リニアモーターカー
リニアモーターカー (和製英語:linear motor car、略語:リニア) とは、リニアモーターにより駆動する鉄道車両のこと。超電導リニアの最初の開発者であった京谷好泰が名付けた和製英語である。
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概要
リニア (linear) とはlineの形容詞で「直線の」などといった意味である。リニアモーターは、一般に円筒状と円柱状の固定子と回転子から成るモーターを、帯状に展開し、回転運動の代わりに直線運動をするようにしたような形態のモーターである。リニアモーターカーは、リニアモーターにより直接進行方向に加速及び減速する(鉄道)車輛である。
主な種別として、磁気で車体を浮上させて推進する磁気浮上式と、浮上させず車輪によって車体を支持し、推進及び電磁ブレーキにリニアモーターを利用する鉄輪式が、現在実用化されている。
またその他の分類としては、「軌道一次式」と「車上一次式」がある。軌道一次式リニアモータは、車両の電磁石と、軌道上の推進用コイルの間の、それらの間の反発力と吸引力により進む。一方、車上一次式リニア誘導モータの場合には推進用のコイルは軌道上には敷設されず、リアクションプレートのみである。
日本では、国鉄が古くから実験を始めていた超伝導リニアや、HSSTが有名なこともあり、単に「リニアモーター」と言えば磁気浮上式のみを指していることも以前は多かったが、1990年代の大江戸線などの営業開始もあり、鉄輪式のことを指す場合も増えてきている。
また、英語圏では磁気浮上式鉄道をMaglev(読み:マグレブ、磁気浮上を表わす“magnetic levitation”を略したもの)と呼ぶ。鉄輪式も含めた、日本語の「リニアモーターカー」に相当する言葉はない。
磁気浮上式リニアモーターカー
磁気浮上式リニアモーターカー(磁気浮上式鉄道)とは、磁力の反発・吸引力により約10センチ浮上し、リニアモーターで駆動する移動車両の総称である。日本の超電導リニアに代表される反発式の電磁誘導浮上支持方式(EDS)と、HSSTやドイツのトランスラピッドが採用している吸引式の電磁吸引支持方式(EMS)に大別される。日本の超電導リニアの浮上メカニズムは誘導電流を利用するタイプなので低速時には浮上しないため、引込式のゴムタイヤ車輪を装備しており、停車・低速時や緊急停止時にはタイヤで車体を支持している。
日本初の営業運転は、HSSTによる、1989年の横浜博覧会におけるYES'89線である。運行されていたのは博覧会の期間中であったが、展示走行ではなく、磁気浮上式鉄道として運輸当局の第一種鉄道事業・営業運転免許を得た旅客輸送であった。
現在営業運転を行っているものは、日本では愛知高速交通東部丘陵線(リニモ)、その他の国では中国・上海トランスラピッド・長沙リニア快線・北京市郊外鉄道S1線、韓国・エキスポ科学公園線・仁川空港磁気浮上鉄道のみであり、他は実験・試験段階にとどまるか、すでに廃止されている。将来においては日本で、2027年を目処に首都圏(品川駅) - 中京圏(名古屋駅)間を結ぶ中央新幹線の営業運転開始を目指している。
世界で開発されている磁気浮上式リニアモーターカー
- 日本
- 超電導リニア
- HSST - クラウス=マッファイからトランスラピッド04の吸引式磁気浮上の基礎的技術を導入[1]して開発された。愛知高速交通東部丘陵線で運行中。
- イーエムエルプロジェクト(開発終了)
- ドイツ(後にトランスラピッドに研究を集約)
- イギリス
- バーミンガムピープルムーバ - 1984年、世界初の磁気浮上式鉄道がイギリスのバーミンガム空港〜バーミンガム国際展示場駅間約620mで開業。1995年に廃止。
- アメリカ合衆国
- 中華人民共和国
- 中華01号
- 上海トランスラピッド
- CM1 - 吸引式磁気浮上の試験車両
- 長沙リニア快線
- 北京市郊外鉄道S1線
- 大韓民国
- HML-03 - クラウス=マッファイから吸引式磁気浮上の技術を導入して1993年に大田国際博覧会で運行された。
- UTM(UTM-01、UTM-02) - 2008年4月21日からUTM-02がエキスポ科学公園内の約1kmで運行を開始したが7月に故障により運行を中断。その後2010年に再開している。
- 仁川空港磁気浮上鉄道 - 2016年2月3日開通。6駅間6.1kmを80km/hで無料運行する。所要時間15分。
鉄輪式リニアモーターカー
鉄輪式リニアモーターカーとは、推進力(動力)にリニアモーター(もっぱらリニア誘導モーター)を使用し、車両の支持・案内にはレールと車輪を使用して走行する鉄道技術のことを指す。詳細は後述するが、その構造上、車両の車高を低く抑えることが可能となる。また、リニアモーターは、急勾配や急曲線にも強いという特徴もある。そのため、建設費が高額であり、急勾配や急曲線も比較的多く存在することから、より小型化を実現したい地下鉄で多く実用化されている。鉄車輪式、接地式ともいう。鉄輪式以外にゴム輪なども原理的には可能であるが、エネルギー効率が悪いという性質から、さらに転がりロスの大きいゴム輪と組み合わせる例はほとんど見られない。車体側の台車底面には誘導電動機の1次側の固定子に相当する鉄心のコイルで構成されたコイルを取付け、地上側には誘導電動機の2次側の回転子に相当するリアクションプレートを軌道中央に取付けて固定している。走行の際には、車両側のコイルに三相交流を流すことで、誘導電動機の回転磁界に相当する移動磁界が発生する。これによりリアクションプレートに渦電流による磁界が発生して、車体側のコイルとリアクションプレートの間で磁力の吸引・反発が相互に働いて車体に推進力を発生させる。また、集電方式には直流1500Vの電力を架空電車線または剛体架線に流してパンタグラフにより集電する架空電車線方式を(ただし海外では第三軌条方式の採用例もある)、車両の制御方式には、リニア誘導モーターを使用するため三相交流を制御可能なVVVFインバータ制御を採用している。このため、定格速度まではすべり周波数一定制御により一定トルクで加速して、定格速度以上ではすべり一定制御を行って[2]効率を最大にする。
鉄輪式リニアモーターカーには以下のような長所がある。
- リニアモーターは非常に薄いため通常の電車よりも台車を薄くでき、車両の床下を低くすることができるほか、車両断面を小型化できる。このためトンネル断面を小さくでき、建設費を削減可能(ミニ地下鉄)。
- 駆動力を車輪とレールの摩擦に頼らないため、急勾配での走行性能が高く[3]、急曲線での走行が可能である[4]。大都市では地下鉄路線の過密化により直線的路線空間の確保が困難になっており、急勾配・急カーブを多く持つ線形にせざるを得ないが、そのような場合に有効である。
- ギアボックス、撓み継ぎ手等の可動部分が無いので保守が容易。
一方で、以下のようなデメリットがある。
- リアクションプレートと車両側の電磁石との間隔(ギャップ)が狭い(12mm程度)ため、地上区間や駅部ではゴミなどが挟まりやすい。
- 従来の粘着式推進に比べるとリニア誘導モーター固有の損失、及び、一次側コイルとリアクションプレート間の隙間が従来の回転式の誘導電動機に比べ大きいのでエネルギーの損失が大きく(磁界の強度は距離の2乗に反比例する)効率が低い、そのため、単位輸送量あたりの消費電力が従来型に比べ大きい。
日本の鉄輪式リニアモーターカー
- 貨物入替用リニアモーター台車 - 1974年9月に事実上日本で初めて交通機関において実用されたリニアモーターカー[5]。貨物列車などの組成・入換えにコンピュータ化された武蔵野、北上、新南陽、郡山、塩浜、高崎の各操車場で使用されていた[6][7]。保守車両として国鉄ヤ250形貨車があった。
- 鉄道総研架線集電試験用台車 - リニアサイリスタモータ駆動による架線集電試験装置[8]。
- リムトレン - 1988年のさいたま博覧会(3月19日~5月29日)で日本モノレールが出資し、鉄車輪(4輪)のボギー台車2組を取付け2両編成による展示走行を行った。製作は三菱重工。
- 大阪市高速電気軌道長堀鶴見緑地線 - 1990年に日本初の常設実用線として開業。使用車両の70系は、この年のローレル賞を受賞した。
- 都営地下鉄大江戸線 - 1991年開業
- 神戸市営地下鉄海岸線 - 2001年開業
- 福岡市地下鉄七隈線 - 2005年開業
- 大阪市高速電気軌道今里筋線 - 2006年開業
- 横浜市営地下鉄グリーンライン - 2008年開業
- 仙台市地下鉄東西線 - 2015年開業
世界の鉄輪式リニアモーターカー
- LIMRV - 車載のガスタービン発電機で駆動するリニア誘導モータを備えた試作車両
- ボンバルディア・イノヴィア・メトロ(ボンバルディア・アドバンスト・ラピッド・トランジット) - ボンバルディア社が開発した鉄輪式リニアモーターカー。第3軌条から集電する。
- カナダ・バンクーバー市のスカイトレイン エキスポ・ライン - 1985年開業
- カナダ・バンクーバー市のスカイトレイン ミレニアム・ライン - 2002年開業
- 中国・広州市の広州地下鉄4号線 - 2005年開業
- 中国・北京市の北京地下鉄機場線 - 2008年開業
- 中国・広州市の広州地下鉄5号線 - 2009年開業
- 中国・広州市の広州地下鉄6号線 - 2013年開業
- カナダ・トロントの「スカーバラ RT line」
- マレーシア・クアラルンプールの「RapidKL Kelana Jaya Line」
- マレーシア・クアラルンプールの「Bandar Utama-Klang line」
- デトロイトのピープルムーバ(新交通システム)
- ニューヨークの「エアトレインJFK」
- 韓国龍仁市の龍仁軽電鉄
その他、香港の地下鉄などでも採用計画があるとされる。
- TELMAGV - ベネズエラのアンデス大学で開発中のリニアモーター式交通機関リニアリラクタンスモーターを推進に使用する。
空気浮上式リニアモーターカー
- アエロトラン S44 - Merlin-Gérin社によって供給されたリニア誘導モータを備えた。
- UTACV - 1970年代に開発されたアメリカの空気浮上式リニアモーターカー試験車両
- トラックト・ホバークラフト - イギリスの空気浮上式リニアモーターカー試験車両
- 空気浮上式新交通システム - ゼネラルモーターズが開発していた当時はリニア誘導モータによる推進だったがオーチスエレベータが引き継いでからは、より低速での推進効率の優れたケーブルカーのように鋼索で推進する方式に変更された。
駆動方式の種類
リニアモーターも通常のモーターと同様、以下のように分類できる。また、モーターの1次側(固定子側)を地上側に設置して、モーターの2次側(回転子側)を車上側に搭載している方式を地上1次方式と言い、モーターの1次側(固定子側)を車上側に搭載して、モーターの2次側(回転子側)を地上側に設置している方式を車上1次方式と言う。
- リニア同期モーター (LSM) - 車両側に電磁石を搭載するとともに、軌道側にも電磁石または永久磁石を並べなくてはならないため、軌道敷設・保線のコストがかさむ。効率や出力には優れる[9]。
- リニア誘導モーター (LIM) - 車上一次式の場合、車両側に電磁石が必要だが、軌道側には電磁石が不要で、「リアクションプレート」と呼ばれる単なる金属板ですむ。LSMと比較した場合、高速域では推力・力率・効率が低くなるほか、1モーターの1次側と2次側の空隙が大きくなると推力が大幅に減少するため、その空隙を小さく抑える必要がある。ただし、車上一次式であれば軌道上にコイルを敷設する必要がなく、軌道上のコイルを励磁必要がないので推進効率は同種の推進方式のミニ地下鉄と同水準である。[10]。
- リニア整流子モーター - サイリスタモーターとも呼ばれており、ブラシと整流子を電子回路において実現している。エネルギー効率はLSMよりも高いが、機械的接触がある、寿命が短いなどの問題があるため、実用レベルではほとんど使われない。
脚注
- ↑ (2015) Maglev Trains: Key Underlying Technologies. Springer. ISBN 9783662456736. Google ブックス: https://books.google.co.jp/books?id=sAhJCAAAQBAJ&pg=PA6
- ↑ この場合では、すべり周波数は速度に比例して大きくなる。
- ↑ 最大で60‰まで可能。
- ↑ 本線で曲線半径100mまで可能。
- ↑ (1990) 新交通システム. 保育社. ISBN 9784586508037.
- ↑ 当時のリニアモーターヤード:1982年塩浜操(2009.4 急行越前の鉄の話)
- ↑ この時のリニアモータの経験が後に役立った。
- ↑ 電車線構造研究室(公益財団法人鉄道総合技術研究所)
- ↑ ただし、軌道一次式、車上一次式にかかわらず、軌道側の磁石を励磁しなければならないので効率は車上一次式よりも劣る
- ↑ リニア誘導モータには「すべり」があり、反発にも吸引にもなる。この位相を切り替えるタイミングを速度に応じて上手に切り替えるように制御している。
参考文献
- 正田英介・加藤純郎・藤江恂治・水間 毅 『磁気浮上鉄道の技術』 オーム社、1992-09。ISBN 4274034135。
- 『交通関係エネルギー要覧〈平成12年版〉』 国土交通省総合政策局情報管理部、財務省印刷局、2001-03。ISBN 4171912555。
- 久野万太郎 『リニア新幹線物語』 同友館、1992-02-08、初版。ISBN 4-496-01834-9。
- 『超電導リニアモーターカー』 財団法人鉄道総合技術研究所、交通新聞社、1997-04、初版。ISBN 4-87513-062-7。
- 井出耕也 『疾走する超電導 リニア五五〇キロの軌跡』 ワック株式会社、1998-04-01、初版。ISBN 4-948766-05-4。
- 持永芳文 『電気鉄道技術入門』 オーム社、2009-09-20、初版。ISBN 9784274501920。
関連本・参考図書・関連作品
- 京谷好泰 『10センチの思考法』 すばる舎、2000-12。ISBN 9784883990672。
- 京谷好泰 『リニアモータカー 超電導が21世紀を拓く』 日本放送出版協会、1990-06。ISBN 978-4140015988。
- 奥猛 京谷好泰 佐貫利雄 『超高速新幹線』 中公新書、1971-01。ISBN 978-4-12-100272-3。
- 茂木宏子 『お父さんの技術が日本を作った!メタルカラーのエンジニア伝』 小学館、1996-03。ISBN 978-4092901315。
- 『匠たちの挑戦 (3)』 研究産業協会監修、オーム社、2002-12。ISBN 978-4274948848。
- Ralf Roman Rossberg 『磁気浮上式鉄道の時代が来る?』 須田忠治 訳、電気車研究会、1990-06。ISBN 978-4885480539。
- 澤田一夫 三好清明 『翔べ!リニアモーターカー』 読売新聞社、1991-02。ISBN 978-4643910100。
- 『超電導が鉄道を変える-リニアモーターカー・マグレブ』 鉄道総合技術研究所浮上式鉄道開発推進本部、清文社、1988-12。ISBN 978-4792050986。
- 井出耕也 『疾走する超電導 リニア五五〇キロの軌跡』 ワック、1998-04。ISBN 9784948766051。
- 『ここまで来た!超電導リニアモーターカー』 鉄道総合技術研究所、交通新聞社、2006-12、初版。ISBN 9784330905068。
- 窪園豪平 『リニアモーターカー』 一ツ橋書店、2006-12、初版。ISBN 9784565983220。
- 『時速500キロ「21世紀」への助走』 交通新聞編集局、交通新聞社、1990-01、初版。ISBN 9784875130116。
- 白澤照雄 『リニア中央新幹線』 ニュートンプレス、1989-07、初版。ISBN 9784315509816。
- 『リニア中央新幹線で日本は変わる』 中央新幹線沿線学者会議、PHP研究所、2001-08、初版。ISBN 9784569617190。
- 『磁気浮上鉄道の技術』 正田英介・加藤純郎・藤江恂治・水間毅、オーム社、1992-09(日本語)。ISBN 4274034135。
- 『交通関係エネルギー要覧〈平成12年版〉』 国土交通省総合政策局情報管理部、財務省印刷局、2001-03(日本語)。ISBN 4171912555。
- 久野万太郎 『リニア新幹線物語』 同友館、1992-02-08、初版(日本語)。ISBN 4-496-01834-9。
- 『超電導リニアモーターカー』 財団法人鉄道総合技術研究所、交通新聞社、1997-04、初版(日本語)。ISBN 4-87513-062-7。
- H.H.コルム; R.D.ソーントン (1973年12月号). “磁気浮上による超高速鉄道”. サイエンス (日経サイエンス社): 10.
- Heller, Arnie (1998年6月). “A New Approach for Magnetically Levitating Trains—and Rockets”. Science & Technology Review
- Hood, Christopher P. (2006). Shinkansen – From Bullet Train to Symbol of Modern Japan. Routledge. ISBN 0-415-32052-6.
- Moon, Francis C. (1994). Superconducting Levitation Applications to Bearings and Magnetic Transportation. Wiley-VCH. ISBN 0-471-55925-3.
- Simmons, Jack; Biddle, Gordon (1997). The Oxford Companion to British Railway History: From 1603 to the 1990s. Oxford: Oxford University Press. ISBN 0-19-211697-5.
- サンダーバード ARE GO | 第7話 高速トレイン大暴走
関連項目
- 磁気浮上式鉄道
- イーエムエルプロジェクト
- 超電導リニア
- HSST
- 日本航空
- 名古屋鉄道
- 愛知高速交通東部丘陵線(愛称:リニモ)
- 羽田・成田リニア新線構想
- 関空リニア構想
- 超音速滑走体
- 高速鉄道
- 高速鉄道の最高速度記録の歴史
- 世界の鉄道一覧
外部リンク
- LINEAR-EXPRESS(JR東海の超電導リニア公式ホームページ)