企業コンプライアンス
企業コンプライアンス(きぎょうコンプライアンス、英語: regulatory compliance)とは、コーポレートガバナンスの基本原理の一つで、企業が法律や内規などのごく基本的なルールに従って活動すること、またはそうした概念を指す。ビジネスコンプライアンスという場合もある。「コンプライアンス」は「企業が法律に従うこと」に限られない「遵守」「応諾」「従順」などを意味する語だが、以下では主にこの語を使う。なおRegulatory complianceは直訳すると「規制追従」という意味になる。
今日ではCSR(corporate social responsibility の略。企業の社会的責任履行)と共に非常に重視されている概念、仕組みである。
2000年代から、法令違反など不祥事によるステークホルダーからの信頼の失墜や、それを原因として法律の厳罰化や規制の強化が事業の存続に大きな影響を与えた事例が繰り返されているため、特に企業活動における法令違反を防ぐという観点からよく使われるようになった。こういった経緯から、日本語ではしばしば法令遵守と訳されるが、法律や規則といった法令を守ることだけを指すという論もあれば、法令とは別に社会的規範や企業倫理(モラル)を守ることも「コンプライアンス」に含まれるとする論もある(後述の「コンプライアンスとモラル」参照)。また、本来、「法的検査をする」といった強い実行性をもっている。
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関連法規
会社法は条数のみ記す。
株式会社においては、商法(会社法)上取締役ないし執行役の義務(法定責任)として規定されている。理論的には善管注意義務(330条)ないし忠実義務(355条)の発現とされ監査役なども同様の義務を負っている(330条)。
企業も社会の構成員の一人として商法(会社法)だけでなく民法・刑法・労働法といった各種一般法、その他各種業法をすべて遵守し、従業員一同にもそれを徹底させなければならないとされ(348条3項4号、362条4項6号)、特に大会社については、内部統制システム構築義務が課されている(348条4項、362条5項)。
コンプライアンス違反
このコンプライアンスに違反することをコンプライアンス違反と呼び、コンプライアンス違反をした企業は、損害賠償訴訟(取締役の責任については株主代表訴訟)などによる法的責任や、信用失墜により売上低下などの社会的責任を負わなければならない。
企業の犯す企業犯罪の1つでもあり、発覚した場合は不祥事として報道されることが多い。またその不祥事の原因となる比率が高い要素でもある。2000年代からは、上長を通じずに不正を早期発見する仕組みとして内部通報制度が広まりを見せた。組織の自浄作用を機能させ、コンプライアンス違反に関する情報伝達及びモニタリングするためである。ただし内部通報制度を利用するか否かは任意であり、化学及血清療法研究所の血液製剤の不正など実際に活用されず機能しないケースもある[1]。
コンプライアンスとモラル
一部でモラルと混同されることがあるが、コンプライアンスはあくまで「法令遵守」であるため、モラルとは別に扱うべきだとする考え方がある。
この考え方によれば、コンプライアンスを純粋に「法令遵守」と考えると、法令がモラルに反している(あるいはモラルが法令に反している)場合、法令を遵守すればコンプライアンスは成立する。言い方を変えると、その行動がモラルに合致していても、法令に則っていなければコンプライアンス違反となる。また、法令に定められていない範囲で行われるモラル違反(いわゆる「法律の不備による抜け穴」を突く行為など)はコンプライアンスの範疇に属さない。
したがって、たとえコンプライアンス違反に問われる行為を行っていなくても、モラルに反する行動をしたことにより、社会からの信用を失い、結果的に損失を負う企業が存在する。 もちろん、モラル違反による信用失墜はリスク・マネージメントの中で管理して回避・防衛すべきものであり、コンプライアンスと混同すると混乱を招く恐れがある。しかし、リスクの大きさとしてはどちらも経営上の重要な要素であるため、あえて総合的に扱おうという考え方(「フルセット・コンプライアンス論」を参照)もある。
取り組み
コンプライアンスマネージメント
組織内において、コンプライアンスを遵守できるよう経営管理し、事業活動を行うこと。 コンプライアンスプログラムや、行動指針、コンプライアンス規定、事業部門から半独立したコンプライアンス組織、コンプライアンス監査が実施・設置されることが求められる。昨今では、リスクマネジメント対策として調査会社を外部顧問として迎えている大手企業も少なくはない。複雑なリスクに対して会計監査のみではもはや対応できないと専門家は指摘している。それらを打破する為には証拠調査士など専門職の力が必須である。
コンプライアンスプログラム
組織機能として、コンプライアンスを実現させる仕組みを指す。 専門部門やコンプライアンス監査などの機能が設置され、日々変化がある社会情勢や法令に対して、組織がコンプライアンス対応ができる態勢のことを指す。
フルセット・コンプライアンス論
名城大学教授郷原信郎らが提唱する、「コンプライアンス=法令遵守ではなく、法令の遵守を含めた『社会的要請への適応』である」という考え方である。
企業の存在には、利潤の追求だけでなく、食品メーカーであれば「安全な食品を供給してほしい」、放送局であれば「歪曲されていない、良質な番組を流してほしい」など、社会からの潜在的な要請があり、各種法令にも、制定に至るまでには社会からの要請がある。法令は常に最新の社会の実情を反映できているわけでなく、司法もまた万能ではない。ゆえに、単に法令のみの遵守に終始することなく、社会からの要請に応えることこそがコンプライアンスの本旨であるというのがフルセット・コンプライアンス論の趣旨である。
フルセット・コンプライアンス論では、法令を単純に条文通りに解釈し、「法の抜け穴」を突いたり、過剰に法律を振りかざしたりすることはコンプライアンスに背くこととしており、上記「コンプライアンスとモラル」の項とは矛盾する部分もある。
コンプライアンス違反例
(2000年以降の主なもの)
- 社会保険庁による一連の不祥事(2009年(平成21年)に省庁ごと廃止)
- 製造業を中心として行われている偽装請負
- 顧客の個人情報やプライバシーを軽視する
- 末端の従業員や利用者(顧客)を軽視(安全・企業としての社会的責任や潜在需要、使命を軽視する)
- ドン・キホーテ放火事件(2004年)- ドン・キホーテは被害者の立場だったにもかかわらず、消防法や各種条例に違反した店舗運営を行っていたことなどが被害拡大の原因として非難された。
- しずてつジャストライン(2005年)- 閑散路線最終便の末端区間で、運転士の独断で路線バスの運行を打ち切り、営業所に帰庫(無断欠行[2])していたことが、終着地転回場の近隣住民から発覚。その後同社では、同様の事案が複数判明。
- 福知山線脱線事故(2005年) - 安全対策の軽視、それに対する投資額の低さ、ヒューマンエラーを冒した従業員に対し「日勤教育」と呼ばれる懲罰的制度が行われていたことが明るみになるなど、JR西日本の企業風土が総合的に非難された。
- 従業員への長時間労働やサービス残業も厭わない。
- 下請け会社に対する代金の不当な値引きなど、いわゆる『下請けいじめ』
- 企業による脱税・申告漏れ・所得隠し
- 特に2000年代以降、頻繁に報道されるようになっている。
- 西松建設の裏金捻出・横領事件
- 食品関連の諸問題
- 原材料・産地の意図的な偽装(消費者に産地を見抜けない、情報の非対称性を悪用する)
- 牛肉偽装事件(雪印食品・日本ハム・伊藤ハムなど)
- 牛肉ミンチの品質表示偽装事件(ミートホープ・加ト吉など)
- 不二家 - 期限切れ原材料使用問題
- 船場吉兆 - 賞味期限切れの菓子・惣菜の販売/みそ漬けの産地偽装/客の食べ残しの再提供
- 証券会社による、主に高齢者に対する、手数料収入目当てに次々に金融商品を買い換えさせる『回転売買』。
- 保険業界の保険金不払い事件
- 三菱自動車工業のリコールの放置(いわゆるリコール隠し)
- 暴力団・総会屋などの反社会的勢力に対する利益供与行為
- 環境汚染、公害病問題
- 公害病の被害者や遺族による訴訟が発生した場合、損害賠償などの責任を免れようとする。
- 違法な日雇い派遣
- 銀行などの金融機関による、主として中小・零細企業に対する『貸し渋り』・『貸し剥がし』行為。
- プリンスホテルが日本教職員組合(日教組)の集会への会場使用を一方的に拒否し、日教組の会場使用を求める仮処分提訴が認められたにもかかわらず、一切応じなかった問題。
一旦コンプライアンス違反を引き起こすこととなれば、子会社を含むグループ企業全体のイメージダウンに繋がるだけでなく、同業者全体の信用と評判を落とすことは避けられず、不買運動など今後の企業活動に大きなダメージを与える現象が起こりうる。
脚注
- ↑ http://judiciary.asahi.com/outlook/2016071400001.html
- ↑ 道路運送法第16条違反
- ↑ プリンスホテルに約3億円賠償命令 日教組集会使用拒否アサヒコム、2009年7月29日
関連項目
- ブラック企業
- 企業の社会的責任
- 企業倫理
- 企業による犯罪事件の一覧
- コーポレートガバナンス
- コンプライアンスプログラム
- システム監査技術者試験
- ISO 37001(英語版)(反贈収賄マネジメントシステム)