入射加群
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数学において、入射加群(にゅうしゃかぐん、英: injective module)、あるいは移入加群(いにゅうかぐん)とは、関手 Hom(–, E) が完全となるような加群 E のことである。 ホモロジー代数における基本的な概念のひとつ。
Contents
動機
一般の加群 Q に対して反変関手 Hom(–, Q) は左完全である。 つまり任意の短完全列
- [math] 0 \to N \to M \to K \to 0 [/math]
に対して
- [math] 0 \to \operatorname{Hom}(K, Q) \to \operatorname{Hom}(M, Q) \to \operatorname{Hom}(N, Q) [/math]
は完全である。 この関手 Hom(–, E) が完全となる、つまり
- [math] 0 \to \operatorname{Hom}(K, Q) \to \operatorname{Hom}(M, Q) \to \operatorname{Hom}(N, Q) \to 0 [/math]
が完全となる加群 Q のことを移入加群と呼ぶ。
移入加群の特徴づけ
R を単位元をもつ環とし、以下では加群はすべて左 R 加群、射はすべて左 R 加群の準同型を指すことにする。 加群 Q が移入加群であることは次のいずれの条件とも同値である。
- 関手 Hom(–, Q) が完全である、つまり任意の短完全列 0 → N → M → K → 0 に対して 0 → Hom(K, Q) → Hom(M, Q) → Hom(N, Q) → 0 も短完全列である
- 任意の単射 N → M に対して Hom(M, Q) → Hom(N, Q) は全射である
- 任意の加群 M と正の整数 n に対して Extn(M, Q) = 0
- 任意の巡回加群 C に対して Ext1(C, Q) = 0
- 任意の単射 f : X → Y と射 g : X → Q に対して h f = g となる射 h : Y → Q が存在する
自己移入環
環 R が自身の上の左加群として移入的であるとき、左自己移入環と呼ぶ。右自己移入環も同様。
性質
- Qi はすべて移入加群 ⇔ ∏Qi は移入加群
Baerの判定法
左 R-加群 Q が移入加群であるための必要十分条件は、R の任意の左イデアル L と任意の準同型 L→Q に対して、その拡張 R→Q が存在することである。
移入分解と移入次元
加群 M に対し、各 [math]Q_i[/math] が移入加群であるような次の完全列
- [math]0 \to M \to Q_0 \to Q_1 \to \cdots \to Q_n \to Q_{n+1} \to \cdots[/math]
を M の移入分解という。任意の加群は移入分解をもつ。すべての i > n に対し Qi = 0 であるような移入分解を長さ n の移入分解という。そのような n が存在する場合その最小値を M の移入次元といい、存在しない場合は移入次元は ∞ という。ただし、{0} の移入次元は −1 とする。移入次元は id(M) と書かれる。R-加群 M と整数 n ≥ 0 に対して以下は同値。
- id(M) ≤ n.
- 任意の R-加群 X に対して、[math]\operatorname{Ext}^{n+1}_R(X,M)=\{0\}.[/math]
- 任意の i ≥ n+1 と任意の R-加群 X に対して、[math]\operatorname{Ext}^i_R(X,M)=\{0\}.[/math]
参考文献
- 岩永恭雄・佐藤眞久 『環と加群のホモロジー代数的理論』 日本評論社、2002年、第1版。ISBN 4-535-78367-5。
- (1999) Lectures on modules and rings, Graduate Texts in Mathematics No. 189. Berlin, New York: Springer-Verlag. MR1653294. ISBN 978-0-387-98428-5.