二千円紙幣

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二千円紙幣(にせんえんしへい)は、現在流通している日本銀行券の1つ。二千円札(にせんえんさつ)、二千円券(にせんえんけん)ともいわれる、額面2,000紙幣である。これまでに発行された二千円紙幣は、2000年平成12年)より発行が開始されたD券の一種類のみであり、これが2018年(平成30年)現在も有効であり、日本で流通している。

D券

第26回主要国首脳会議(沖縄サミット)と西暦2000年ミレニアム)をきっかけとして、1999年(平成11年)に当時の小渕恵三内閣総理大臣の発案で[注 1]、2000年(平成12年)7月19日に森内閣の元で発行された。

世界の紙幣カタログなどには記念紙幣として扱われている場合もあるが、法律上は、日本銀行法第46条および第47条、並びに日本銀行法施行令第13条の規定により発行された、通常の日本銀行券であり、記念紙幣ではない[注 2][注 3]

新円切替後初の「1」と「5」以外の単位の通貨であること、公表された表面のデザインが人物でないこと(建築物はA十円券国会議事堂以来)、さらにそれまでになかった最新の偽造防止技術が多数採用されていることなどにより、発行前から注目を浴びた。

過去には、明治から終戦直後にかけて、2銭、20銭(紙幣・銀貨)、2円(紙幣・金貨)、20円(紙幣・金貨)、200円の硬貨や紙幣が発行されたが、これらは現在では全て通用停止になっているので、この二千円紙幣は「1」と「5」以外の単位の日本の硬貨や紙幣のうち現在有効な唯一のものである。

発行後には、新券の珍しさもあって銀行の窓口に両替依頼が殺到したものの、一時的な流行を過ぎると、流通・使用は低調になった。2000年(平成12年)秋以降には、異例ながら日本銀行本支店の窓口で二千円紙幣への両替を受け付け(翌年12月まで)、大蔵省(現・財務省)や日本銀行の職員に現金で給与を支給する際には二千円紙幣を含めるなど、二千円紙幣の流通量を増やすための努力も始められた。

2004年(平成16年)に他の紙幣が刷新(E券の発行)されるのを機に普及することも期待されたが、それでも浸透するに至らなかった。流通のピークであった2004年(平成16年)頃には、流通枚数で五千円紙幣を上回るほどであったが、2007年(平成19年)の二千円紙幣流通枚数は約1億5千万枚で、すでに発行されていない五百円紙幣(2億2千万枚)よりも少なかった[2]

2013年(平成25年)の流通枚数は約1億枚で、五千円紙幣の1/6以下にとどまっている。日本銀行は二千円紙幣の利便性を主張している[3]。なお、二千円紙幣にゆかりの深い沖縄県では、盛んに普及キャンペーンが行われたこと、本土復帰以前は20ドル札を含む米ドル紙幣が法定通貨であったこと[注 4]もあり、流通量は上昇傾向にあり、他都道府県に比べて高くなった。

近年では、沖縄県観光振興課がさらに流通促進に本腰を入れており、県民の一人あたりが複数枚を所持して日常的に使用する・県外にも持参して積極的に使用するよう呼び掛けている。企業や団体に対しても二千円紙幣の利用可能なATMの設置を推奨したり、二千円紙幣使用者への特典やサービスを行う試みを促している[4]

自動販売機などにおいても、通常は千円紙幣のみ使用可能とする物が多い中、沖縄県では二千円紙幣の使用が可能となっている仕様の物が存在する[5]。また、自動券売機においては低額紙幣専用機種であっても、千円紙幣とならび二千円紙幣にも対応している機種が存在する(フジタカFK-CX・芝浦KB-160NNなど)。が

2003年度(平成15年度)以降は製造されておらず、2010年(平成22年)には、大量の二千円紙幣が日銀の金庫に保管されたままの状態になっている[6]

二千円紙幣は現在発行中なので、銀行等の金融機関では、二千円紙幣の在庫があれば窓口で出金・両替する際に入手することができる。

コンビニエンスストアに設置されている現金自動預け払い機 (ATM) 以外では、琉球銀行[7]沖縄銀行[8]沖縄海邦銀行[9]およびみちのく銀行横浜銀行のATMにおいて、二千円紙幣の出金を選択することができる(ただし、横浜銀行のATMでは、有人支店に設置しているATMが対象で、対象支払機は1台のみだったが、現在は全店舗出金しなくなったと思われる)。また、近畿大阪銀行および帯広信用金庫のATMでも同様の機能を設定していた時期がある。

ATM以外では、支店によって異なるが三菱UFJ銀行三井住友銀行みずほ銀行静岡銀行常陽銀行筑波銀行足利銀行京都信用金庫などに設置されている両替機において二千円紙幣の出金を選択することができる(三菱東京UFJ銀行と三井住友銀行の新両替機は非対応でみずほ銀行の新両替機は一部支店が対応)。茨城県の指定金融機関でもある常陽銀行では、茨城空港における那覇空港への定期航路の運航開始を受けて、沖縄旅行での二千円紙幣の使用を勧めており、沖縄県以外の本土の銀行では珍しく二千円紙幣の普及促進活動を行っている。

D券が発行されていた期間のうち、2000年(平成12年)から2004年(平成16年)の間に、製造元が「大蔵省印刷局」から「財務省印刷局」になりさらに「国立印刷局」に変わっているが、二千円紙幣は大蔵省時代にのみ製造されたため「大蔵省印刷局製造」のものしか存在しない。

なお、二千円紙幣の発行を企画した当時の内閣総理大臣であった小渕恵三本人は、実物の発行を見届けることなく、2000年(平成12年)5月14日に脳梗塞で急死した。発行時には、記号番号「A000003A」が小渕の遺族(恵三元総理の配偶者である小渕千鶴子)に贈呈された。

偽造防止技術

二千円紙幣には、それまでになかった偽造防止技術が多数採用されている。

深凹版印刷
凹版印刷刷版の凹部をさらに深くし、結果として券に転写されたインクを触って凹凸が分かるほどに盛り上げられている印刷である。おもて面の漢数字とアラビア数字による額面表示、「日本銀行」「日本銀行券」の文字、後述の「潜像模様」、等に用いられている。視覚障害者が触覚で容易に券種を識別できるよう、券の左右下端に配置された各券種固有のパターン(識別マーク、「●」が3つ(点字の「に」))も、この技法で印刷されている。
潜像模様
深凹版印刷技術の応用であり、印刷されたインクの縞状凹凸により表現される模様。券を傾け入射角を大きくして見ると、より明瞭にその模様が目視できるもの。券の左下部に額面金額「2000」として印刷されている。また裏面には「NIPPON」の潜像がある。
パールインク
見る角度によってピンク色の真珠様光沢を目視できるインクを用いた印刷。券の左右両端に配置されている。
ユーリオン
銀行券のデジタルデータ画像を、画像処理ソフトウェアやカラー複写機が検出しやすくするために描かれたシンボル。
光学的変化インク
表面右上にある額面金額は、券を見る角度によって紫色、青緑色等に色が変化して見える。

上記の技術のうち、光学的変化インク以外は、2004年(平成16年)発行のE券(千円券五千円券一万円券)にも採用されている。

裏面の詞書

当時の大蔵省印刷局の発表によれば、源氏物語絵巻の「鈴虫の巻」の詞書である。ただし、すべての文章が描かれているわけでなく、デザイン上の関係で詞書の上半分だけが描かれており、文章としては読めない。変体仮名が多用されているが、本則仮名で表記した表示部分は、以下の通りである。太字で表記した部分が二千円券裏面に描かれた部分である。原文には濁点がないが、以下の文には、便宜上踊り字と濁点を付けることとする[10]

すゞむし
十五夜のゆふくれに佛のおまへ
に宮おはしてはしちかくながめ
たまひつゝ念殊したまふわかき
あまきみたち二三人はなたてま
つるとてならすあかつきのおとみづ
のけはひなときこゆるさまかはりたる
いとなみにいそきあへるいとあわれな
るにれいのわたりたまひてむしのね
いとしげくみだるゝゆうべかな
とて我もしのびてうち誦んじ給へる。

普及しない現状とその理由

ファイル:2000jpy withdrawal from obihiro shinkin bank's atm 20100619a.jpg
2000円紙幣5枚を出金するATM
帯広信用金庫、2010年6月19日撮影、2012年8月をもって取扱いを廃止)

日本国外との比較

アメリカ合衆国の20米ドル紙幣などは、中額紙幣として流通量が多いことから、普及が期待された。しかし、二千円紙幣は流通量が非常に少ない紙幣となっている。この違いは現金の流通実態に原因があると考えられる。治安が良くない国では、現金は盗難や強盗で奪われてしまう恐れがあるため必要以上に持ち歩かない。さらに高額紙幣となると偽札を警戒して、相手に受け取ってもらえないという問題も重なる。そのため100米ドル紙幣のような高額紙幣は発行量こそ多いもののもっぱら蓄財などに使われ、日常生活で使用する機会が少ない紙幣である。そこで高額紙幣に次ぐ中額紙幣である20米ドル紙幣がよく流通しているというのが現状である。そのような国で中額紙幣で嵩張るような高額決済はクレジットカードデビットカード小切手を用いることが多く、よく制度が発達している傾向がある。

日本では二千円紙幣が普及しない理由について、数学者の西山豊は、「東西における奇数偶数の文化の違いがあるのではないか」と考察している[11]。実際に欧米では20ドル紙幣(アメリカ合衆国)や20ポンド紙幣(イギリス)が普及している。中華民国台湾)にも2000紙幣、200元紙幣、20元硬貨があるがあまり流通していない。これに対して、中華人民共和国の20札、ベトナムの2千ドン札・2万ドン札・20万ドン札、フィリピンの20ペソ札、タイの20バーツ札は、広く一般的に流通している。

なお、沖縄県では例外的に二千円紙幣が広く使用されている。2013年時点で、二千円紙幣の流通量は1億枚だが、その4割以上が沖縄県で出回り、今も増加し続けている[12] 。理由として、沖縄県庁と経済界が一丸となって二千円紙幣の流通促進を行った他、アメリカによる沖縄統治時代に、アメリカ合衆国の20米ドル紙幣を使い慣れていた歴史があるとの説もある[13]

ATM・自販機などの対応

鉄道駅や飲食店の券売機など、支払い額が比較的高額になる自販機では使用できる場合が多いが、飲料等の自販機においては、機械自体は二千円紙幣に対応しているものの、ベンダー側で受け付けないように設定していることが多く、もっぱら使用できない。

一方で、ローソンATMイーネットでは、ATMの小型化によって、紙幣の収納スペースが少ないことと、二千円紙幣は千円紙幣の2倍の金額を格納でき、紙幣切れが起こりにくいなどの理由から二千円紙幣を格納し、優先的に出金していた(なお、千円紙幣も引き出される仕様となっているため、例えば8,000円を引き出した場合、二千円紙幣×4枚ではなく、二千円紙幣×3枚と千円紙幣×2枚という組み合わせで、引き出される)。

しかし沖縄県以外では、2014年現在、二千円紙幣を出金しない最新型のATMにほぼ全て取り換えられており、二千円紙幣を出金する旧型のATMは、ほぼ消滅している。日本国外では、日本以上に取扱量が少ないことから、二千円紙幣の両替を断る金融機関、両替商も一部で見受けられる。

鉄道の券売機の場合、入金は出来ても出金(釣銭使用)できないものが年々増加してきている。例えば都営地下鉄の2ヶ国語対応の券売機は2000円の釣銭排出も可能だが、8ヶ国語対応の新券売機は入金は可能だが出金が不可となっており、順次このタイプの券売機に置き換えられている。首都圏のJRも同様で2ヶ国語対応券売機は出金可能なのに対し、5ヶ国語対応新券売機・入金機は出金不可である。

記番号エラー紙幣

紙幣表面の左上と右下に印字されている記番号は同一である。しかし、二千円紙幣には印刷ミスにより左上の記番号の最初のアルファベットが「J」、右下のそれが「L」となっているエラー紙幣、通称「JL券」が存在する。それは約9,000枚製造され、そのうち約5,000枚が主に関西方面に出回ったとされる。通貨としては有効であるが、収集家の間では高値で取引されている。

脚注

注釈

  1. 1999年(平成11年)12月7日衆議院予算委員会における宮澤喜一大蔵大臣答弁による。
  2. 第164回国会行政改革に関する特別委員会(2006年4月10日)にて、安次富修の「あくまでも記念紙幣ではなく一般紙幣ですから、広く流通させなければならない」とする指摘に対して、谷垣禎一財務大臣はこれを肯定する答弁をしている。
  3. 第169回国会予算委員会第一分科会(2008年2月27日)にて、岸田文雄内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策担当)が「私も財布に二千円札を入れております。これは一般札でありますので……(以下略)」と答弁している。
  4. さらに返還後も米軍人が多く駐留しているため、なおも米ドルが使用可能な商店が多い。

出典

外部リンク