中線定理

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中線定理(ちゅうせんていり、: parallelogram law)とは、幾何学において、三角形の中線の長さと辺の長さの関係を表す定理である。パップスの定理と知られているが、実はアポロニウスが発見した定理である。

概要

初等幾何学における中線定理

三角形OABにおいて以下の関係が成り立つ。

[math]OA^2+OB^2=2\left(OM^2+AM^2\right)[/math]
ただし、点Mは辺ABの中点である。

この性質を中線定理という。これはスチュワートの定理の特別な場合である。二等辺三角形に対してはピタゴラスの定理と同等になる。

平行四辺形の対角線が互いの中点を通るという事実から、平行四辺形ABCD に対し

[math]AC^2+BD^2=2\left(AB^2+BC^2\right)[/math]

と書く事もできるので平行四辺形の法則とも言われる。

内積空間における中線定理

中線定理は内積を有するベクトル空間(内積空間、計量ベクトル空間)の一般的性質としてとらえることができる。内積空間V に対し、内積<·, ·>によって定義されたノルム

[math] \left \| \boldsymbol{x} \right \| := \sqrt{ \left \langle \boldsymbol{x}, \boldsymbol{x} \right \rangle } [/math]

を与えると、任意の元x, yV について、次の中線定理が成り立つ。

[math] \left \| \boldsymbol{x}+\boldsymbol{y} \right \| ^2 + \left \| \boldsymbol{x}-\boldsymbol{y} \right \| ^2 = 2( \left \| \boldsymbol{x} \right \| ^2 + \left \| \boldsymbol{y} \right \| ^2 ) [/math]

中線定理の成立は、計量ベクトル空間におけるノルムがある内積から導かれるための必要条件であるを示しているが、逆に十分条件でもあることが、フォン・ノイマン及びパスクアル・ヨルダンによって示されている[1]。すなわち、必ずしも内積を有していないノルム空間において、ノルムが中線定理を満たすならば、そのノルムを与えるような内積が存在する。

実際、中線定理が成立している場合に、実数体R上のノルム空間の元x, yに対して、

[math] \langle \boldsymbol{x},\boldsymbol{y} \rangle :=\frac{1}{4} \{\left \| \boldsymbol{x}+\boldsymbol{y} \right \| ^2 - \left \| \boldsymbol{x}-\boldsymbol{y} \right \| ^2 \} [/math]

もしくは複素数体C上のノルム空間の元x, yに対して、

[math] \langle \boldsymbol{x},\boldsymbol{y} \rangle :=\frac{1}{4} \{ (\left \| \boldsymbol{x}+\boldsymbol{y} \right \| ^2 - \left \| \boldsymbol{x}-\boldsymbol{y} \right \| ^2) +i(\left \| \boldsymbol{x}+i\boldsymbol{y} \right \| ^2 - \left \| \boldsymbol{x}-i\boldsymbol{y} \right \| ^2) \} [/math]

で内積を導入することができる。

証明

定理をスチュワートの定理の特別な場合と考えて証明するか、または計量ベクトル空間におけるベクトルを使用することで証明することができる。

ベクトルによる証明

[math]\overrightarrow{OA},\ \overrightarrow{OB}[/math] をそれぞれ [math]\boldsymbol{a},\ \boldsymbol{b}[/math] と置くと、辺ABの中点がMなので、 [math]\overrightarrow{OM},\ \overrightarrow{AM}[/math] はそれぞれ [math]\frac{1}{2} \left(\boldsymbol{a}+\boldsymbol{b}\right),\ \frac{1}{2} \left(\boldsymbol{b}-\boldsymbol{a}\right)[/math] となる。

したがって、

[math]OM^2 = \frac{1}{4} \left \| \boldsymbol{a} + \boldsymbol{b}\right \| ^2 = \frac{1}{4} \left( \left \| \boldsymbol{a} \right \| ^2 + 2 \left \langle \boldsymbol{a}, \boldsymbol{b} \right \rangle + \left \| \boldsymbol{b}\right \| ^2\right),[/math]
[math]AM^2 = \frac{1}{4} \left \| \boldsymbol{b} - \boldsymbol{a}\right \| ^2 = \frac{1}{4} \left( \left \| \boldsymbol{a} \right \| ^2 - 2 \left \langle \boldsymbol{a}, \boldsymbol{b} \right \rangle + \left \| \boldsymbol{b}\right \| ^2\right).[/math]

これより、辺々を加えて2倍すると、

[math]2\left(OM^2+AM^2\right)=\left \| \boldsymbol{a}\right \| ^2 + \left \| \boldsymbol{b}\right \| ^2= OA^2+OB^2.[/math] Q.E.D.

解析幾何学による証明

三角形OABにおいて、辺ABの中点Mを原点に取り、辺ABをX軸上に取ると、

[math]M (0, 0),\ A (-a, 0),\ B (a, 0)[/math]

と置くことができる。

ここで、頂点Oの座標を (b, c) とすると、

[math]OA^2 = (b + a)^2 + c^2,\ OB^2 = (b - a)^2 + c^2.[/math]

したがって、辺々を加えると、

[math]OA^2 + OB^2 = 2(a^2 + b^2 + c^2).[/math]

いっぽう、

[math]OM^2 = b^2 + c^2,\ AM^2 = a^2.[/math]

したがって、

[math]OA^2 + OB^2 = 2(a^2 + b^2 + c^2) = 2\left(OM^2+AM^2\right).[/math] Q.E.D.

初等幾何学による証明

三角形OABにおいて、辺ABの中点をMとし、∠OMA = θ とすると、 ∠OMB = π - θ.

三角形OMAにおいて、余弦定理を適用すると、

[math]OA^2 = OM^2 + AM^2 - 2OM \cdot AM \cos\theta.[/math]

三角形OMBにおいて、余弦定理を適用すると、

[math]OB^2 = OM^2 + BM^2 - 2OM \cdot BM \cos(\pi-\theta).[/math]

ここで、点Mは辺ABの中点だから、AM = BM が成り立つ。

いっぽう、[math]\cos(\pi-\theta) = - \cos\theta[/math] が成り立つので、

[math]OA^2 + OB^2 = 2\left(OM^2+AM^2\right).[/math] Q.E.D.

脚注

  1. P. Jordan and J. von Neumann, "On Inner Product in Linear Metric Spaces," Ann. of Math. 36 pp. 719-723 (1935) doi:10.2307/1968653

関連項目

外部リンク