二乗平均平方根
二乗平均平方根(にじょうへいきんへいほうこん、英: root mean square, RMS)はある統計値や確率変数を二乗した値の平均値の平方根である。結果として単位が元の統計値・確率変数と同じという点が特徴である。また、計算が積和演算であるため高速化が容易である。絶対値の平均より、用いられることがある。
ある量 x に対して N 個のデータが得られたとして、各データの x の値を xi (i = 1, 2, ..., N) と名付けると、x の二乗平均平方根 RMS(x) は次のように定義される。
- [math]\operatorname{RMS}[x] = \sqrt{\frac{1}{N}\sum_{i=1}^N \left( x_i \right)^2}\,.[/math]
つまり、(xi)2 の算術平均の平方根が x の二乗平均平方根 RMS[x] となる。
例として、N = 5 個のデータがあり、それぞれ x 1 = 1, x 2 = 1, x 3 = 2, x 4 = 3, x 5 = 5 だったとすると、その二乗平均平方根は次のように計算できる。
- [math]\begin{align} \operatorname{RMS}[x] &= \sqrt{\frac{1}{5} \sum_{i=1,2,3,4,5} \left(x_i\right)^2}\\ &= \sqrt{\frac{1}{5}\left(1^2 + 1^2 + 2^2 + 3^2 + 5^2\right)}\\ &= \sqrt{8} \simeq 2.8284271\,. \end{align}[/math]
統計値の二乗を取ることで、その量の大きさの平均値を二乗平均平方根から概算することができる。また、光の強度は電磁場の二乗としてしばしば定義されるため、その平均強度は二乗平均平方根の形を取る。時間的に変化する信号の大きさを評価する目的で、物理学や電気工学などの分野で二乗平均平方根が用いられる。
二乗平均平方根は、一般化平均において指数パラメータを 2 としたものであるとも言える。
Contents
定義
N 個の数 {x 1, x 2,..., x N} について二乗平均平方根は
[math] \operatorname{RMS}[x] = \sqrt {{1 \over N} \sum_{i=1}^{N} x_i^2} = \sqrt {{x_1^2 + x_2^2 + \cdots + x_N^2} \over N} [/math]
と定義される。
充分小さな Δxテンプレート:' に対して x ∈ [xテンプレート:', xテンプレート:' + Δxテンプレート:'] となる確率を f(xテンプレート:')Δxテンプレート:' としたとき、x の二乗平均平方根 RMS[x] は
[math] \operatorname{RMS}[x] = \sqrt{\int_{-\infty}^{+\infty} x'^2 f(x')dx'} [/math]
と定義される。ここで関数 f(xテンプレート:') は確率密度関数と呼ばれる。
連続関数 x(t) の区間 t ∈ [t 1, t 2] (t 1 < t 2) については媒介変数の積分を用いて、
[math] \operatorname{RMS}[x(t)] = \sqrt {\frac{1}{t_2 - t_1} \int_{t_1}^{t_2} (x(t))^2\, dt} [/math]
と定義される。
計算例
周期関数については通常、積分区間を周期の整数倍に一致させて求める。 たとえば x(t) = sin(ωt) については、周期を τ = 2π / ω で表し、
[math]\begin{align} \operatorname{RMS}[\sin(\omega t)] &= \sqrt {\frac{1}{\tau} \int_{0}^{\tau} (\sin(\omega t))^2\, dt} \\ &= \sqrt {\frac{1}{2}\frac{1}{\tau} \int_{0}^{\tau} (1- (\cos(\omega t))^2\, dt} \\ &= \sqrt {\frac{1}{2}} \end{align}[/math]
のようにする。同様に三角関数の和について、適当な周期を τ として、
[math] \begin{align} \operatorname{RMS}\left[\sum_n c_n \sin(\omega_n t)\right] &= \sqrt {\frac{1}{\tau} \int_{0}^{\tau} \left(\sum_n c_n \sin(\omega_n t)\right)^2\, dt} \\ &= \sqrt {\frac{1}{\tau} \sum_{n,m} \left\{ \int_{0}^{\tau} c_n c_m \sin(\omega_n t)\sin(\omega_m t)\, dt \right\} } \\ &= \sqrt {\frac{1}{\tau} \sum_{n,m} \left\{ \int_{0}^{\tau} \frac{1}{2} c_n c_m \left\{\cos(\omega_n t - \omega_m t) - \cos(\omega_n t + \omega_m t)\right\} \, dt \right\} } \\ &= \sqrt {\frac{1}{2}\sum_{n}(c_n)^2}\,. \end{align}[/math]
となる。非対角成分は積分すると 0 になるので、対角成分の積分だけが残ることに注意。
平均値および標準偏差との関係
ある量 x に対して期待値 〈x〉 が定まるなら、その量の期待値からの偏差 x − 〈x〉 の二乗平均平方根 RMS[x − 〈x〉] を与えることができる。この偏差の二乗平均平方根は x の標準偏差 σx に等しい。
- [math]\sigma_x = \sqrt{\frac{1}{N}\sum_{i=1}^N \left(x_i - \langle x \rangle \right)^2} = \operatorname{RMS}[x-\langle x\rangle]\,.[/math]
また、二乗偏差 (x − 〈x〉)2 を展開すれば、偏差の二乗平均平方根は次のように書き直せる。
- [math]\begin{align} \operatorname{RMS}[x-\langle x\rangle] &= \sqrt{\frac{1}{N}\sum_{i=1}^N \left(x_i - \langle x \rangle \right)^2} \\ &= \sqrt{ \left(\frac{1}{N} \sum_{i=1}^N (x_i)^2 \right) - 2\langle x \rangle\left(\frac{1}{N} \sum_{i=1}^N x_i \right) + \langle x \rangle^2 }\\ &= \sqrt{ \left(\operatorname{RMS}[x] \right)^2 - \langle x \rangle^2 }\,. \end{align} [/math]
ただし最後に期待値 〈x〉 が xi の算術平均 x に等しいことを使った。
- [math]\langle x \rangle = \bar x = \frac{1}{N}\sum_{i=1}^N x_i \,.[/math]
このとき次の関係が成り立つ。
- [math]\left(\operatorname{RMS}[x] \right)^2 = \left( \sigma_x \right)^2 + \langle x \rangle^2 \,.[/math]
期待値 〈x〉 が xi の算術平均 x に等しいことは一般には成り立たない。 たとえば xi を x の各回の測定値だとすれば、その標本平均 x は期待値 〈x〉 からある精度で外れた値になる。 実験では真の値は分からないので、期待値 〈x〉 の代わりに測定値の標本平均 x が用いられ、標準偏差は測定値の平均値からの不偏分散の平方根によって推定される。 不偏でない単純な標本標準偏差は二乗平均平方根の形で表されるが、不偏標本標準偏差 ux はそれとは異なる。
- [math] \operatorname{RMS}[x - \bar x] = \sqrt{\frac{1}{N} \sum_{i=1}^N (x - \bar x)^2} \neq \sqrt{\frac{1}{N-1} \sum_{i=1}^N (x - \bar x)^2} = u_x\,. [/math]
単純な標本標準偏差では分散の重心が期待値ではなく標本平均になっているため、これは真の値からの誤差を評価していない。
これらがほぼ等価であると言えるのは、測定精度に比べて充分多くの回数測定を行った場合だけである。