ライム
ライム (Lime[1]) とは、柑橘類の一種。樹木としてはインドからミャンマー、マレーシア一帯の熱帯地域を原産とする低木。果実としてはライムの木の実である。
概要
ライムの果実はレモンに似ているが、レモンと比べると乳頭と呼ばれる先端の突起が小さく若干小振りである。レモンよりやや小さいタヒチライム、ペルシアライム(Citrus latifolia)と、さらに果実が一回り小さいメキシカンライム、キーライム(Citrus aurantiifolia)と大きく分けて2種類ある(なお、メキシコでもタヒチライムが栽培されており、日本に輸入されているメキシコ産のライムがメキシカンライムとは限らない)。
日本国内でも苗が流通するが、耐寒性の強いタヒチライムの方が栽培しやすい(品種名が無い場合は専らタヒチライムと思われる)。茎にはトゲがあり、葉には小さい翼葉が付いている。花は蕾も開花後も白く、レモンの花の様に赤みを帯びない。タヒチライムは四季咲き性が強いが、3倍体で種が殆ど出来ないためか、大量に花が咲く割には結実率が非常に低く不安定であり、幼果の時に落ちやすい。各地の農業試験場の研究で、ジベレリン酸(GA剤)散布が結実率の向上に有効だと判明しているが、現在のところ農薬登録が無い。
英語でLime greenとは、ライムの皮の色の黄緑色を意味する。
特徴
果実の直径は6 - 8 センチメートル。形はレモンよりも丸っぽく、皮の厚さは薄い。皮の色は、レモンの黄色と違って緑がかっている。果肉もいくらか緑色をしている(完熟すると果皮は黄変するが果汁の酸味が抜けてしまうので緑色の時に収穫する)味はレモンと同様に酸っぱいが、ライム独特の苦味に似た風味がある。香りもやはりレモンに似ているが、より鋭い、と表現される。収穫直後は皮も果汁もさわやかな香りがするが、日本国内で販売されている輸入ライムは収穫から時間が経過している為、香りはやや弱い。
- Lime - ചെറുനാരകം 07.JPG
ライムの木
- Limeflower.jpg
ライムの蕾と花と幼果
- Lime-Whole-Split.jpg
果実とその断面
- 16-09-17-WikiLovesCocktails-Zutaten-Img0144.jpg
果実
利用
レモンと同様に、輪切りやくし切りにして料理の付け合わせにしたり、果汁を搾って飲料に混ぜて使う。
ライムを使ったカクテルには、ジン・トニック、ジン・ライム、ジン・リッキー、ギムレット、モヒート、ダイキリ、雪国、カミカゼ、モスコー・ミュールなど多数がある。
スライスしたライムをグラスに入れたり飾ったりするほか、ライム果汁(ライムジュース)もカクテルにはよく使用される。加糖された「コーディアルライム」と呼ばれるライムジュースも市販され、カクテルに使用されている。
キーライムパイやシャーベット、マーマレードなど製菓分野で利用されるほか、インドではチャツネやピクルスに使われている[2]。
中東では干しライムまたは乾燥ライムを丸ごと、またはスライスしたり、粉末状で香辛料/調味料として使用される。
別種
ライムと名のつく別種の柑橘類が幾つか存在する。
- スイートライム(Citrus limettioides Tanaka)[3]
- オーストラリアン・フィンガーライム(Citrus australasica)
- ライムカット(C. × floridana)
- マクルード・ライム(Citrus hystrix)
その他
大航海時代には乳酸発酵させた塩漬けのキャベツ(ザワークラウト)と共にビタミンC欠乏症である壊血病対策、治療に役立つと信じられ利用された[4][5]。
イギリス人のことを "ライム野郎 (limey) " と呼ぶアメリカのスラングは、イギリス海軍が壊血病予防としてライムジュースを服用していたことに由来する。
ただし、イギリスでは「ライム」が柑橘類全般の意味でも使われるので、レモンなどもこの「ライム」に含まれており(ロンドンの地名「ライムハウス」も本来はレモンを荷揚げしていた地域である)、狭義(このページで扱われている緑の丸い実)の「ライム」は柑橘類の中ではかなりビタミンC濃度が低くレモンの半分程度である。この混同が後々で見ると問題となったケースとして、1799年からイギリス海軍は海軍の全船舶にレモンを支給する規則になって一旦軍内の壊血病が収まっていたのだが、1845年に地中海が産地のレモンより入手しやすい英領西インド諸島産のライム(狭義)に切り替えた後、壊血病が規模は小さいが時々再発生するようになった。船の発達で航海期間が短縮された事もあって致命的な問題にはならなかったものの、1875年ジョージ・ネアズ率いるイギリスの北極探検隊がいくら規則通りライムジュースを飲んでも壊血病が止まらなかったというトラブルが発生した事例が存在する[6]。
参考、柑橘類のビタミンC濃度(100gもしくは100mlに何mgのビタミンCを含むか。)[7]
名前 | ビタミンC濃度 |
---|---|
レモン果汁 | 50~80 |
レモンのロブ(濃縮果汁、作り立て) | 240[8] |
レモンのロブ(1ヵ月保管) | 60 |
オレンジ果汁 | 50~80 |
オレンジ | 50 |
ライム果汁 | 20~30 |
グレープフルーツ | 37~50 |
ザワークラウト[9](漬けて1か月後) | 10 |
- 参照: 壊血病
- 参照: 近世イギリス海軍の食生活
脚注
- ↑ 英語では石灰を意味する単語も別語源ながら同一綴りの lime であり、注意を要する。ライムライトなどのライムは果実のライムではなく石灰を意味する。
- ↑ サンティッチ,ブライアント 2010, p. 65.
- ↑ NPGS/GRIN Citrus limettioides USAD 2015年5月17日閲覧。
- ↑ e-book 帆船の社会史 - イギリス人船員の証言 - 第12章 船内の食事と船員の飲酒癖
- ↑ スティーヴン・ビースティー画・リチャード・プラット文 『輪切り図鑑 大帆船』 岩波書店、2004年、10-13頁。
- ↑ ヘレナ・アトレー『柑橘類と文明 マフィアを産んだシチリアレモンから、ノーベル賞を取った壊血病薬まで』三木直子 訳、築地書簡株式会社、2015年、(ISBN 978-4-8067-1493-4)、103P。
- ↑ スティーブン・バウン『壊血病-医学の謎に挑んだ男たち』中村哲也 監修、小林雅子 訳、株式会社国書刊行会、2014年、(ISBN 978-4-336-05799-0)、245-246P付表。
- ↑ 生の果汁より増加しているように見えるが、ロブは煮詰めて作るので水分が減って濃くなっただけであり、ロブ100mlになった原料の果汁は全体で約500mgのビタミンCがあった。『壊血病-医学の謎に挑んだ男たち』139P。
- ↑ 柑橘類ではないが比較のため表記
参考文献
- バーバラ・サンティッチ; ジェフ・ブライアント; 山本紀夫訳 『世界の食用植物文化図鑑』 柊風社、2010年。ISBN 9784903530352。
関連項目