両生類
両生類(りょうせいるい)とは、脊椎動物亜門両生綱 (Amphibia) に属する動物の総称である。
概論
両生類は、古生代の石炭紀頃以降、多くの化石種が知られている。しかしながら、現生の(現在でも生息している)ものは、長い尾を持ち、短い四肢のある有尾目(サンショウウオなど)、尾がなく体幹が短くまとまって四肢の発達した無尾目(カエル類)、それに四肢を失い、細長い体の無足目(アシナシイモリ類)の3群のみである。両生類は、約3億6000年前[1]に陸上においての生活も始めたと考えられており、これが脊椎動物の中では初めて陸上生活が可能となった事例だと考えられている。ただ陸上生活が可能とは言っても、その身体の構造、生活史、生理、生殖などにおいて、陸上生活への適応を示しながらも不充分であり、水辺への依存度が強いという特徴を持っている。特に幼生は、一般に水中生活をしているなど、基本的に水中環境が欠かせない。
現生の種は、ほぼ全てが淡水域を生活の場としている。原始的な形では卵を水中で産卵し、幼生は四肢を持たない形で生まれ、鰓呼吸で水中生活を行う。その後変態を経て肺呼吸で陸上生活の出来る成体になる。ただし、多くの例外があり、その生活は多様である。基本的に皮膚呼吸に頼る面が多いことから乾燥に弱いため、水辺などの湿った環境が生息域の中心であり、陸上で活動可能な体を持ちながら、生活や繁殖を水に依存した生涯を送ることからこの名がある[脚注 1]。「両生」類の名は、水中生活と陸上生活の両方が可能という意味ではなく、両方の環境が必要な動物であるという意味である(これが近年の両生類の減少に繋がっているとの指摘もある)。
本来、欧名を漢訳した両棲類、両棲綱であったが、「棲」の字が常用漢字に含まれないため、現在は多くの場合「両生類」「両生綱」と書かれる。
20世紀後半から、世界的に両生類の減少が著しく、多くの両生類が絶滅しつつある。カエルツボカビ症をはじめとする感染症や吸虫の被害のほか、粘膜に覆われた脆弱な皮膚が、環境変化への対応を困難にし、個体数の減少をもたらす原因になっていると考えられている。一説に因ればこのままのペースで減少が続くと、100年以内に全ての両生類が絶滅するとも言われている。
外部形態
成体は原則的には指のある四肢を持つ。ただし様々な程度にそれを退化させたものもある。無足目は完全に四肢を失っているが、化石種では四肢を持つものが知られている。有尾目のサイレン科は前肢しか持たない。
現存種は前脚には親指がないため前肢の指は基本的に4本で、後肢の趾は5本である。有尾目では後肢の指が4本であったり、前後肢とも3本以下であったり、アンフューマ科のように指趾が1本から3本という種類もある。
両生類の皮膚は分泌腺や毒腺が多くなめらかである。爬虫類のように、体表の多くの場所を覆うような鱗は持っておらず、また、体表のほとんど(場合によっては体表の全て)は角質化していない。これは皮膚が呼吸器としての役割(皮膚呼吸)が多くの割合を占めているからであるが、それゆえ乾燥に弱いという弱点にもなっている。なお、アシナシイモリの体のしわの間に小さな鱗がある。また、化石種には鱗をもったものもある。
生理
- 変温動物であり、体温は周囲の気温とともに変化する。温帯から寒冷地に住む種は冬眠を行う。
- 心臓は、2心房1心室より構成されるが無尾類と有尾類では若干構造が違い、心房中隔が無尾類では完全だが有尾類では隙間があるという違いがある[脚注 2][2]。
肺循環と体循環の区別があるが、心室中隔がないので動脈血と静脈血が心室で混じり合って体全体および呼吸器の双方に送られる。ただし大動脈と肺皮動脈(哺乳類で言う肺動脈)の付け根に「らせん弁」というものがあり、心室の収縮時に入ったときの位置関係から動脈血はらせん弁で隠された肺皮動脈にはほぼ入らず、逆に静脈血は大半が肺皮動脈に流れる(一部は左大動脈にも流れる)[3]。また、皮膚呼吸への依存が大きいため体循環側でもガス交換が行われているほか、無尾類では肺循環側(肺皮動脈)からも体表側に通じる血管が存在しており、成体になると鰓に行く血管(腹大動脈から分岐)が退化する代わりに肺皮動脈から皮下動脈が分岐し、心臓から直接こちらに血液が送られるように成って皮膚呼吸の効率を高めている[4]。 - 生息域は一般に、川、沼、湖などの淡水およびその周辺であることから、海水魚からではなく、淡水魚から派生して誕生した動物群であると考えられている。実際に、両生類の体は塩分に対する耐性が低く、海産の種も確認されていない。(汽水域に生息する種はいる:カニクイガエル)ただし化石種には海に住むものも存在した。
- 現生種・化石種を含め、完全な植物食の種は知られていない[5]。
- アミノ酸の代謝などによって生ずるアンモニアは、両生類にとっても有害な物質である。このアンモニアの排泄を行う方法も生育環境で大きく異なり、無尾目同士でも普通のカエルの場合は幼生(オタマジャクシ)の時はアンモニアのまま大半を排出するが、変態後はアンモニアを尿素に変えて排出する方が主流となるのだが、生涯を水中ですごす種類の場合は幼生・成体共にアンモニア排出のままになる。これも、水を潤沢に利用できる[脚注 3]のか、そうではないのかが関係しているものと見られている。
種類 アンモニア 尿素 カエル(幼生) 75 10 カエル(成体) 3.2 91.4 クセノプス(幼生) 78 22 クセノプス(成体) 75 25
生活史
卵から直接発生するカエルや幼体を産む卵胎生、ある程度成長した幼体を産むサラマンダーなど繁殖形態は様々である。産卵場所は多種多様で、池や川などの水中から伏流水中、地上、地中、地底湖や樹上で産卵し、卵は殻を持たない。また、幼生は基本的にはえら呼吸で水中で生活し、変態して陸上に上がることができるようになる。カエルは基本的に成体は肺呼吸をし、四本の足を持ち、ほとんどの種では陸上での活動が可能である。一部水棲でほとんどを皮膚呼吸に頼り、空気呼吸せずに生活する種もいる。有尾類の一部では生涯えらが無くならないものや、肺を退化させたものもある。また無足類は四肢が退化し全く無く、水棲アシナシイモリはえらは無いが、陸上生活は出来ない。他のアシナシイモリも地中性で陸上生活ではない。
- 卵生のものが多く、基本的には水中に産卵する。産卵時に、水中で体外受精を行う無尾目やサンショウウオ上科など一部の有尾目と、多くの有尾目のように精包を受け渡す形で、体内受精するものと、無足目のように外部生殖器を持ち交尾するものがある。有尾目と無足目では卵胎生の種も多い。
- 卵は殻を持たず、ゼラチン質で包まれ、水中に生み付けられる。しかし、ヤドクガエル科やプレソドン科など陸上で産卵する種類も珍しくはない。有尾目と無足目には幼生や変態の終わった幼体を直接産む種類もいる。
- 成長過程で、変態を行い大きく形が変わるものが多く、特に無尾類の幼体は親とは別にオタマジャクシと言う。幼体は四肢が無く尾鰭があるなど魚類に似ているが、無尾類の幼体はかなりずんぐりしており、有尾類の場合は発達した外鰓を持つ(無尾類は孵化直後にはあるがすぐに隠れる)など、一般の魚類[脚注 5]とは異なる所も多い。
- 成体は基本的に四肢が生え(無足類やサイレン科は例外)、陸上生活を営めるものも多いが四肢があっても生涯を水中で生息する種類もいる。
- 呼吸に関しては全種、幼体・成体を問わず皮膚呼吸が発達しており、特に有尾類では皮膚呼吸の割合が大きい(ハコネサンショウウオやアメリカサンショウウオ科の成体では皮膚や口内粘膜による呼吸がほぼ100%になる)。
また、前述の肺が退化した種類を除くと原則的には幼体が鰓呼吸・成体が肺呼吸とされているが、アフリカツメガエルなど幼体の時点で肺が発達し、逆に真の鰓がない[脚注 6]というものもいるほか、ウシガエルやニホンアカガエルの幼体も空気呼吸や皮膚呼吸をすることが確認されている[4][7] 。 - 有尾目の一部の種では、変態をしないで幼生の形態のままの成体になる幼形成熟(ネオテニー)が知られる。また変態が途中で終了する種も存在する。例えばアメリカ合衆国に分布するヘルベンダー(アメリカオオサンショウウオ)は鰓孔が最後まで消えないためそういった考え方も出来る。逆に変態を終えた姿で生まれる種も多い。
絶滅の危惧
カエルツボカビ症による両生類の絶滅が危惧されている。致死率は90%にも上る。
飼育上の注意点として、麻布大学の宇根有美准教授(獣医病理学)は、「飼っている両生類に異変があれば、すぐに獣医師などに相談してほしい。水の管理が最も重要で、水槽の水を排水溝や野外に流さないでほしい」としている。
分類
下位分類体系の一例を以下に示す。
- 迷歯亜綱 †Labyrinthodontia - 絶滅した分類群
- イクチオステガ目 †Ichthyostegalia
- 分椎目 †Temnospondyli
- 炭竜目 †Anthracosauria
- 空椎亜綱 †Lepospondyli - 絶滅した分類群
- 平滑両生亜綱 Lissamphibia - 現生の両生類
系統関係
四肢動物はデボン紀後期の約3億6000万年前に肉鰭綱から進化した。ハイギョ類とシーラカンス類のどちらに近いかは未だ決着がついていない。デボン紀後期になり、両生類が初めて陸上に適応した脊椎動物として現れた[8]。
最初期の四肢動物であるアカントステガやイクチオステガは曲がりくねった大河川に住んでいたと思われるが、やや時代が下ったチュレルペトンのように海生と思われる種もいた。この時期の四肢動物は、まだ少なくとも一部は鱗に覆われた魚類のような皮膚と、6本以上の指を持つ水を掻くのに適した四肢を持つ、ほとんどを水中ですごす動物であったらしい。
石炭紀になるとペデルペスのように陸上生活に適応した四肢を獲得し、二次的に水中に戻った種も含め多様な種が生まれた。石炭紀後期にはすでに有羊膜類が枝分かれして行き、これら迷歯亜綱に分類される動物たちは徐々に水中生活にウエイトを戻していく。これら古いタイプの両生類は、中生代になっても三畳紀には世界中の淡水系に数mにも及ぶ巨大な種が繁栄していたが、三畳紀末の大絶滅以降急激に衰えていき、白亜紀前期に絶滅した。
現生両生類である平滑両生亜綱に属する無尾目・有尾目・無足目の起源と関係は未だはっきりとわからないが、すでに約2億9000万年前のペルム紀前期に無尾目・有尾目・迷歯亜綱分椎目の特徴をモザイク状に有するゲロバトラクスが存在した。
三畳紀のマダガスカルには現生のカエルにある程度近い姿のトリアドバトラクスが生息し、ジュラ紀になると今と外見上は変わらないカエルが世界中に分布を広げていた。
有尾目はジュラ紀中期にはキルギスタンから Kokartus、イギリスからネオテニー的な水生種 Marmorerpeton の化石が発見されている。これらはもっと後の種の解剖学的特徴のいくつかを持たなかったが、ジュラ紀後期には現在のトラフサンショウウオに似たカラウルスやオオサンショウウオ科のチュネルペトンが生息していた。
無足目はジュラ紀初期のまだ四肢が残っているエオカエキリアの化石が見つかっている。また三畳紀の分椎目キンレステゴピスはエオカエキリアといくつかの特徴を共有しており、類縁関係があるのではないかという説がある。現在の両生類は基本的に淡水域を生活の場としているのにもかかわらず地球上の陸地に広く分布していることなどから、遅くともパンゲア大陸が完全に分裂したとされている白亜紀までに、現生の目は全て誕生していたはずだが、詳しいことはわかっていない。
脚注
- ↑ メキシコジムグリガエルなど乾燥地帯に生息する種類もいるが、これも湿った地中に住むもので繁殖も雨季の水たまりを利用するなど、結局は水に依存している。
- ↑ なお鰓呼吸をする幼体でも心臓の構造はそのままであり、1心房1心室の普通の魚類(魚類でも肺魚類は2心房1心室で心房中隔の構造は有尾類に近い構造をしている)とは異なる。
- ↑ アンモニアは尿素より有毒なので溜めておけず、薄い状態で排出する必要がある(=同じ量の窒素分を捨てるのに大量の水がいる)。
- ↑ 単位及び普通のカエルの属名が不肖なのは原文ママ。
- ↑ 魚類でも肺魚類やポリプテルス類の幼魚は例外的に外鰓を持つ
- ↑ 口内にある餌を濾す鰓耙(gill raker)という器官をガス交換に使用するが、これは厳密には鰓とは別の器官。
出典
- ↑ 長谷川政美、『系統樹をさかのぼって見えてくる進化の歴史』p126、2014年10月25日、ベレ出版、ISBN 978-4-86064-410-9
- ↑ 代表・内田亨「脊椎動物とはどんなものか」、『原色現代科学大事典 5-動物II』、株式会社学習研究社、昭和43年、P7図4。
- ↑ 荒木忠雄「4-生命の保持」『原色現代科学大事典 7-生命』吉川秀男・西沢一俊代表、株式会社学習研究社、昭和44年、P385図3「両生類のらせん弁」
- ↑ 4.0 4.1 【質問】両生類の幼生の血液循環のしくみについて日本動物学会一般向けページ、「動物学会 Q&A ~高等学校の先生方へ~」2014.2.23掲載。
- ↑ 松井正文、『両生類の進化』p3、東京大学出版会、1996年
- ↑ 荒木忠雄「4-生命の保持」『原色現代科学大事典 7-生命』吉川秀男・西沢一俊代表、株式会社学習研究社、昭和44年、P397表1「後生動物の窒素排出物の組成」
- ↑ オタマジャクシ 皮膚・肺呼吸も佐賀新聞 2013年03月31日更新。
- ↑ ロナルド・ルイス・ボネウィッツ著、青木正博訳『ROCK and GEM 岩石と宝石の大図鑑』誠文堂新光社 2007年 349ページ
参考文献
- 松井正文 『両生類の進化』 東京大学出版会、1996年