労使協定
労使協定(ろうしきょうてい)とは、労働者と使用者との間で締結される、書面による協定のことである。法文上の語ではなく、下記の要件を満たす協定のことを一般に「労使協定」と呼ぶ(法文上は「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定」)。
概要
労使協定を締結することで、労働基準法、育児介護休業法、高年齢者雇用安定法等で定められた所定の事項について、法定義務の免除や免罰の効果を発生させる。ただし、労使協定には、労働協約・就業規則のように、労働契約を規律する効力(規範的効力)はないので、労使協定を締結してもそれだけでは労働契約上の権利義務は生じない(昭和63年1月1日基発1号)。したがって労使協定締結とあわせて労働協約・就業規則等でそれぞれの定めが必要となる[1]。
労使協定は、事業場単位で締結される(労働協約のように産業別や企業単位で締結することはできない)。事業場に労働者の過半数を組織する労働組合が存在するときはその労働組合と使用者の間で結ばれる。また、当該労働組合が存在しないときは、労働者の過半数を代表する者と使用者の間で結ばれる。複数組合で過半数を制する場合、連署することで成立する。事業場を単位とするので、たとえ本社在籍労働者が、その企業の過半数を占めていたとしても、締結した協定は本社にのみ効力があり、他事業所での締結はおのおの事業所在籍労働者において選出手続きを経る必要がある。締結された労使協定は、特に適用範囲を限定しない限り、協定に反対した労働者も含め、その事業場の全労働者に適用される。
労使協定を締結するには、締結しようとする内容を周知させ、管理監督者でないこと及び協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票・挙手等の手続きを経ることが要件となる。過半数の算定には企業全体でなく、管理監督者を含むその事業場所属の全労働者数が基礎となり、過半数代表はいくつかの例外(労働基準法施行規則第6条の2第2項)を除き管理監督者でないことが要件となるが、その事業場所属労働者か否かは問われない。使用者は、労働者の過半数を代表する者であること及びなろうとしたこと、労働者の過半数を代表する者として正当な行為をしたことなどを理由として労働条件(解雇、賃金の減額、降格等)について不利益な取扱いをすることは禁止される(同第6条の2第3項)。過半数組織組合との締結において、誰が組合側締結当事者となるかは組合自治に属し、会社が干渉することは許されない。過半数労働者代表を会社が一方的指名することは許されないが、民主的選出に委ねることが担保される限りにおいての指名は許容される。
労働基準法に基づいて締結した労使協定について、使用者は、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付すること等の方法によって、労働者に周知させなければならない(労働基準法第106条1項)。要旨のみの周知では足りず、その全部を周知させる必要がある。
法令上の労使協定
太字は、所轄労働基準監督署長への届出が必要な労使協定である。なお労使協定の効力発生要件は三六協定を除き「締結」であり、届出を怠ったとしてもそのことによる法違反としての刑事罰はあるものの、民事的には有効である。
- 労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合(労働基準法第18条)
- 賃金から法定控除以外のものを控除する場合(労働基準法第24条。いわゆるチェック・オフ協定など)
- 1ヶ月単位の変形労働時間制(労働基準法第32条の2。就業規則に定めた場合には届出は不要)[2]。
- フレックスタイム制(労働基準法第32条の3)
- 1年単位の変形労働時間制(労働基準法第32条の4、第32条4の2、施行規則第12条の2、第12条の4、第12条の6)[2]
- 1週間単位の非定型的変形労働時間制(労働基準法第32条の5)[2]
- 休憩の一斉付与の例外(労働基準法第34条)
- 時間外労働・休日労働(労働基準法第36条、第133条、施行規則第69条。いわゆる三六協定。これのみ、所轄労働基準監督署長への届出が効力発生要件となる。) [2]
- 割増賃金に代えて代替休暇を取得する場合(労働基準法第37条第3項)
- 事業場外労働のみなし労働時間制(労働基準法第38条の2。事業場外労働が法定労働時間内の場合は不要)[2]
- 専門業務型裁量労働制(労働基準法第38条の3)[2]
- 年次有給休暇の時間単位付与(労働基準法第39条第4項)
- 年次有給休暇の計画的付与(労働基準法第39条第6項、第135条)
- 年次有給休暇の賃金を健康保険法に定める標準報酬日額で支払う場合(労働基準法第39条第7項)
- 衛生委員会・安全衛生委員会に労働時間等設定改善委員会の代替をさせる場合(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法第7条第2項)
- 1歳6ヶ月に満たない子の育児休業の適用除外者(育児介護休業法第6条第1項ただし書き、平成12年労告120号)
- 要介護状態の対象家族の介護休業の適用除外者(育児介護休業法第12条第2項、平成12年労告120号)
- 小学校就学前の子の看護休暇の適用除外者(育児介護休業法第16条の3第2項、平成12年労告120号)
- 要介護状態の対象家族の介護休暇の適用除外者(育児介護休業法第16条の6第2項、平成12年労告120号)
- 3歳に満たない子の育児のための所定外労働の制限の適用除外者(育児介護休業法第16条の8第1項)
- 3歳に満たない子を養育する者に関する所定労働時間の短縮措置の適用除外者(育児介護休業法第23条第1項ただし書き)
- 65歳までの継続雇用制度の対象となる基準を定める場合[3](高年齢者雇用安定法第9条)
- 雇用継続給付(高年齢雇用継続給付金、高年齢再就職給付金、育児休業給付金、介護休業給付金)の支給申請手続を事業主が代理する場合[4](雇用保険法施行規則第101条の8、第101条の15、第102条)
- 雇用調整助成金の申請(雇用保険法施行規則第102条の3)
脚注
- ↑ ただし実際には、労働協約と労使協定とは、両者の併存協定がありうる。例えば事業場の全労働者の過半数を組織する労働組合が締結した労使協定は、要件を満たす限り労働協約としての効力も持つ。この場合、労使協定としての効力は当該組合員でない者に対しても及ぶ。
- ↑ 2.0 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 労使協定に代えて、労働時間等設定改善委員会の委員の5分の4以上の多数による議決による決議によって行う場合は、法第36条第1項を除き当該決議を所轄労働基準監督署長に届け出る必要はない。
- ↑ 法改正により、2013年4月1日からは継続雇用制度の対象者を労使協定によって限定することはできなくなる。なお2013年3月31日までに労使協定を定めた場合は、2025年3月31日まで経過措置として、対象年齢を順次切り上げ認められる。
- ↑ 法改正により、2016年2月16日より、労使協定は不要となり、原則としてこれらの申請は事業主経由でしなければならないこととなった。