不当景品類及び不当表示防止法
不当景品類及び不当表示防止法 | |
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日本の法令 | |
通称・略称 | 景品表示法、景表法 |
法令番号 | 昭和37年5月15日法律第134号 |
効力 | 現行法 |
種類 | 競争法、経済法 |
主な内容 | 景品表示など |
関連法令 |
商法 特定商取引に関する法律 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律 |
条文リンク | 総務省法令データ提供システム |
不当景品類及び不当表示防止法(ふとうけいひんるいおよびふとうひょうじぼうしほう、昭和37年5月15日法律第134号)は、日本の法律である。「景品表示法」や「景表法」とも略して呼ばれる。
公正取引委員会が所管していたが、2009年9月1日に消費者庁に全面移管された。従来の業務は消費者庁表示対策課が引き継いだ。公正取引委員会による以前の「排除命令」は、消費者庁による「措置命令」へと名称が変更された(内容は同じ)。
Contents
背景と目的
事業者(メーカー、販売・サービス業者)は売上・利益の増大のために、各種広告等における自らの商品・サービスの表示(商品名、キャッチコピー、説明文、写真・イラストなど)を消費者にとって魅力的なものにしようと考えている。また販売にあたって景品類(賞金や賞品など)をつけることもある。しかし、その表示が不当(虚偽・誇大)だったり、景品類が過大だったりすると、公正な競争が阻害され、消費者の適正な商品・サービスの選択に悪影響を及ぼす。
景品表示法は不当な表示や過大な景品類を規制し、公正な競争を確保することにより、消費者が適正に商品・サービスを選択できる環境を守ることを目的としている。
制定の経緯
近年、景品表示法の制定の契機を、いわゆる「ニセ牛缶事件」と捉える向きがあるが、これだけでは同法が表示規制のみならず景品規制をも法目的にしていることに説明が付かない。
制定当時、当局は次のように説明している[1]。
第40回国会で、行き過ぎた懸賞又は景品附販売や虚偽表示・誇大広告のような、顧客を不当に誘引する不公正な取引方法を適切効果的に取り締まるために独占禁止法の特例法として、不当景品類及び不当表示法が制定された。このような顧客の不当な誘因行為は、これまでも独占禁止法の不公正な取引方法の一類型として、一般的にか(一般指定)、特定業界ごとについて(特殊指定)禁止されてきた。それにもかかわらず、最近では、例えば懸賞販売では、チューインガムの売り込みのために、一等賞として一千万円という前代未聞の賞金がつけられたり、宅地分譲広告では、詐欺的ともいうべき誇大な広告が横行するなど、法規制という面では、殆ど野放し同然という有様であった。
これは一つには、技術革新と消費革命に伴って経済発展が構造的に変化してきたことと、最近では貿易自由化の影響も加わって、販売競争自体が非常に激烈になったことによるものであるが、反面独占禁止法の規制手続にも適切でない点があったことも見逃せない。
そのためこの法律では、
- 違反行為類型を明確にし
- 違反処理手続の迅速化を図り(排除命令制度)
- 業界の自主規制体制を法的に確認する(公正競争規約制度)
ことによって、このような不公正な取引方法の規制効果をあげ、業界の公正な競争秩序の確立とともに消費者の保護をはかったのである。
— 後藤英輔
なお、当該説明の前年、法律専門雑誌に当該筆者の「懸賞・景品付販売について」という職名(公取委事務局経済部取引課長(当時))入り署名記事が掲載されており[2]、景品規制にかかる立法措置の必要性について示唆している。
ニセ牛缶事件
景品表示法は「1匹の蝿がきっかけになった法律」と言われる。1960年のニセ牛缶事件が契機となった。牛の絵が貼ってあった「三幌ロースト大和煮」の缶詰に蝿が入っていたとの報告が保健所に寄せられた。
東京都衛生局と神奈川県衛生部が調査を進めるうちに、
- 当該「三幌ロースト大和煮」缶詰は、正規品の商標をまね、中身に鯨肉を使ったヤミ製品であった
- ためしに正規品を調べたところ、正規品も牛肉ではなく鯨肉を使用していた
- さらに調べをすすめたところ、当時、「牛肉大和煮」と表示していた20数社の商品のうち、牛肉100%のものは2社しかなく、大部分は馬肉や鯨肉だった
ことなどが判明した(当時は馬肉や鯨肉は、安価であり牛肉よりも低級品と見なされていた)。
事業者はこれらのニセ牛缶を大幅に安い価格で販売していたため、刑法の詐欺罪は適用できなかった。また消費者に健康被害をもたらすものでもなかったため、食品衛生法も適用できなかった。
このような法規制の谷間に入り込んだ不当表示に対して、主婦連合会など消費者の批判が高まり、すでに消費者問題となっていた過大な景品類とあわせて、これらを規制する景品表示法が1962年に制定された。
表示規制の概要
表示の定義(2条4項)
景品表示法では「表示」を次のように定義している。
- 顧客を誘引するための手段として、
- 事業者が自己の供給する商品又は役務(サービス)の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う
- 広告その他の表示であって、公正取引委員会が指定するもの
具体的には下記を指定する。一般消費者が認知できるものが対象になる。
- 商品、容器、包装、添付したもの
- 見本、チラシ、パンフレット、説明書面、ダイレクトメール、ファクシミリ、口頭
- ポスター、看板(プラカード、建物・電車・自動車等)、ネオンサイン、アドバルーン
- 新聞紙・雑誌、出版物、放送、映写、演劇、電光
- インターネット、パソコン通信
表示規制には、商品・サービスの内容(品質・規格など)に関する「優良誤認」と、取引条件(価格など)に関する「有利誤認」の2つがある。
景品類の制限及び禁止(4条)
不当な顧客の誘引を防止のため、景品類の価額の最高額若しくは総額、種類、提供の方法やその他関連する事項を制限し、又は景品類の提供を禁止することができる。
カード合わせ
この法律に基づき、公正取引委員会告示で「くじその他偶然性を利用して定める方法」「特定の行為の優劣又は正誤によつて定める方法」による景品類の提供、また景品類の最高額を制限をしている。また「二以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票のうち、異なる種類の符票の特定の組合せを提示させる方法を用いた懸賞による景品類の提供は、してはならない。」とし、これは一般にカード合わせの手法とも呼ばれ、告示で制限されている[3]。
優良誤認(5条1項1号)
商品・サービスの内容が、事実と相違して、
- 実際よりも優良であると誤認させる
- 他社の商品・サービスよりも優良であると誤認させる
ことを規制する。
- 例:
なお、食品においては、景品表示法の優良誤認とは別に、農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)にもとづく生鮮食品品質表示基準並びに加工食品品質表示基準によって、「内容物誤認」が「表示禁止事項」として定められている。内容物誤認とは、産地を誤認させるような表示、その他内容物を誤認させるような文字、絵、写真その他の表示を指す。
一方、景品表示法の優良誤認は、食品に限らず、すべての商品・サービスが対象である。
有利誤認(5条1項2号)
商品・サービスの価格が、事実と相違して、
- 実際よりも有利である(安い)と誤認させる
- 他社の商品・サービスよりも有利である(安い)と誤認させる
ことを規制する。
- 例:
- チラシで「通常価格3000円を1500円」と表示していたが、過去に3000円で販売したことがなかった。 注)定価・小売希望価格のない商品
- 通販商品で「会員になるとお得」と表示していたが、5個以上購入の場合という条件を表示していなかった。
- 外貨預金で「大型利息」と表示していたが、手数料がかかることを表示していなかった。
不実証広告規制(7条2項、8条3項)
従来、表示が優良誤認にあたるかどうかは、消費者庁(2009年8月以前は公正取引委員会)が調査して実証しなければならず、判断がくだされるまでに時間がかかっていた。表示に対する消費者意識の高まりを受け、立証責任を事業者に課したのが、2003年11月23日に施行された不実証広告規制である。
不実証広告規制のもとでは、表示が優良誤認にあたらないことを事業者が立証しなければならない。具体的には、消費者庁は事業者に対し、表示の「合理的な根拠」となる資料の提出を求めることができる。事業者は資料を15日以内に提出しなければならない。15日以内に提出しない場合、または提出された資料に合理的な根拠がないとされた場合は、不当表示と見なされる。
公正取引委員会は運用の透明性と事業者の予見可能性を確保するため、「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針」(不実証広告ガイドライン)を公表(2003年11月23日)した。それによると、「合理的な根拠」の判断基準は次の2点となっている。
- 提出資料が客観的に実証された内容のものであること。
- 表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること。
打ち消し表示
商品・サービスの表示において、強調表示(文字を大きく目立たせた表示)の例外を示したものを打ち消し表示という。打ち消し表示は、注意書きとして、強調表示よりも目立たないように表示されることが多い。
- 例:
打ち消し表示は消費者に見やすく、わかりやすくなければならない。公正取引委員会は2008年6月13日に、次のとおり、打ち消し表示の考え方を示した。
- 打消し表示を行わずに済むように訴求対象を明確にするなど強調表示の方法を工夫することが原則
- やむを得ず、打消し表示が必要な場合には、強調表示に近接した箇所、強調表示の文字の大きさとのバランス、消費者が手に取って見る表示物の場合、表示スペースが小さくても、最低でも8ポイント以上の文字、十分な文字間余白、行間余白、背景の色との対照性の点に留意
比較広告
景品表示法は、事業者による商品・サービスの比較そのものは禁止していない。公正取引委員会は「比較広告に関する景品表示法上の考え方」(比較広告ガイドライン)を公表(1987年4月21日)している。それによると、「適正な比較広告の要件」として、次の3点を満たすこととしている。
- 比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること
- 実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること
- 比較の方法が公正であること
ただし、日本では商慣習として、比較広告は消費者の理解を得られにくいとされ、見かけることは少ない(例外が、1992年の「ペプシチャレンジ」、1990年前後の当時設立されて間もない後発電話会社(いわゆる新電電)の広告で、ある地域にかける電話料金について、NTTの料金と比較した優位性をアピールするものや、2006年頃にAppleが行ったMacintoshとWindowsとの「Get a Mac」比較広告)。
措置命令(7条)
内閣総理大臣は、第四条の規定による制限若しくは禁止又は第五条の規定に違反する行為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができる。その命令は、当該違反行為が既になくなつている場合においてもすることができる。
措置命令は、政令によって消費者庁長官に委任することができる。
公正競争規約(31条)
景品表示法では、不当な表示と過大な景品類を防止するため、商品・サービスの業界ごとに自主ルールを定めることができるとしている。この業界自主ルールが公正競争規約であり、2009年9月現在、表示67件、景品類41件が定められている(公正競争規約一覧は外部リンクを参照)。
表示規約では、どのような表示が不当(虚偽・誇大)な表示にあたるのか、業界ごとに判断基準が定められている。
- 例:
食品表示ではJAS法でも同様に、「品質表示基準」がカテゴリーごとに定められている(品質表示基準一覧は外部リンクを参照)。公正競争規約と品質表示基準は内容が重複するものもあれば、一方にしか定められていないものもあり、事業者にとってわかりにくいものになっているとの意見がある。消費者庁での議論のなかで、公正競争規約と品質表示基準の統合が検討される可能性もある。
行政措置の手順と件数
消費者庁は、消費者からの申告などを受けて、不当な表示や過大な景品類のおそれのあるときは、調査をする。事業者には、弁明、資料提出などの機会が与えられる。
違反がある場合は「措置命令」(2009年8月以前は「排除命令」)、違反はないが違反のおそれがある場合は「警告」、違反につながるおそれがある場合は「注意」の措置がとられる。
- 一般からの申告・職権による探知→調査→弁明の機会の付与→措置命令・警告・注意→(不服申立て・訴訟)→ 確定
例えば、薬事法と食品表示・食品広告の規制は、都道府県の薬事規制担当部署と警察が行う。大部分の規制は都道府県による行政指導で行われ、公開されたり、商品回収・出荷停止になることは少ない。表示改訂には数カ月の猶予期間が与えられることが多い。一方、悪質な医薬品医療機器等法違反は警察による捜査や逮捕があり、その事実が報道発表される。
景品表示法の注意は公開されない。一方、措置命令(2009年8月以前は「排除命令」)と警告は報道発表され、公正取引委員会のHPでも公開されてきた。措置命令を受けた商品・サービスは、不当表示を直ちにやめなければならない。調査の入った段階で、事業者が表示を改訂するケースも少なくない。
年度別の措置命令(2009年8月以前は「排除命令」)の件数は、下記のように推移している。
年度 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 | 2010 | 2011 |
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措置命令件数 | 27件 | 21件 | 28件 | 32件 | 56件 | 52件 | 12件 | 20件 | 28件 |
事案数 | - | - | 9件 | 20件 | 16件 | 24件 | 11件 | 17件 | - |
※事案数: 類似の商品・サービスにおける類似の表示について、同日に処理したものを1事案としてまとめた件数(消費者庁が2005年分から2010年分まで公表していた)
課徴金
全国的にメニュー偽装問題が相次いだことを受けて、第187回国会(2014年9月29日 - 11月30日)にて改正景品表示法が成立した。2016年4月1日に施行され、課徴金制度の運用が実際に開始された。課徴金の対象となるのは、景品表示法の優良誤認表示と有利誤認表示の2つ。
課徴金の対象期間は最大3年で、原則として誤認表示をしていた期間が対象期間となるが、誤認表示をやめた後に商品や役務の取引があった場合、誤認表示をやめた日から6か月後、または誤認表示を撤回することを新聞に掲載するなど誤認のおそれを解消するための措置を採った日のいずれか早い日までが対象期間となる。
脚注
- ↑ 後藤英輔「誇大広告と懸賞販売の規制」、pp.86-87、ジュリスト、264号(1962.12.15号)
- ↑ 後藤英輔「懸賞・景品付販売について」、pp.9-13、ジュリスト、238号(1961.11.15号)
- ↑ 懸賞による景品類の提供に関する事項の制限 昭和52年3月1日 公正取引委員会告示 第3号/平成8年2月16日 改正
- ↑ 吉野山老舗旅館さこや:ポンプ故障…代用沸かし湯で「天然温泉」毎日新聞 2015年04月08日
- ↑ “日産にも措置命令 三菱自燃費不正、対応遅れ指摘”. 日本経済新聞 (日本経済新聞社). (2017年1月27日) . 2017閲覧.
- ↑ 日本果汁協会『果実飲料等の表示に関する公正競争規約規則』 第4条(1)ア
- ↑ 不動産公正取引協議会連合会 『不動産の表示に関する公正競争規約施行規則』 第11条(10)
関連項目
- 消費者庁
- 公正取引委員会
- 公正競争規約
- 農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)
- 食品衛生法 - 食品表示
- 広告関連
- 医薬品医療機器等法 - 薬事法と食品表示・食品広告
- 日本広告審査機構 (JARO)
- 仙台初売り
- 温泉偽装問題 - 温泉法
- 食材偽装問題
- コンプリートガチャ
外部リンク
- 公正取引委員会 - 景品表示法とは
- 全国公正取引協議会連合会 - 公正競争規約
- 農林水産省 - 品質表示基準一覧
- 表示対策課 - 消費者庁