労働協約

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労働協約(ろうどうきょうやく)とは、労働組合使用者またはその団体と結ばれた労働条件などに関する取り決めのうち労働組合法(昭和24年6月1日法律第174号)に則って締結されたものをいう。

  • 本項で労働組合法については以下では条数のみ記す。

要件

労働組合による団体交渉や労使協議により労使双方が労働条件その他に関する事項を取りまとめた場合、労働協約と認められるためには、書面に記すことと、締結両当事者の署名または記名押印が必要とされる(第14条)。この要件を満たさなければ、仮に労使間に労働条件その他に関する合意が成立したとしても、これに労働協約としての規範的効力は付与することはできない(都南自動車教習所事件。最三小判平成13年3月13日)。組合の組織率は問わないので、少数組合であっても独自の労働協約を締結することは可能である。労使間の合意文書の表題が「覚書」「了解事項」等の名称であっても、第14条に該当すれば労働協約といえ(青森地判平成5年3月16日)、団体交渉記事録であっても、労使双方が署名したものであれば、その内容によっては労働協約と解される(東京地判昭和43年2月28日)。

労働協約の有効期間を定める場合、上限は3年である。3年を超える有効期間の定めをした労働協約は3年の有効期間の定めをした労働協約とみなされる。有効期間の定めがない労働協約は当事者の一方が少なくとも90日前に相手方に予告して解約することができる(第15条)。内容について特に制限はないが、個別的労働関係や団体的労使関係に関連していることを要する。労使が合意すれば公序良俗民法第90条)に反しない限り基本的には当事者の自由である[1]

一般的な労働協約では、労使間の紛争が生じた場合には、一定の手続(一定期間の協議・あっせん調停・予告等)を経なければ争議行為に訴えないこと(平和条項)を定めることが多い。仮に平和条項を定めなかったとしても、労使間で労働協約を結んだ以上、その協約事項に関しては、その有効期間中はその内容を尊重する義務(平和義務)を負い、協約有効期間中、協約に定められた労働条件その他の事項の変更・廃止を求めて争議行為を行わない、組合は組合員らに対しこれに関した争議行為を行わないように働きかける義務を負う。もっとも平和義務違反の争議行為については、平和義務は労働組合が負担すべきものであり、企業秩序の侵犯に当たるとすることはできず、その義務違反自体を理由として使用者が争議行為参加者を懲戒処分とすることはできないとするのが判例の立場である(弘南バス事件、最判昭和43年12月24日)。

労働協約は労働組合と使用者側との契約であることから、協約上特に適用範囲を限定しない限り締結した労働組合に加入している組合員全員に適用され、当該組合員でない者に対して効力が及ぶものではない。しかし、労働組合が以下のどちらかの要件を満たした場合は、その労働組合が締結した労働協約が当該組合の組合員以外の者にも自動的に拡張適用される(一般的拘束力)。

  • 一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の4分の3以上の数の労働者が一つの労働協約の適用を受けるに至った時は、当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に関しても当該労働協約が適用される(第17条)。
    • 第17条の「一の工場事業場」とは、個々の工場事業場を指し、一の企業が数個の工場事業場を有する場合は、その企業内の個々の工場事業場の各々が本条にいう「一の工場事業場」であり、また本条の適用は、「一の工場事業場」ごとになされるのであるから、ある企業に常時使用される同種の労働者の4分の3以上の数のものが一の労働協約の適用を受けているとしても、その企業の或る工場事業場において、その労働協約の適用を受ける者の数がその工場事業場に常時使用される同種の労働者の数の4分の3に達しない場合、その工場事業場においては、本条の適用はない(昭和29年4月7日労発111号)。
    • 残り4分の1未満の同種の労働者が、当該協約を締結した組合以外の労働組合を別個に結成していたような場合でも、少数組合の既有の権益を侵害するものでないかぎり少数組合の組合員に対しても拡張適用されるが(大阪地判昭和49年3月6日)、少数組合が独自の判断で固有の労働協約を締結している場合には、多数組合の労働協約を少数組合に拡張適用することは許されない(東京地判昭和44年7月19日)。実際にはこうした場合、多数組合との労働協約に沿って就業規則を改定し、それを少数組合に適用することになる。
    • 非組合員等特定の労働者に労働協約の一般的拘束力を適用することが諸般の事情から見て著しく不合理であるとみなされる特段の事情があるような場合には、拡張適用は認められない(朝日火災海上保険(高田)事件。最三小判平成8年3月26日)。
  • 一の地域において従業する同種の労働者の大部分が一つの労働協約の適用を受けるに至った時は、当該労働協約の当事者の双方又は一方の申立てを経て、労働委員会の決議により、厚生労働大臣又は都道府県知事は当該地域において従業する他の同種の労働者及びその使用者も当該労働協約の適用を受けるべきことの決定をすることができる(第18条)。もっとも企業別労働組合が圧倒的な主流である日本では、第18条によって拡張適用が実現された例はきわめて少数しかない。

労使交渉がもつれた末に労働委員会仲裁をした場合、仲裁委員会が作成する仲裁裁定は労働協約と同一の効力をもつ(労働関係調整法第34条)。もっとも厚生労働省の調査では、2003年(平成15年)を最後に仲裁による解決は行われていない[2]

労働契約・就業規則・労働協約の関係

効力の優先順位は優位のものから順に、法令、労働協約、就業規則、労働契約となる。使用者が一方的に作成・変更できる就業規則や、使用者と個々の弱い立場での労働者が結ぶ労働契約よりも、労働者の団体である労働組合が使用者と結んだ労働協約が優先する。労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は無効となり、労働契約に定めのない部分についても、基準の定めるところによる(規範的効力、第16条)。また、就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない(労働基準法第92条)と規定され、労働協約の就業規則に対する優先性を明らかにしている。

もっとも、労働協約が就業規則より優越するとはいっても、労働協約は原則として当該組合員にしか適用されないので、非組合員がいれば、均等待遇(労働基準法第3条)の要請から、実際には労働協約の趣旨に沿った就業規則の改定が行われなければ、労働協約の内容は実現できない(特に、労働協約によって労働条件を労働者の不利益に改定する場合に問題となる)。

労働協約が失効した場合、労働協約の内容を反映して規定された就業規則がある場合には、当該協約失効後はその就業規則によるべき(いわゆる「余後効」)である(香港上海銀行事件。最一小判平成元年9月7日)。また、具体的な労働協約の内容が、どれほど組合員にとって不利益であっても、当該規定の内容が、特定のまたは一部の組合員をことさらに不利益に扱うことをあらかじめ目的として締結されたなど、労働組合の目的を逸脱して締結されたような場合以外は規範的効力に支障はない(朝日火災海上保険(石堂)事件。最一小判平成9年3月27日)。つまり、労働協約については、たとえ労働契約の定めた内容の方が労働者に有利であっても労働協約の効力が優先する。一方、就業規則については、就業規則の定める基準に達しない労働条件を定める労働契約を無効にするが、基準を上回る労働条件を定める労働契約は無効にはならない。

労働協約の現況

厚生労働省の調査によると、労働組合と使用者(又は使用者団体)の間で締結される労働協約の状況をみると、「締結している」91.4%、「締結していない」8.6%となっている。企業規模別では、規模が大きいほど、労働協約を「締結している」とする労働組合の割合が概ね高くなっている[3]

公務員の場合

国家公務員地方公務員の「職員団体」(民間の労働組合に相当)には「団体協約」(労働協約に相当)は認められていない(国家公務員法第108条の5第2項、国会職員法第18条の2、外務公務員法第3条、裁判所職員臨時措置法、地方公務員法第55条第2項等)。ただし、現業公務員の労働組合については特定独立行政法人等労働関係法第8条や地方公営企業等労働関係法第7条で組織の管理及び運営を除いた事項について労働協約権が認められている。

脚注

  1. 努力義務として、「常に労働関係の調整を図るための正規の機関の設置及びその運営に関する事項を定める」ようにしなければならない(労働関係調整法第2条)
  2. 平成27年労働争議統計調査の概況 厚生労働省および過年度の同調査より
  3. 平成23年労働協約等実態調査結果の概況 厚生労働省

関連項目

外部リンク