタッグは確立され、三鷹の森ジブリ美術館が完成した後にはローソンが唯一のチケット窓口になるなど、関係は続いている[2]。
劇場の本予告・および新聞広告ではカオナシが前面に押し出された[7]。本予告は二種類が作成され、2001年3月から5月までの予告「A」は、千尋が不思議な町に迷いこみ、親が豚になってしまうところまでをホラー映画風にまとめたものだった。対して、6月から流れた予告「B」は、千尋がカオナシを湯屋に招き入れ、カオナシが暴走するところまでをまとめた[2]。
鈴木は、本作を「カオナシの映画」であると考え、カオナシを宣伝の顔として立てることを決めた。その理由として、前述した千尋のキャラクターの極端な変貌を鈴木が感じ取っていたことが挙げられる。不機嫌な千尋の視線に沿ってゆったりとした前半の展開と、中盤以降のきびきびと働く千尋を追いかけるような展開にはギャップがあり、鈴木は本作を「1本で2本分の映画」であるように思った[15][7]。鈴木の語ったところによれば、宮崎自身も当初は「千尋とハクの話」だと考えており、カオナシ中心に宣伝を行うことに違和感を持っていた。しかし、映画が完成に近づいた段階でラッシュ(完成した素材を荒くつないだ映像)を見て、「千尋とカオナシの話」であることを認めたという[7]。
当初は、糸井重里の書いた「トンネルのむこうは、不思議の町でした。」という宣伝コピーが使われていた。しかし、宣伝プロデューサーを務めた東宝の市川南[注釈 19]の意見で[7]、「〈生きる力〉を呼び醒ませ!」というサブコピーが考案され、新聞広告などではこちらのほうが大きく取り上げられた[2]。
宣伝チームはローラー作戦をかけ、通常であれば行かないような地方の小さな町まで訪れるなど、徹底したキャンペーンを張ったと鈴木は証言する[7]。
公開
2001年7月10日、帝国ホテルで完成披露会見。同日、日比谷スカラ座で完成披露試写会。宮崎は前作の公開時に続いて、またしても長編引退をほのめかした。試写の反応は絶賛一色だった。しかし、作品の完成は公開日の2週間前で[15]、試写にかけられる時間がわずかしかなかったことから、『もののけ姫』ほどの大ヒットにはならないだろうという観測が多勢を占めていた[2]。この日の試写会には千尋のモデルとなった奥田誠治の娘、奥田千晶も現れた[2]。宮崎は鈴木とともに千晶を出迎え、「この映画はおじさんと千晶の勝負だ」と言った[33]。上映後の千晶の反応は上々であり、宮崎と鈴木は喜んだ[2][7]。「おわり」のカットで描いた不鮮明なイラストについて宮崎が尋ねると、千晶はそれが自分の落とした靴の絵であることを正しく言い当てた[33]。
2001年7月20日公開[2]。すぐさま爆発的なヒットになり、週末映画ランキングでは公開以来26週連続トップ10にランクインした。さらに、公開32週目には前週の18位から一気に4位に浮上した。11月11日までの4か月間で、興行収入262億円、観客動員数2023万人を記録。『タイタニック』が保持していた日本の映画興行記録を塗り替えた。1年以上のロングラン興行になり、最終的には308億円の興行収入を叩き出した。この記録は2018年現在も破られていない[6]。宮崎の個人的な友人である千晶を喜ばせたいという動機でスタートしたこの映画は、実にのべ2350万人[2]もの日本人の足を劇場に運ぶに至ったのである。
空前のヒットの興行的な要因としては、まず宮崎の前作『もののけ姫』が1420万人[2]を動員し、新規顧客を開拓したことが挙げられる[2]。また、『もののけ姫』から『千と千尋の神隠し』に至るまでの期間に、シネマコンプレックスが全国的に普及し、人気作品を映画館の複数スクリーンで集中的に上映する体制が整っていたこともある[2]。公開と同時に、他の作品を上映する予定だったスクリーンが『千と千尋の神隠し』に回され、シネコンでの上映を占拠していった[7]。一方、こうした類のない大ヒットは、他の上映作品の興行に悪影響を及ぼした[7]。2001年12月に行われた「大ヒット御礼パーティ」の席上では、興行関係者が困惑を露わにした。興行収入300億という数字は、1年間に公開される邦画のすべてを合わせた量に相当したからである[2]。
本作で行われた大宣伝とは対照的に、次回作『ハウルの動く城』では「宣伝をしない」宣伝方針が取られた。公開前の内容の露出は極端に抑えられることになり、宮崎もメディアから姿を消した[2]。これに関して、鈴木は千と千尋の神隠しがヒットしすぎたことにより、本来ならある程度数字を挙げることができた様々な作品がヒットせず、多方面に迷惑をかけてしまったため、千と千尋がヒットした後に関係者が集まり、二度と千と千尋のような作品を出さないよう、ある程度棲み分けることにしたと語っている[52]。
英語版の公開まで
英語吹替版はピクサー社のジョン・ラセターがエグゼクティブ・プロデューサー(製作総指揮)を担当。配給の優先権を持っていたのはディズニーだったが[7]、2001年8月にディズニーで行われた上映会では、当時CEOだったマイケル・アイズナーの反応は芳しくなかった[2][7]。宮崎は米国での公開に積極的ではなかったが[2]、鈴木は検討を重ねた末、宮崎の熱烈なファンであるラセターに協力を依頼することにした[7]。1982年、宮崎はアニメ映画『リトル・ニモ』の企画で渡米し、このときにラセターと面識を得ていた。当時まだディズニーに在籍し、不遇の時にあったラセターは、『ルパン三世 カリオストロの城』を鑑賞して衝撃を受け、以来宮崎の熱心なファンとなる。1987年には『となりのトトロ』制作時のジブリを訪れてもいる。その後、ピクサーが創立されるとラセターは移籍し、1995年の『トイ・ストーリー』を皮切りに、ヒット作を送り出していた[7]。
ラセターが説得した結果、ディズニーが北米での配給権を取得。ラセターは『美女と野獣』の監督、カーク・ワイズを英語版監督に、『アラジン』のプロデューサー、ドナルド・W・エルンストを英語版プロデューサーに指名した[53]。英題は Spirited Away に決まった。吹替版は原作に忠実に制作された[2]。
2002年9月5日から10日間、宮崎・鈴木らはプロモーションのために米国へ渡った。ラセターは、ピクサー社を案内したり、複葉機による遊覧飛行を用意したりと、ジブリの一行を手厚くもてなした[2]。このときの様子を収めた映像は、DVD『ラセターさん、ありがとう』(ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント、2003年)として発売されている。
9月20日、北米10都市で公開。以後約1年間に渡って小規模ながら興行が続いた。同年12月からは全米で次々と映画賞を受賞した[2]。最終的には約1000万ドルの興行収入を記録した[54]。
テレビ放送、ホームメディア
2003年1月24日には日本テレビ系列の『金曜ロードショー』でテレビ初放送され、46.9%(ビデオリサーチ・関東地区調べ)という視聴率を記録した。過去にテレビ放送された劇場映画の最高視聴率である[55][56][2]。ビデオリサーチ・関西地区調べでも46.1%の視聴率を記録[55]。日本だけでなく、2004年12月29日にはイギリスで、2006年にはアメリカ合衆国で、2007年9月30日にはカナダでもテレビ放送された(オーストラリアでもテレビ放送実績あり)。
VHS・DVDは2002年7月に発売された。日本国内におけるVHSの出荷本数は250万本、DVDの枚数は300万枚だった。合計550万本の出荷は、やはり新記録だった[2]。
DVD色調問題
2002年7月に日本で発売された『千と千尋の神隠し』のDVDや、ビデオカセット(VHS)に収録されている本編映像が、劇場公開版や予告編・TVスポットなどと比べて赤みが強いとして、スタジオジブリと発売元のブエナビスタ、消費者センター[57]などに苦情が寄せられた[58][2]。
両社は、DVD制作時に用意されたマスターの色調には、意図的な調整を施しているためであり、「このクオリティが最高のものと認識しております」と説明した[注釈 20]。映画上映時のTVCMや上映用プリントやDVDに収録された予告編、TVスポットなどにはこの調整は施されていないため、両者の色調が異なっているが、あくまで本編の色調が正しいとした。
2002年11月、この問題で一部ユーザーは、販売元のブエナビスタを相手取り京都地方裁判所に提訴し、正しい色調のDVDとの交換と慰謝料などを請求した。本係争は2004年9月に「ディズニー・ジャパンは購入者に誤解や混乱が生じたことに遺憾の意を表明する」「今後DVD販売に際しデータを調整した時は明記する」「原告らは請求を放棄する」など全5項目の和解が成立し決着した[2]。
その後、北米、ヨーロッパ、韓国では、日本で発売されたものよりも、赤みの強くない映像が収録されたDVDが販売された。
日本テレビでの2003年1月24日の『金曜ロードショー』(開局50周年記念番組)での放送には、DVDと同様のマスターが使用され、以後も使用されるようになった。
2011年1月7日、日本テレビの『金曜ロードショー』で、初めてハイビジョンマスターにより放送。赤みが大幅に軽減され、北米版DVDに近い赤みの強くない映像で放送された。
2014年4月1日、本作のBlu-ray Disc化が正式発表された[60]。発売予定日は2014年7月16日[49]Blu-ray版ではDVD版のような赤みは無くなり、劇場版と同等の色調で収録された[61]。
海外進出
- 日本以外の国での題名
- 『千与千尋』(繁:千與千尋、簡:千与千寻、ピンイン:Qiānyǔqiānxún、中国と香港の訳名)直訳:「千と千尋」
- 『神隠少女』(繁:神隱少女、簡:神隐少女、ピンイン:Shēnyǐnshǎonǚ、台湾の訳名)直訳:「神隠しにされた少女」
- 『Chihiros Reise ins Zauberland』(ドイツ語)直訳:「千尋の魔法の国の旅」
- 『Spirited Away』(英語)訳:spirit away=「誘拐する、神隠しにする、忽然と連れ去る」[62]
- 『El viaje de Chihiro』(スペイン語)直訳:「千尋の旅」
- 『Le Voyage de Chihiro』(フランス語)直訳:「千尋の旅」
- 『La città incantata』(イタリア語)直訳:「魔法にかかった町」
- 『센과 치히로의 행방불명』(2000年式ローマ字:Sen-gwa Chihiroui haengbangbulmyeong、韓国語)直訳:「千と千尋の行方不明(神隠し)」
評価
2002年2月6日、第52回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門に出品。同映画祭コンペ部門の長編アニメーション映画の出品は初。2月27日、最優秀作品賞である金熊賞を受賞した。ポール・グリーングラス監督『ブラディ・サンデー』と同時受賞だった。世界三大映画祭で長編アニメーションが最高賞を獲得するのは史上初だった[2]。
2003年2月12日、第75回アカデミー賞長編アニメーション部門へのノミネートが決定。3月23日の授賞式で受賞が発表された[注釈 1]。2016年現在に至るまで、同部門を受賞した日本のアニメーションは本作のみである。また手描きのアニメーションとしても唯一の受賞作である。授賞式には宮崎の代理で鈴木敏夫が出席する予定だったが、3月20日に米軍を中心とする有志連合がイラク進攻を開始し、事態が緊迫化したため、断念した[2]。宮崎の受賞コメントは次のようなものになっている。
いま世界は大変不幸な事態を迎えているので、受賞を素直に喜べないのが悲しいです。しかし、アメリカで『千と千尋』を公開するために努力してくれた友人たち、そして作品を評価してくれた人々に心から感謝します。 — 宮崎駿、[7]
アカデミー賞を受賞したことが示すように、本作は英語圏でも広範な評価を得ている。レビュー集積サイトのRotten Tomatoesでは、178本のレビューが掲載されており、うち97%が肯定的に評価している。平均レートは8.6/10で、掲載されているコンセンサスは次の通り。「『千と千尋の神隠し』は、見事に描き出されたおとぎ話であり、眩惑的、魅惑的だ。この作品を見た観客は、自分たちの住んでいる世界がいつもより少しだけ興味深く、魅力的なものに感じられるだろう」[63]。Metacriticでは37本のレビューをもとに94/100のスコアがついている[64]。シカゴ・サンタイムズのロジャー・イーバートは満点の四つ星をつけ、作品と宮崎の演出を称賛している。また、本作を「今年のベスト映画」のひとつとしている[65]。ニューヨーク・タイムズのエルヴィス・ミッチェルは肯定的なレビューを書き、アニメーションシーケンスを評価している。また、ルイス・キャロルの鏡の国のアリスと好意的な文脈で引き比べており、この映画が「気分としての気まぐれさ (moodiness as mood)」についての作品であり、キャラクターが作品の緊張感を高めていると評している[66]。バラエティ誌のデレク・エリーは、「若者と大人が同じように楽しめる」とし、アニメートと音楽を評価している[67] 。ロサンゼルス・タイムズのケネス・タランは吹き替えを評価しており、「荒々しく大胆不敵な想像力の産物であり、こうした創作物はいままでに見たどのような作品にも似ない」としている。また、宮崎の演出も評価している[68]。オーランド・センチネル紙のジェイ・ボイヤーもやはり宮崎の演出を評価し、「引っ越しを終えた子供にとっては最適」の映画だとしている[69]。
2009年2月にオリコンがインターネット調査した「日本アカデミー賞 歴代最優秀作品の中で、もう一度観たいと思う作品」で1位に選ばれた[70]。
2016年7月、アメリカの映画サイト・The Playlistが、21世紀に入ってから2016年までに公開されたアニメのベスト50を発表し、本作が第1位に選ばれた[71]。
2016年8月、英BBC企画「21世紀の偉大な映画ベスト100」で第4位に選ばれた[72]。
2016年に実施された「スタジオジブリ総選挙」で第1位に選ばれ、2016年9月10日から16日までTOHOシネマズ5スクリーンで再上映された[73]。
2017年4月、映画批評サイト「TSPDT」が発表した「21世紀に公開された映画ベスト1000」にて、第8位に選ばれた[74]。
2017年6月、ニューヨークタイムズ紙が発表した「21世紀のベスト映画25本」で、第2位に選ばれた[75]。
2017年6月、英エンパイア誌が読者投票による「史上最高の映画100本」を発表し、80位にランクインした[76]。
賞歴・ノミネート歴
発表年 | 賞 | 部門 | 対象 | 結果 |
---|---|---|---|---|
2001 | 第6回アニメーション神戸 | 作品賞・劇場部門 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[77] |
第44回ブルーリボン賞 | 作品賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[78] | |
第19回ゴールデングロス賞 | 最優秀金賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[79] | |
マネーメイキング監督賞 | 宮崎駿 | 受賞[79] | ||
特別賞・全興連特別大賞 | 宮崎駿 | 受賞[79] | ||
第56回毎日映画コンクール | 日本映画大賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[80] | |
アニメーション映画賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[80] | ||
監督賞 | 宮崎駿 | 受賞[80] | ||
音楽賞 | 久石譲、木村弓 | 受賞[80] | ||
第26回報知映画賞 | 監督賞 | 宮崎駿 | 受賞[81] | |
第14回日刊スポーツ映画大賞 | 作品賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[82] | |
2002 | 第75回キネマ旬報ベスト・テン | 読者選出日本映画監督賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[83] |
日本映画ベスト・テン | 『千と千尋の神隠し』 | 3位[83] | ||
読者選出日本映画ベスト・テン | 『千と千尋の神隠し』 | 1位[84] | ||
第5回文化庁メディア芸術祭 (アニメーション部門) |
大賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞 (千年女優と同時)[85] | |
特別賞 | 宮崎駿 | 受賞[85] | ||
第26回エランドール賞 | 作品賞 映画部門(児井・田中賞) | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[86] | |
プロデューサー賞(児井・田中賞) | 鈴木敏夫 | 受賞 (石原隆・菅康弘と同時)[86] | ||
新世紀東京国際アニメフェア21 (コンペティション・アカデミー部門)[注釈 21] |
グランプリ | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[90] | |
(同・劇場映画部門) | 優秀作品賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞 (『アリーテ姫』・『METROPOLIS』と同時)[90] | |
脚本賞 | 宮崎駿 | 受賞[90] | ||
監督賞 | 宮崎駿 | 受賞[90] | ||
ベストキャラクター賞 (キャラクターデザイン) |
宮崎駿 | 受賞[90] | ||
ベストキャラクター賞 (声優) |
柊瑠美(千尋役) | 受賞[90] | ||
美術賞 | 武重洋二 | 受賞[90] | ||
音楽賞 | 久石譲 | 受賞[90] | ||
第39回ゴールデン・アロー賞 | 特別賞 | 宮崎駿 | 受賞[91] | |
第25回日本アカデミー賞 | 最優秀作品賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[92] | |
会長功労賞 | 宮崎駿 | 受賞[92] | ||
協会特別賞 | 木村弓(主題歌) | 受賞[92] |
発表年 | 賞 | 部門 | 対象 | 結果 |
---|---|---|---|---|
2002 | 第52回ベルリン国際映画祭 | 金熊賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞 (『ブラディ・サンデー』と同時)[11] |
シネキッド映画祭 | シネキッド作品賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞 (The Little Bird Boy と同時)[93] | |
第21回香港電影金像奨 | 最優秀アジア映画賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[94] | |
ナショナル・ボード・オブ・レビュー | アニメ部門賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[95] | |
第68回ニューヨーク映画批評家協会賞 | アニメ映画賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[96] | |
第28回ロサンゼルス映画批評家協会賞 | アニメ映画賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[97] | |
第29回サターン賞 | アニメ映画賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[98] | |
第8回放送映画批評家協会賞 | 長編アニメ映画賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[99] | |
ダーバン国際映画祭 | 最優秀映画賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[100] | |
フロリダ映画批評家協会賞 | アニメ映画賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[101] | |
全州国際映画祭 | 観客賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[102] | |
ニューヨーク映画批評家オンライン賞 | アニメ映画賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[103] | |
サンフランシスコ国際映画祭 | 「観客賞部門」:最優秀長編映画作品賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[104] | |
ユタ映画批評家協会賞 | 最優秀作品賞・監督賞・脚本賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[105] | |
2003 | 第6回オンライン映画批評家協会賞 | アニメ映画賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[106] |
アムステルダム・ファンタスティック映画祭 | 観客賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[107] | |
ダラス・フォートワース映画批評家協会賞 | アニメ映画賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[108] | |
オーストラリア映画批評家サークル賞 | 外国語映画賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[109] | |
ゴールドダービー賞 | 長編アニメ映画賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[110] | |
ゴールデン・トレーラー賞 | ベスト・アニメーション/ファミリー賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[111] | |
国際オンライン映画賞 | 長編アニメ映画賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[112] | |
フェニックス映画批評家協会賞 | アニメ映画賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[113] | |
サテライト賞 | アニメーション作品賞・ミックスメディア作品賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[114] | |
第30回アニー賞 | 作品賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[115] | |
監督賞 | 宮崎駿 | 受賞[115] | ||
脚本賞 | 宮崎駿 | 受賞[115] | ||
音楽賞 | 久石譲 | 受賞[115] | ||
第75回アカデミー賞 | アニメ映画賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[12] | |
クリストファー賞 | クリストファー賞 | 『千と千尋の神隠し』 | 受賞[116] | |
2004 | 第57回英国アカデミー賞 | 外国語作品賞 | 『千と千尋の神隠し』 | ノミネート[117] |
売上記録
(日本国内)
内容 | 記録 | 補足 |
---|---|---|
興行収入 | 308億円[6] | |
動員 | 2350万人[118] | |
前売り券販売 | 100万枚[119] | うちローソン販売分が32万枚[119] |
『イメージアルバム』 | 5万枚出荷(2001年発売のCD)[42] | |
『サウンドトラック』 | 35万枚出荷(2001年発売のCD)[42] | |
主題歌『いつも何度でも/いのちの名前』 | 51万枚出荷(2001年発売のシングルCD)[42] | |
VHS(ブエナビスタ版) | 250万本出荷[120] | 2005年3月現在 |
DVD(ブエナビスタ版、2枚組・特典付) | 300万枚出荷[120] | 2005年3月現在 |
DVDコレクターズ・エディション (ブエナビスタ版、特典付) |
1万セット限定[120] | 2005年3月現在 |
テレビ放送の視聴率
回数 | 放送日時 | 視聴率 |
---|---|---|
1 | 2003年 | 1月24日(金)20:30 - 23:0946.9%[56] |
2 | 2004年12月10日(金)20:00 - 22:54 | 26.1%[121] |
3 | 2007年 | 2月 2日(金)21:03 - 23:3418.6%[122] |
4 | 2009年 | 6月 5日(金)21:00 - 23:3421.4%[123] |
5 | 2011年 | 1月 7日(金)21:00 - 23:3416.5%[124] |
6 | 2012年 | 7月 6日(金)21:00 - 23:3419.2%[125] |
7 | 2014年11月21日(金)19:56 - 22:54[注釈 22] | 19.6%[127] |
8 | 2017年 | 1月20日(金)21:00 - 23:3418.5%[128] |
(番組はすべて日本テレビ系 「金曜ロードSHOW!」(旧・金曜ロードショー)である)
注釈
- ↑ 1.0 1.1 外部リンクに映像
- ↑ 名前の由来は饒速日命[15]。
- ↑ 銭婆によってネズミにされた坊に出くわしたときには、自分の息子だと気づいていなかった。
- ↑ 絵コンテに収録されている釜爺のセリフによれば、契約印があれば湯屋の労働協約を変えることができ、従業員を奴隷にすることもできる[19]。
- ↑ 絵コンテでは「ゼニーバの声 やさしくなりすぎないこと こわいおばあさまです」と注意書きされている[19]。
- ↑ 宮崎は「長虫」という語で龍を指すことがある[19][19]。
- ↑ 着ているシャツの袖も腕の長さに合せて同時に伸縮する。
- ↑ イメージボードでは、リンのイラストの横に「白狐」と記されている[25]。
- ↑ 絵コンテには「部長と課長とおもって下さい」とある[19]。
- ↑ 釜爺の回数券に名が記されている[15]。
- ↑ きっかけとなった宮崎と鈴木の面会は、1999年1月の出来事とする記述もある[7]。
- ↑ 公開を1年延期して3時間の映画を作るという提案について、鈴木の真意は不明である。映画公開直前の2001年6月20日のインタビューでは「真剣でした。そういう映画を見たかったし」[9]と語っている。一方、公開から10年余りが経った2016年の聞き書きでは、宮崎の提示したプロットについて「正直にいうと、ちょっとバカバカしいんじゃないかと思った」[7]と語っている。しかし、宮崎の前で正直に不満を述べるわけにはいかない。そこで、上映時間が延びてしまうというプロットの弱点をとっさに指摘した、という説明に変わっている[7]。
- ↑ 安藤は漫画家の高野文子のファンで、高野のように少ない線のみで人体を生々しく表現することに憧れを持っていた[9]。
- ↑ 通常、アニメーションの美術制作は三段階に分けて行われる。背景のイメージをおおまかに描き起こしレイアウト化した美術設定、本番の背景作業に入る前により指針とする絵を描き、色味や物の質感などを詳細に指定する美術ボード、そして実際に撮影に使用される背景素材を各スタッフが分担し描く本番の作業である。『千と千尋の神隠し』では、宮崎が絵コンテで背景を作りこんでいったため、武重は美術設定を制作していない[7]。美術監督#アニメーションでの美術監督も参照。
- ↑ 宮崎はアニメーターの近藤勝也の結婚式で目黒雅叙園を訪れたことがあった[2]。
- ↑ その名の通り動く背景。手書き作画の場合は、通常の人物の動きと同じように、アニメーターが動きを起こす。本作のようにCGで作画される場合もある。
- ↑ 以下は舘野の発言の引用。「当初『小さい子供のための映画』と聞いていましたが、あのお風呂屋さんも湯女がいて、一種の遊郭みたいな場所ですね。昔から宮崎さんが描きたいと思っていて、描けなかった部分だったのかなと思いました。それと、宮崎さんが書いた歌詞に、カオナシが千尋を食べちゃいたいという箇所があるでしょう。賀川(愛)さんが、『ついにホントのこと言っちゃったねぇ』って、種明かししたみたいに喜んでいました(笑)。」[9]
- ↑ のちに「ジブリ学術ライブラリー」ブランドでブルーレイ化[47]。
- ↑ 市川がジブリ作品の製作に関わったのは本作のみだった[50]。2013年、東宝映画社長となった市川がゴジラ映画の新しい企画(『シン・ゴジラ』)を製作した際には、鈴木が庵野秀明を紹介している[51]。
- ↑ その後、「DVD・VHS本編のクオリティは、その色を忠実に再現したものと認識しております」と変更された[59]。
- ↑ 翌年から名称は東京国際アニメフェアに。コンペティションの名称は途中から「東京アニメアワード」になった。遅くとも2003年からはこの名前が使われていることが確認できる[87]。2014年、東京国際アニメフェアはアニメ コンテンツ エキスポと統合してAnimeJapanにリニューアル[88]。東京アニメアワードは東京アニメアワードフェスティバルとして独立した[89]。
- ↑ 宮崎駿監督のアカデミー名誉賞受賞を記念して放送される。番組序盤には『ルパン三世 カリオストロの城』から『風立ちぬ』まで、宮崎駿監督の全11作品の名シーンを振り返る特別企画が放送された[126]。
出典
- ↑ 1.0 1.1 “Sen to Chihiro no kamikakushi (2001) - Company credits”. IMDb. . 2016閲覧.
- ↑ 2.00 2.01 2.02 2.03 2.04 2.05 2.06 2.07 2.08 2.09 2.10 2.11 2.12 2.13 2.14 2.15 2.16 2.17 2.18 2.19 2.20 2.21 2.22 2.23 2.24 2.25 2.26 2.27 2.28 2.29 2.30 2.31 2.32 2.33 2.34 2.35 2.36 2.37 2.38 2.39 2.40 2.41 2.42 2.43 2.44 2.45 2.46 2.47 2.48 2.49 2.50 2.51 2.52 2.53 2.54 2.55 2.56 2.57 2.58 2.59 2.60 2.61 2.62 2.63 2.64 2.65 2.66 2.67 2.68 2.69 2.70 2.71 2.72 2.73 2.74 2.75 2.76 2.77 2.78 2.79 2.80 2.81 2.82 2.83 2.84 2.85 2.86 2.87 2.88 2.89 2.90 2.91 2.92 2.93 2.94 叶 2006.
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作品本編に関するもの
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- 千と千尋の神隠し VHS - ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント(2002年7月19日)
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- 千と千尋の神隠し Blu-ray Disc - ウォルト・ディズニー・スタジオ・ホーム・エンターテイメント(2014年7月16日)
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関連項目
- 宮崎駿
- 油屋
- 湯女
- 三鷹の森ジブリ美術館 - 本作の制作と並行して開館準備が行われた。開館後、最初の企画展示として『千と千尋の神隠し』が取り上げられた。
外部リンク
- 公式サイト - ウェイバックマシン(2002年1月23日アーカイブ分)
- スタジオ・ジブリ公式HP
- 千と千尋の神隠し|ブルーレイ・デジタル配信 - ディズニー
- 千と千尋の神隠し - 金曜ロードショー(2004年12月10日放送分)
- 千と千尋の神隠し - 金曜ロードショー(2007年2月2日放送分)
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- 千と千尋の神隠し - 金曜ロードショー(2011年1月7日放送分)
- 千と千尋の神隠し - 金曜ロードSHOW!(2012年7月6日放送分)
- 千と千尋の神隠し - 金曜ロードSHOW!(2014年11月21日放送分)
- 千と千尋の神隠し - 金曜ロードSHOW!(2017年1月20日放送分)
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- 千と千尋の神隠し - allcinema
- 千と千尋の神隠し - KINENOTE
- 千と千尋の神隠し - Movie Walker
- 千と千尋の神隠し - 映画.com
- 千と千尋の神隠し - AllMovie(英語)
- | sub | s=0000000245429 | -7 }}/ 千と千尋の神隠し - インターネット・ムービー・データベース(英語)
- Spirited Away Wins Animated Feature: 2003 Oscars - YouTube アカデミー長編アニメ映画賞「千と千尋の神隠し」(受賞映像)
受賞・チャート1位 |
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