六ヶ所再処理工場

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座標: 東経141度19分35秒北緯40.962579度 東経141.326473度40.962579; 141.326473

ファイル:Rokkasho 2.JPG
六ヶ所再処理工場の全景

六ヶ所再処理工場 (ろっかしょさいしょりこうじょう) は、日本原燃が所有する核燃料再処理工場

1993年から約2兆1,900億円超の費用をかけて、青森県上北郡六ヶ所村弥栄平地区に建設が進められている。2006年よりアクティブ試験[注釈 1]を行っている。

概要

日本の原子力発電所で使用され終わった使用済み核燃料を集め、その中から核燃料ウランプルトニウムを取り出す再処理工場である。予定されている最大処理能力はウラン800t/年、使用済燃料貯蔵容量はウラン3000t。

茨城県東海村日本原子力研究開発機構が所有する再処理工場(東海研究開発センター核燃料サイクル工学研究所  最大処理能力:ウラン210トン/年)を置換する施設とされ、青森県六ヶ所村の敷地内にはウラン濃縮工場、六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センター六ヶ所高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターが併設して建設されている。今後 MOX燃料工場の建設も予定されており、核燃料サイクルのための核燃料コンビナートを形成する。

この施設は核燃料サイクル事業で先行するフランスから技術協力を受けており、現在でもフランス人技術者が複数名、本施設で働いている。

度重なる竣工の延期

試運転の終了は当初2009年2月を予定していたが、様々なトラブルが相次ぎ「時期未定」としたケースを含めて23回の延期をしている。2015年11月16日には竣工時期を、2018年度(平成30年度)上期に変更することが発表された[1]。しかし、2017年10月11日、建屋に雨水が流入するトラブルなどについて点検せずに点検日誌に「異常なし」と記載していた問題が判明し、日本原燃の工藤健二社長は2017年9月29日の定例会見で、2018年度上期完成目標について「厳しい」とし、今後の見通しも「言及できる段階にない」と述べた[2]。さらに原子力規制委員会は虚偽記載を保安規定違反に当たると認定し、施設稼働の前提となる安全審査を一旦、休止することを決めた。[3][4]

これら延期とあわせて、建設費用も当初発表されていた7600億円だったものが、2011年2月で2兆1,930億円[5]、2017年7月で約2兆9,500億円[6]と膨れ上がっている。

運営

2006年3月31日に日本原燃は六ヶ所村に隣接する三沢市など合計5市町村とアクティブ試験についての安全協定を締結した。同日中に開始されたアクティブ試験(試運転)では、17ヶ月をかけて本物の使用済核燃料からプルトニウムを抽出し、施設の安全性および環境へ放出される放射性物質の量を確認する。430トンを処理して4トン前後のプルトニウムを抽出する予定であった。

これまでの経過
時期 記事
1989年3月30日 事業指定申請書
1993年4月28日 着工
2001年4月20日 通水試験開始
2002年11月1日 化学試験開始
2004年12月21日 ウラン試験開始
2006年3月31日 アクティブ試験開始
2009年1月30日 アクティブ試験終了予定を2009年2月から2009年8月に変更[7]
2009年8月31日 アクティブ試験終了予定を2009年8月から2010年10月に変更[8]
2010年9月2日 2010年10月完成予定を最大で2年延期することが判明[9]
2012年 アクティブ試験終了予定を2013年10月に変更、その後未定に
2013年1月29日 断層検査の実施を発表
2013年12月17日 計画上の完成時期を2014年10月に延期[10]
2014年10月30日 計画上の完成時期を2016年3月に延期[11]
2015年11月16日 計画上の完成時期を2018年度上期に延期[1]

放出される放射性物質

国に提出されている再処理事業指定申請書には、放射性廃棄物の環境への推定年間放出量が記載されている[12]。この値にもとづいて周辺住民などの年間実効線量当量が推算されている。また、保安規定として、同じ量を放出管理目標値に設定している。

気体で大気中に放出する放射性物質[13]
放射性元素名 推定年間放出量
ベクレル/年
半減期 生物濃縮
クリプトン85 (Kr-85) 33京[注釈 2] 10.7年 無し
トリチウム (H-3) 1900兆 12.3年 無し
炭素14 (C-14) 52兆 5730年 無し
ヨウ素129 (I-129) 110億 約1570万年 有り
ヨウ素131 (I-131) 170億 8日 考慮不要
ルテニウム106 (Ru-106) 410億 374日
ロジウム106 (Rh-106) 410億 29秒
セシウム137 (Cs-137) 11億 30年
バリウム137m (Ba-137m) 10億 2.55分
ストロンチウム90 (Sr-90) 7.6億 28.8年
イットリウム90 (Y-90) 7.6億 2.7日
プルトニウム240 (Pu-240) (α線核種) 2.9億 6500年
その他の核種 (α線核種) 4000万
その他の核種 (非α線核種) 94億
液体で太平洋に放流する放射性物質[14]
放射性元素名 推定年間放出量
ベクレル/年
半減期 生物濃縮
トリチウム (H-3) 1京8千兆 12.3年 無し
ヨウ素129 (I-129) 430億 1570万年 有り
ヨウ素131 (I-131) 1700億 8日 考慮不要
ルテニウム106 (Ru-106) 240億 374日
ロジウム106 (Rh-106) 240億 29秒
プルトニウム241 (Pu-241) 800億 14.29年
セシウム137 (Cs-137) 160億 30年
バリウム137m (Ba-137m) 160億 2.55分
ストロンチウム90 (Sr-90) 120億 28.8年
イットリウム90 (Y-90) 120億 2.7日
セシウム134 (Cs-134) 82億 2年
セリウム144 (Ce-144) 49億 285日
プラセオジム144 (Pr-144) 49億 17分
コバルト60 (Co-60) 41億 5.3年
ユウロピウム154 (Eu-154) 14億 8.6年
プルトニウム240 (Pu-240) (α線核種) 30億 6500年
キュリウム244 (Cm-244) (α線核種) 3.9億 18年
アメリシウム241 (Am-241) (α線核種) 1.4億 432年
その他の核種 (α線核種) 4億
その他の核種 (非α線核種) 320億

国や原燃は、これらの多くは大気や海水によって希釈されるので人体に影響が出るレベルの線量にはならないとの立場を取っている。一方、本施設に反対する立場の人々は、被曝量による説明を受け入れていない[15]。また殆どの放射性物質は生物濃縮されないが、ヨウ素129のみ海藻に蓄積される為、まず三陸沖の海藻が放射性物質によって汚染され、食用にならないのではないかと考える者も居る[16]

本格稼働した場合に、この再処理工場から空と海に放出される放射能は1日分で原発1年分になるという主張もある[17]。原燃は、自社の計算を前提に周辺住民の一人あたりの年間被曝量は国の規準を大幅に下回るので問題無いと主張するが、その計算や国の基準自体の信頼性を疑う者もいる。

実際の放出量は、事業者である日本原燃のホームページ[18]でみることができる。

2006年4月〜2009年3月に再処理された使用済み核燃料および放出された放射性物質の量は以下の通りである[19]

使用済み核燃料の再処理量
核燃料 2006年度
(トンU)
2007年度
(トンU)
2008年度
(トンU)
合計
(トンU)
PWR燃料 81 125 0 206
BWR燃料 60 56 103 219
合計 141 181 103 425


気体で大気中に放出された放射性物質(測定箇所:排気口)
放射性元素名 2006年度
(ベクレル)
2007年度
(ベクレル)
2008年度
(ベクレル)
合計
(ベクレル)
クリプトン85 (Kr-85) 1.7京 4.6京 1.8京 8.1京
トリチウム (H-3) 6.0兆 9.8兆 3.7兆 19.5兆
炭素14 (C-14) 0.9兆 2.1兆 1.4兆 4.4兆
ヨウ素129 (I-129) 2.2億 3.3億 2.0億 7.5億
ヨウ素131 (I-131) 0.0032億 0.11億 0.058億 0.17億
その他の核種 (α線核種) ND[注釈 3] ND ND ND
その他の核種 (非α線核種) ND ND 26万 26万
液体で太平洋に放流された放射性物質(測定箇所:放出前貯槽)
放射性元素名 2006年度
(ベクレル)
2007年度
(ベクレル)
2008年度
(ベクレル)
合計
(ベクレル)
トリチウム (H-3) 0.049京 0.13京 0.036京 0.22京
ヨウ素129 (I-129) 0.94億 2.4億 2.1億 5.4億
ヨウ素131 (I-131) 0.020億 0.046億 0.49億 0.56億
その他の核種 (α線核種) ND ND ND ND
その他の核種 (非α線核種) ND ND ND ND

環境への影響

青森県と事業者である日本原燃は、環境への放射線等の影響をモニタリング調査して、四半期ごとに評価して公表をしている[20]

青森県は、六ヶ所再処理工場の稼働に伴う環境モニタリングへの影響を次表のように見積もっている[21]

表.再処理工場の操業に伴う環境モニタリングへの影響(主なもの)
(上段:モニタリング測定値  下段:線量評価値)
試料の種類 核種 単位 施設寄与分
(増分)の予測値
これまでの測定値
(自然放射能)
積算線量 µGy/91日
mSv/年
2
0.006
74~125
0.146~0.245
大気
(気体状β核種)
クリプトン85換算
Kr-85
kBq/m3
mSv/年
ND(<2)
ND(<2)
大気
(水蒸気状)
トリチウム
H-3
mBq/m3
mSv/年
1000
0.0002
ND(<40)
NE(<0.00005)
精米 炭素14
C-14
Bq/kg生
mSv/年
90
0.006
87~110
0.0059~0.0068
葉菜 炭素14
C-14
Bq/kg生
mSv/年
5
0.0004

根菜・いも類 炭素14
C-14
Bq/kg生
mSv/年
20
0.0009

海水 トリチウム
H-3
Bq/ℓ
mSv/年
300
ND(<2)
海水 プルトニウム
Pu
Bq/ℓ
mSv/年
0.05
ND(<0.02)
海藻 プルトニウム
Pu
Bq/kg生
mSv/年
0.02
0.00007
ND(<0.002)~0.007
NE(<0.00005)
魚類 トリチウム
H-3
Bq/kg生
mSv/年
300
0.0004
ND(<2)
NE(<0.00005)
魚類 プルトニウム
Pu
Bq/kg生
mSv/年
0.005
0.00009
ND(<0.002)
NE(<0.00005)

事故・故障

  • 2006年2月20日:低レベル廃棄物処理建屋内で、放射性物質を含む低レベル濃縮廃液約68リットルが漏れたと発表した。当該箇所は通常では人の立ち入りがない場所であるため、作業員の被曝はなかった[22]
  • 2006年5月18日:精製建屋内で、プルトニウム洗浄器セルに供給する硝酸ウラナス溶液(U4+の硝酸溶液)約7リットルが漏洩していたと発表した[23]
  • 2006年5月25日:分析建屋にて作業を行っていた作業員1名が、微量の放射性物質を体内に摂取していたことを発表した[24]
  • 2006年6月9日:「再処理工場分析建屋における微量の放射性物質の体内への取り込みについて(調査結果と今後の対応)」という文書で、当該作業員の預託実効線量は0.014mSvであったと発表した[25]
  • 2006年6月24日:分析建屋にて作業をしていた作業員1名が内部被曝の可能性があると発表した[26]
  • 2006年7月3日:2006年6月24日に発表された、分析建屋作業員の内部被曝に関する調査結果を発表した[27]。この調査結果によると、作業員から放射性物質は検出されず、作業員の内部被曝は無かった。
  • 2007年1月22日:低レベル廃棄物処理建屋内で放射性物質を含む洗浄水約20リットル(推定)が漏れたと発表した。ウランやプルトニウムは検出されず、作業員の被曝はなかった[28]
  • 2007年3月12日:ウラン・プルトニウム混合脱硝建屋内で、ウラン・プルトニウムの硝酸溶液を乾燥させるための皿に、誤って2バッチ分の溶液を供給したと発表した[29]
  • 2007年10月11日:前処理建屋内に設置されている、エンドピース(使用済み燃料の剪断片)を洗浄する装置の部品が変形していることを発表した[30]
  • 2007年10月23日:前処理建屋内に設置されている、エンドピース洗浄装置の部品変形に関する調査結果を発表した[31]
  • 2008年1月4日:前処理建屋内に設置されている、使用済燃料の剪断機から作動油約750リットルが漏れたと発表した。なお、漏洩箇所は使用済燃料を剪断しているセル内ではなく、漏洩した作動油に放射性物質は含まれていなかった[32][33]
  • 2009年9月:原子力委員会「再処理施設安全調査プロジェクト」の会合で、廃液漏洩などの不祥事が続発していることが明らかになった[34]
  • 2010年8月2日:使用済み核燃料再処理工場の建屋で、高レベル放射性廃液が、廃液濃縮缶内から、缶内の温度計保護管内に漏れたと発表した。男性作業員の両手とあごに微量の放射性物質が付着したが、男性の健康や環境への影響はないという。7月30日、作業員5人が温度計を交換作業で抜き出したところ、温度計を置いたビニールシート上に基準値の約18倍となる放射性物質の付着が確認された。温度計保護管に欠陥があり、廃液が管内に漏えいしたとみられる。
  • 2011年3月11日:東北地方太平洋沖地震により外部電源を喪失、非常用ディーゼル発電機2機で冷却水循環ポンプ等に給電したが、14日23時40分、ディーゼル発電機1機に不具合を生じたため停止して外部電源を使用、2時33分に給電が復旧した。残る1機も外部電源に切り替えた[35]。また13日には使用済み核燃料の貯蔵プールの水約600リットルが溢れていたことなどが報じられた[36]

註釈

  1. 実際に使用済み核燃料を使った試験
  2. 「1京」は「1億の1億倍」である。「1兆」は「1億の1万倍」である。
  3. 検出限界未満。

出典

  1. 1.0 1.1 再処理事業変更許可申請書の一部補正の主な内容について (PDF)”. 日本原燃 (2015年11月16日). . 2016-3-31閲覧.
  2. 六ケ所再処理工場、18年度上期の完成「厳しい」 原燃
  3. 規制委 原燃の虚偽記載認定…六ケ所再処理工場、雨水流入
  4. 六ヶ所村 再処理施設の完成、また延期へ
  5. 六ヶ所村の再処理工場完成延期、2千億円コスト増。何やってんだか・・・。(朝日新聞 2011年2月21日)
  6. 六ケ所村 核燃再処理13.9兆円 国想定の1.3兆円増
  7. 日本原燃定例社長記者懇談会挨拶概要 2009年1月30日
  8. 日本原燃社長記者会見挨拶概要 平成21年8月31日
  9. 六ケ所・核燃再処理工場、完成2年延期へ 原燃方針(朝日新聞 平成22年9月2日)
  10. 六ヶ所村再処理工場 計画上の完成「来年10月」に(NHK 平成25年12月17日)
  11. “再処理工場完工22回目延期 安全審査長期化”. 河北新報. (2014年10月31日). http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201410/20141031_23014.html 
  12. 日本原燃サービス(株)「再処理事業指定申請書」7-4-19頁(平成元年3月)
  13. 日本原燃サービス(株)「再処理事業指定申請書」7-5-72頁(平成元年3月)及び「再処理施設アクティブ試験計画書」(平成17 年12 月)
  14. 日本原燃サービス(株)「再処理事業指定申請書」7-5-99頁(平成元年3月)及び「再処理施設アクティブ試験計画書」(平成17 年12 月)
  15. 六ヶ所再処理工場から放出される放射能による被ばく「0.022ミリシーベルトだから安全」は本当か?
  16. 「六ヶ所再処理工場海洋汚染―海藻類による被ばくの再評価」(原燃の計算値よりも海藻から受ける放射線量は3倍程度高くなるという試算。但しそれでも50マイクロシーベルトで、気体からの放射線量も何らかの再計算により上方修正しなければ国の規準は超えないことに注意)
  17. グリーンピース - 再処理工場からの放射能は1日で原発1年分。
  18. 日本原燃ウェブサイト「放出状況」
  19. 青森県:安全協定に基づく定期報告:日本原燃(株)からの報告
  20. 青森県環境放射線等モニタリング
  21. 青森県「六ケ所再処理工場の操業と線量評価について」(平成18年2月7日)
  22. 低レベル濃縮廃液の漏えいに関する発表資料
  23. 精製建屋内での試薬の漏えいに関する発表資料
  24. 分析建屋作業員の微量な放射性物質の体内取込みに関する発表資料
  25. 分析建屋作業員の微量な放射性物質の体内取込みに関する調査結果
  26. 分析建屋作業員の内部被ばくの可能性に関するプレスリリース
  27. 2006年6月24日発生した分析作業員の内部被ばくに関する調査結果 (PDF)
  28. 低レベル廃棄物処理建屋での洗浄水漏えいについての発表資料
  29. ウラン・プルトニウム混合脱硝建屋でのウラン・プルトニウム溶液の誤供給についての発表資料
  30. 前処理建屋内のエンドピース洗浄装置の部品変形についてのプレスリリースエンドピース洗浄装置の部品変形に関して2007年10月9日に発表された速報
  31. 前処理建屋内のエンドピース洗浄装置の部品変形についての調査結果
  32. 前処理建屋のせん断機からの作動油漏えいに関する発表資料
  33. 前処理建屋のせん断機からの作動油漏えいに関する調査結果
  34. 鎌田慧「第1章 悲劇の六ヶ所村」/ 鎌田慧・斉藤光政著『ルポ 下北核半島 -原発と基地と人々-』岩波書店 2011年 19ページ
  35. 使用済燃料受入れ・貯蔵施設 第1非常用ディーゼル発電機Aの停止について~外部電源からの受電に切り替え~”. 日本原燃 (2011年3月15日). . 2011閲覧.
  36. “放射能漏れなし”. 読売新聞. (2011年3月13日). http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/aomori/news/20110313-OYT8T00367.htm . 2011閲覧. 

関連項目

外部リンク


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