十二進法
十二進法(じゅうにしんほう)は、12 を底(てい)とし、底およびその冪を基準にして数を表す方法である。
記数法
十二進記数法とは、十二を底とする位取り記数法である。十二進法での位取りでは、通常は 0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, A, B の計十二個の数字を用い、十を A , 十一を B , 十二を 10 , 十三を 11 と表記する。
本節では慣用に従い、通常のアラビア数字を十進記数法で表記し、十二進記数法の表記を括弧および下付の 12 で表す。また、必要に応じて、十進記数法の表記も括弧及び下付の 10 で表す。十二進記数法で表された数を十二進数と呼ぶ。十二進法の位取りでは、左に一桁動くと 12倍 になり、右に一桁動くと 1/12 になる。
(12)12 という表記において、左の「1」は十二を意味し、右の「2」は二を意味し、合わせて「十四」を意味する。
同様に、十二進記数法では (50)12 は 60 (5×121) を、(100)12は 144 (1×122) を、(1A6)12 は 270 (1×122 + 10×121 + 6×120) 、(1000)12は 1728 (1×123) を、(10000)12は 20736 (1×124) を意味する。
小数
桁が一つ動く度に数が12倍変わるため、十二進法では (0.1)12 は 1/12 (1÷121, 1×12-1) を、(0.5)12 は 5/12 (5÷121, 5×12-1) を、(0.01)12 は 1/144 (1÷122, 1×12-2) を、(0.03)12 は 3/144 (3÷122, 3×12-2) を、(0.001)12 は 1/1728 (1÷123, 1×12-3) を意味する。
小数の(3.9)12は「45/12」を意味し、小数の(0.39)12は「45/144」という意味になる。従って、十進数の 3.75 は十二進数では(3.9)12となり、十進数の 0.3125 は十二進数では(0.39)12となる。前者は 3 + 75/100 (= 3/4) と 3 + 9/12 (= 3/4) が 15/4 で同値となり、後者は 3125/10000 (= 3125/104 = 5/16) と 45/144 (= 45/122 = 5/16) が同値になるからである。
- (390)12 = 3×122 + 9×121 = (540)10
- (39)12 = 3×121 + 9 = (45)10
- (3.9)12 = 3 + 9÷121 = 45/12 = 15/4 = (3.75)10
- (0.39)12 = 3÷121 + 9÷122 = 36/144 + 9/144 = 45/144 = 5/16 = (0.3125)10
同じく、十二進法の(0.39)12×(6)12の積は(1.A6)12となり、(3.9)12×(6)12の積は(1A.6)12となる。
- (1A6)12 = 1×122 + 10×121 + 6 = (270)10
- (1A.6)12 = 1×121 + 10 + 6÷121 = 270/12 = 90/4 = (22.5)10
- (1.A6)12 = 1 + 10÷121 + 6÷122 = 1 + 120/144 + 6/144 = 270/144 = 30/16 = (1.875)10
この数式を十進法の小数に換算すると 0.3125×6 = 1.875 となり、十進法の分数に換算すると (5/16)×6 = (30/16) となり、同値になるからである。
- 十二進数:(0.39)12 × (6)12 = (1.A6)12
- 十進数に換算:0.3125 × 6 = 1.875
- 十進数の分数に換算:45/144 (= 45/122) × 6 = 270/144 (= 270/122)
57.6÷9 および (57.6)12 ÷ (9)12 の商は、以下の通りとなる。
- 十進数: 57.6 ÷ 9 = 6.4
- 十二進数: (57.6)12 ÷ (9)12 = (7.6)12
桁を一つ繰り上げて小数点を消すと、576 は 64×9 だが、(576)12 は 810、つまり 90×9 である。
乗算表
0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | A | B | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
1 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | A | B |
2 | 0 | 2 | 4 | 6 | 8 | A | 10 | 12 | 14 | 16 | 18 | 1A |
3 | 0 | 3 | 6 | 9 | 10 | 13 | 16 | 19 | 20 | 23 | 26 | 29 |
4 | 0 | 4 | 8 | 10 | 14 | 18 | 20 | 24 | 28 | 30 | 34 | 38 |
5 | 0 | 5 | A | 13 | 18 | 21 | 26 | 2B | 34 | 39 | 42 | 47 |
6 | 0 | 6 | 10 | 16 | 20 | 26 | 30 | 36 | 40 | 46 | 50 | 56 |
7 | 0 | 7 | 12 | 19 | 24 | 2B | 36 | 41 | 48 | 53 | 5A | 65 |
8 | 0 | 8 | 14 | 20 | 28 | 34 | 40 | 48 | 54 | 60 | 68 | 74 |
9 | 0 | 9 | 16 | 23 | 30 | 39 | 46 | 53 | 60 | 69 | 76 | 83 |
A | 0 | A | 18 | 26 | 34 | 42 | 50 | 5A | 68 | 76 | 84 | 92 |
B | 0 | B | 1A | 29 | 38 | 47 | 56 | 65 | 74 | 83 | 92 | A1 |
命数法
十二進命数法とは、12 を底とする命数法である。
数詞
自然言語で十二進命数法の数詞を持つものは少ない。ナイジェリアのジャンジ語[1] (Janji)、ビリ・ニラグ語[2] (Gbiri-Niragu)、グワンダラ語ニンビア方言[3] (Nimbia)、ピティ語[4] (Piti) などが十二進命数法のグループを作り[5]、またネパールのチェパン語[6] (Chepang) も十二進命数法を用いている[7]。
10 ではなく 12 が底になった理由として、片手の人さし指から小指の計 12 個の節を親指で示す数え方が示唆されている[8]。
以下にグワンダラ語ニンビア方言の数詞を示す[5]。
1 | da |
---|---|
2 | bi |
3 | ugu |
4 | furu |
5 | biyar |
6 | shide |
7 | bo'o |
8 | tager |
9 | tanran |
10 | gwom |
11 | kwada |
12 | tuni |
13 | tuni mbe da |
24 | gume bi |
25 | gume bi ni da |
143 | gume kwada ni kwada |
144 | wo |
ゲルマン語派の数詞は 12 以下と 13 以上とで構成が異なる。以下に英語、ドイツ語、スウェーデン語の数詞を示す。
英語 | ドイツ語 | スウェーデン語 | |
---|---|---|---|
10 | ten | zehn | tio |
11 | eleven | elf | elva |
12 | twelve | zwölf | tolv |
13 | thirteen | dreizehn | tretton |
14 | fourteen | vierzehn | fjorton |
11, 12 の数詞の語源はそれぞれ 1 余り、2 余りを意味する *ainlif, *twalif であり、十二進法ではなく十進法に基づく数詞だが、13 以上と構成が異なるのを十二進法の影響とする説がある。
英語の hundred など、現在 100 を意味する語は、中世までは 120 を意味することがあった(en:Long hundred を参照)。
ロジバンは 10, 11, 12 に個別の数詞があり、十二進法に対応している(実際には十六進法にまで対応する)。
単位系
現在、十二進法はもっぱら単位系で使われている。数は十進記数法で 9, 10, 11 と表し、12 に至ると桁ではなく単位を繰り上げる。
単位の十二進法は、言語の数詞とは無関係に発生したと考えられる。1 年がほぼ 12 か月であること(360 ÷ 30 = 12。満月と新月の回数がほぼ 12 回)にちなむとされる。メソポタミア文明ではこれが 1 年を 12 か月とする暦法となり、12 は 30 と同様に主に時間を示す際の基数となった。1 日 24 時間の 24 は 12 の 2 倍であり、六十進法の 60 は、12 と 30 の最小公倍数である。黄道十二宮はこれに基づく。また中国の十二支も黄道十二宮と同じように、循環する十二進法である。
また 12 は 2×2×3 であり、約数が 1, 2, 3, 4, 6, 12 の 6 個と多く、分割に便利である点も十二進法の単位が用いられる一因となった。10 の約数は 1, 2, 5, 10 の 4 個である。
物の数を表すダース (12)、グロス (144 = 122)、グレートグロス (1728 = 123)、スモールグロス (120 = 12×10) という単位があり、西洋で用いられる。また、イギリスポンドは 1971 年まで 1 シリングが 12 ペンスであった。この他、ヤード・ポンド法において、1 フィートは 12 インチ、1 トロイポンドは 12 トロイオンスである。
指数え
指数えにおいて、十二進法を用いることで通常よりも大きな数を数えることが可能である。親指が指標となり、各指の3つの指骨(末節骨 ・中節骨・基節骨)を小指から数える。片手で12まで数える事ができ、もう一方の手に繰り上げることによって144まで数えられる [9][10] (実際は十三進法を用いて168まで数えられるが一般的ではない)。
架空の世界での使用
SF作品でも、人類と異なる文明が十二進法を使っているとする設定はよく見られるものである[11]。
H・G・ウェルズは『冬眠二百年』(When the Sleeper Wakes, 1899年)や『モダンユートピア』(A Modern Utopia, 1905年)で十二進法を使用し、12 = dozen, 144 (=122) = gross, 1728 (=123) = dozand, 20736 (=124) = myriad としている。
J・R・R・トールキンによる人工言語、エルフ語 (Elvish) の数詞は十二進法である。
十二進法の推進
英米では十二進法を採用するよう主張する少数の人々がいる[12][13]。人間の指の本数から派生した原始的な十進法より3分割4分割できる十二進法のほうが理にかなっているとされるためである。これらの人々は、十二進法を表す語として、英語で通常使われる duodecimal ではなく、dozenal を使う。数字は、10 を X で、11 を E で、あるいはその変形で表したり、10 を * で、11 を # で表したりする。なお、十進法以外の採用を進めようという主張は、近年ではコンピュータの二進法との相性から(3分割には向かないが)八進ないし十六進についても主張されている。
Unicode 8.0 では、十二進法のための10 (10px = U+218A, 180度回転した2)と 11(10px = U+218B, 180度回転した3)の2つの数字が符号位置を与えられた[14]。この2つの数字はアイザック・ピットマンの考案による。
参考文献
- ↑ Gordon, Raymond G., Jr., ed. (2005), “Janji”, Ethnologue: Languages of the World (15 ed.) . 2008閲覧.
- ↑ Gordon, Raymond G., Jr., ed. (2005), “Gbiri-Niragu”, Ethnologue: Languages of the World (15 ed.) . 2008閲覧.
- ↑ Gordon, Raymond G., Jr., ed. (2005), “Gwandara”, Ethnologue: Languages of the World (15 ed.) . 2008閲覧.
- ↑ Gordon, Raymond G., Jr., ed. (2005), “Piti”, Ethnologue: Languages of the World (15 ed.) . 2008閲覧.
- ↑ 5.0 5.1 Matsushita, Shuji (1998), “Decimal vs. Duodecimal: An interaction between two systems of numeration”, 2nd Meeting of the AFLANG, October 1998, Tokyo, オリジナルの2008年10月5日時点によるアーカイブ。 . 2007閲覧.
- ↑ Gordon, Raymond G., Jr., ed. (2005), “Chepang”, Ethnologue: Languages of the World (15 ed.) . 2008閲覧.
- ↑ Mazaudon, Martine (2002), “Les principes de construction du nombre dans les langues tibéto-birmanes”, in François, Jacques, La Pluralité, Leuven: Peeters, pp. 91-119, ISBN 9042912952
- ↑ 西川善朗 (2002), ヒマラヤの満月と十二進法, オリジナルの2008年3月29日時点によるアーカイブ。 . 2007閲覧.
- ↑ Ifrah, Georges (2000), The Universal History of Numbers: From prehistory to the invention of the computer., John Wiley and Sons, p. 48, ISBN 0-471-39340-1
- ↑ Macey, Samuel L. (1989). The Dynamics of Progress: Time, Method, and Measure. Atlanta, Georgia: University of Georgia Press, 92. ISBN 978-0-8203-3796-8.
- ↑ 日本の小説では広瀬正の『マイナス・ゼロ』に登場するタイムマシンが十二進法を使っていて、登場人物が、進んだ文明の産物であろうかと推測している。
- ↑ Dozenal Society of America . 2007閲覧.
- ↑ Dozenal Society of Great Britain . 2007閲覧.
- ↑ “Number Forms”. The Unicode Consortium (2015年6月17日). . 2015閲覧.