主値

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複素解析において、関数値として複数の複素数を取る多価関数を考えるとき、関数の主値(しゅち、: principal value)とはその関数の分枝から取られる値のことである。多価関数の値を主値に限定することで、一価の関数となる。

必要性

複素対数関数 log z は、一つの複素数 z を以下を満たす複素数 w に移す関数である。

[math]e^w = z\,\![/math]

例えば、[math]\log i[/math] の値を計算しようとすると、以下の方程式を満たす解として w を求めることになる。

[math]e^w = i\,\![/math]

オイラーの公式から、[math]i\pi /2[/math] が一つの解であることは明らかであるが、解はそれだけでない。

関数の引数とした点 [math](0, i)[/math]複素平面上での位置を考えると、解が複数あることが分かる。[math](1, 0)[/math] から反時計回りに [math]\pi /2[/math] ラジアンだけ回転した点が [math](0, i)[/math] になるが、ここからさらに [math]2\pi[/math] 回転すると、また [math](0, i)[/math] になる。したがって[math]i(\pi/2+2\pi)[/math][math]\log i[/math] の値であると考えることができ、また [math]2\pi[/math] だけでなく、その整数倍を加えたものはすべて、この関数の値と考えることができる。

しかし実数関数の場合と比較すると、これには違和感がある。つまり [math]\log i[/math] の値は一意に定まらない、ということである。log z は、k を任意の整数として

[math]\log{z} = \ln{|z|} + i\left(\mathrm{arg}\ z+2\pi k\right)[/math]

と書ける。k の値は分岐点として知られ、多価関数が一価になる点を決めることになる。

ここで k = 0 に相当する分枝を主枝English版、この主枝において関数が取る値を主値と呼ぶ。

一般化

一般に f(z) が多価関数のとき、f の主値を

[math]\mathrm{pv}\ f(z)[/math]

と書き表す。これは、f の定義域内の複素数 z について一価の関数となる。

主な関数の主値

複素数を取る初等関数は、定義域内で領域によっては多価となる。主値を取るのが簡単な形の関数に分解することで、その主値を決めることができる場合がある。

対数関数

対数関数の例は上述したが、その形は

[math]\log{z} = \ln{|z|} + i\left(\mathrm{arg}\ z\right)[/math]

である。ここで [math]\mathrm{arg}\ z[/math] が多価である。この偏角の取りうる範囲を [math]-\pi \lt \mathrm{arg}\ z \le \pi[/math] に限定すれば、その偏角における関数の値を主値として取ることができる。このときの(範囲の限定された)偏角を、大文字を使って [math]\mathrm{Arg}\ z[/math] と書く。関数の定義に [math]\mathrm{arg}\ z[/math] の代わりに [math]\mathrm{Arg}\ z[/math] を使うことで、対数関数が一価になり、

[math]\mathrm{pv}\ \log{z} = \mathrm{Log}\ z = \ln{|z|} + i\left(\mathrm{Arg}\ z\right).[/math]

と書くことができるようになる。

指数関数

[math]\alpha[/math] を複素数([math] \alpha \in \mathbb{C}[/math])とするときの指数 [math]z ^\alpha\,[/math] について考えるとき、一般には zαeα log z として定義する。ここで Log でなく log を使うと、eα log z は多価関数となる。Log を使えば以下の形で zα の主値を取ることができる。

[math]\mathrm{pv}\ z^\alpha = e^{\alpha \mathrm{Log}\ z}[/math]

平方根

複素数 [math]z=r e^{\phi i}\,[/math]平方根の主値は以下のようになる。

[math]\mathrm{pv} \sqrt{z} = \sqrt{r} \, e^{i \phi / 2}[/math]

ここで偏角は [math]-\pi \lt \phi \lt \pi \,[/math] の範囲である。

複素数の偏角

ファイル:Atan2atan.png
atan と atan2 の比較

ラジアンで表される複素数の偏角の主値は、以下のどちらかで定義されることが多い。

  • [math][0, 2\pi)[/math]
  • [math](-\pi, \pi][/math]

逆正接関数をプロットすれば、これらの値を見ることができる。

  • atan2English版[math](-\pi, \pi][/math] の範囲
  • atan[math][-\pi/2, \pi/2)[/math] の範囲

関連項目

外部リンク