中村吉右衛門 (2代目)
にだいめ なかむら きちえもん 二代目 中村吉右衛門 | |
屋号 | 播磨屋 |
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定紋 | 揚羽蝶 50px |
生年月日 | 1944年5月22日(80歳) |
本名 | 波野辰次郎 |
襲名歴 | 1. 中村萬之助 2. 二代目中村吉右衛門 |
別名 | 松貫四(二代目) |
出身地 | 東京都千代田区 |
二代目 中村吉右衛門(にだいめ なかむら きちえもん、1944年(昭和19年)5月22日 - )は、日本の歌舞伎役者。歌舞伎名跡「中村吉右衛門」の当代。屋号は播磨屋、定紋は揚羽蝶、替紋は村山片喰。日本芸術院会員、重要無形文化財保持者(人間国宝)。
Contents
人物
1944年(昭和19年)5月22日、東京都千代田区出身。暁星高等学校卒業。早稲田大学第一文学部仏文学科中退。
堂々たる体躯、陰影に富む演技をもって歌舞伎立役の第一人者として活躍。義太夫狂言、時代物、世話物から新歌舞伎、喜劇にいたるまで全てのジャンルで高い評価を得ている。
特に、後述するように、『勧進帳』や『義経千本桜』などでの武蔵坊弁慶役が十八番で、1986年のNHK新大型時代劇『武蔵坊弁慶』でも、主人公・弁慶役を演じた。また、テレビでの当たり役、フジテレビの時代劇シリーズ『鬼平犯科帳』で演じた主役・鬼平こと長谷川平蔵役の成功によって、お茶の間でもお馴染みの顔となった。
絵画やスケッチを描くのが上手く、画集を出版したほか、画廊で個展も開いている。加えて、クイズ番組等では博学ぶりを発揮している。
出生名は「藤間久信」だったが、「波野久信」その後「波野辰次郎(初代の本名と同じ名)」へと改名した。
いまや春の恒例行事となっている四国金丸座こんぴら歌舞伎大芝居復活に深い関わりをもつ。吉右衛門は第一回目に出演し、演出・脚本も担当した。(プロデューサー的な役割は澤村藤十郎が担当)その様子はNHK特集『再現!こんぴら大芝居』として1985年7月19日に放送された。(2006年2月4日にNHKアーカイブスとして再放送)
歌舞伎作者としての筆名は、松 貫四(まつ かんし)。これは祖先にあたる人形浄瑠璃作者・松 貫四(初代)の名跡を踏襲したものである。
また、関西学院大学客員教授を務めており、日本芸術院会員にも推薦され、就任している。
2011年(平成23年)、重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された(認定の官報告示は同年9月5日付け)。
来歴
母・正子は初代中村吉右衛門の一人娘。兄は二代目松本白鸚。甥は十代目松本幸四郎、姪は松本紀保と松たか子。
初代吉右衛門は一人娘の正子に婿養子を取ろうと考えており、なかなか嫁に行くことを許さなかったが、いよいよ結婚する際、正子は「男子を二人は産んで、そのうちの一人に吉右衛門の名を継がせます」と約束した。その通り二人の男の子が生まれ、約束に基づき、次男の久信は初代吉右衛門の養子となった。
1948年(昭和23年)、中村萬之助を名乗って初舞台。この芸名は吉右衛門の祖先・萬屋吉右衛門にちなんだものだった。吉右衛門は、孫である萬之助を「坊」と呼び、目に入れても痛くないほど可愛がったが、こと芝居となるとその性格は一変し、非常に厳しい師匠になり、ヤンチャな萬之助を一喝することもしばしばだったという。
1954年(昭和29年)、祖父かつ養父・初代吉右衛門が死去。翌年萬之助は『山姥』の怪童丸の演技で毎日演劇賞を受賞。天才俳優として注目される一方、思春期の頃は、実の母が戸籍上は姉にあたるという複雑さなどから自己確立に悩む日々だったという。
1961年(昭和36年)、実父と兄と共に、松竹から東宝に移籍。1966年(昭和41年)、二代目中村吉右衛門を襲名した。
歌舞伎では外祖父の初代吉右衛門と祖父の七代目松本幸四郎の両者の当たり役を継承。時代物では『仮名手本忠臣蔵』の由良之助、『勧進帳』『義経千本櫻』の弁慶や平知盛、『菅原伝授手習鑑』の松王丸や武部源蔵、『平家女護島』「俊寛」の俊寛、『梶原平三誉石切』の梶原平三、『絵本太功記』の武智光秀、『松浦の太鼓』の松浦公、世話物では『籠釣瓶花街酔醒』(籠釣瓶)の佐野次郎左衛門、『天衣紛上野初花』(河内山)の河内山宗俊など。そのいずれもが口跡の良さと重厚な演技で存在感があるが特に時代物に本領を発揮する。また、新しい脚本の創作をはじめ1982年(昭和57年)には『勧善懲悪覗機関』(村井長庵)の復活上演を国立劇場小劇場で行っており、埋もれた作品の発掘にも力を入れている。
夫人との間に女児達に恵まれ、四女が五代目尾上菊之助の妻となって[1][2]、2013年11月に第1子となる男児を出産した[3]が、それ以前から「歌舞伎が子ども」と公言して『秀山祭』を精力的に開催するなどといった活動を続けている。
社会的活動
- 文部科学省中央教育審議会委員(第4期)
- 文化庁『次代を担う子どもの文化芸術体験事業』巡回公演事業ワークショップ「歌舞伎の世界で遊ぼう」「実際に舞台をみてみよう」(2006年〜)全国の小学校を巡り、歌舞伎を身近で楽しく体験してもらうため活動している。構成・演出・出演・監修を担当、休憩時間には吉右衛門自らが筆を執り教師に隈取りを施すことも。
歌舞伎以外の舞台
父・兄らとともに東宝劇団に約10年間移籍しており、東宝劇団は歌舞伎をメインにしていたが、当然ながらそれ以外の舞台(ストレートプレイ、ミュージカルなど)の出演機会もあった。
萬之助時代の1964年『さぶ』(原作:山本周五郎)で、兄演じる二枚目の主役・栄二に対し、朴訥なさぶを演じた(同じく兄弟共演で1968年・1975年にも再演)。この時期は、歌舞伎以外の舞台公演や、またテレビドラマ、映画にも進出。新派公演へも度々客演し、水谷八重子の相手役を多く勤めた。
吉右衛門襲名後の歌舞伎以外の舞台公演は『太宰治の生涯』、『風林火山』、『蜘蛛巣城』など。『巨人の星』が舞台化された際には星一徹を演じている[4]。
テレビドラマ
テレビドラマでは『有間皇子』(1966)、『ながい坂』(1969/山本周五郎作品)、『右門捕物帖』(1969/全26回)などにそれぞれ主演。
1970年代以降も歌舞伎および、テレビなどで活躍。1980年からはテレビで、時代劇『斬り捨て御免!』に主演(82年まで3シリーズ製作)。
1986年にはNHK新大型時代劇『武蔵坊弁慶』(全32回)で主役・弁慶を演じた。
1989年、池波正太郎原作『鬼平犯科帳』4度目のテレビドラマ化にあたっては、かねてより原作者から直々に出演依頼があったものの長い間固辞し続けていたが、実年齢が平蔵と同じになったこともあり満を持しての出演となった。同年から2001年まで毎年、9シリーズと数本のスペシャル版を製作、その後2016年12月の最終版放映まで、全150本の長期人気シリーズとなり、吉右衛門にとって鬼平役が文句なしの当たり役となった(実父である初代白鸚も、初代版鬼平犯科帳で長谷川平蔵を演じた[5]。ちなみに池波は平蔵を描くにあたり初代白鸚の風貌をモデルとしたという逸話がある。また、吉右衛門も初代版では平蔵の息子、辰蔵を演じている)。
2003年にはテレビ『忠臣蔵〜決断の時』で、長年のラヴコールに応えてテレビで初めて大石内蔵助を演じ、重厚な演技を見せた。なお、テレビ時代劇の『忠臣蔵』物では、1989年のテレビ東京の12時間超ワイドドラマ『大忠臣蔵』(原作:森村誠一「忠臣蔵」)で徳川綱豊を演じている(大石内蔵助役は実兄の現・二代目白鸚)。
「弁慶」、「鬼平」などのテレビ時代劇での活躍や、歌舞伎での充実した仕事ぶりにより、幅広い分野で活躍する兄・白鸚に劣らぬ存在感を発揮しているが、兄とは違い、テレビ時代劇以外の現代劇に出演する事は、ほとんどない。
年譜
- 1944年5月22日 - 誕生。初代松本白鸚の次男。兄は二代目松本白鸚。外祖父の初代中村吉右衛門の養子となる。
- 1948年6月 - 東京劇場にて『俎板長兵衛』の長松ほかで中村萬之助を名のり初舞台。
- 1966年10月 - 帝国劇場にて『金閣寺』の此下東吉ほかで二代目中村吉右衛門を襲名。
- 2002年 - 日本芸術院会員に。
- 2006年9月 - 歌舞伎座にて初代吉右衛門の俳名を冠した「秀山祭」をはじめる。以後毎年恒例に。
- 2008年9月 - 関西学院大学文学部客員教授就任。
- 2011年 - 重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定。
- 2017年 - 文化功労者[6]に。
受賞歴
- 1955年 - 第8回毎日演劇賞演技特別賞
- 1975年 - 名古屋演劇ペンクラブ年間賞
- 1977年 - 芸術選奨新人賞
- 1984年 - 第39回芸術祭賞優秀賞、眞山青果賞大賞
- 1985年 - 第41回日本芸術院賞[7]
- 1991年 - 第46回芸術祭賞、第12回松尾芸能賞大賞
- 1995年 - 眞山青果賞大賞、第3回読売演劇大賞優秀男優賞
- 1996年 - 第19回日本アカデミー賞優秀主演男優賞
- 1999年 - 第9回日本映画批評家大賞ゴールデングローリー賞
- 2002年 - 第57回芸術祭賞
- 2007年 - 第48回毎日芸術賞
- 2008年 - 第12回坪内逍遥大賞、第28回伝統文化ポーラ賞大賞
- 2009年 - 第16回読売演劇大賞選考委員特別賞
出演作品
歌舞伎
二代目吉右衛門の当たり役として知られるものは以下のとおり。
- 『勧進帳』の弁慶
- 『仮名手本忠臣蔵』の大星由良之助
- 『一谷嫩軍記・熊谷陣屋』の熊谷直実
- 『鬼一法眼三略巻・一条大蔵譚』の 一条長成
- 『義経千本桜』渡海屋・大物浦の渡海屋銀平実は新中納言知盛
- 『妹背山婦女庭訓・吉野川』の大判事清澄
- 『平家女護島・俊寛』の俊寛僧都
- 『傾城反魂香・吃又』の絵師又平
- 『東山桜荘子』(佐倉義民伝)の木内宗吾
- 『菅原伝授手習鑑』の武部源蔵、松王丸
- 『天衣紛上野初花』(河内山)の河内山宗俊
- 『大老』の井伊直弼
- 『梶原平三誉石切』(石切梶原)の梶原景時
- 『松浦の太鼓』の松浦鎮信公
- 『博多小女郎浪枕』の毛剃
- 『ひらかな盛衰記・逆櫓』の樋口次郎
テレビドラマ
- シオノギテレビ劇場 さぶ(1966年、フジテレビ)
- 鬼平犯科帳(八代目松本幸四郎版)(1969年 - 1972年、NET) - 辰蔵 役
- 右門捕物帖(1969〜70年、日本テレビ) - 近藤右門 役
- 斬り捨て御免!(1980〜82年、東京12チャンネル) - 花房出雲 役
- 武蔵坊弁慶(1986年、NHK) - 武蔵坊弁慶 役
- 大忠臣蔵(1989年、テレビ東京)- 松平網豊 役
- 鬼平犯科帳(1989〜2016年、フジテレビ) - 長谷川平蔵 役
- 忠臣蔵 風の巻・雲の巻(1991年、フジテレビ) - 服部市郎右衛門 役
- 忠臣蔵〜決断の時(2003年、テレビ東京) - 大石内蔵助 役
映画
- 続源義経(1956年) - 良成 役
- 夜の鼓(1958年/今井正監督) - 弟・文六 役
- 敵は本能寺にあり(1960年) - 森蘭丸 役
- 笛吹川(1960年/木下恵介監督) - 安蔵 役
- 野盗風の中を走る(1961年) - むっつりの弥助 役
- 忠臣蔵 花の巻・雪の巻(1962年) - 萱野三平 役
- 藪の中の黒猫(1968年/新藤兼人監督) - 薮ノ銀時 役
- 心中天網島(1969年/篠田正浩監督/近松門左衛門作品) - 紙屋治兵衛 役
- あゝ海軍(1969年) - 平田一郎 役
- お吟さま(1978年) - 高山右近 役
- 利休(1989年/勅使河原宏監督) - 徳川家康 役
- 歌舞伎役者片岡仁左衛門・登仙の巻(1995年)
- 鬼平犯科帳 劇場版(1995年/小野田嘉幹監督) - 長谷川平蔵 役
- わが心の歌舞伎座(2011年)歌舞伎座さよなら公演記念ドキュメンタリー作品
- シネマ歌舞伎・一谷嫩軍記 熊谷陣屋(2011年)
- 柘榴坂の仇討(2014年) - 井伊直弼 役
バラエティ
- 日立 世界・ふしぎ発見!(TBS)- 初期・中期の準レギュラー。
- 博学ぶりを発揮し、黒柳徹子らレギュラー陣から「親分」と愛称される。
- 漢詩紀行 - 日本語朗読
- 浪漫紀行・地球の贈り物(1994年 - 1996年、TBS) - 水先案内人
- アートエンターテインメント 迷宮美術館(NHK)ベストキュレーター賞
- 心に刻む風景(2006年 - 、日本テレビ) - ナレーション
- 美味しさの物語 幸福の一皿(2012年4月 - 2013年3月、BS朝日) - 主宰者(案内人)
CM
- 日立製作所「キドカラー」(1977年 - 1978年前期?)
- ネスレ日本「ネスカフェ・ゴールドブレンド」(「違いがわかる男」3代目/1972年)
- 第一製薬「カロヤン」(1982年/現・第一三共ヘルスケア)
- ハウス食品
- 「六甲のおいしい水」
- 「シーフードのためのカレーです。」「ビーフのためのカレーです。」(1999年)
- 「100周年企業広告」(2013年)
- 宗家 源吉兆庵
- 日本エアシステム(1990年 - 1991年)
創作作品
歌舞伎
松貫四という筆名で以下の歌舞伎台本を書いている。
- 『再桜遇清水』(さいかいざくら みそめの きよみず)
- 『昇龍哀別瀬戸内・藤戸』(のぼるりゅう わかれの せとうち・ふじと)
- 『巴御前』(ともえ ごぜん)
- 内容:舞踊劇
- 初演:平成11年 (1999) 10月、琴平町金丸座
著書
- 『半ズボンをはいた播磨屋』(1993年/淡交社、2000年 PHP文庫)
- 『物語り』(1996年/マガジンハウス)
- 『中村吉右衛門の歌舞伎ワールド』(1998年/小学館)監修。
- 『吉右衛門のパレット』(2000年/新潮社)阿川佐和子との対談集。写真・稲越功一
- 『播磨屋画がたり』(2004年/毎日新聞社)
作詞
- ザ・マイクス『ランブリン・マン』作詞:波野久信(改名前の本名) 作曲:村井邦彦
写真集・関連書籍
- 『中村吉右衛門』(1992年/用美社)稲越功一
- 『播磨屋一九九二〜二〇〇四 中村吉右衛門』(2004年/求龍堂)稲越功一
- 『夫婦の階段』(1999年/日本放送出版協会)谷口桂子
- 『“手”をめぐる四百字―文字は人なり、手は人生なり』(2007年/文化出版局)季刊「銀花」編集部
- 『二代目 聞き書き 中村吉右衛門』(2009年/毎日新聞社)小玉祥子
- 『名演名作選 初代 二代目 中村吉右衛門の芸 (小学館DVD BOOK―シリーズ歌舞伎名演名作選)』(2010年/小学館)朝田富次、中村吉右衛門事務所
出典
- ↑ “尾上菊之助 : 波野瓔子さんと結婚会見 父・菊五郎の“爆弾発言”に大慌て 会見詳報”. 毎日新聞デジタル. (2013年2月15日) . 2013閲覧.
- ↑ “尾上菊之助:波野瓔子さんと神田明神で結婚式”. 毎日新聞デジタル. (2013年2月26日) . 2013閲覧.
- ↑ 尾上菊之助、28日に男児誕生!母子ともに健康 スポーツ報知 2013年11月28日閲覧
- ↑ “ようこそ!マイホームタウン・志垣太郎×有楽町”. 東京新聞. (2016年8月1日) . 2018閲覧.
- ↑ テレビドラマで三代目の長谷川平蔵を演じた萬屋錦之介も親戚(母の従弟)である
- ↑ “吉右衛門が文化功労者に”. 歌舞伎美人. (2017年10月24日) . 2017閲覧.
- ↑ 『朝日新聞』1985年3月30日(東京本社発行)朝刊、22頁。
外部リンク